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精霊の宝珠 第6話

ルビスは直ぐに私のケガを治してくれた。でも、終始無言。

その後「帰るわね」とだけ残し、ルーシィさんの亡骸を抱えて虚空に消えてしまった。


それから数日。彼女は顔を見せなくなった。

ずっと一緒だったかけがえのない友達。やっぱりショックだったのかな。

「元気出して陽子。あのルビスさんのことだよ、絶対大丈夫だって」

遥が励ましてくれる。

「うん、そうだね」

確かに遥の言う通り。私が落ち込んでてもしょうがないもんね。

「ねえ、見せてよ、魔法。教わったんでしょ?」

「え、うん、まぁ……」

「見たいな。まだ見たことないし」

そっか、まだ遥には見せてなかったっけ。

「まあ、見るだけなら」

「ほんと? やったぁ!」


『紅蓮なる炎の力――』

手の中に光が生まれる。

『光り輝く炎の精よ――』

大きくなって輝きを増す。

「す、すごい!!」

『――我が敵を、焼き払え!!』

指先に力を集中して……

『フレ――』


ぱすん。


ずるっ。

遥がコケた。

「あ、あれ? おかしいなぁ?」


「クスクス。やっぱりヨーコは私がいないとだめですね」

その声は!

「ルビス!」

「ルビスさん!」

そこには、普段と変わりない彼女の姿があった。

「久しぶりね。二人とも」

なんかどういう風に声をかけていいか判らない。

「ルビス……あの――」

「大丈夫ですよ、ヨーコ。心配かけてごめんなさい」

「う、うん……」

落ち込んでいないのかな……それとも、無理してるのかも。


「さ、途中になっちゃいましたけど、続きから始めて」

「え~、ちょっと休ませてよ~」

「だめだよ、陽子。そんなことじゃ、魔族には勝てないよ」

遥は他人事だと思って……

「フレアー!」

ぽす。


「うう~、もう一回」

ぱすん。

「あうぅぅ」


何度やっても種火すら出ない。

「魔力が安定しないですね。ヨーコ、もう一回やってくれる? って、あらら」

「ぜー、はー、ぜー、はー」

私は地面に転がっていた。

「情けないわねぇ、陽子」

冷ややかな顔で見下ろす遥。

「あのねぇ、遥もやってみれば判るわよ。凄く辛いんだから……」

「でも、私にもできるの? ルビスさん?」

「魔力の無い方がいきなりするのは身体にかなり負担がかかりますよ」

「そうなんだ、残念。せっかく私も魔法使いになれると思ったのに」

本当に残念そうだ。


「ヨーコ、魔法陣試してみますか?」

「それでどうにかなるものなの?」

「ええ、安定性が増して、上手く出せるようになるの。出すだけですけど」

「やってみる」

私は再び魔法の詠唱を始めた。

その間に、ルビスが魔法陣を描いてくれる。

その魔法陣の上に手をかざすと、光が集まっていった。

「フレアー!」

円の中央から炎が吹き上がった。

「うわわっ」

遥が尻餅をついていたが気にしないことにした。

炎はしばらく魔法陣の上に留まっていたけど、数分経った頃、四散した。

「まだまだ力が足りませんね。少し訓練しましょうか」

「うん、そうする。でも、そんな簡単にいくかなぁ」

「大丈夫。貴女の才能は私が保証しますよ」

そう言って、ルビスは笑った。


隣で腰を抜かしている遥を起こす。

「遥、大丈夫?」

「うん、ちょっとびっくりしただけ。でも私、ホントに魔法使いの友達になったんだね」

そして直ぐにルビスの方を向いて。

「精霊さんにも会えたしね」

「でも、もうじきに魔法が必要になりますよ」

急にルビスが真顔になる。

「どういう、こと?」

「魔族が本格的にこの世界に攻め込んでくるらしいのです」

「それ、ホントなの?」

「はい、残念ながら。最悪、この世界を乗っ取られてしまうかもしれません」

ルビスの表情は暗い。

「そんな。なんとかできないの?」

「私一人だけではどうにもなりません」

「ルビスでも駄目なんだ」

ちょっと……というか、かなりショックだった。


「この間の魔族達は、魔王幹部の部下にしか過ぎません」

そんな。あいつらよりもっと強い奴がいるだなんて。

「ですからあなたのような魔力を持っている方々の協力が必要なのです」

「判った。それで、私は何をすればいいの?」

「あなたと同じ力を持った方を探して頂きたいのです」

「どうすればいいの?」

「近くに行けば判ります。力が共鳴し合いますから」

私が持っている宝珠は、そのような力に反応することもあるそうだ。

「陽子、何か楽そうだね」

「でも、そんな人なかなか居ないのよ」

「そうなの? でも、私は元々こういうの信じてる方だから、探せば見付かりそうだけど」


「あと、これを」

ルビスがそう言って私の手を握り、魔法を発動させる。

手の平に輝く光。それを見ただけで私は何だか解ってしまった。

「この魔法は、ルーシィさんの?!」

フラッシュの魔法――ルーシィさんの形見。

「私には使えない魔法です。ヨーコが使ってください」

「……駄目だよルビス、この魔法は、ルビスが使うべきだよ」

「でもっ、私にはこれを受け取る資格がっ」

