第6部第3話
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その日、ルビスは各騎士団長達を会議室に集めていた。
第1騎士団のベルゼ=クライン。
第2騎士団のカルス=トライデント。
第3騎士団のジャスパー=サプリス。
そして近衛のスピカ=フェンネルの4名である。
「ルビス様、本日はどのようなお話ですか?」
「今日は、皆の意見が聞きたいので集まってもらいました」
すると、ルビスは何かが書かれたメモのようなものを取り出した。
「自分の素直な意見を述べて下さい。遠慮することはありません」
<<私、ルビスはこの国を導く資格があるか>>
この質問には、全員が驚いた。
「ルビス様、今更何をおっしゃいますか?」
「そうですよ、この国の王は貴女様以外、考えられません」
「果たして、そうでしょうか?」
ルビスは表情1つ変えない。
騎士達は、そんな彼女の様子に、困惑気味だ。
「では、訊きます。どうして未だに国交が回復できない国があるのですか?」
「それは……」
「また、交流ができない一族の方達がいるのですか?」
「ですが……」
「守堅派の方々があまり私に好意的ではないのはどうしてですか?」
『……』
騎士達は、何も話すことが出来ず、押し黙ってしまった。
「お母様や私では、不満がある、と言う事ではないのですか?」
「そんな事はありません。入隊以前からずっと憧れの存在でした」
カルスの発言に周りのものも同意する。
「そうですね、今でもここに居るのが信じられません」
「我々も同じ気持ちです。貴女様が居ないこの国など、考えられません」
彼らの言葉に、ルビスは少し口元を緩めた。
「ありがとう。でも、私自身、王でいることに不安はあります」
「ルビス様……」
「私よりももっとふさわしい方もきっと居ると思っています」
ルビスは、皆の目を見つめる。
「だからこそ、私に力を貸して欲しいのです。この国がもっとよくなるように」
ルビスの決意に、皆頷いた。
<<コランダム騎士団の現状について>>
スピカが先ず口を開いた。
「先ずはベルゼ、何か言うことは無いか?」
「はい……」
そう返事をし、席を立つ。
「この度、我が第1騎士団から追放者が発生したことについては、真に遺憾なことです」
ルビスに向かって頭を下げるベルゼ。
「ただ、今回の件は私の不在期間中に起きた事件で、食い止めることが出来ませんでした」
「他人事みたいに言うな! これはお前の責任なのだ!」
ジャスパーが少し声を荒げた。
「そうだ。お前が隊長に就任する前はこういったことは無かったのだぞ」
スピカもそれに同意する。
「こうして表に出ていなかっただけではないですか。以前に無かった、とは言い切れません」
「お前自身に問題があったとは言えないのか?」
「どういう意味です?」
ジャスパーの意見に、少し眉をひそめるベルゼ。
「お前が何か部下の反感を買うようなことをしたか、という事だ」
「どうしてそういう発想になるんです? 貴方見ていたんですか?」
「知らないから、こうやって訊いているのだ」
ベルゼは少し考える。
自分自身のことを省みたが、彼女には思い当たる節がなかった。
「いえ、私自身覚えがありませんが」
「では、何故こういう事件になったのだ? 普通ではありえないではないか」
「そうだな。お前に何か問題があったと思わざるをえないな」
「くっ……」
ベルゼは反論することが出来ない。
「そうですね。今までの話からすると、そう考えざるを得ませんね」
ルビスもジャスパーとスピカの意見に納得する。
「ル、ルビス様、私は――!!」
「待ちなさい、ベルゼ」
「は、はい……」
何か言おうとしたベルゼをルビスは手で制した。
「では……カルスはどう思いますか?」
「いえ、私は、管轄が違うため、よくは判りません」
「そうですか」
ルビスは残念そうに俯いた。
(このままでは騎士隊長を降ろされてしまうかもしれない)
