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第7部第7話

数刻の後。

周りに取り残された魔族たちは、再び、彼女の姿が見えると、皆一様に安堵した。

「ノエル様! 今の結界は一体?!」

「ああ、大丈夫よ、マナ。ちょっと不届き者が来ただけだから」

「不届き者? まさか!」

眞奈美の頭によぎった者。

それは今日この宮殿に訪問することになっていたであろう人物。

そして、彼女の全身から鮮血が滴っていることにようやく気付く。

「酷いお怪我! 大丈夫なんですか?!」

「ああ、この位大丈夫よ。すぐ治るわ。でも、久し振りに暴れたら疲れちゃった」

改めて周りを見渡す。

ノエル以外には、姿が見えない。

先程彼女自身が仕留めた精霊以外は。

幹部達が周りを気にしていることに、ノエルが感づく。

「ああ、彼なら消しといたから。もう二度と来ることはないわ」

「あ、そうなんですか。でしたら安心、って……」

言いながら、フェージュの顔が引きつる。

「ええっ?! こ、殺したんですか?!」

「あら、いけなかった?」

「だ、だって、あの冥王テイタニア様ですよ?! いくら、ノエル様がお強くてもっ」

「あら、随分と信用無いのね。まあ、これでもだいぶ苦労したけど。こんな格好にさせられたし」

「……」

ゼクスといい、テイタニアといい、いとも簡単に時の権力者を葬り去ってしまう。

この女の何処にそれほどの力が眠っているのか。

幹部達は、驚愕と同時に、恐怖を感じていた。

ただ一人。ノエルが不死だということを知っている眞奈美を除いて。

「肉体と精神、両方とも壊したから、蘇る事は不可能に近いわね」


結果として魔域だけでなく、冥界をも支配出来る事になってしまったノエル。

本人としては全く望んでいなかったわけなのだが。

「――さて、これから何をしましょうか」

「考えてなかったんですか……どうするおつもりなんですか?」

「そうねぇ……」

今回のことはノエル自身も予想しているわけではなかった。

突発的なことだっただけに、今後どうするか全く決まっていないのだ。

「まあ、なんとかなるわ……ッ……ごほっ」

突然腹部を押さえ、むせ返るノエル。床が真っ赤に染まる。

「ノエル様?!」

「大丈夫ですか?! 早く手当てを!」

すると、ノエルは、突然後ろを指差し、その場の誰もが思いもよらないことを言った。

「私より、あそこに転がってる子……早くした方がいいわ」

「え? どういう事ですか?!」

「まだ生きているわ。急所は外してあるから。でも、あれから結構時間がたっているから危ないと思うの」

自分を狙った精霊を生かしておくなんて、聞いたことが無い。

「……判りました」

何か考えがあるのだろう。眞奈美はそう自分に言い聞かせた。

自分だって人間の身で遣って貰っている。何も可笑しい事は無い。


「さて、忙しくなるわね」

ノエルはそうつぶやき、今後のことに思いを巡らせていた。




一方こちらはコランダム――

白熱した会議も終盤に差し掛かっていた。


「他に何かありますか?」

「無いようでしたら、次に、先程言われた予算について簡単に報告願います」

「はっ。それでは、本年度の予算について、ご報告申し上げます」

恰幅の良い男性が席を立つ。

「本年は、先の魔族との戦いで、多くの人的財産、物的財産が失われました。

 よって皆様ご存知の通り、本年の歳入と、昨年末までの貯蓄を合わせても、歳出が上回る結果となりました。

 しかし、街並みの修復等はほぼ完了しており、物的なモノへの歳出は減ることから――」

男性がそこまで言い掛けた時だった。


「大変です、ルビス様!!」

ノックの音もせずに、ドアが勢い良く開き、大慌てで一人の兵が駆け込んで来る。

「どうしました、そんなに慌てて。今は会議中ですよ」

「き、緊急事態が発生した旨、報告に参りました」

「緊急事態?!」

ルビスの表情が一気に硬くなる。

「魔王ノエルが……冥王テイタニアを殺害しました」

「な……?!」

会議場は一気に混沌化した。

「冥王だと?! 馬鹿な?!」

騒ぎ出す幹部達を横目に、ルビスは一人落ち着いていた。

いや、内心はかなり混乱していた。

「どういう状況なの?」

「詳しいことは判りません。しかし、仮に、魔王が冥界を手に入れたとなれば、由々しき事態」

「何と言うことだ! 魔族がまた活動を始めたというのか?!」

「奴ら、またこちらに攻めてくるつもりかもしれん! どうしろというのだ?!」

騒ぎが収まらない幹部達。その横で、ルビスは一人頭を抱えていた。

「ノエル……貴女は一体、何をしようとしているのよ……」



>naomi

ルビスが会議をしている間、私達はソフィア様の部屋で待機させられていた。

ソフィア様は、いまだ行方不明ということになっている。

会議出席者達にばれると、事が大きくなる。

