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漆黒の疾風第1話

ノエルの過去話です。


※注意

残酷な描写が多いです。

>>


闇夜に突然浮かび上がる一つの影。

とある街の入口。衛兵の前に、それは突如として現れた。

「だ、誰だお前は?!」

それは、露出度の高い、漆黒の衣装に身を包んだ少女の姿をしていた。

「私は“疾風のノエル”――悪いけど死んでもらいます」

紫色の瞳が妖しく光る。

「まさか、お前、魔――ぎゃぁぁぁあああ!!」

肉を断つ鈍い音とともに飛び散る鮮血。

あたりは瞬時に血の海と化した。

先ほどまで動いていた筈の肉片が、グチャ、と地面に転がり落ちる。

「あっけないですね」

自らの手についた返り血をぺろりと舐め取り、少女は、街の中に消えた。


数刻後。

街から出てきた少女の身体は、真っ赤に染まっている。

「あ、ゼクス様!」

どこからか男が現れた途端、少女の顔が明るくなる。

「ゼクス様、この街の住人、仰せの通り、皆殺しにしてきました」

そう言ってニッコリ笑う少女。

「よくやった、ノエル。さすがだな」

「はい、ありがとうございます」

「人間など根絶やしにしてしまえばよい」

「仰せのままに――」

男女が立ち去った後、そこにはおびただしい数の死体と、血の匂いだけが残されていた。


>>




小さい頃、私は、魔族の父と人間の母の間に生まれた、と聞かされていた。

今持っている魔力は父から受け継がれたもの。

あの頃は何一つ不自由な暮らしだった。

父がそれなりの地位に居た為、優遇されて育てられ、周囲からもてはやされた。

だが、その父が人間に殺されると、状況は一変した。

母が人間というだけで、周りの魔族から迫害を受けるようになってしまった。

その為、命からがら私と母は魔界を後にした。

行く宛ての無い私達はとりあえず母の故郷に戻ることにする。

ところが、待受けていたのは、さらに過酷なものだった。

人間達は、私達を魔族と同類としか見てくれない。

必死の説得にもかかわらず、母は殺され、私も何度も何度も痛めつけられた。

だけど、魔の血を引いている私は、簡単には死ななかった。

傷を付けられても、すぐに回復してしまう。

始めて、人を殺した。その感触は決して忘れられない。

忘れてはいけないと思う。




目の前で、母が死んだ。

最後の言葉。

絶対に忘れない、あの言葉。


『ノエル……どんな時でも、希望を失っては駄目よ!』

「嫌ぁ! お母さんっ!!」

「おっと、お前はこっちだ」

泣き叫ぶ私を男が掴んだ。逃げられない。

「嫌ぁ。何するのっ?!」

「魔族の娘か。へへっ……売っちまえば高く売れるな」

「いや、こいつをこのまま放って置く訳にはいかない」

「そうだ。今眠っている力が解放されれば、間違いなく我らにとって脅威となる」

力? 脅威? 何のこと?

「連れて行け」

「離して!! 誰か助け……ぐっ?!」

腹部に鋭い痛みが走り、私は気を失った。



気が付くと、そこは石造りの薄暗い部屋だった。

「?!」

私の両手首と両足が枷で固定されている。

つながれている鎖がじゃらりと鳴った。

「どうやらお目覚めのようだな」

(これは……何?)

そう声を発しようと思った瞬間、喉の奥から何か熱い物が込み上げてきた。

息ができない。

「――ごほっ?!」

自分でも信じられない位大量の血が口から溢れた。

足元に広がる血痕。部屋の床一面が真っ赤な血で覆われる。

「お、おい。こいつまだ生きているのか!?」

「ああ。見てみろ。全く信じられないぜ」

どすっ

突然腕に鈍い痛みが走った。男の持っていたナイフが、私の腕を貫通している。

「あぁぁぁぁっ!!」

大量の血が吹き出て、乾いて褐色になった床を真紅に染めていく。

だが、それもしばらくすると出血が収まり、傷口が塞がっていく。

「見ての通りだ。この女には自己治癒能力があるらしい」

「くそっ! この化け物が!」

どっ

「うぁああああっ?!」

刃が私の心臓を貫く。痛みで頭の中が真っ白になっていく。

そして、視界が闇に覆われる。

“イヤダ。シニタクナイ”

“コロセ。コロセ。コロセ――”



あれ……私、どうしたんだろ?

