第6部第2話
>Naomi
鷹野さんに、屋敷の中を一通り案内された後、客間に通された。
「直美さん、折角ですので、夕飯食べて行かれます?」
「え……でも、悪いよ」
「構いませんよ、別に。それに、食事は皆で食べた方が美味しいですから」
そんな鷹野さんの勧めもあって、夕食まで待つことになった。
何かお手伝いしようと思ったんだけど、
『お客様ですから、ゆっくりしていて下さい』
って桐花さんに言われちゃ、何も出来ないし。
まあ、久し振りに会ったんだから、鷹野さんと二人で話をしたい気持ちは分かるけど。
先生も、何とか桐花さんを‘説得’出来たようでま、良かったのかな?
それにしても……
「う~ん、暇ぁ……」
思わずそんな言葉が出てしまう。
何もすることがないのも、結構嫌かも。
(あ、そうだ)
私はふと、ルビスに頼まれていたことを思い出し、携帯を取り出した。
『もしもし?』
「ユミちゃん、久し振り」
『ナオ! 帰ってきたんだ』
電話の向こうの声は相変わらず元気だ。
「うん、鷹野さんと先生も一緒だよ」
『今何処?』
「鷹野さんの家。夕飯をご馳走になる所なんだけど……ユミちゃんもどう?」
『今から? う~ん、ちょっとこの後用事があってさ。ごめんね』
「そっか……こっちこそ、急な話でごめん」
私は、向こうでの出来事を、事細かに話した。
ルビスがサファイア様の後を継いで王になったこと。
騎士団が再編成されたこと。
鷹野さんが騎士団に入隊したこと、など。
『へぇ~……色々あったんだね』
「うん、ところで、こっちは変わり無かった? シイルとメルは元気?」
『相変わらずだよ。メルはサファイア様の件でちょっと落ち込んでるみたいだけど』
ユミちゃんの声のトーンが少しだけ下がった気がした。
『でも、大分落ち着いてきたみたい』
「そっか……」
サファイア様の死は、メル達精霊にとってかなりショックだったろう。
種族が違う彼女でさえ悲しむ程だ。肉親であるルビスにとっては、相当な苦痛のはずだ。
ルビス、かなり無理してるのかも。
ちょっと空気が重くなってきたので、話を本題に入れることにした。
「ユミちゃん、明日は空いてる?」
『うん、空いてるけど……何で?』
あのね、ルビスがユミちゃんに頼みたいことがあるんだって。
『え、そうなの? 何?』
「私もよく判らないんだけど。明日、コランダムの王宮まで来て欲しいってさ」
『お城に?』
「うん。詳しくは明日、お城に残っている姉さんに聞いて欲しいんだけど」
『判った。一度ナオの家寄っていいかな? 久しぶりに顔見たいし』
「うん、いいよ。じゃ、また明日ね」
電話を切ろうとしたその時。
『和也さんにも会ってあげなよ? ずっと会ってないでしょ』
「え、ちょ、ちょっと、ユミちゃん!」
つー、つー、つー。
「……電話しよ」
>
「……大丈夫、ソフィア? ほら、手伝うわ」
「ありがとう」
リディアはソフィアに肩を貸し、ゆっくりと階段を下りる。
まだ体に力を入れると、痛みが走るようだ。
「あら、大分よくなったみたいね」
宿の女主人は、ソフィアの様子を見て、笑顔になる。
「ここに運ばれてきた時は、どうなるかと思ったけど、安心したわ」
「はい、おかげさまで。お世話になりました」
「あら、もう行くの? もっと休んでいけばいいのに」
「いえ、急ぎの用がありますので、私たちはこれで」
「そう……体に気をつけてね。まだ無理しちゃ駄目よ」
「はい、色々とありがとうございました」
街を出て直ぐ、リディアは異様な殺気に気づいた。
「な、何?!」
辺りを見渡す。
「どうしたの、リディア?」
「気を付けて……凄い殺気が伝わってくるの」
ソフィアの表情が険しいものに変わる。
「……追っ手のようね」
「追っ手?」
「最初に会ったとき、私が追われているのを話したわよね?」
