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第6部第8話

>Yohko

三日ぶりにルビスが帰ってきた。

「お帰り、ルビス……あれ?」

「ただいま、ヨーコ。留守中何もありませんでしたか?」

「うん、異常なし。ところで、後ろに居るのは、森野さん?」

ルビスの陰からひょこりと顔を出す。

「こんにちは。陽子さん」

「どうしたの? シイルとメルまで」

「マスターが新しい魔法を覚えたいって言うので、そのお供です」

「へぇ~、魔法かぁ」

「うん、あと、私の仇討ちも含めて、だけど」

そうか、確か森野さんの両親は魔族に殺されてたんだっけ。

「何か手掛かりはあったの?」

「ん、まあね……あまりはっきりしたことは判らないんだけど」

森野さんは少し苦笑いを浮かべた。

「もう一度、原点に戻ろうと思って、またしばらくこっちで旅をするつもり」

「そう。ところで、他の人達は?」

「スピカさんは、さっき別れたばっかり。後の二人はまだ向こうにいるみたいよ」

あの精霊二人組は、鷹野さんの生まれ育った街を散策したいらしい。

二人にとっては見るもの全てが新鮮で驚きの連続だろう。

リアクションが手に取るように判る気がする。

そういえば、私もそろそろ帰らなきゃ……試験近いし。

もう夏休みはとっくに終わってて、他のクラスメイトは受験の準備を始めてるんだろう。

結構勉強から離れてるから前みたいに良い判定が貰えるかは微妙だ。

「私は、もう学校はいいや」

「そうなんだ?」

「うん、この一件が落ち着いたら、皆でこっちに住もうと思ってるし」

森野さんは、三人でどこかの村で静かに暮らしたいらしい。

「ナオに会う機会は減るけど、別に、会えなくなる訳じゃないし」

私は頷いた。

「それに、ナオはもう私の手の届かない所に行っちゃったから」

「それは私も同じ。まさかコランダムの後継者になるなんてね」

私たちの会話をルビスは笑いながら聞いていた。


「ところで、ルビス、どうしたの、それ?」

ルビスの首には見たことのないオブジェのような物が下がっている。

「あ、これですか。向こうの世界にあった氷の宝珠です」

「え……氷の宝珠?」

「宝珠って、一つじゃなかったんだ」

ルビスによると、精霊の国には一つずつ、同じ様な宝珠があるのだそうだ。

「これは恐らく、前王朝時代から行方不明のままのクオーツのものでしょう」


氷の国クオーツ――

コランダムの前の王朝、フレーディア時代に戦争が起きた。

それ以来国交が途絶えている極寒の国。

一年中そのほとんどの土地が雪と氷に閉ざされている。

内海に接した海岸線の一部だけが短い夏がある以外はあまり知られていない。

「元々は何者かが、コレを盗んだことにより起きた戦です。何とか光明が見出せるかもしれません」

そんな物が、何で地球の日本で見つかったんだろう……謎だ。


「あ、そうだ」

そこで私は大事なことを思い出した。

「あのね、ルビス、喜んで!」

「いきなりどうしたんですか?」

「実は今、ソフィア様が来て……うわっ?!」

がしぃ、と肩を掴まれ前後に揺さぶられた。

「ちょ、ちょっとルビス! い、痛い!」

「ど、何処にいるんですかっ?!」

「西塔の一番上の部屋に……」

そういい終わらないうちに、ばたばたと駆けていく。

「あ、行っちゃった……」

「全くもう……そんなに慌てなくても良いのに……」

「私たちも行こっか」

「ソフィア様、お一人でいらしてるんですか?」

メルは、不安な目で私に質問してくる。

ソフィア様は、彼女たち風の精霊にとって、特別な存在なのだろう。

「御付きの人と一緒だったよ。何となく森野さんに雰囲気似てたなぁ」

その事を伝えると、ぴたりと彼女の動きが止まる。

「確か名前は、リディアさんって」

ばたばたばた


「あ、あれ?」

「あ、マスター、待って下さい!」

慌てて追いかけるシイルとメル。

「ったく、しょうがないなぁ」

立ち入るなって言われてるけど、この場合、仕方ないか。



「ソフィア!」

バンッ

「る、ルビス?!」

ソフィアは突然開いた扉に驚いたが、すぐにその瞳に涙を浮かべる。

「ルビス……良かった無事で……」

「会いたかったよ、ソフィア……」

そのまま二人はしっかりと抱き合った。

「行方不明って聞いていたから心配したのよ」

「貴女だって、魔族に襲われたって……でも、ホントに良かった……」

そんな二人の様子を見守るリディア。

こちらも少し涙ぐんでいた。と。

ばんっ

「リディアぁ!!」

またもや勢いよく扉が開き、一人の少女が飛び込んできた。

そのままリディアの胸に飛び込む。

「ユミコ?!」

「リディア、会いたかったよぉ」