鎖、抜けてる?

「ま、まさか……覚醒しやがったか?!」

「に、逃げろ!! 殺されるぞ!」

“ニガスナ――ニガスナ――”

逃げ出す男達。頭が考える前に体が反応していた。

“コロセ。コロセ……”

「うわああっ!!」

頭をつかみ、そのまま力を入れる。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

ごぎり。と嫌な音がした。

男の首は、思ったより簡単にへし折れてしまった。

「……何だ、私、こんなに力があるんだ」

「ひ、ひいぃぃっ! ぐあぁぁぁぁ!!」

体が勝手に動き、手が男の心臓を掴み取っていた。

ぐちゃり、という音と共に、動かなくなる。

気が付くと私の体は、どす黒い血で染まっていた。


背後で、ガタリ、と音がする。

驚き、振り返ると、そこには顔面蒼白の一人の男が。

見られた……!!

「ひぃっ!! ば、化け物……げへっ?!」

考えるより先に体が反応していた。

男の頭が床に転がった。

「逃げなきゃ……また捕まっちゃう」


外は、夜になっていた。

小屋の周りを沢山の人間が囲んでいた。

手にはそれぞれ武器らしきもの。私は走り出した。

とにかく、村の外に出れば何とかなるかもしれない、そう思った。

「逃がすな!! 追い込め!!」

声が聞こえる。その反対の方向に走る。だけど。

「しまった! 教会!!」

いつの間にか村人に囲まれていた。

「もう逃げられないぞ、魔族め!」

突然足元が光る。

「魔よ! 滅せよ!!」

光が私の体を包む。魔法陣が敷かれていたのだ。

「ぁぐっ!!」

私の身体は魔のもの。当然光の属性には相性が悪い。

たちまち身体の自由を奪われ、私はその場に倒れ伏した。

「よし、縛り付けろ!」

私は為す術もなく、十字架にくくり付けられた。

「さすがの魔族もこれなら動けまい」

手首にナイフが突き立てられる。

「あああっ?!」

今度は足。

「んううううっ?!」

身動きの取れない私は、集団で次々と痛めつけられた。

「どうだ苦しいか?」

「だけどな、俺たちがてめらに受けた仕打ちはこんなもんじゃねぇ!」

私の服が切り裂かれる。

「嫌! やめて!」

「ふん、力を封じればただの女か。俺たちと同じ苦しみを味わってもら――」

最後まで言い終わらないうちに、鈍い音がして、私を掴んでいた男の頭が吹き飛ぶ。

びちゃり、と返り血が私の顔に跳ねた。

「ひ、ひぃっ!!」

一斉に村人達が私の周りから逃げた。

だけど、私は何もしていない。一体誰が?

「何だ、随分と騒がしいではないか」

「な、何もんだ、てめぇは?!」

突然現れた一人の男性。一斉に村人に囲まれる。

「あいにく、死に逝く者に名乗る名など持ち合わせていないのでな」

「ぎゃぁぁあぁあああ!!」

目の前で1人の男の体が飛び散った。

「う、うわあぁぁぁぁあっ?!」

一斉に逃げていく村人達。だが、彼はそれを赦さなかった。


数刻後。

無残にも散らばる村人達の死体。

その中心に不敵な笑みを浮かべて佇む一人の男。

凄惨な状況だが、私は不思議と恐怖は感じていなかった。

「同胞よ、我と共に来るか?」

「あの、貴方は?」

私の質問を無視する形で、男は同じ問いを繰り返した。

「もう一度問う。我と来るか?」

私は無言で頷いた。

選択権など、既に存在しないのだから。


続く

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