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サモンマスター第15話

私はその後、フェンリルに襲われて怪我をした男性がいると言う部屋に向かった。


実際、怪我の程度は酷いものだった。

とりあえず、リディア秘伝の痛み止めを渡しておく。

こういう、女子からのさりげないプレゼントが、男の人には結構効果がある。

少しでも心を開いてもらって、色々喋って貰わないといけないし。


え? 女はこれだから怖い?

嫌ダナァ、何言ッテルノ? あはははー。



「――じゃあ、襲ってきたのが何かすらも、フェンリルかどうかも判らないのね?」

「ああ、実際俺は姿は見てるわけじゃないからな」

彼は、仲間の何人かと依頼を受けていたのだが、テントを張った後、一人で食材探しに出かけた直後だったようだ。

突然、前触れもなく後ろから襲われたらしい。

一番最悪なシナリオを考えていたけど、どうやら悪い予感が当たったのかもしれない。


「となると、フェンリルじゃない可能性が高いわね、獣ですらないのかも」

「おいおい、それじゃあ、俺を襲った奴は何なんだ? まさか――」

「実際、貴方、持ち物全部無くしちゃったんでしょ? だったらそれが一番可能性としては大きいわね」

仲間が救出に向かったときには、すでに、何もかも持ち去られた後だったらしい。

物取りにしては手が込んでいるけど……いったい何を考えているのやら。

男性は、顔面蒼白といった感じだ。事実を突きつけられてショックなんだろう。

「まだ、決まったわけじゃないけど……もし、フェンリルだったら怪我をする前に凍り付いていたはずだし」

「それもそれで恐ろしいが……とにかく、俺は嵌められた訳だな?」

「多分、としか言えないけどね。貴方はこれからどうするの?」

「仲間とはさっき別れた。実際、俺は使い物にならねぇから足手まといだしな。これからは、まだ考えてないな」

「そう……」


「しかし、魔道士ソーサラーか。若いのに大したもんだな」

「こういうことする様になったのは、結構最近のことなんだけどね」

「そうなのか? とてもそんな風には見えないが……よほど優秀なんだろうな」

男性の賛辞がなんかこそばゆい。

あんまり面と向かって褒められたことないから、なんか恥ずかしい。


「で、お前さん、受けるのか?」

「そのつもり。キリをつけないと大変なことになるもの」

「そうだろうな、ギルドの連中はまだ大半が気づいてないだろう。俺自身も、話を聞いても信じられん」

話の流れだと、彼の言う『仲間』というのが一番怪しい。

まだ街を出ていないみたいだから、まだ被害が増える可能性がある。

それだけは何とか止めなきゃ。


そのあととりとめのない話をしたあと、お大事に、といって部屋を出た。




数日後、ギルドに行って掲示板を確認すると、貼りなおされたのだろうか、新しい依頼が出ていた。


『フェンリル討伐 金貨1枚』



私が、その紙を手に取ると、また少し周りがざわついた。

気にせず、そのまま受付へ。



「キスカ、古いフェンリルの依頼書、ある?」

「ありますけど……」

「ちょっと確認したいの。持ってきてもらえる?」

「判りました」


「うーん……筆跡は似てるなぁ……同一人物かな?」

「ユミコさん、まさか、その依頼、受けるおつもりですか?」

「そうねぇ……金貨一枚は魅力的だし……それに、なんか気になるんだよね」

「気になる、ですか?」

「そ。まあ、さくっと片付けて来るから、任せときなさいよ」

「頼もしいですね、流石です」



私がギルドを出ると、案の定、後ろから数人の気配が。

見張られてるのは予想してたけど、結構な人数じゃないの。これ?