こちらは既に、涙でぐしょぐしょだった。

「何で貴女がこんな所に……」

「誰よ、この子は?」

大泣きしている由美子に少し戸惑い気味のソフィア。

「昔の知り合いよ。何でまたこんな場所に……」

ちょうどその時、陽子とシイル、メルが部屋に入ってきた。

ソフィアは、陽子の姿を見つけると、直ぐに表情を険しいものに変える。

「何で貴女が入ってくるの、出て行きなさい」

「私は、ルビス様の侍女です。ルビス様のお傍に付くのが侍女の役目」

「……」

「ソフィア?」

急に表情を変えたソフィアに、ルビスは訳が判らず困惑している。

「どうしたの? 何かあったの、ヨーコ?」

「何もありません、大丈夫です」

ニコリと笑う陽子。ルビスは違和感を感じてはいたが。

「――そう、それなら良いわ。私は何も言いません」

ソフィアは何か言いたそうだったが。

「……判ったわ、好きにしなさい」

半ば諦め顔のソフィア。と、そこへ一人の少女が歩み出る。

「初めまして、ソフィア様」

「貴女は、風の……」

「はい、メル=プリーツと申します。最近まで、リーフの森の中に棲んでおりました」

「どうして、炎の国に?」

「ここに来たのは、今日が初めてです。ご主人様に連れてきて頂きました」

その言葉に、ソフィアがびくんと反応した。

「……で、そのご主人様というのは?」

「その、あちらに……」

メルが指差した方向には、リディアの腕の中でグズッている少女が。

「貴女、名は?」

「……はい、サモナーの森野由美子と申します……ソフィア様」

「今すぐ、彼女の契約を解きなさい」

「え……?」

予想外の事態に、一同は困惑した。

「ソフィア様?!」

「メル=プリーツの契約を解除しなさい、今直ぐに! これは命令よ!!」

「いいえ、それは出来ません」

「……」

「ご主人様……」

「彼女の主人として、彼女が望まないことには応じられません」

「……くっ」

顔は既にぐしょぐしょだったが、その言葉と瞳には強い意思が込められていた。

「ルビス、黙ってないで貴女も何か……」

「もうそのくらいでよしましょう、ソフィア」

「ルビス……貴女は何時から人間に心を開くようになったの?」

「ソフィア……私も一応……」

「リディアは黙っていて!!」

「はいはい」

「リディアって……貴女まさか“リディア=サークウェル”ですかっ?!」

その名前に、ルビスは思わず身を乗り出した。

「光栄です。精霊の女王様に名前を知って頂けているなんて」

「リディアって、そんなに有名人なの?」

ソフィアの疑問に、ルビスが答える。

「この世界における最高峰のサモナーであり、狭間の番人である貴女の名前は有名ですよ」

「狭間の番人?」

「簡単に言うと、時空の扉の管理人よ。扉は、彼女たちによって管理されているの」

ルビスの説明にソフィアは唖然とした。

自分を助けてくれた人間が、そのような者だとは全く判らなかったからだ。

「今回、扉が開いて魔域から魔族たちが溢れ、魔王ゼクスを復活させてしまったのは――」

リディアはルビスに向かって頭を下げた。

「私達の管理が不十分でした。今回の件は私達に責任があります。申し訳ございません」

ルビスは首を振る。

「いいえ。貴女方だけの所為ではありません。我々の中に‘堕ちぶれし者’がいたことも要因です」

「堕ちぶれし者……ですか?」

「ええ、魔族に加担する精霊や人間――彼らを総称してそう呼ばれ……」

そこまで言って、ルビスは口をつぐんだ。

「あ、ごめんなさい。今のは聞かなかったことに……とにかく、貴女達には随分と助けて貰っています」

「でも、ルビスが知っているってことは、リディアって随分長生きなんだね。やっぱり精霊なの?」

「ううん、私は人間よ。ただ、この仕事をするようになって、年を取れなくなっただけ」

「私が子供の時には、もう既に扉の管理の仕事をしていたようです」

「そうですね、魔王ゼクスが封印された後に、今の仕事を始めましたから」

「え、魔王が封印される前!? 貴女、そんな昔から居たの? 全然知らなかった……」

ソフィアは驚きの連続だ。

「長すぎて正確な年齢は判らなくなっちゃったけど……ずっと昔から今の姿のままなの」

「私達精霊より長生きですね……貴女はもしかして、神の眷属ですか?」

「自分でも良く判りません。今まであまり意識していませんでしたし」

「お母様が生前、自慢げに話していました。貴女の魔力は凄く純粋で力強いと」

リディアは当時、勇者と共に行動をしていたサファイアに、魔法を伝授していた。

「なんか、照れますね。お恥ずかしい限りです」


「あら、貴方も居たのね」

ルビスが入り口付近の壁に寄りかかっているシイルを見つけ、声をかける。