だから、ここにこうしてソフィア様が保護されているのは、一部の者にしか知らされていない。

会議が解散するまでは、ここに居るように、ルビスとスピカさんから言われていた。

ソフィア様は、文句の一つも言いたかっただろうケド。

「今貴女がここに居る事がばれたら、ウインズは終わるわよ。もちろん、コランダムもね」

そう説得されてしぶしぶ納得させられるソフィア様。


「遅いわね、ルビスは……まだ終わらないのかしら」

さっきからソフィア様の機嫌がすこぶる悪い。

もともとあまり良くなかったのだが、時間が経つにしたがって酷くなっている。

「我慢しなさい、もうちょっとなんだろうから」

リディアさんがなだめるが、我慢の限界に来ているようだ。

それにしても遅い。

「何かあったのかな?」

会議終了予定からだいぶ経っている。


「あ、終わったみたいよ?」

窓の外をのぞいていた姉さんが気付いた。

私も下を覗き込む。

丁度幹部の人たちらしき人影が、建物から出てきていた。

みんな足早に王宮から出て行く。


……あれ?

私は、その様子に、少し違和感を感じていた。

なんか、みんな凄く慌てているような感じだ。何か起こったのは間違いないようだった。

だけど、口にはしないことにした。

隣を見ると、姉さんも同じことを思ったらしい。

口に人差し指を当てて、喋るな、の合図。

ソフィア様を不安にさせないためだろう。


「もう来ると思うわ……ほら来た」

ノック音がして扉が開く。

「ごめんなさい、お待たせしました」

「ルビス、遅かったね」

「色々やることがあって伸びてしまいました」

そういうルビスの表情は、少し疲労の色が残っていた。

「また何か言われたんじゃないの?」

ソフィア様は、口調とは裏腹に、嬉しそうな表情だ。

「まあ、そちらの方は何とかなりそうですよ。私の考えにもおおむね賛成してもらえましたし」

「え?」

驚きの表情を見せるソフィア様。私も驚いた。

「あいつらがルビスの提案を受けいれるって……賄賂でも贈ったの?」

「そんなことしませんよっ! 何言ってるの!」

「だって、あのカタブツたちが、ルビスの意見を聞くだなんて……何かの前触れよ、きっと」

「そんなことないでしょ……ソフィアももう少し大人になりましょうよ」

「余計な御世話っ」


「それで、具体的には何を提案したの?」

「皆が自由に商売できる市場を造ろうと思っています」

コランダムの人だけではなくて、他の国の人も自由に売り買いができる場所を造る事が決まったらしい。

炎の一族だけではなく、全種族が共同で運営することが目標らしい。

「ルビスらしい考え方だね。いいと思うよ」

「ありがとう、ナオミ。まだ障害は沢山ありますけどね」

そう言って、ちらりとソフィアのほうを見る。

「ちょっと、どうしてそこでこっちを見るのよ?!」

「ああ、判る気がするわ」

リディアさんが納得したように、うんうん、と頷く。

「納得しないで!」



「まあ、それはともかく……私、一旦戻るわ」

突然ソフィア様から驚きの言葉が発せられた。

ルビスは目を丸くする。

「え? どういうことですかっ?!」

「だから、一度城に戻ろうと思うの。宝珠のことも気になるし、いい噂を聞かないし」

確かに、最近はウインズ内での魔族の活動が活発になっているという話がちらほら聞こえてきている。

「怪我もほぼ完治したし、魔力も戻った今なら、その辺の魔獣程度にだったら負けないわ」

「一人で行くつもりですか?」

「いいえ、一人じゃないわ。もちろん、ルシアとメルは連れて帰るわ」

そう言って、リディアさんのほうへ向き直るけど。

「ダメよ」

即答だった。

「私は構わないわよ。でも、本人の意思を尊重するのが主の務め。よって却下ね」

ルシアさんは、真っ直ぐにソフィア様を見、そして言い放つ。

「私は、マスターに一生付いて行くと決めました。これは、揺るぎません」

「うっ……」

クールに断られ、言葉に詰まるソフィア様。

そして視線をユミちゃんのほうに移す。でも。

「いくらソフィア様でも、その頼み事だけは聞けないんです、ごめんなさい」

頭を下げるユミちゃんの横で、悲しそうな表情のメルさん。今にも泣きそうだ。

「ソフィア様、ご主人様を困らせないで下さいっ」

予想通りの返答。やっぱり、契約というのはそう単純なものではない様だ。

動揺しているソフィア様。

「で、でも、それは、貴女の為に……」

「どうして判って下さらないんですか?! ソフィア様なんか大っ嫌いです!」

メルさんって時に結構な事ズバッと言うんだよねぇ……

しかも、涙までこぼしながら。これは効いたかな?

「ううっ……」

あ、やっぱり悶絶してる……

「大丈夫よメル、私は絶対貴女を見捨てたりしないから。だから、泣かないで、ね」

「ご主人さまぁ……」

ユミちゃんがメルさんを抱きしめる。と。

……あれ?