やっぱり魔法を受け取ったことを後悔してたんだ。

「ずっと一緒だったんでしょ? だったらそんな簡単に他人に教えたら駄目」

「ルビスさん、ルーシィさんもそう望んでると思うよ」

「……そう、なの? ルーシィ――」

遥の言葉に、天を仰ぎ、魔法の力を抱きしめる。

それに答えるように光が輝きを増す。

『ルビス、がんばって!』

そう言ってる気がした。

ルビスの瞳からは、一筋の光る物が。


「ルーシィ、私、貴女のことは、絶対忘れないから――」

ルビスは、空に向かってそう呟いた。



数日後、父さんの口から思わぬ言葉が発せられた。

「え、引越し?」

「そう、ただし、陽子だけな」

いきなり何を言うか、この人は?!


「そんな、私に一人暮らしをさせる気?」

「そうじゃない、母さんのとこで暮らしてもらうだけだ」

「お母さんの?」

「ああ」

「でも私、まだお母さんと一度も会った事無いのに」

「大丈夫だ。それに、そこの街の学校がお前のことを入学させたいらしいからな」

そういえば、お父さん、高校の校長先生に知り合いがいるって言っていた気がする。

「でも、来年でいいんじゃ。私、今の学校卒業したいよ」

今は九月。卒業まであと半年。いくらなんでも中途半端すぎる。

「本当はそうしたかったんだが、父さんの仕事の都合で海外に行くことになってな」

「また出張?」

「まあ、そういう所だ。だから、向こうに住んでもらった方が早いと思ったわけだ」

父さんは、こうと決めたら、変える事はほとんどない。

こうなったら、諦めるしかないだろう。

「そう。で、出発はいつなの?」

「来週の日曜日には飛行機に乗るから、5日後だな」

「ええっ、そんな早く?!」

「昨日決まったことなんで、急な話になったのは悪かった」

うわぁ、忙しくなるなぁ。



次の日、遥に引越しの話をした。

「えぇっ?! そうなんだ……寂しくなるね」

急な話だっただけに、やっぱり遥は驚いた。まあ、そりゃそうよね。

引越す場所は、ここから100kmはゆうに越える距離がある。

学生の私たちが、そうそう移動できる距離ではない。

「それに、ルビスさんどうするの?」

あ、そうか。指定した住所に移動は……無理かな?


「あら、どうしたの二人とも?」

「あ、ルビス、丁度いいところに!!」

私達はこれまでの経緯をルビスに説明した。

「そうですか……残念ながら、ここの街に出る場所しか知らないのです」

「どうすればいいの?」

「その街で魔力の高い所を見つけて、そこから呼び出して頂くしかないですね」

あるのかなぁ、そんな所?

そこで、ふと思いつく。

「ルビス、まだ召喚の魔法を教わってないよ?」

「あら、そういえばそうだったわね」

そうだったって……呑気なんだから。そう言おうとした瞬間。

「今から教えますから、5日で覚えてくださいね」

笑顔。

「ええーっ!! 冗談でしょっ?」

「がんばろ~っ、オーッ」

アンタは関係ないでしょうが……



引越し当日。

朝、ちょっと家を抜け出して二人に会った。

遥とはこれが本当に最後になる。

「陽子、またね。あの時、助けてくれて……ありがとう。また、会おうね」

既に涙でぐしょぐしょになっている遥。

「手紙出すわ。ああ、もう、ほら、泣かないでよ」

こっちまで貰い泣きしそう。

「ヨーコ、連絡待ってるわ。なるべく早いうちがいいわね」

「わかった、約束する」

結局、魔力が足りなくて、発動させることはできなかった。

魔法陣を書くところまでは行ったんだけどね。

「じゃあね、二人とも!! 元気でね!!」

私は、笑顔のまま走って角を曲がる。


そこで、今までこらえていた物が、溢れ出して来た。



「陽子、どこ行ってたんだ。もう時間だぞ」

「判ってる。ごめん、ちょっと友達のところに挨拶に行ってたから」

涙を拭いて、何事もなかったかのように家に戻る。

泣いていたのがばれたら、ちょっと恥ずかしいから。


「じゃ、行くぞ」

「うん」

トラックの車内で、さらに驚いた。

「そうだ、まだ言ってなかったけどな、お前には双子の妹が居るんだ」

「ええっ! そうなの? 早く言ってよっ!」

「お前をびっくりさせようと思ってな。今まで黙ってたんだ」

「……」

「まあ、半年ばっかり早く引っ越すことになったのは計算外だったけどな。はははは」

何つー親だ、全く……




郵便局の前。

「お父さん、友達に手紙出したいんだけど、いい?」

「ああ、急いでな。もう直ぐ約束の時間だ」

「はーい」


もちろん、目的は手紙なんかじゃない。

トラックを降り、ドアを閉めると同時に、結界を発生させる。

ルビスに貰った力。これのお陰で、このような芸当もできるようになった。


その姿を確認する。間違いない。

私はその人物にゆっくりと近付いていく。



「あ、貴女誰……?!」

「こんにちは、水口直美さん――」



精霊の宝珠 END


次回より精霊の扉本編第2部をお送りします。


感想、誤字指摘、批評など、なんでもお待ちしています。

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