「その節はどうも」

「貴女もこっちにいらっしゃい。そんなところに居ないで」

「私のことは構わないで。出る幕じゃないから」

「そんなことないって。ソフィア様に貴女の事も紹介しないと」

由美子の言葉にしぶしぶ従うシイル。顔には不満の色を滲ませてはいるが。

「その角……竜族?!」

ソフィアは驚きの視線を由美子に送る。

「ほら、シイル、挨拶は?」

「……言って置くけど、マスターに何かしたら、たとえ貴女が王女様でも許さないわ」

身体にオーラを纏い、ソフィアを挑発するシイル。

その迫力に、ソフィアはたじろいだ。

「全く、相変わらずなんだから。すみません」

「……竜族を従えているなんて、貴女は一体?!」

驚くソフィアにリディアが一言。

「あら、召喚士サモナーたるもの、竜族と対等に話ができるようになって、一人前よ」

「そういう貴女はどうなのよ」

「まあ、私にも色々あったのよ、昔」

「リディア、一つ聞いて良い?」

「何かしら?」

「シイルを、あの村に預けたのは、リディアなんだね?」

リディアの表情が少し変わった。

「気付いていたのね」

「なんとなく、だけど……あ、話したくないんなら別にいいよ」

「本人にはキチンと言っておいた方が良いわね」

そう言うと、リディアは真剣な眼差しで、シイルに向き直った。

「私、一時期、貴女のお母さんと旅をしていたの」

「教えて。私の故郷と――母の事を」

「貴女の本当の出身は、クオーツにある白の谷とばれる場所よ」

「白の谷?」

リディアが地図を広げた。

「場所は、此処よ。普通の人間には先ず辿り着けないわ」

その場所は、クオーツ王宮よりもさらに奥、一年中氷河で覆われた極寒の世界にあった。

「こんな奥のほうに棲んでるんですか」

「ええ。一族に貴女のことを頼まれて、あの村に預けたの――あなたが生まれた少し後だったかしら」

リディアは、一呼吸置いてからゆっくりと話し始めた。


竜族は、子どもを授かる前後、一切の力を発揮できなくなる。

母親は、シイルを産み落とした直後、運悪く人間の賊に襲われ、命を落としてしまった。

「“母は人間に殺された”そう聞かされていたけれど、本当だったのね」

表情を硬くして、俯くリディア。

「――ええ」

少し涙目にるシイル。由美子が優しく彼女を抱き締める。

「ごめんなさい。あなたのお母さんを守りきれなかったのは私のせいなの……」

「いいえ――貴女は悪くないわ。でも、人間はやっぱり好きになれない」

少し寂しそうな表情を見せるシイル。

「でも、私の本当の故郷には行ってみたい。マスター、連れて行っていただけますか?」

「もちろん。そうと判れば、旅の途中に寄らなくちゃね」

「ありがとうございます。わがままばかりですみません」

いいのよ、と由美子はシイルの頭をポンと叩く。

「ではますます行かなくてはならなくなりましたね、そのクオーツに」

ルビスが宝珠を見せた途端、ソフィアの顔色が変わる。

「ルビス……まさか、それはクオーツの?!」

「ええ。これで、二千年の争いに終止符が打てるかもしれません」

「争い事のスケールが違うわね」

「全くです。でも、何処でも争いというのはなくならないんですね」

周りの者の表情が暗くなる。だが、ルビスだけは笑顔でこう言い切った。

「全ての精霊が心を一つにすれば、世界を平和に導くことが必ず出来ると信じてますから」

ソフィアは少し呆れてはいたが。

「そんなに甘くは無いと思うけど……ま、良いわ、協力してあげる」

「ありがとうソフィア。恩に着ます」

「そのかわり、私の国の復興も手伝ってよね」

「ええ、もちろん……ところで、ウインズのはどうしたんですか?」

「国を追われてそれどころじゃなかったわ。今は……多分まだ王宮内にあるとは思うけれど」

「そうですね、それも探さないといけませんね」

「ルビス、私も手伝うよ」

「私も」

陽子と由美子の言葉に一瞬笑顔を見せるソフィア様。でも、すぐに厳しい表情に戻る。

「感謝するわ。でもね、これだけは覚えておいて」

二人にズイッと顔を近づけて、こう言い放つ。

「貴女達のことは、まだ認めたわけじゃないから」



>Reiko

私は、アイリさん、リュートさんを連れ立って、駅前の商店街に来ていた。

二人が、街を見学してみたいと言ったからだ。

「うわ……凄い高い建物……」

「そうですわね……それに、不思議なものが沢山ありますわ」

二人はものめずらしそうに辺りをきょろきょろ見回す。

「はぐれないで下さいね、お願いですから」

平日とはいえ、お昼時と言うこともあって、人通りは結構ある。

はぐれたら、再び会うのはかなり大変だろう。

「言われなくても判ってるって」

「そうですわ」

本当に判っているのだろうか?