口元が笑っているような……気のせいかな?

いや、見なかったことにしよう、うん。怖いし。


「じゃあ、こうしたらどうかしら?」

ルビスがリディアさんとユミちゃんの前に立つ。

「リディア=サークウェル並びに、モリノ・ユミコ」

何を始めるつもりなのだろう?

「貴女達に、ウインズ皇国皇女、ソフィア=シトラス=ウインズの護衛を命じます」

「ルビス?!」

「道中、しっかりとお護りするのですよ、二人とも」

驚いて、顔を見合わせる二人。笑みがこぼれる。

『はっ』

足元にひざまづく。主人の二人が護衛することになれば、当然従者も付いて来る。

やっぱりルビスは凄い。と感心させられる。

「ルビス……ありがとう……」

今度はソフィア様が涙目だった。



「実はね、ルビス、私達も一旦帰ろうかと思うの」

「え……そうなんですか?」

「うん、もうすぐ試験があるし、あまり両親に心配かけたくないから」

ルビスの表情が曇った。

「そうですね……ごめんなさい、気付かなくて」

「別に、ルビスが謝る必要はないって。私達、自分の意思でルビスのお手伝いしていたんだし」

謝るのはむしろこちらの方だ。

本来なら私達の存在は、邪魔な筈なんだ。

護って貰ってばっかりで、大して役に立ってないし。


「さて、戻ったら試験勉強かぁ……学校行ってないからなぁ……大丈夫かなぁ……」

「今回ばかりは私と直美、どっこいどっこいかもね?」


大学、行けるのかなぁ……



「どういうことだ、我等の王を殺すとは!」

「そうだ、返答によってはただでは済まんぞ!」

魔域の王宮には、当然、冥界の上官たちが押しかけていた。

「心配しなくても、冥界を乗っ取ろうなんて考えはないわ」

ノエルは面倒臭そうに答える。

「今回のはちょっとした事故よ。仕方がなかったの」

「事故……だと?」

「あの男が毎日のように押しかけては、私に迫るのよ。

 『君が欲しい』って。

 何度も断るから、向こうも頭に血が上ったようなのよね。

 それからどうなったかはご存知の通りよ」

「嘘を付くな、白々しい!」

すると、ノエルは、口の端を歪ませる。

「あら、王たるこの私に向かってなんて無礼な……」

玉座から立ち上がるノエル。そして。

「ぐへッ……?!」

鈍い音と共に、男の身体が壁に叩きつけられる。

「き、貴様?! いきなり何を!」

「おのれ……魔族ごときに……」

「言って置くけど、その気になれば、力づくで支配する事だって可能なのよ」


紫の瞳が睨みつける。

「折角だし、試してみる?」

その迫力に、上官達は圧倒された。


「……今、私の立場は、貴方達を支配できる立場にいる。

 しかし、何度も言うようだけど、私は、冥界を支配する気はない。

 私は、今現在を持って、冥界の統治権を放棄する。これで宜しいかしら」

上官達は、ただ頷くだけだった。

「ただし、ひとつだけ私の意見を聞いて。

 冥界と、魔域、そしてガイアが今よりさらに安定に向かうことを望むわ」

「あ、ああ、承知した……」

そして、もう一度、ジッと睨んで一喝する。

「さあ、判ったら早くここから去りなさい。侵入罪で消すわよ」

『ひ、ひいぃぃっ』

大慌てで逃げていく男達。

扉が閉められ、静寂が部屋を包み込んだ。

溜息をついて、玉座へと腰を下ろす。

(さて……次はルビス様ね……なんて弁解しよう)




「ノエルが、冥界を?!」

「はい、セラ様、間違いございません」

魔域の某場所。部下の報告を聞いたセラは、思わず椅子から転げ落ちそうになった。

「しかも、ノエル様は、冥王テイタニアを消しております」

「……嘘?!」

(まさか――)


「ゼクス様だけでなく……冥王テイタニアまで!」

悔しそうに唇を噛みしめる。

「しかもノエル様は、自分は冥界には興味がないと言って、自ら統治権を放棄したそうです」

「はぁ?! どういうこと? 自分で殺しておいて?」

「詳しい話は全く……個人的に恨みでもあったのでしょうか?」

首をかしげる両者。

ノエルの狙いはなんなのか。頭をひねって考えるが、答えは出なかった。

「まあ、ゼクス様復活の邪魔にならないのであれば、構わないわ。計画は進んでいるのでしょうね?

「はい、準備は着実に進んでおります。まもなく復活の儀式に入れるでしょう。

「結構」

不適に笑うセラ。その目からは、狂気に満ちていた。

「フフッ……見ていなさい、ノエル……世界を支配するのは、ゼクス様と私よ――」


そんなセラの横で、フィアは静かに寝息を立てていた……



続く


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