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精霊の扉第6部第1話

コランダムの王宮――

「ねぇ、リュート、レーコ見なかった?」

「さあ、見かけませんでしたわ」

「折角学校で一緒に自主トレしようと思ってたのに」

アイリとリュートの二人は、朝から玲子の姿が見えないことに、疑問を抱いていた。


「アイリ、あれってヨーコさんじゃありませんこと?」

通路の奥から陽子が歩いてくる。

「ヨーコさんなら知っているのではなくて?」

「うん、そうだね、聞いてみよっか」


「あら、おはよう、二人共」

陽子は二人の姿を見つけると、声をかけてきた。

「おはようございます、ヨーコさん。ちょっとお尋ねしたいのですが」

「何?」

「レーコの行方、知りませんか? 何処にも居なくって」

「ああ、鷹野さんならついさっき出かけたわ」

「何処に行かれたんですの?」

そうリュートが尋ねると、陽子は少し不思議そうな顔をした。

「あれ、聞いてなかったんだ。実家に帰ったみたいよ」

『えぇ~』

「リヴァノールが始まるまでの間、家族と過ごしたいらしいわ」

玲子は由希、直美と共に既に家路についていた。

「そういえばあの魔族も見なかったなぁ……レーコのお姉さんだよね」

「しばらく国に帰ってなかったから、久し振りに戻りたかったんじゃないかしら」

「いいなぁ。私もレーコの街見たかったなぁ」

「帰ってきたらただじゃおきませんわ」

そんな二人の様子を笑いながらなだめる陽子。

「ふふ、大丈夫よ。そのうちルビスに呼ばれると思うから」

「ルビス様に?」

「一体どういうことですの?」

「それは後のお楽しみ」

アイリとリュートはお互いに顔を見合わせた。

「あ、それから、後でお客が来ることになってるの。二人にも紹介するわ」

「お客、ですか?」

「ええ。鷹野さんの友人よ。もちろん、私も、だけどね」

『??』


>Reiko

「……のさん……たかのさん」

誰かが呼んでいる声で目が覚めた。

目の焦点が合わない。

(ここは……外?)

辺りを見回す。私は大きな公園の真ん中に倒れていた。

「あ、気が付いたみたいね」

私の顔を覗きこむ、直美さんとお姉様、2人の顔があった。

「大丈夫玲子? 少し休んでいく?」

「お姉様すみません、平気です」

直美さんによると、どうやらここは家からそう遠くない公園らしい。

辺りが真っ暗だからよく判らないけれど。

久し振りに実家に戻ることにした私は、移動魔法で一瞬のうちに世界を移動していた。

私はそのショックで気を失ってしまったらしい。

「着いたんですね」

「どう? 久し振りの日本は?」

「何か、まだ夢を見ているようです」

「そうだよね。ついさっきまで精霊の国に居ただなんて、誰も信じないもん」

「黙って出てきちゃって良かったんでしょうか?」

「あ、あの2人のこと?」

あの2人、と言うのは、精霊界の学校で友達になったアイリさんとリュートさんのことだ。

「心配しなくても、後で来るらしいよ。ルビスがそう言ってたから」

「そうですか……」

私個人としては、向こうの人を連れて来たくはない。

「でも、カルチャーショック受けそうね。大丈夫かしら」

「それは同感です。文化があまりにも違い過ぎますから」

「まあ、そこら辺はルビスが話すでしょ。大丈夫よ。多分、だけどね……」

不安だ……

「あ、家に電話しなきゃ。直美さん、携帯借りていいですか?」

「はい、いいよ」

「ありがとうございます。ええと……」

電話掛けるの、何時以来だろう。桐花さん、元気かな?