「ねえレーコ、私、お腹空いちゃった」

「そうですわね、何か食べる所はありませんの?」

と言っても、この辺にはファーストフードはおろか、コンビニすらない。

他に何か無いか探していると、アイリさんが交差点の向こう側を指差した。

「ねえ、レーコ、あれ何?」

「あれは、クレープ屋さんですね」

丁度移動販売の車が、路肩に停まっている。

「何ですの? それは?」

「生クリームとフルーツを生地で包んであるデザートですね」

近くに寄ると、甘い良い香りが漂ってきた。

「へぇ~、美味しそうじゃない。ねえ、レーコ、食べていい?」

「私も宜しいですか?」

「いいですよ。えっと……すみません、チョコバナナ三つ頂けますか?」

クレープにも色々あるけど、私はこのチョコバナナ味が一番好きだ。

三人分のお金を支払い、二人に手渡す。

「はい、どうぞ」

「ありがと、レーコ。頂きます」

「頂きますわ」

一口かじる。バナナと生クリームの甘さが、ふわりと口の中に広がる。

「うわ……何これ、凄い甘い……」

「不思議な味ですわね。でも美味しいですわ」

「こういう味のものって、あまり食べたこと無いんだよね。美味しいは美味しいけど」

そういう割には、何か二人の反応がいまいちだ。

やっぱり精霊の好みというものがあるのだろうか。



クレープを食べ終わった私達。

そのまま駅の方向に向かい、アーケードの中を歩いてみる。

道の両側には色々な店が立ち並ぶ。

八百屋、薬屋、花屋、電気屋――etc

「色んな店がありますわね」

「うん、何かコランダムより賑わってるね」

二人は、物珍しそうにしながら、色々と私に質問をしてくる。

でも、普段は桐花さんが買物をしていたから、あまり細かい質問には答えられない。

私も少し、普通の人達の事も勉強しなきゃ。


少し歩くと、何処からか音楽が聞こえてきた。

「あれ? 何の音だろう?」

「何かの音楽ですわね……だれか演奏しているのではなくて?」

もちろん、そこには誰も居ない。

音楽ショップの店頭から今流行りのアーティストのヒット曲が流れていた。

二人は不思議そうに、音が出ている部分を眺める。

「一体どういうことですの?」

「そうだよ、説明して、レーコ」

「この世界には、音や声を記録できるものがあるんです」

「音を……」

「記録……するんですの?」

「ええ、それをこうして、いつでも自分の好きな時に聞くことができるんです」

「へぇ。便利なものがあるんだねぇ」

「本当ですわ。人間って、こんなものまで作ってしまうのですのね」

二人はとても感心した様子だった。


アーケードを抜けると、駅前のロータリーに出た。

突然けたたましい音が鳴る。

振り返ると、そこでは今まさに、警笛を鳴らしながら、急行列車が駅のホームを通過して行く所だった。

当然、それに反応する二人。

「ね、リュート、今の見た?」

「ええ、見ましたわ……何かとても長いものが通っていきましたけど……あれも乗り物ですの?」

私は頷く。

「ねえ、レーコ。私、あれ乗りたい」

言うと思った……

「今日はレーコさんの街を出来るだけ知りたいのです。この意味、お判りですわよね?」

半ば強引に納得させられ、駅に向かう。

二人共、私がお金払ってるからって……


「はい、これが切符です。いわゆる通行証ですから、失くさないで下さいね」

二人に券売機で買ったばかりの切符を渡す。

「私と同じようにして下さいね」

自動改札に切符を通す。同時に扉が開き、入れた切符が反対側から出てくる。

「へぇ、面白~い!! 人がいるわけじゃないんだね」

「こんな小さなもので、判別できるなんて、素晴らしいですわ」



『間もなく3番線に電車が参ります。白線の内側までお下がり下さい』