ベルゼがそう覚悟した時だった。
「ただ、これは私が見たわけではなく、聞いた話なのですが……よろしいですか」
「構いません。何かあるのですね?」
「はい、実は今回の件の様な事が毎年行われていた、という話が」
「何だと。そんな話は聞いた事が無い。冗談も程ほど……」
「ジャスパー、話は最後まで聴きなさい」
ルビスが手で制する。
「さ、続けて」
「はい。第1騎士団では毎年、新入隊員をある儀式に招待します」
「儀式、ですか」
「その儀式とは、新人の実力を知るという名目で、十数名の兵士と戦わせるという物です」
「ちょっと待て、それは本当か?」
「私も、入隊した時に危うくそうなりかけたことがありましたので」
カルスは今でこそ第2騎士団の隊長だが、門番であった頃は第1騎士団に所属していた。
「実は、この話は私の耳にも入っていたのですが……」
一呼吸おいて、ルビスは続ける。
「確証が持てませんでしたから。でも、貴方の証言で、それも証明されましたね」
そう言うと、まだ椅子から立ち上がったままのベルゼに、ニッコリと微笑みかけた。
「ベルゼ、引き続き、第1騎士団を宜しくお願いしますね」
「は、はい、承知致しました!」
深々と頭を下げるベルゼ。
「皆も、何か問題があったら、遠慮なく私に言って下さい。出来るだけ力になります」
「疑って悪かった」
「いえ……これは自分自身が招いたことですので。気を引き締めます」
<<私の侍女である人間達について>>
「率直に聞きます。あの子達のことを不満に思っている人はいますか?」
ルビスの質問に、皆押し黙ってしまう。
その様子に、ルビスは少し困惑した笑みを浮かべた。
「ふふ、別にそれについて咎めたりしませんから。貴方達の本音が聞きたいのです」
カルスを除く全員の手が上がった。
「あら、スピカはまだ半信半疑みたいね?」
「彼らの実力はこの目で確かめましたので依存はないのですが……」
スピカは少しルビスから視線を逸らす。
「正直、今後のこの国のことが不安でならないのです。後継者の事もありますので」
「そうね、そろそろ他の3人にも話しておいた方がいいですね」
そう言うと、ルビスはおもむろに席を立つ。
「私は次の王位継承者は……あの子達の中から選ぼうと思っているの」
「……な」
ルビスの言葉に一同は言葉を失った。
「何ですって?! そ、そんな事が許されていいのですか?!」
「そんなことをされたら、血筋が途絶えてしまうではありませんか!」
皆が慌てふためく中、カルスだけは表情をあまり変えない。
「おい、カルス、お前は何も感じないのか?」
「後継者のことはよく判らないが、俺はあいつらに随分と世話になっているからな」
「そういえば、帰国した時、私が一番最初に声をかけたのは貴方でしたね、カルス」
「はい、あの時は槍を向けるなどという、大変な失礼を致しました」
頭を下げるカルス。
「いえ、構いません。あの状況では仕方ありませんから」
「どういうことだ、説明しろ、カルス」
ジャスパーが詰め寄る。
「あいつ等が、ルビス様を保護していたのは知っているな」
「ああ」
「その時、ルビス様を追っていた魔を退けたのは、あいつ等だそうだ」
「それは本当なのですか、ルビス様?」
スピカの問いに、頷くルビス。
「その時は、まだスピカはお父様と一緒に居て、居ませんでしたね」
「はい」
ルビスは、その時の様子を事細かに説明した。
自分の宝珠が反応して陽子に出会ったこと。
陽子の妹である直美に出会ったこと。
一番仲の良かった友達を失ったこと。
自分が魔力を失い、帰れなくなったこと。
由美子やシイル、玲子といった仲間に会えたこと。
「あの子達が居たから、私は今ここに居ます」
「本当に、彼らのことを信頼されているのですね」
「確かに、人間たちの中には、悪い考えを持っている人も居ます。
でも、全員がそうではありません。彼らも私たちと同じなのです。
