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漆黒の疾風第3話

数年後――

彼は魔王を名乗り、魔域の支配に動き出した。

私は疾風はやてと名乗り、彼の手足となっていた。


精霊、竜、エルフ、人間。

ありとあらゆる種族の街や村を襲った。

最初は他人を殺すことにかなりの抵抗があった。

時には自分のやったことに対して恐怖すら感じることもあった。

でも、時の流れは恐ろしく、残酷だ。

気が付くと、何とも思わなくなっていた。それどころか、一種の快感さえ覚えていた。

何人殺したか覚えていない。私は、数え切れないほどの罪を犯し、血を浴び続けた。

そんなある日。


その日は、彼の傍には私とセラしか居なかった。

突如、私達の拠点アジトに小柄な少女が駆け込んできた。

燃えるような赤い長髪。透き通った青い瞳。

そのきらびやかで美しい姿に、私は呆気にとられた。

彼も突然の事で驚いたのか、一瞬動きが止まる。

「魔王ゼクス、覚悟!!」

その隙を見逃さず、少女が駆ける。その一太刀は、確実に魔王の胴を捉えていた。

『ぐうっ!? 何者だ、キサマは?!』

「ゼクス様!!」

呆然とつっ立っていた私の横をセラが飛び出していく。

セラの巨大な魔剣が、無防備な少女の背中目掛けて振り下ろされる。

「ふっ!」

が、少女は寸での所でこれをかわす。

一転、隙だらけになった所に、カウンターの一撃が放たれた。

「があぁっ!!」

少女の剣がセラの腹部を貫いていた。膝から崩れ落ちていく。

「セラ!!」


倒れたセラには目もくれず、彼の方をキッ、と睨み付けて、少女が名乗りを上げた。

「私は、コランダム第1騎士団隊長、サファイア! 殺された者達の仇、討たせて貰うッ!」

『サファイアだと!? 小娘、まさか――貴様、'蒼い彗星’か?!』

彼が私に初めて見せる表情。そう、彼は焦っていたのだ。

『……そうか。ついに出てきたか。貴様の力試させて貰う!』

そして彼は私のほうに向き、

『手出しは無用だ。この女は我が殺す』

私は、その言葉に頷いて、セラの元に急いだ。

セラは完全に気を失っていて、剣が貫通した傷口からは、まだ出血が続いていた。

彼女も私と同じく、自己修復能力がある。

そんなセラを沈めたということは、あの剣に光か何かの属性が付いているのだろう。

私達魔に属するものにとって、光属性は天敵だ。

力を受け続けると、身体を芯から焼かれ、灰になって消滅してしまう。修復も出来ない。


セラの状態はかなり酷いが、私なら治せない傷じゃない。

ゆっくりと魔力を注ぎ込む。傷口は徐々に小さくなり、やがてセラが目を覚ます。

「……っ、はっ?!」

「あ、気付いた。セラ、大丈夫?」

「――ノエル? これ、アンタが?」

笑顔で頷いてみた。

セラは恥ずかしそうに視線をそらす。

「っ、と、とりあえず、感謝しておくわ、べ、別に助けて貰わなくても何とかなったんだからねッ!」

……本当に、この女は素直じゃない。


「そ、それよりっ、アンタ何してんの! 私のことなんか良いから、攻撃しなさいよ!」

向いた視線の先に、剣を打ち合う彼と少女の姿。お互いほぼ互角だ。

「で、でもゼクス様が手を出すなって……」

「手を出すな? あの女、そんなに強いの?」

「判らない。でも、蒼い彗星とかって」

私の言葉にセラは少し驚いたようだった。

「蒼い彗星……聞いたことあるわ。精霊で一、二を争う強さという話よ」

「なんでそんな強い精霊がこんな所に? 仇って言っていた様だけど」

正直、誰を殺したかなんて覚えていない。

私の前に立つものは全て殺してきた。恨みを持たれることくらいは覚悟していた。

だが、実際こうして、仇を名乗る者が現れると、罪悪感に苛まれる。


――駄目だ。気持ちが悪い方向に行っている。

私は魔族だ。彼らとは相容れない。ならば滅ぼすしかないのだから――



「く、ああぁっ!!」

彼の剣が、少女の身体を凪ぐ。

華奢な身体から勢い良く血が噴出し、床を赤く染め上げる。

そんな大怪我にもかかわらず、少女は魔法を完成させる。

離脱テレポート!!」

そう叫んだ直後、少女の姿は、消え去っていた。

どうやら、敵わないと踏んだのか、逃げたようだ。

『クソッ、精霊の分際で、我に傷を付けるとは忌々しい……このままで済むと思うな!』

彼も無数の傷がある。それほどあの少女が強かったということだろう。

「ゼクス様! 大丈夫ですか?!」

『ふん、我より自分の心配をしろ。我があんな小娘に負けるわけがなかろう?」

「そ、そうです、さすがゼクス様です!」 

二人の心情は対称的なのが傍から見てもよく判る。

セラはそれに全く気付いていない。


「ゼクス様、あの女は一体? ご存知だったようですが?」

浮かれているセラは放って置いて、私は彼に疑問をぶつけた。

『奴は、精霊都市コランダムの王女、サファイアだ』

コランダム……そうか、今までで彼が唯一攻め落とせていない都市か。

「王族というのはそれほど強いのですか?」

「ふん、地位が高ければその分力も強い。だが我に敵は居ない。捻り潰してくれる」


彼はこう言ってはいるが、私は冷静に分析できていた。

力差はほとんどなく、ほぼ五分だろう。

今回は彼が勝ったが、同じように行くとは限らない。

彼も余裕を見せてはいるが、もしかしたら心中は穏やかではないのかもしれない。


「ノエル、ツヴァイとディストが戻ってきたら、我の元へ来る様伝えろ」

「はい、判りました。伝えます」



そして、私はこの後、彼が考えている計画を知ることになるのだった。


続く

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