サモンマスター第19話
メルフェアを出てから2週間。
大小の街を経由して、目的の森に着いた……はいいんだけど。
私は今、途方にくれていた。
「来なきゃよかった……」
ついそんな言葉を呟いてしまう。
あれだけ忠告されたのに、見事に樹海にはまり込んでしまった。
召喚でシロを呼ぼうとしたけど、上手くいかない。
多分、竜達の張り巡らされた結界で防がれてしまっているんだろう。
でも、此処で諦めたら駄目。直ぐ目の前に竜の棲みかあるんだから。
「でも、お腹すいたなぁ……」
朝から何も食べてない……もう日が暮れるし……
夜は魔獣が動き出すって、メリーが言っていた気がする。
下手に動きまわらず、朝まで待ったほうがいいのかもしれない。
少しでも体力を温存しないと。
私は、近くにあった樹にもたれかかって、そのまま目を閉じた。
どの位経っただろうか。しばらくして、どこからか声が聞こえてきた。
「見ろよ。あんな所に行き倒れが」
あれ、何だろう? 人の気配がする……
「人間のようね。どうやってここまで入り込んだのかしら」
「さあな」
まさか……空腹で幻影でも見え出したかな? こりゃ、本格的にヤバイかも。
「衰弱はしているようだが……まだ息があるな」
「そのようね。どうする?」
「どうするってお前。決まってるだろうが」
「仕方ないわねぇ」
「お前ってほんとに面倒臭がりだよな……」
そこまで聞いた所で、私の意識は無くなった。
>
「お、目が覚めたな。大丈夫か?」
気が付いたら、大きなふかふかしたベットの中だった。
私の顔を一人の男性が覗き込んでいた。
「森の中で倒れてたんだ、驚いたぞ」
「あなたが運んでくれたの? ありがとう」
「ん、まぁな」
何か顔を赤らめてる。照れてるのかな?
「――それより、どうしてあんな所に居たんだ? はぐれたのか?」
「道に迷っちゃって……」
「ここは鬱蒼としているから方向を見失いやすい。気を付ける事だ」
その時私は、彼の気配が人と違うことに気が付いた。
やっぱりリディアと過ごした2年は無駄じゃなかった。
「ねえ、ちょっと聞きたい……というか、確認したいことがあるんだけど」
「何だ。言ってみろ」
「ここは、竜たちの村よね?」
途端に表情が変わる男性。
「お、お前、まさか……魔道士か!」
「やっぱり、そうなんだ」
彼はあっさりと竜であることを認めた。
「ああ、しかし驚いたな……こうもあっさり見破るとは……」
「何か違う感じがしたの。人間でもないし、精霊でもないし」
「まあいい、長老には黙っておくさ。ばれないうちに早くここから去った方がいい」
「どうして?」
「ここでは、他民族はあまりいい顔はされないのさ。特に人間はな」
「ふうん……」
やっぱり何処に行っても人間は嫌われ者みたいだ。
と、突然男性が扉の方を向く。
「……もういい加減入ってきたらどうだ」
「あら、さすが。ばれてたのね」
戸の外側から声がする。戸が開いて現れたのは、真っ赤な髪が眩しい綺麗な女の人だった。
「盗み聞きとはいい趣味とはいえないぞ」
「たまたまよ、たまたま」
「嘘をつけ」
「……あんたが間違いを起こさないとも限らないじゃない」
「おまえなぁ」
「ところで、あなた」
女性が私に向ける視線は、鋭いものだった。
「なに?」
「私が聞いたからには直ぐに帰す訳にはいかないわ」
「どういう事?」
「やれやれ。一番厄介な相手に聞かれたものだな。こいつは長老の孫娘だ」
男性はガックリとうなだれる。
彼はあまり事を大きくしたくはなかったのだろう。
「とりあえず、御爺様の所に来て貰うわ。話はそれからよ」
ぐきゅるるるる
返事の代わりにおなかが鳴った。
大爆笑。
「な、何よぅ、二人共、そんな笑わなくても良いでしょ!」
「判った判った、たらふく食わせてやるよ」
>
村の長は、齢1000を超える巨大な竜だった。
「――我々も舐められたものだな。人間と契約など出来るはずが無いであろう」
鋭い眼光が私に向けられる。
「それも貴様のような小娘になど、誰が従うというのか」
