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漆黒の疾風第4話

数度に渡り、その少女と剣を交え、ついに捕らえる事に成功した。

私はディスト一緒に後方支援をしていたので、実際に顔を合わせて戦うことはなかったが。

止めを刺したのは、ツヴァイの剣だ。

「ったく、とんでもない女だな、こいつは」

ツヴァイの足元には、ボロボロになった少女の身体が転がっていた。

対するツヴァイも、かなりの傷が付けられていた。

ツヴァイは、私たち五人の中で剣の腕はピカ一だ。

条件が整えば、もしかしたら彼にさえも勝てるのではと思うほどの実力がある。

そんな彼でさえ、やっと勝ったのだ。私が相対しても、瞬殺もいいところだ。


「この女はどうなされるのですか 殺すのでしたら私が――」

セラは何度も返り討ちにあっているので、事あるごとに絶対に殺すといきがっていた。

だけど、彼の口から意外な言葉が発せられた。

「いや、拠点アジトに連れて帰る。行くぞ」

少女の身体を何かに使うつもりなのだろうか。

あれだけ強い信念を持っている少女を洗脳支配するのは難しいだろうから。


その後、仲間が現れるだろうということで、五人交代で見張りに付くことになった。

魔法結界を貼り、四肢を鎖で固定し、声を封じるという念の入れようだ。


二日後、私が初めて見回り当番になった日。

食事を持っていくと、少女は眠っていた――いや、気を失っていたというべきか。

セラの少女に対する仕打ちはすさまじい。下手をすると、壊してしまうのではなかろうか。

彼は、少女を捕らえたあと、準備があるといって地下に篭ってしまった。

こんな話が彼の耳に届いたら、セラは一体どうなるのだろう。


扉の門を鍵で開け、中に入る。

少しばかりの食事を少女の足元に置き、鍵を閉める。

そして、牢の出口に差し掛かったところで殺気を感じた。

「ッ!?」

とっさの所で反応できず、まともに剣を受けてしまう。

一瞬意識が飛ぶ。気付いたときには、持っていた鍵は奪われ、牢の方に掛けていく一つの人影。

まずい、と思った私は、慌ててその後ろを追いかける。


「サファイア! なんて酷い! しっかりして!! 返事をして!!」

聞こえてきたのは少女の名を呼ぶ女の声だった。

「無駄よ」

私は舐められない様に、抑揚を抑えた声を心がけて話した。

「その子の声は封じられているから、声は出せないわ」

「な、なんで……」

沈んだと思っていた私が、直ぐあとを追いかけて来たのが信じられないようだ。

そして、はっ、と気が付いたように、私を物凄い形相で睨みだした。

ああ、そうか。

「勘違いしているようだから言っておくけれど、その子に手を出したのは私じゃないわ」

「魔族の言うことは信用できない」

そういって私に剣を向ける。その切っ先は、爛々と輝いている。光属性持ちか。

となると、私はこの女には万が一にも勝てる見込みはない。

まだこんなところで命を落としたくはない。

彼には申し訳ないが、保身に走らせてもらうことにした。

生きてさえ居れば、チャンスは必ずやって来る。

一時的に裏切ってしまうことになるかもしれない。

だけど、私を救ってくれた恩返しがしたい。その気持ちに偽りはないし変わらない。


私は女の隣を通り過ぎ、少女の鎖を外す。

これだけ身体を動かしているのに、目を覚ます気配すらない。

どうすればここまで酷い状態にできるのか。というよりこの状態で生きていることが不思議だ。

精霊の生命力は凄いと思う。

「――私は本当はこういうことは好きじゃない」

私の言葉で、女の表情が明らかに変わる。

「確かに精霊や人間は嫌い。私から全てを奪ったから。

 殺している瞬間はなぜだか凄く気持ちいい。

 でも、それが終わってふと気付くと、凄く嫌な気分になる」

魔族である私からこんな言葉が出てくるとは予想外なのだろう。

動揺しているようだった。

実際、これは自分の嘘偽りない気持ちだ。正直自分でもおかしいと思う。


「私をその剣で貫いて。そうすれば、私が逃がしたってばれなくて済む」

「――何故?」

「今の私では貴女には勝てないことはよく判る。自己保身よ」

「魔族が、自分の負けを認める? あなた、変わってるのね」

そういいつつも、目の前の女が始めて笑顔を向けてきた。そして――


「――ぐっ……」

光り輝く剣を受け入れる。身体が焼ける。熱い。

意識を失う瞬間、女の気の毒そうな表情が目に入る。

こんな私を心配してくれるなんて。ああ、そういえば名前聞いていなかった――


こうして、私は五日間眠り続けることになったのだった。




寝台の上で目を開ける。

「セラ?」

「……もう目覚めないかと思ったわ」

視界に心配そうな、ほっとしたような表情の顔。

「でも、安心しなさい。ノエルをこんな目にあわせたあの女、絶対殺してやるわ」

それは無理だろう。

あの剣がある限り、セラには分が悪過ぎる。

「と、とにかく、ゼクス様呼んでくるわ」

そういって顔を真っ赤にしながら駆けていく。

自分で言って恥ずかしくなったのだろうか。やっぱり素直じゃない。


あ、そういえば、もう一人の女の話、しなくてよかったのだろうか。

まあ、黙っておいた方がいいかもしれない。自分の身のためにも。


数刻後。彼が一人で現れた。セラの姿は無い。

「すみません、ゼクス様。ご迷惑をおかけしました」

私は素直に謝った。

彼は、私の頭に手を置いて優しく撫でてくれた。

『寝ている暇はないぞ、ノエル。機は熟した』

「では、ついに攻めるのですね。コランダムを」

『そうだ。これで我の復讐が完了する。そして、名実共に、魔の王となる。行くぞ』

「はい」


そして、虐殺が始まった。



続く


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