ソフィアは、内乱で国を追われ、命からがら逃げ出した所をリディアに保護されていた。
「やはりずっと見張られていたようね。街を出る機会を狙っていたんだわ、きっと」
「どうするの?」
「どうするって……もう逃げられないわ」
風が舞う。その旋風の中から現れたのは……
「うふふ、見~つけた」
1人の少女だった。見た目リディアよりも年下に見える。
「お前は、サーリア!!」
「やっと追い付いたわよ、王女ソフィア」
サーリアと呼ばれた少女は、ソフィアの前に立ち、ニヤリと笑った。
「それにしても、王女たる者が人間なんかに頼るなんて、堕ちたものね」
「誰の所為でこうなったと思っている?!」
ソフィアが叫ぶ。それをはぐらかす様に肩をすくませる。
「さあて、ね?」
「とぼけるな! お父様を暗殺して、国の分裂を図ったのは貴様だろうが!」
「ふふ」
「き、貴様……っ」
明らかにサーリアの挑発に乗ってしまっているソフィア。
「落ち着いて、ソフィア! 相手のペースに巻き込まれちゃ駄目よ!」
今にも飛びかかろうとするソフィアを必死でなだめるリディア。
「大丈夫……判ってるわ」
ようやくソフィアが自分の置かれている状況に気付く。
それを見て、サーリアは、少し驚いたようだった。
「へぇ……どんな人間かと思ったら、なかなかのようね」
ソフィアは一歩前に出て、自分を落ち付かせるように、静かに訊く。
「お前は、お父様の側近という立場でありながら、何故裏切った?」
「そうなる運命だったのよ。これは」
「まさか、最初から……」
ソフィアは愕然とした。暗殺が初めから謀られていたとは。
「大丈夫、この国はもう直ぐ復興するわ。あの方の下でね」
「ふざけるな! ウインズの次期王はこの私だ!」
「確かに、あなたが生きていることが国民に知れれば、あなたが王になるでしょうね」
サーリアの体から凄まじいオーラが噴出する。
「でも……それは貴女というモノが存在していればの話」
「くっ」
その力に、ソフィアは一瞬たじろいだ。
「王女ソフィア、貴女を抹殺するッ!!」
それは魔力というより、殺気。
「……凄い、力……」
思わず呟くリディア。
「大丈夫よ。任せて」
そう言うと、ソフィアはサーリアに対峙する。
サーリアは右手を挙げて風魔法を発動させる。
だが、それはソフィアに届く手前でことごとく消されていく。
「うわ……」
リディアはあまりに高度なレベルの戦いに、ただ戦況を見守ることしか出来なかった。
「貴様は私と同じ風……私は殺せない」
「流石ね……でも、果たしてそうかしら?」
「何だと……?!」
サーリアは左手を掲げる。
そこに描かれた魔法陣は、ソフィアの知らないものだった。
慌てて体勢を立て直し、風による結界を作り出す。だが。
『アイスブラスト!』
「何ッ……うわあぁぁっ?!」
「ソフィアっ!!」
風の結界を突き破り、氷の刃がソフィアを襲う。
「くッ……何だ、今のは……何故お前が、氷の魔法を……」
「王が…あの方が教えてくださったのよ」
右手には風。左手には氷。
「まさか……二つの魔法を、同時に……ッ?!」
慌ててリディアは魔法結界を張った。
だが、圧倒的な魔力。敵うはずもない。
氷が風と混ざり合い、ブリザードが周囲に吹き荒れた!!
「きゃあぁぁ?!」
「うわぁぁ?!」
直撃を受け、2人は吹き飛ばされる。そのまま地面に叩きつけられた。
「……っく……げほッ」
咳き込み、口元から血が滴る。服がじんわりと朱色に染まっていく。
治りかけていた傷口が開いたようだ。
「ソフィア! こんなに血が!!」
「流石に……まずいわねッ」
「あっはははははっ! こんな貧弱な王なんかこの国には要らないわ! 死になさい!」
猛烈な吹雪が、再び二人を襲う。
「させない! フレアー!」
とっさにリディアが魔法を放つ!