『はい、鷹野です』

「もしもし? 桐花さんですか?」

『お、お嬢様……ですか?! 一体、今までどちらに!』

やっぱり驚いているらしい。少し声が震えている。

「詳しくは家の方で。今から友達連れて向かいますので」


約半年振りの自分の家――

変わってしまった事と言えば、お父様がもう居ない事位。

別に、気になどしていなかったけど、桐花さん1人という事を考えたら、少し心が痛んだ。

玄関の扉。外からは特に変わった様子には見えない。

だけど、油断は出来ない。あの子が来ているのだから。

「ちょっと戸口から離れててもらえますか?」

「え、どういうこと?」

「すぐに判りますよ」

そう言って私は玄関の戸を開ける。厄災はやっぱりそこに居た。

「おねぇさまぁぁ!!会いたかったですぅ!!」

予想していていた私は、体を素早く後ろに引いた。

どしゃぁぁぁ

「ひゃぁぁぁっ?!」

予想通り、玲奈ちゃんがダイブしてきた。そのまま地面に顔から滑り込む。

「うう……ヒドいですよ、おねぇさま……」

「玲奈ちゃんのタックル何度も受けてたら身が持ちませんからね。

「誰……?」

「私の従妹の玲奈ちゃんですよ。さ、この子なんか放っといて行きましょ」

「しくしくしく」


戸口をくぐると、玄関先に桐花さんが立っていた。

「ただいま、桐花さん」

桐花さんはみるみる涙ぐんだ。

「お嬢様、よくご無事で……ぇ?」

私の後ろのお姉様を見た途端、表情が一変した。

「……お久し振り、です」

「あ、あなたは……!!」

どうやら桐花さんは、お姉様に会った事があるようだ。

私の後ろでは、直美さんとお姉様がなにやら話しこんでいる。

「先生、どうしよう。私すっかり忘れてた……」

「水口さん、私に任せてもらえる?」

「それはいいですけど……あまり手荒なことはしないで下さいね」

手荒なこと? 何をするんだろう?

そう思った時、直美さんから声を掛けられ、思考が止まった。

「ねえ、鷹野さん、家の中、案内して欲しいんだけど、良いかな?」

「あ、はい。構いませんよ。玲奈さん、お茶の用意お願いね」

「はい、お姉様」

私達は桐花さんとお姉様をその場に残し、リビングに向かった。


夜――

ひっそりと静まり返った王宮内。

その中に、一つの動く影。

眞奈美は今日も、コランダムの敷地内に侵入していた。

「何か今日は……」

(ああ、変だな)

彼女以外の気配が感じられない。まるで無人である。

「警備が薄すぎるというか……誰も居ないのはおかしいわね。何かあったのかしら」

(マナ、気を付けろよ、罠かも知れねぇぞ)

「判ってる……きゃぁぁ?!」

ばさあぁぁぁぁっ

上から巨大な網が覆いかぶさってきた。

そのまま絡め取られ、宙ぶらりんの状態にされてしまう。

「な、何よこれっ?!」

もがけばもがくほど、網は眞奈美の体に絡まる。

「あはははっ! 捕獲成功♪」

視線の下には、大笑いしている陽子の姿が。

「何するんですか、樋口さん!!」

「何するって、忍び込んだのはどっち? 正当防衛でしょ」

「それはそうですけど、捕まえるにしても、もうちょっとやり方ってものが!」

「あのね……私だから良かったけど、違う人なら、どうするつもりだったの?」

陽子が言っているのは正論だ。

守堅派の幹部に見付かれば、下手をすると命を落としかねない。

「ま、本来は即座にルビスのとこに連れて行くところだけど、考えてあげてもいいわ」

「……見逃してくれるっていうことですか?」

(おい、マナ!!)

「ただし、条件付きでね」

(マナ、止めておけ!何をするかわかんねぇぞ!)