もちろん、魔族たちも、自分たちの街があり、生活している。
ただ、考え方の違いで争いが起き、こういった現状になっているのはとても残念です」
ルビスの意見に皆頷く。
「この世界には100%の善も悪も居ないと思うんです。
実を言うと、私もノエルと遭う前は、魔族は全て悪、という考えを持っていたんです」
「ノエル、というのは……まさか、魔王ノエルでは!?」
ルビスはこくりと頷いた。
「ええ。彼女は、私の魔族で出来た初めてにして唯一の友人。そして、お母様の仇。
昔の私だったら絶対に許していなかったでしょう。
でも、私は彼女と友人になることが出来た。だから、あの子の気持ちが判るの」
ルビスは、ノエルに出会ったときからの出来事を、掻い摘んで話し始める。
騎士達は、皆真剣にルビスの話を聞いていた。
「それでは、ルビス様は、魔族共とも和平を結ぶおつもりですか?」
「ええ、そうね、いつかはそうなるといいですね。でも、まだまだ障害は沢山あるの。
もし、実現したとしても、心のどこかで恨みを持っていれば、結局駄目になってしまう。
ノエルは、本当はとても優しい方なんですよ。ただ、状況が最悪でしたね」
サファイアを殺したノエルは、もはや精霊達には許して貰えないだろう。
その事実がある以上は、和平の実現は不可能に近い。
「最後は何か私が一方的に話してしまいましたね。
ごめんなさい、貴方達の意見を聞くはずが、私の考えを皆に伝えただけでしたね。
この話をするのは今回が初めてなの、あまり外にもらさないで下さいね」
皆頷いた。
その時、トントン、と扉がノックされる。
「入るね、ルビス」
現れたのは陽子だった。
「魔法陣、準備できたよ――って、ぁ」
そこまで言って、室内の様子に気付き、言いよどむ。
「し、失礼しました。お申し付けの準備、整いました」
慌ててひざまずく陽子。
「大丈夫ですよ、ヨーコ。ご苦労様」
「ふん、今更遅いぞ。話はルビス様から伺っているからな」
「……なんだ、聞いてるんだ。良かった……って、良くはないか」
室内が笑いの渦に包まれた。
「こんな時間から何をされるのですか? もうお休みになられるのでは?」
深夜――おそらく日付はとうに変わっている時間だろう。
「ええ、この後、ある方達と会談を予定しているの」
「ある方達とは?」
「ヨーコ、教えてあげて」
「ルビス、言っちゃっていいの?」
「構いません、どうせ後でばれるんです。秘密にしておくことはないでしょう」
「それもそうだね。あのね、ルビスはこれから、ノエルと会うんだよ」
騎士4人の顔が瞬時にして青ざめた。
「ルビス様っ!? 危険です! お止め下さい!!」
「大丈夫ですよ、スピカ」
「し、しかし……またあのようなことになったら!」
ルビスは少し表情を暗くする。
「そうですね……また戦いになったら、おそらく、私の命の保障は無いでしょう」
「そ、そんな!」
「でも、彼女にしてみれば、あれはほんの挨拶のつもりだったのでしょう。
部下に、力を示したかったのだと思います。
正直、自分の力の無さを痛感しましたね。あれでもかなり手加減されていましたから」
みるみる、スピカの顔が不安な顔になる。
「そ、それでは、我々に勝つ術は無いのですか?!」
「そうですね。今のままでは、力の差がありすぎますね」
「でも、そんなじたばたしても、もう呼んじゃってるんだよね」
陽子の一言で、騎士達は完全に凍りついた。
「いつ頃到着なの?」
「もう来ると思うよ。いつものルートで」
「‘いつもの’だと?! どういうことですか、ルビス様!!」
スピカの言葉を無視して、ルビスはそれに答える。
「そうですね、じゃあ、ヨーコはそこで合流して、連れてきてください」
「了解」
「くれぐれも、他の精霊たちに見付からないように注意して下さいね」
「うん、判ってる。気を付けるよ」
「貴方達も、今日のことは他言無用にして下さい。頼みましたよ」
ルビスは、固まったままの騎士達にこう釘を刺す。