「別に、貴方達を従えるなんて一言も……」
「同じことだ。我々の結束を打ち破るつもりなら、我々に勝利してみることだな」
どうやら、選択肢は無いらしい。私は覚悟を決めた。
「勝ったら教えてくれるわね」
「……検討しよう。我々に勝つことは不可能だと思うがな」
その表情から何かを読み取ることはできないけど、私は、竜がニヤリと笑ったような気がした。
さっきの赤毛の女の人が私の前に立ちはだかる。
戦いを始める前に、私は一つ提案をした。
「ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
「何だ。言ってみろ」
「どう見たって、この勝負、私にとって不利よね」
「当たり前だ。何故我々が不利にならなければならん」
「お孫さんが、竜に変身しないってのはどう?」
「何だと?」
「そうすればいい勝負になると思うんだけど、どうかしら」
長は考え込んだ。
私は、ここぞとばかりにたたみかけた。
「それとも、変身しなきゃ、勝つ自信ないとか?」
「し、失礼ね、アンタみたいな小娘に、負ける筈が!」
「お孫さんはこう言ってるんだけど……いかがです、長老」
「ふむ。まあいいだろう」
「お、おじい様?! あ、あんな小娘の要求を呑まれるのですか?」
「我々の力を見せ付けてやれ、リーン。ただし、負けたら、判っているな?」
リーンと呼ばれた女性は、少し表情を固くした。
「は、はい……一族の掟に従います」
掟……一体負けたら何があるんだろう?
>
グオォォォッ!!
強烈な炎が私の横を掠める。
「ッ!!」
さっきから防戦一方。
全然勝負にならない。力の差がありすぎる。やっぱり一人で踏み込んだのは無謀だったか……
炎の魔法が次々と発射され、私を取り囲む。駄目だ、突破口が見付からない!
私は強烈な一撃をモロに身体に受け、あっさりと地面に叩きつけられた。
「――かはっ」
全身を強く打って、肺から空気が吐き出される。息が出来ない。
「威勢がいいわりには、この程度なの?」
「……っ!」
ゆっくりと私に向かって歩みを進める。
視界が霞む。でも、こんな所で負けられない!!
「フレアー!!」
「何ッ! きゃあぁあっ?!」
私のの魔法が女の身体を焼き焦がす。普通の人間ならこれで勝負有りなんだけど……
「な、生意気ね! 人間の癖に!」
やっぱり竜にはあまり効いていないっぽい。
むしろ何か逆効果だったかも……
「よくも私の肌に傷を付けてくれたわね!! 殺してやるっ!!」
突如、女の姿が掻き消え、代わりに巨大な竜の姿が!
『オオオォォォォォッ!!!』
「な! ちょっと、約束が違うじゃない!!」
「生きてこの村から出られると思ったら大間違いだ。やれ!」
(駄目……避けられない!!)
次の瞬間、鋭く長い爪が私の腹部を貫いた!
ぶしゃああぁぁっ
身体から血が勢いよく抜けて行くのが判った。
そのまま仰向けに倒れ込んだ。
倒れると同時に、ぬるりとした生温い感触が全身に伝わる。
(これ……全部私の血なんだ……)
視界が霞んでいく。もう指一本すら動かせない。
駄目……気が遠くなってきた……
身体の力が抜けていく。
――私、死んじゃうんだ……
死後の世界ってどんなんだろう。
私は空の上の天国に行けるのかな。
地獄だとちょっとヤだな。
そう思って、ふと上を見上げる。
巨大な竜の姿が、すぐ目の前に。その向こうには、真っ青な空。
空? もしかして、村の上空って――
「まだ……終わってなんか無い!」
私は気力で這い起きた。
身体に力を入れるたび、傷口から血が溢れ出す。
「あら、まだ立てるの。随分としぶといわね」
「こんな所で……死んでたまるか!!」
「悪あがきを。最後は苦しまないように一瞬で消し炭にしてあげるわ」
竜族の必殺技。ドラゴンブレス。
そのブレスが放出される直前、私は魔法陣を完成させた。
私の周りから光が溢れ出す。
「な、まだそんな力が!?」
「出でよ! 氷の魔獣、フェンリル!!」
続く