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漆黒の疾風 another side

Riene side


「――はあっ?!」

一瞬、何を言っているのかわからなかった。

「降参じゃ、降参。ほれ、この通りじゃっ」

目の前にいる、小さな少女は、両手を天にあげ、降参(ホールドアップ)のポーズを取った。

だが、見た目に騙されてはいけない。

この女は、魔王ゼクスが呼び出した魔神なのだから。


「どういう事? 油断させようって魂胆?」

「そんな訳はないぞぇ。わらわが本気を出せば、こんな街くらい吹き飛ぶのでの」

無邪気な笑顔で、平然と恐ろしいことを言ってのける。


「取引なぞ、どうじゃ?」

どういうつもりか。

「無理やり呼び出されたのじゃ。帰りたいのじゃが、協力してもらえないかのう?」

上目づかいに私を見つめる魔神。

くうっ、こういう時だけかわいこぶるなんて、卑怯じゃない!

実力はおそらく、彼女と同じくらいで、少し向こうのほうが上。

悪い話じゃないけれど、このまま逃げられました、なんて言えないのも事実だ。

「そうは言っても、私も貴女を殺した証拠が欲しいのよ。私の不利になるから却下」


「ふむ、そうじゃなぁ、この首飾りなんてどうじゃ?」 

彼女は、自分の首にかけてあった首飾りを見せる。

見た目、金で出来ていて、かなりの魔力が込められたものだ。

この街の一般的な住民なら、これだけで一生遊んで暮らせるだけの価値はあるだろう。

だが、それとこれとは話は別だ。

表情に出すのをぐっとこらえ、平然を装って答えた。

「そんな黄金ゴールドの首飾りが、貴女の命と釣りうわけないでしょ?」

すると魔神は突然話を変えてきた。

「ふむ、見たところ、お主とわらわは同郷であろ?」

「……そんな怪しい服は見たことない」

そんな奇抜な服なんか、私の故郷に来ている人間などいない。

「わらわの故郷では普通なんじゃがのぉ。露西亜ロシア娘には良さが判らんかのぅ」

なるほど、地球出身ということか。何故判ったのだろう。

動物みたいに臭いで判るという事もないだろうに。だけど。

「私の出はプロイセンよ。あんな大きいだけの国と一緒にしないで頂戴」

私は自分の故郷を愛している。そこは訂正せねばなるまい。

「何じゃ、違うのかえ? ふむ、西洋人は皆同じに見えるのう」

「ということは、貴女は東洋人(アジアンね。貴女こそ何処なのよ」

「日出ずる国、日本ヒノモトじゃ。お主の国では何と呼ばれておるかしらんがの」

「まさか、その首飾りも?!」

「わらわの故郷で創ったものじゃ。良さが分かってもらえたかのぅ」

「貴女、日本ジパング出身なのっ?!」


彼女が来ているのは、確か、‘ウキヨエ’と呼ばれた絵の中の女性が着ているのによく似ている。

何故、言われるまで気が付かなかったのだろう。

私は思わず彼女の手をガシッと掴んでいた。

「う、うむ、とりあえず落ち着かぬか」

これが落ち着いていられるか。憧れのジパング人に会えたのだ。

「ジパングっていえば、黄金ゴールドの国、って言われてるのよ!」

「黄金、のう……確か和蘭オランダと取引していたような気がするが……」

そうだ、たしか、ジパングと交易ができているのは、隣のあの国だけなんだ。

「建物だって金ピカだし絵にまで金が盛り込まれてるのよ。憧れるのは当然じゃない」

「金閣寺と金の屏風の事かのう……表面にちょろっと箔がぬられているだけじゃ、材質は主に木じゃのぅ」

「そ、そうなの……」

少しがっかりした。確かに、全部金だったら、逆に希少ではなくなるか。


「――して、どうじゃ。悪い話ではないじゃろ?」

負けた。主に金に。

「――釣られたみたいで悔しいけど、いいわ」

「よし、契約成立じゃの」




「でも、魔王って、そんなに力があるの? 魔神の貴女を封じるくらいに」