「じゃあ、私はこれから客人のおもてなしをしなくてはいけませんから」
それだけ言うと、陽子と一緒に部屋を出る。
その直後、ルビスは笑顔で振り返り、
「スピカ、戦うだけが、身を守る方法ではないのですよ」
パタン、と扉が閉まる。
「一体、我々の知らない所で、何が起こっているんだ?」
続く
あとがき
「さて、第6部も第3回目です。こんにちは、ルビスです」
「ソフィアです」
「前回の予告通り、会議の模様をお送りしたわけですけど」
「まさか、魔族と手を組むだなんて……」
「別に、手を組むなんて一言も言って無いじゃないですか。和平ですよ、わへい」
「同じことでしょ。しかも、よりにもよって魔王だなんて……」
「別に、彼女は根は悪い人じゃありませんから」
「……ま、いいけど。もしそうなったら、私達風の国は反対するからね!」
「そういえば、ソフィアって、どっちかというと守堅派寄りなんですよね」
「私をあんな堅物と一緒にしないで!」
「同じだと思いますけど」
「ぜんっぜん違うわよ! 私は、何考えてるか判らない奴が嫌いなだけ」
「……」
「ちょっと、何で泣いてんのよっ?!」
「私も……嫌い……?」
「別にルビスが嫌いなわけじゃない……って、ああもう何言ってるかな私……」
「ふふ、顔赤いよ、ソフィア」
「ウソ泣きか!」(スパーン)
「うえぇ……ソフィアがぶった~」(しくしく)
「全く、気、取り直していくわよ」
「今回は、私直属の部下、スピカとベルゼに来てもらいました」
「スピカ=フェンネルです。初めまして、ソフィア様」
「ベルゼ=クラインと申します。宜しくお願いします」
「こちらこそ。貴女達みたいな人が居ると、安心ね」
「そう言って頂けると光栄です」
「ルビスのお守りは大変でしょうけ……ぶ」(すぱーん)
「……怒りますよ」
「……ほんの冗談よ」
「……」(本当にこの二人で大丈夫なんだろうか)
「……」(不安ですね)
「ベルゼはこのコーナーは初めてでしたね」
「は、はい……」
「そんなに固くならなくてもいいわ。もっとリラックスして」
「そうよ、ほら、もっと肩の力を抜いて」
「……ああ……ぁ」
「お言葉ですが。そうやって二人で触れると、ますます萎縮するような気がするのですが」
「折角ですから、ベルゼに自己紹介してもらおうかしら」
「は、はい。ベルゼ=クラインと申します。
コランダム第1騎士団の隊長を勤めさせて頂いてます。
出身はアクアリウム、属性は水です。
まだ騎士としては未熟で、至らない点があると思いますが、宜しくお願いします」
「ベルゼは、リュートとは従妹の間柄ですね」
「はい、あの……迷惑をかけていないでしょうか?」
「ふふ、大丈夫。彼女は一生懸命やってますよ。もちろん、貴女もね」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても……ルビスが炎で私が風、二人が光と水……随分と色々揃えたものね」
「国際的で良いでしょ?」
「あのね、相反する水の人が此処に居るのはおかしいでしょ、普通」
「私の国は、民族とか関係ないですから」
「ま、本来はそうあるべきなんでしょうけど……反対してる人はいるんでしょ」
「そうね、残念ですけど」
「聞く所によりますと、不届き者達が、ルビス様の失脚を謀っているとか」
「スピカ、それ本当?」
「はい、ソフィア様。そのようです」
「ノエルたちの問題より、先に国内の方を片付けた方が良さそうですね」
「手はあるの?」
「少しは考えていますが、厳しいとは思います」
「私が必要なら、いつでも呼んでね」
「でも、これは私と私の国の問題ですから」
「何言ってるの。ウインズは同盟国なんだから、もっと頼っていいのよ、ルビス」
「ありがとう、ソフィア」
「ということで、今回は此処までね」
「次回はついにノエルと会談します」
「お願いだから、生きて帰ってきてよね」
「大げさねぇ、ソフィアは」