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漆黒の疾風第7話

リイネと名乗った女が光り輝く剣を構える。恐ろしい程の、魔力が渦を巻いて視えた。

「――ほぉ。これはなかなかじゃの。面白くなりそうじゃの」

余裕ぶってはいるが、魔神の表情が明らかに変わっていた。

「少しわらわも本気を出すとしようかの」

魔神の体から、赤黒いオーラが溢れ出す。


「ゆくぞぇ」

『来なさい!!』


それは圧巻だった。

強力な魔神の力と、少女の剣がぶつかって衝撃が起こる。

『くっ!』

「ぬうっ」


二人とも、力はほぼ互角だった。

周りの壁や柱が衝撃で崩れる。

私は、それに巻き込まれないように、足早にその場を後にした。

あんな別次元の力には到底かなわない。

途中、幾人かの精霊に、力づくで道案内をお願いし、女王の間にたどり着く。


中からは、金属がかち合う音、何かが爆発する音が聞こえ、やがて静かになる。

そっと中をのぞくと、そこには一組の男女が。

漆黒の甲冑を身に纏った男性は、彼だ。

そして、床に倒れ伏している女が、女王だろうか。

彼の剣に胸部を貫かれ、床にくくりつけられていた。

傷口からは、真紅の血が川のように流れている。

女王は、もはや満身創痍といった様子だ。対して、彼の方はほとんど傷がない。

橙色の長い髪を乱暴に掴み、勝ち誇った顔の彼がそこにいた。

私は物陰に隠れて、様子を見ることにした。


『これまでのようだな、ガーネット。手こずらせてくれたな』

追い詰められているはずの女王は何故か、余裕の表情だ。

「ふん、アタイは最悪の王さ。アタイが死んでもこの国は亡くなんないよ」

『貴様の事はどうでもいい。サファイアはどこにいる』

女王の表情から、余裕が消える。やはり王女は大切な存在の様だ。

「あの子はこの国の希望だ! 絶対殺させな……がああぁぁぁっ!」

突き刺さった剣を、グリグリとこね回す。

『もう一度聞く。サファイアはどこだ』

「さ、さぁね。アタシが聞きたいぐうぅぅぅっ!!』

両手で首を締め上げる。もうすでに息も絶え絶えだ。

『さっさと吐け。吐いたら楽にしてやる』

彼の最後通告。とどめを刺すかと思われた次の瞬間、背後から声がかかる。


「その必要はないですよ。義姉ねえ様」

現れた、真紅の髪に深蒼の瞳。『青い彗星』王女サファイアその者だった。

「すみません、遅くなりました」

「サファイア……何故――」

「義姉様を見捨てるなんてできません。それに、リイネも来ています」

「そう……でも、アタイは……」

何故かうなだれる女王をかばうようにして彼と対峙するサファイア。

「さあ、決着をつけようじゃない、魔王ゼクス。私を探していたんでしょう?」

『よかろう。貴様を殺せはコランダムは崩壊する。我の悲願も達成されるのだ!』




『ぐうっ! 馬鹿なあぁぁ!!』

一瞬の出来事だった。彼の身体に、サファイアの剣が突き刺さる。

まずい、と思った私は、思わず飛び出していた。

「ゼクス様!」

「なっ!? しまっ――」

無防備になっている背中へ、腕を振り下ろす。

だけど。

「させないわ!」

あの女だ。腕をつかまれて身動きが取れない。

あとちょっとだったのに。

「っ! 邪魔を、しないで!」

思いっきり腕を振って、振り払う。

女は一瞬体勢を崩すけど、すぐに立ち直る。

「――サファイア! ガーネット様と奥へ!」

この女がいるということは、あの魔神は倒されてしまったのだろう。

「貴女の力は危険。封印させて貰うわよ」

光り輝く剣をこちらに向ける。

「――何故、私たちの邪魔をするの?」

ただ普通に生きていたいのに。皆と一緒に生きたいだけなのに。

私の気持ちを汲み取ったのか、女は気の毒そうな表情をする。

「彼は私たちに仇名す存在。だから、貴女も同罪なの」

それこそ自分勝手な考えだ。だから精霊は嫌いなんだ。

「貴女の名を教えて」

「知ってどうするのよ」

「これから、罪を背負うものとして、当然」

はぐらかそうかとも考えたが、女は真剣な表情をしていたので、口を開いた。

「――ノエル。ノエル=ラークロッド。風の魔族。疾風と名乗ってるわ」

「ノエル、ね、覚えておくわ」

「貴女の名は?」

「リイネ。リイネ=シュミット。人間よ。勇者って呼ばれてるの」

この女、人間だったのか。

自分にも、この女と同じ血が流れているのか。


どうしようもなく悔しくなった。

みじめになった。

悲しくなった。


そして、私は――封印された。







次に目を覚ました時、目の前にはセラと彼の姿があった。

「ようやくお目覚めか。貴様で最後だ、ノエル」

「ゼクス様? お体は? あれから、どうなったのですか?」

「負けたわ。悔しいけど、全員封印されたのよ」

「だが、こうして復活することができた。勇者といえども我を完全に封じることは出来なかった様だ」

何故、勇者は封印を選んだのだろうか。あれだけの力があれば、消滅させることは出来たと思うのに。

「あれから900年経ってるわ。もう勇者もいないし、今度こそ、あいつらを根絶やしにするチャンスよ」

そうだ、勇者は人間と名乗っていた。

ならば、もう生きているはずがない。


「ノエル、思い出せ。お前の母を殺したのは誰だ。お前を封印したのは誰だ」

彼の言葉が私の心を揺り動かす。

「もう一度我と共に来い、ノエル」


「はい、ゼクス様。仰せのままに――」



漆黒の疾風 END



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