「あ奴よりも、血の誓約のほうが強いかの」

なるほど、だから異世界の魔神を呼びだせたのか。

「お主も知っているかわからんが青い髪の女がいるじゃろう」

そうか、やっぱりあの女は只者ではなかったのか。

「あ奴の血が強すぎるのでな。どうにも身動きがとれん訳じゃ」

「つまり、あの女を殺せばいいってことでしょ」

すると魔神は意外なことを言い出した。

「別に殺す必要はないぞぇ。力さえ封じてしまえば、わらわは晴れて自由の身じゃ」

まあ確かにそうなんだけど。それで精霊たちが納得するとは思えない。

「それに、あ奴は殺すのは惜しい。まともな思考の持ち主なのでな」

「――まあ、わかる気はするけど。精霊たちを殺しているのは事実だし」

「その点については、わらわも同罪じゃがの」


「まあ、いいわ。私からも一つ条件があるわ」

「なんじゃ。申してみよ」

「今後は一切、力無き者に手を上げないで。それを約束してほしい」

これだけは譲れない。力あるものとして、当然だ。

「ふむ、まあ良いじゃろ。元々わらわも無益な殺生は好まんのでの」

にかっ、と笑う。

嘘だ。絶対に嘘だ。



「ではの。達者での」

「待って、貴女の名は? 本当の名ではないでしょう?」

「うむ、わらわの名は琥珀こはくじゃ。覚えておくがよいぞ。リイネよ」


笑みを浮かべながら、立ち去る魔神

彼女は、日本ジパングの神なのだろうか。

もう会うこともないだろう背中を見送る。


そうだ、サファイアを助けないと。

私は一路王の間を目指した。




>>


魔神琥珀アンバーとの取引は、三つ。


一つ、魔王と幹部たちを封印し、琥珀との契約を絶つこと

一つ、封印は不完全にし、私の死後、解けるようにすること

一つ、魔王が復活したら、琥珀の召喚魔法も解けるようにすること


何を考えているかわからないが、私が死んだあと、再び暴れ回るつもりらしい。

一応私から釘を刺しておいたが、守られるかどうかはわかったもんじゃない。

これは大っぴらに公表できる内容じゃない。

ったく――面倒なことになったわね。



ガーネット様は、結局、あれから数日で亡くなってしまった。

最後に格好付けて死のうと思っていたらしく、邪魔が入ったのを恨んでいた。

あの方らしい。


王位継承権は、サファイアにある。

そのまま王位を預ける訳には流石にいかなかったらしく、ごたごたが続いた。

賄賂を受け取っていたある者は、国外追放になった。

魔族達を、街に引き入れた連中には、極刑が下った。

甘い汁を吸っていた一部の官僚たちは、軒並み職務を追われ、王宮から追放された。


そんなこんなで、王の座は空位が続いたが、五年後、ようやくサファイアが正式に就任した。

かねてからお付き合いしていたオニキスと結婚し、晴れての就任だった。

サファイアが王位についてからは、平穏な日々が続いた。

相変わらず、国の中はぎくしゃくしているが、表向きは落ち着いているように見える。


サファイアには国政は向かなかった。元々が優しい性格の為、守堅派の操り人形になってしまっていた。

ただ、サファイアの力を知っている者が多かったため、彼女を悪く言う者はあまりいなかった。

そんな中、サファイアに子供が生まれた。

名前はルビスと名付けられた。


この子が大きくなるころには、奴らの封印は解けてしまう。

そうすれば、この国は再び戦渦に巻き込まれるだろう。


だから、私は、この剣に細工を施した。

きっと、成功する。今は信じるしかない。

身体はもう限界にきつつある。流石に人間の体にはこの歳月は長すぎたかな。


私の力を受け継ぎしものよ。

どうか、私の意志を引き継いで。今度こそ、精霊たちに安寧を――。




次話より、本編に戻ります。

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