プラットホームに着くと、丁度電車が滑り込んでくるところだった。

「こんな2本の金属の上をどうやって走ってるんだろう?」

「アイリさん、あまり端によると、轢かれますよ」

物珍しげに線路を眺めている彼女を、ホームの中央まで引き戻す。

「レーコ、これに乗るの?」

「そうですよ」

自動ドアが開き、一斉に乗客がホームに溢れてくる。

それが終わると、ホームに居た人が一斉に車両に乗り込む。

その流れに圧倒されたのか、しばし呆然とする二人。

「ほら、何やってるんですか二人共。乗りますよ」

私の声ではっとしたのか、慌てて駆け込む。

間もなく扉が閉まり、ゆっくりと動き出した。

「わ……動いたぁ~。すごいすごーい」

アイリさんは一番前のガラスにへばり付いて、まるで子供みたいにはしゃいでいる。

周りの乗客が何事かとこちらを向いた。

突然、染めたような髪の二人組が入ってくれば、目立つだろう。

しかも話している言葉が、どこの国の言葉かも判らないとすれば、注目の的だ。

それに気付いたリュートさんが、注意をする。

「アイリ、みっともないですわ。皆が見ていますわよ」

「だって~。凄く楽しいんだもん」

「全く……これだからアイリは子供なんですわよ……」

「……何か言った、リュート?」

「いいえ、別に」

「……」


その後も私は、賑やかな二人に振り回されっぱなし。

いつもに増して疲れた一日だった……


>Naomi

鷹野さん達が向こうに戻った次の日、うちに知らない少女が尋ねてきた。

「やっほ、久し振り」

「え、えっと……どちら様……?」

久し振りって言われても、誰だか分からないし。

「ひどいよ、陽子……もしかして忘れちゃったの?」

何か、前もこういうことがあった気がする……

「姉さんなら今出かけてますけど。どなたですか?」

一瞬表情が固まる少女。が、直ぐに理解したらしい。

「え……ということは、貴女が直美さんか……確かにそっくりだわ」

「そうですけど……どうして私のこと、知ってるんですか?」

「あ、ごめんなさい。私、遠藤遥といいます。陽子の幼馴染です」

「あぁ、そうだったんですか」

最初の頃は、引っ越す前の友達とメールのやり取りをしていたみたい。

最近はあまりそういうのをしていなかったようだけど。

「ルビスさんって、知ってます?」

突然ルビスの名前が出て驚いた。

「え……遥さん、もしかして、ルビスの事知ってるの?」

「うん、前にちょっとお世話になって……あの人は此処には居ないの?」

「少し前まで居たんだけど、国に帰っちゃいました」

「そうなんですか……会いたかったな」

遥さんはちょっと寂しそうな表情を見せた。

「少し、上がって行って下さいよ。折角来てもらったわけですし」

「そうですね……折角だから……」

「ちょっと待ってて、今お茶持ってくるから」

「あ、お構いなく」

私が背を向けた、その時。

身体に鈍い衝撃。


「……!?」

一瞬、何が起きたのか判らなかった。

「……はるか……さん……?!」

「ごめんなさい。でも、貴女がいたのはラッキーだったかな」

そこには、さっきと全然違う目をした彼女が立っていて。

「……かはっ!」

喉の奥から熱いものがこみ上げてきた。床が真っ赤に染まる。

「どう、し、て?」

「ほんとに、ごめんね」

遥さんの少しさびしげな表情。私はそれに違和感を覚えていた。

そして2度目の衝撃。私の視界は、そのまま暗転して行った……


「ただいま……あれ?」

その僅か数分後。陽子が帰ってくるが、居るべき人の姿が無い。

「直美……? 出かけてるのかしら?」

キッチンに入ると、鉄さびのようなにおいが充満していた。

「な、何よ、これ?!」