影から聞こえてくる声を無視して、眞奈美は少し考える。

眞奈美は、陽子を信頼している訳ではない。

だが、ここで断れば、間違いなく再び鉄格子行きだろう。

「……どんな条件ですか?」

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「頼みたいこと、ですか?」

「うん、もう一回、ノエルに来てもらいたいんだ」

眞奈美の表情が一瞬にして凍りつく。

「ノエル様に、何する気ですかっ?!」

「そんな警戒しなくてもいいって」

「何を始めるんですか……?」

眞奈美の問いを無視する形で陽子は続けた。

「幹部の人達も、連れてきてほしいの。勿論、秋本さんにもね」

「私も?」

「明日、また来てよ。いい返事、期待してるから」

そう言って、陽子は建物の中に消えた。



「――そうですか、ヨーコがそんなことを」

眞奈美は魔域に戻ると、すぐにノエルに報告をした。

周りには、ラウル、ナーベル、フェージュ、ローリエの幹部達も集まっていた。

「ノエル様、罠ですよ! 私は反対です!」

「おそらく、この間の仕返しをするつもりなのだろう」

幹部たちは当然のごとく反対をした。

だが、ノエルはそれをきっぱりと否定した。

「いえ、それは無いわ。卑怯なことをする人ではありませんから。ただ」

ただし、問題は、何をするか、ということだ。

幹部を連れて来い、ということは、お互いの国にとって重大なことが行われるということ。

それに、魔族をわざわざ自分たちの国に呼び寄せるほどだ。

いくら寛容な国とはいえ、周りの国に与える影響は少なからずあるだろう。

それだけに、相当な覚悟が向こうにはあるということ。

「行きましょう。向こうがその気なら私達も覚悟を決める必要があります」

ノエルは決断した。

「さて、そうと決まれば、早速準備しなくっちゃ。 どれ着て行こうかな?」

「の、ノエル様?」

そのままクローゼットを開けるノエル。

「あ、このワンピース可愛い……でも、こっちも捨てがたいし……う~ん」

スイッチが切り替わったように、魔王から一人の少女に戻る。

そのあまりの豹変振りに、ただ立ち尽くすのみの幹部達であった。

「ねえラウル、どれがいいと思う?」

「……どれもお似合いですよ」


桐花は、由希と衝撃的な再開をしていた。

玲子の父親を殺した女が、今目の前に居る。

「久し振りね。もう会うことは無いと思っていたけれど」

ごりっ

「は?」

いきなり、由希の額に硬いものが押し付けられる。

「旦那様の仇! 覚悟っ!!」

パァン

銃の引き金が引かれ、弾が頭部を貫通した!