氷と炎。二つの魔法がぶつかり合い、蒸発する。
「くっ……」
一瞬、サーリアの視界が塞がれる。
「今よ!! 早く森に!」
2人の目の前には、あの森の入り口が見えていた。
森には魔獣がいる。
いくら魔力が高いとはいえ、危険を冒してまで追っては来ないと考えての事だ。
「くそ! 逃がすか!」
再び氷が発射された。その標的は。
「危ない! ソフィア!」
リディアはとっさにソフィアを庇った。
「ぁぐ……かふ!!」
数本の氷の刃が、リディアの背中を貫いた!
「リディアっ?!」
慌ててソフィアが支える。
そのまま2人は、藪の中に消えていった。
「くそっ!」
サーリアは、地面を叩き、悔しさを露にする。
その時、1人の男が背後から近寄ってきた。
『どうやら逃がしたようだな』
「も、申し訳ありませんッ」
サーリアは男の正面に土下座した。
『構わん。どうせこの中は魔獣の巣窟だ。生きて出ては来れまい』
男は、じっと森の方を見る。
「どうかなされたのですか?」
その様子がサーリアには少し気になった。
『いや……なんでもない。少々出かけてくる。留守を頼むぞ』
「は、はい。行ってらっしゃいませ」
男はその言葉を聞き終るか終わらないかのうちに、虚空に消えた。
続く
あとがき
「こんにちは。ルビスです。お元気でしたか?」
「ソフィアです」
「それにしても、大変だったのね、ソフィア」
「まあね。正直、かなりきつかったわ。今ここに居るのは、この子のお陰よ」
「というわけで、本日のゲストです。どうぞ」
「ソフィア王女には、いつも世話を焼かされている、召喚士のリディアです」
「ちょっと、リディア?!」
「よろしくね、リディア」
「宜しくお願いします、ルビス様」
「私は無視?!」
「ソフィアとはいつも話してるじゃない。今日はルビス様に会いに来たんだから」
「はいはい、判ってるわよ」
「リディアは召喚士ということですけど」
「はい、そうです」
「では、他の種族と契約をしているということですね?」
「そうです。数名の契約者が居ます」
「言って置くけど、まだルシアの事を許した訳ではないわ」
「ソフィア……」
「話の流れからして、そのルシアというのは、貴女の契約者ですね?」
「はい、ソフィア王女と同じ、風の精霊です」
「なるほど、それで……」
「国の復興が終わったら、返して貰うわ」
「別に無理強い連れている訳ではないんだけど……」
「ルシアは、風の国にとって必要な存在よ。あの子の為にもなると思うし」
「確かに、そうかも知れない。でも、ルシアは、自分の意思で……」
「知らない間に心を支配されているかもしれないじゃない。そんな契約、許さないわ」
「ちょっと、そんな事ない! 何も知らないのに、そんな事言わないで!」
「ほら、二人とも落ち着いて。ここは本編じゃないんですから」
「……」
「……」
「私もね、知り合いに1人、召喚士の少女が居るの。もちろん人間のね」
「え……」
「ルビス様……それは、本当ですか?」
「ええ、貴女に似て、とっても真っ直ぐな瞳をしたいい子ですよ」
「そうですか……会ってみたいですね、その人に」
(……ルビス様があの子と知り合いの訳……無いか)
「直ぐ会えると思いますよ」
「ルビスってそういうの平気なのよね。前回の人間達もそうだったし」
「ソフィアの人間嫌いも、相変わらずね……そんなに変わらないわよ、私たちと」
「確かに、良い人だって居る。ただ、それ以上に私欲にまみれた奴が多いのよ」
「でも、決め付けは駄目。最初から拒否したら、お互いに嫌でしょう?」
「やっぱり、あんたの心は一生理解出来ないわ」
「さて、次回はコランダムの会議の模様をノーカットでお送りいたします」
「こういった試みは、この作品では初なのね。少し興味があるわ」
「一応、私の考えを少し話してますので」
「ソフィアは少し聞いた方がいいんじゃない?ルビス様の話」
「そうね、どうせまたろくでもないこと言い出すんだろうけど」
「ソフィア、私を友達だと思ってないでしょう……」
「何言ってんの、こういう失礼な事が言えなきゃ、友達じゃないでしょ」
「失礼だっていうのは判ってるのね……」