テーブルに陣取っていた半数以上が私の後をつけてくる。

うまくカモフラージュしてるみたいだけど、私には丸分かりだ。

2年の修行は無駄じゃなかったんだなぁ、と改めて思う。


その中に、ヴレイクの姿が無いことに、私は心底ほっとした。

信頼はしていたけど、もしこの中に彼がいたなら、私はもうこの街には帰ってこれないだろうから。


最後まで頼りにさせてもらうよ、ヴレイク。





(確か、目撃証言はこの辺りだったよね)


少し周りが開けた場所に、一本だけ大木が立っている。

その根元にテントを張った。

近くには、この辺をねぐらにしているだろう、獣の気配もする。

とりあえず私は、薪と野草を探すために、貴重品だけを身に着けて、そこを離れた。


しばらくして戻ってくると、やはりというか、テントの中が荒らされていた。

私は、辺りに人の気配が無いことを確認して、整理を始める。

幸い、持ち物自体は無くなってはいなかった。金目のものでも探していたのだろうか。

それにしてもだ。

(少女の荷物を漁るなんていい度胸してるじゃないの! これだから男って奴は……)



そのあと、1日ほどが経過した。あれからは特に何も起きていないし、氷獣フェンリルなんかもちろん出てこない。

まだ様子を伺っているのだろうか。

(これは、根比べ、だね。まあ、向こうは私が野宿なんか出来ないで、街に帰るって踏んでたんだろうけど)


街に帰って、誰かに助けでも求めると考えたのかな? そうすれば、正面切って仲間になれるし。

駄目でも、ヴレイクと合流して目撃者にでもなって貰えればいいとでも考えているのだろうか。


正直、リディアと修行してた頃なんか、1ヶ月連続とかで野宿してたから、このくらい全然平気だけど。

ただ、お風呂に入れないのがちょっとなぁ……

川で水浴びでもすればいいんだけど、現状じゃ襲ってくださいといってるようなものだし。


痺れを切らして向こうが動いてくるのを待つかなぁ……

それまでは、ハーブの葉をお湯に溶かした自作香水でごまかすしかないか。



その日の夜、それは突然やってきた。

テントの中で、少しうたた寝していたら、なにやら周りの獣が騒がしい。

(来たかな……? とりあえず、準備をして……っ?!)

殺気を感じて、そのまま転がる。一瞬遅れて、刃物のようなものが、地面に突き刺さった。

手ごたえが無いのを感じたのか、一回、抜かれると、再び突き立てて来た。


私は、手持ちのナイフでテントに切れ込みを入れ、横に大きく飛び出し、一回転した後、駆け出した。

「居たぞ! こっちだ!」

周りは真っ暗な暗闇で、視界はほとんど利かない。

だけど、殺気駄々漏れだから、簡単に気配を察知できる。



少し開けた場所で、足を止める。

囲まれてるな……突破は無理か。

いくら賊とは言えど、人間相手に刃物を振るうなんて事は、できればしたくは無い。

でも、この世界で生きていく以上、いつかは通る道。避けては通れない。

私は覚悟を決めて、腰に下げてあったナイフを抜く。

「一体何のつもり? 突然襲ってくるなんて!」

私が声を上げると、周りを取り囲むように、男達が出てきた。5人……いや、もっとかな。


「よく気が付いたな、さすが魔道士ソーサラーと言うべきか。小娘ガキだと思って甘く見ていたようだ」

「貴方達がこの件の依頼主……いえ、犯人ね」

「ふん、金に目がくらんだ愚か者が多くて助かっていたところだが、そろそろ潮時のようだな」

「私としてはこのまま素直に投降してくれると助かるんだけど」

魔道士(ソーサラーとはいえ、小娘一人で何が出来る? 身ぐるみ全部置いて服を脱いでもらおうか」


うわぁ……お決まりの台詞来たよ。

まったく、この世界の男はみんなこうなのか。あ、ヴレイクは別ね。

賊なんてやってる男は向こうの世界でもこんな感じかぁ。愛護団体の名を借りた海賊なんてのもいるしね。

それはともかく、どうやってこれを切り抜けようか……



私がそんなことを考えていると、男は見る見るうちに不機嫌になってきた。

「おい、聞こえてるのか、早く脱げ!」

「冗談、あんた達みたいなのに犯されるくらいなら、野獣にでも食い殺された方がましよ」

「貴様……望み通り殺してくれる!」


男の持つ巨大な剣が振り上げられた。


続く



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