漆黒の疾風第6話
「どれほどかと思っておったのじゃが、期待外れじゃのぅ」
全身に返り血を浴びたまま、ニヤリと笑う。
もう街の中に生き残っているものはほとんどいないだろう。
魔神は、動く者を見つける度、それを屠っていた。
逃げた住民は、助けを求めにコランダムの方向に向かっているだろう。
だが、そのコランダムもツヴァイやセラの襲撃を受けている。
おそらく自分たちのことで手一杯なはずだ。
それにしても。
あっさりと一つの都市を滅ぼしてしまうなんて。
本当にコランダムを滅ぼしてしまうのではなかろうか。
私は魔神の視界の中に入らないようにすることで手いっぱいだった。
正直、生きた心地がしない。
「なんじゃ、お主、そんなに怖がらんでもいいであろ」
そう言って、ニカッ、と子供の様に無邪気に笑う。
その笑顔が恐ろしい。
「――さて、お主」
「ノエルでいいです。私は貴女の主ではありませんから」
「ではノエルとやら、その女王とやらはどのくらいの強さじゃ」
どのくらい、と言われても見当がつかない。
「そうですね、実際戦った事はありませんが、精霊の中でも強さも最高峰で、かなり好戦的だと聞いています」
「ふむ、わらわは強い者と戦うのが楽しみなのじゃ。期待しておるぞ」
現女王のガーネットは、その悪政のため、精霊の中でも嫌われている。
同じ炎の一族を、追放したり、迫害をしているため、火種が絶えない。
国の中は、分裂、癒着でボロボロだ。軍力が強いから、そのせいで持っているに過ぎない。
そんな中で、私達の侵攻を受け止められるはずもない。
ただ、女王自身はその強さのせいで生き残る可能性がある。
そうすれば、コランダムはまた再建されてしまう。
国を滅ぼすなら、王族を全て殺す必要がある。
ただ、コランダムに虐げられていた一族が国を起こす可能性もある。
精霊たちにとってはその方がいいのかもしれないが。
「見えたようじゃの。あれかえ?」
コランダムは、山間の谷の中にある、一つの都市国家だ。
攻めにくい土地もあり、難攻不落と言われてきた。
「そうですね。やはり苦戦してますね。攻めあぐねているわ」
セラと、ツヴァイの姿がはっきりと見えた。
彼の姿は見えないけど、おそらく王宮のそばまで行っているだろう。
南東の地域の方はほぼ征圧していると見て良さそうだが、それ以外の場所は精霊たちが必死に抵抗していた。
「どうしますか? 雑魚は」
「相手をするまでもないわ。通り道になければ無視しても構わんじゃろ」
「それもそうですね」
私達は、一直線に城に向かうことにした。
無駄な戦闘はなるべく避けたいと言う意見は一致した。
「ふん」
「やっ!」
私と魔神は、目の前に立ちはだかる精霊たちを切り裂き、城に向かって駆けていた。、
騎士やら魔道士やらが攻撃を仕掛けてくるが
その程度のものなら、私達の、というより魔神の敵ではない。
ほとんどを魔神が一発で仕留め、そのおこぼれを私が始末していた。
魔神の活躍のおかげで、あれだけ攻めあぐねていた私達の軍勢は、あっという間に城を包囲していた。
城の手前でツヴァイと合流した。
「貴様が魔神か」
「いかにも。わらわが魔神アンバーじゃ」
ツヴァイは雰囲気で強さを感じ取ったのだろう。神妙な面持ちだ。
「ツヴァイ、ゼクス様は?」
「王女サファイアを追って一足先に城に入った。我々も続くぞ」
ツヴァイの言葉に、魔神は渋い顔をする。
「自分が仕留めたいからと言って、主が先頭を切って突入するなど愚の骨頂よ」
私だけに聞こえる声で、ぼそりとつぶやく。
「お主は理解があるから言っておくがの」
「なんですか?」
「――この戦、負けるかも判らんの」
「……はい?!」
一瞬、耳を疑った。負ける? 私たちが?
「まあ、わらわはわらわの仕事をするとしようかの。お主はどうするぇ?」
「……私は、女王を探します。あわよくば、この手で」
『それは困るわね』
背後に、いつぞやの牢獄で見た女が立っていた。
『やはり只の魔族ではなかったわけか。この国は貴方達の好きにはさせないわ』
少女の目つきが鋭くなる。
と。魔神が私をかばうように前に出る。
『どきなさい。その女は魔王の手先。この世界を闇に染める元凶よ』
「ほぉ、今までのモノよりは歯ごたえのありそうなのが出てきたの」
『……お前は、何者?』
「わらわの名は、アンバーじゃ、小娘」
『――そうか、お前が魔王ゼクスが喚び出した魔神ね!』
少女が剣を構える。
『我が名は、リイネ=シュミット。魔神よ、闇に還りなさい!』
続く