「かはッ」

パン、パンパンッ

立て続けに数発。由希の体が蜂の巣になっていく。

力が抜け、前のめりに倒れこむ由希。だが。

「嘘……?!」

ゆっくりと体を起こす由希。その顔には笑みさえ浮かべている。

「流石に……これは効いたわね……でも、残念だったわね」

由希の髪が紫に染まり、額の魔眼が開かれる。

その紅い瞳に睨まれ、桐花は身動きができなくなっていた。

「ひぃっ……ば、化け物ッ?!」

「そう呼んで貰って結構。私は人間じゃないの。拳銃の弾は効かない体なのよ」

またも数発。由希の身体は血みどろだったが、表情ひとつ変わらない。

そして、拳銃が弾切れになった所で、ゆっくりと桐花に近付く由希。

「い、嫌ぁ!! 来ないで! お嬢様ぁ!!」

武器を失った桐花。腕力では当然抵抗できる筈もなく、あっさり床に押さえ付けられる。

「どんなに泣き叫んでも、無駄。結界を張ったから外には聞こえないわ」


ごとり。

桐花の腕が下がり、力の抜けた手から銃が床に転げ落ちる。

もはや桐花には抵抗する気力も残っていない。


「それに、貴女だって、あの男が死んで、満更じゃなかったでしょう?」

「わ、私は……いえ、残されたお嬢様はどうするんですか!」

明らかに動揺した受け答え。

「そんな無理をしなくてもいいわよ。それに、私、知っているのよ」

「な、何を知っていると言うの?!」

「毎晩よくもまぁ……あの男の相手するの、大変だったでしょ?」

由希は桐花のスカートの中に手を滑り込ませる。

「ぁ……?! い、嫌ぁ!」

「あ、それとも、気持ち良かったかしら?」

「やめてぇ!!」

最後は悲痛な叫び声になっていた。

「ふふふ……人の不幸って、何でこんなに楽しいのかしら」

と、由希の目に床に転がった拳銃が目に入った。

「よくもまあ、こんな物騒なモノ手に入れたわね。裏ルートでもあるのかしら?」

由希は、自分の右手に魔力を込め、軽く握るような動作をする。

「かは……ッぁ!!」

桐花の体がビクッと震えた。

由希は、対象の物に触れなくても、自由にそれを動かすことが出来る。

それは、他人の身体であっても例外ではない。

「うふふふ……私の手が体の中に入ってくる感覚はどうかしら?」

「あ……ぁ、い、嫌……あ、ぁ……かはッ」

ある場所に来た所で、再び桐花の身体が反る。そこは……

「ふふ。あなたの心臓、みーつけた♪」

手を握ったり開いたりするたび、桐花の口から嗚咽が漏れる。

「このまま握りつぶしちゃおうかしら?」

桐花の顔が恐怖で歪む。

「嫌あぁぁぁっ!」

身体を強張らせる桐花。死を覚悟した瞬間、ふっと戒めが解かれる。

「ふふ。冗談よ。そこまでする気はないわ」

「あ……ぇ?」

「それに、そんな事したら玲子が許してくれないしね」

桐花の強ばっていた体から、ふうっ、と力が抜ける。

「あ。でも、結構身体にダメージ与えちゃったから……一年位寿命縮んだかしらね」

みるみる、桐花の顔が怒りに変わる。

「でも、正当防衛よね……って、うわ、ちょっと、やめ……いたたたたっ!!」

「こ、この鬼! 悪魔ぁ!!」




「それにしても、勿体無いわね。こんな大きな家に貴女一人じゃ」

「……誰のせいよ」

「そうでした。でも、後悔はしてないわ」

「それで、いつまで家に居座るつもり?」

「玲子が戻るまでよ。3日位かしら」

「戻る……また、居なくなるのね」

由希の言葉に、ショックを受ける桐花。

自分の知らない場所に、知らない間に行ってしまった玲子。

桐花は、玲子との距離を感じられずにはいられなかった。

「……貴女、知っているんでしょう? お嬢様が今までどこに居たのか」

「知りたい?」

「ええ。保護者として当然の権利だと思うの」

「知ったら、貴女も引き返せなくなるわ。それでもいいの?」

「構わない。もう置いていかれるのはごめんなの」

桐花の意志は固い。

「判ったわ」

そう言うと、由希は、桐花に今まで経緯を話し始めた。

「全ては玲子の留学中に起こった事。運命の悪戯ね……」


続く


あとがき


「皆様、初めまして。ウインズ皇国第一王位継承者、ソフィア=シトラス=ウインズですわ」

「誰よ、アンタ」

「非道いですわ、ルビス様。私のことをお忘れになられたのですかっ?」

「キャラが違うでしょ、ソフィア」

「いいじゃない、ルビス……私だってたまには上品に……」(しくしく)

「ソフィアはほっといて。さて、今回より私ルビスが司会をしたいと思います。

第1部以来の司会となりますが皆様宜しくお願いします」

「ウインズのソフィアです。宜しくね」

「ソフィア、まだ生きてたのね」

「聞き方によっては生きていたのが嫌みたいに聞こえるわよ」

「あのね、そんな訳ないでしょ。判ってるくせにぃ」

「ま、ね」

「でも、ほんと、また会えて嬉しいわ」

「まあ、本編ではまだ会えていないんだけど、ここに出てこれたということは」

「そうなんでしょ。まあ、mさんの事だから簡単には会わせて貰えないと思うけど」

「案外すぐに会えたりしてね」

「う~ん……でも、絶対一波乱ありそうな予感がするのよねぇ」

「そんなものなの?」

「ま、直ぐに判るわよ。嫌でもね」

「・・・・・・?」


「さて、6部第1回目のゲストは、この方達です」

「こんにちは。鷹野玲子です。そして」

「皆様初めまして。片品桐花と申します」

「こんにちは、レーコ、トーカ」

「あの……本当に、人間ではないのですか?」

「桐花さん、まだ疑ってるんですね」

「ご、ごめんなさい。でも、にわかには信じられなくて……」

「そうでしょうね。でも、すぐに慣れると思いますよ」


「さて、折角ですので、トーカの詳しいプロフィールを聞きたいのですけど」


「はい、片品桐花、21歳です。

私は3つの時に両親を亡くし、施設で過ごしていました。

8つの時、玲子お嬢様のお母様に拾って頂き、本当の子供のように育てて頂きました。

大きくなって、何かそのお礼がしたいと思い、お屋敷に雇って頂きました。

ここを出ても、帰る所もありませんでしたし。

お屋敷では、家事全般を任せられておりました。

今では、玲子お嬢様の身の回りのお世話をさせて頂いております」


「桐花さんも、ご両親を亡くされているんですね」

「この作品に出てくる方々って、恵まれている境遇の方って少ないですね」

「そうですね、mさんの趣味でしょうか」

「趣味言うな!」

「わ、mさん!」

「突然現れないで下さいよぅ」

「ストーリーを盛り上げるための工夫じゃないか。文句を言うな」

「あのねぇ……」

「ねえルビス、この人って、いつもこうなの?」

「……」(頷き)


「さて、早いですがそろそろお時間となりました」

「桐花さん、いかがでしたか?」

「今後のことが少し不安になりました。彼の所為で」

「俺かい」

「まあ、mさんのことはひとまず置いておいて、また来て下さいね、トーカ」

「はい、また是非呼んで下さい」


「さて、それではこの辺でお別れです。お相手は炎の精霊ルビスと」

「風の精霊ソフィアと」

「ゲストのレーコ、トーカの4人でお送りしました」

「それではまた次回~」



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