ふと、テーブルの上に置手紙を見つける。

そこには、信じられない文が。

『ごめんね、陽子。直美さんは頂きました。 ハルカ』

「遥? 何かの間違いでしょ……?!」

真っ白な紙に真っ赤な字。所々かすれている。

そして、足元には床一面の赤。

「これ……血……? ま、さか……直美――」

陽子は頭の中が真っ白になった。

「何でよ……直美……今度は貴女なの……しかもよりによってこんな時に……」

そう、今はルビスも、由美子も、玲子も居ない。

頼れる相手は誰一人この世界には存在しない。

「あ、そうだ、携帯!!」

何かを思い付いたらしく、直美の携帯電話を探し当てた。

「あった! 和也さんの番号……これなら!」

祈る思いでリダイヤルを押す。少しの間の後、繋がる音がした。

「もしもし?」

「どうした、直美? お前からかけて来るなんて、珍しいな」

凄く優しい声。陽子の知らない、直美だけの和也がそこには居た。

「和也さんですね、ごめんなさい、陽子です」

「あ、あれ……なんだ、陽子さんか」

相手が陽子だと分かると、声のトーンが変わる。

(……やっぱり、直美には敵わないな)

「どうしました? 直美の携帯なんかで……何かあったんですか?」

「単刀直入に言います。直美が、攫われたの」

「な、なんだって?!」

「今、直美の部屋に居るんですけど」

「判った、すぐ行く。ちょっと待ってて下さい!」



続く


あとがき

「こんにちは、ルビスです」

「ソフィアです。何か、いきなり急展開になってます」

「mさんらしいですね。とにかく、ナオミが心配です」

「彼曰く、ここから話が思わぬ方向に行くらしいのだけれど……」

「実はね、ソフィア。ここにmさんがさっき忘れていった極秘資料があるんですけど」

「ちょっと、ルビス、そんなものがあるんなら、早く見せなさいよ」

「少し待って下さいね。ええと、今後の展開は……ごふっ」(撲殺音)


「ったく、油断も隙もありゃしないな、お前らは」

「あ……わ、私は見てないわよ」

「同じ事だろーが。読者の楽しみを減らすんじゃねぇ。タダでさえ読まれる回数減ってんだから」

「それはmさんが書くのが遅いからじゃな……」(すぱーん)

「やかましい」

「い、今のは叩かなくてもいいと思う……」(しくしく)


「さて、気を取り直しましょうか。次の回で第6部もおしまいです」

「今回はメインが話し合い中心で、あまりアクション的なことができなかった

だから次章は、そういうことを混ぜていくつもり。

あとは、今まであまり語られてこなかった精霊にも触れていこうと思ってる」

「なるほど」

「とか何とか言って。今までだってルビスの一族ですらあまり触れてなかったじゃないの」

「……そういえばそうですね」

「まあな」

「そこ、認めないの! 全く……私の一族もちゃんと説明してないじゃない!」

「説明する前に滅んだけどな」

「まだ滅んでなーいっ!!」

「その辺も含めて、次章でなるべく全部説明してやるから心配すんな」

「なるべくって……ホントかしら」

「怪しいですね」

「ああ、もちろん。このコーナーの後枠でやるから」

「(ハッ)そういえば、私たちが司会できるのも後一回しかないんじゃない!!」

「今頃気付いたか」

「ルビス! こんな男放っといて、先進めましょ!」

「でもソフィア、時間が」

「ああっ! しまったぁ!!」


「というわけで、次回もお楽しみに」

「ルビス! あんたまで抜け駆け?!」

「大丈夫ですよ、なんだかんだで出番ありますから私は。ねぇ」

「まあな。ソフィアは判らんが」

「むき~~!!」


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