サモンマスター第9話
「はぁ~……」
森の中でため息をつく。
「何で私、こんなことしてるんだろ……」
朝からどのぐらい経っただろうか。
ぶつくさ言いながら枝を拾う。背中の籠はもう一杯だった。
肩に紐がずしりと喰いこむ。もう歩くのもいやだ。
「……戻ろう。もういいや」
昨夜の夕飯時。
それは、唐突にリディアの口から発せられた。
「ユミコ、明日から野宿ね」
「――ぇえ?!」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
「大丈夫よ。準備はちゃんとしておいたから。この時期なら風邪をひくこともないわ」
「いや、そういうことじゃなくって……どうして野宿?!」
「旅をするとなれば、おのずと必要に迫われるわ。いざという時に慌てないためにもね」
まあ、確かにわからなくはないけれど……
「随分と突然だね……私が言うのもなんだけど、もうちょっと体力付いてからの方がいいんじゃない?」
「体力なんて、あまり関係ないわよ。どちらかというと、魔力ね」
野宿が魔力に関係してるなんて考えられないけど……
「自然の力を直に感じ取れるから、イメージが付き易いでしょ。魔法上達の一つの方法なの」
そういうものかなぁ……?
「それに、そろそろ路銀も厳しくなってるからねぇ。1人ならともかく、2人+1匹分じゃねぇ」
「うぅっ……」
そうなのだ。今までのリディアの収入源は、主にギルドでの依頼と、探索などによるドロップ品などの売却で出来たお金だ。
私がここに来てからもう直ぐ一ヶ月。
実際、ほとんど私の事でかかりきりになっているから、収入はほとんど無いのが現状だ。
魔法もある程度安定して出せるようになったけど、体力はないし、まだ戦うには早い。
となると、宿代を節約するために、野宿になるのは仕方ないのかもしれないけど。
と、まあそんなわけで。
焚き火に使う小枝やらを集めさせられているのでした。
「あれ?リディア居ないや」
戻ると、テントの中はもぬけの殻。何所行ったんだろう?
と、かすかに水の流れる音が聞こえた。
水の音? 川でもあるのかな?
林の中を抜けると、小さな川と、巨大な滝が姿を現した。
「あれ……リ、ディア!?」
滝壺の中を覗くと、こちらに背を向けてリディアが佇んでいた。
滝の方を見上げて、微動だにしない。何してるんだろう?
私はしばらく様子を見てみることにした。
「――――」
聞き慣れない言葉。魔法の呪文でも唱えているのだろうか。
「――!!」
リディアが両手を広げ、何かを叫ぶ。
突如凄まじい突風が辺りに吹き荒れた。
「きゃっ!?」
何が起きたか分からなかった。
一瞬のうちに滝が二つに割れ、裏の岸壁が顕わになる。
数分。もしかしたら数秒かもしれない。
しばらくの静寂の後、また段々と滝が流れ始める。
左右から水が迫り、またひとつの大きな滝となった。
滝から上がってきたリディアが、岸で呆然としている私に気が付いた。
「あら、見られてたのね」
「いま、の、なに……?」
「風の魔法よ」
「エアーの魔法……」
「風の力を利用して物を切り裂くことが出来るの。効果は、今見て貰った通り」
凄い……
「そッ、それ、私にも教えて!!」
「だめ」
思わず身を乗り出したけど、手で制された。
「貴女にはまだ早いわ。扱うのがとても難しい高度な魔法なの」
「で、でも……」
「フレアーもまだ満足に出すことも出来ないのに」
「どうしても、ですか?」
「そうねぇ」
「お願いしますっ!!」
リディアは少し考えた後、
「……分かったわ。とりあえず、今は体力を上げる事。するのはそれからよ」
「はい、ありがとうございます!! よ~し、がんばるぞ」
「やれやれ……さ、戻りましょ。シロがおなか空かせてる……ゎ」
リディアが止まった。視線は私の後ろ。
「どうしたのリディ……あ」
振り返る。その答えは直ぐに判った。
いつの間にか数人の男に囲まれている。
「大きな物音がしたから来てみたら――」
手には大きな剣。盗賊かなんかかな?
「こんなところに女2人とは。しかも中々上玉じゃないか」
私達を見る目つきが何か怪しい。キモい。
「あなたたち何者? 何か用?」
「つべこべ言わずに、身包み全部置いていくことだなぁ。着ている服も全部だぁ」
「その後その躯にも用があるんだがなぁ」
うん、あれだ。
地球ならセクハラ罪と、窃盗罪、ついでに婦女暴行罪もあるか。
なんとなく予想はついたけど、旅をするということはこういうケースも出てくるわけか。
面倒くさいなぁ……
リディアが隣にいるから、恐怖は感じないけど、一人だったら簡単に捕まっているだろう。
私が最初に声を発したから、男たちは私の方に注目してるけど。
もう既に、私の横では、リディアが魔法の詠唱に入ってる。
こいつらホントにマヌケだなー……
「フレアー!!」
リディアの手から、凄い勢いで灼熱の炎が発射された。
炎が男達の体を包み込む! だけど!
「ふん、魔法を使えるのは自分たちだけだと思わないことだな」
平然と立つ男の姿が!
「そんな!!」
リディアの炎があっさりと……こいつら何者?!
「女がこんな軽装で街の外にいりゃあ、何かしら使えるとは予測できるがな。それじゃ、次はこちらの番だな」
そう言うなり、男の姿が目の前から消えた。
「?!」
「喰らえ」
「なっ?! 早……ッ」
どっ
「がはっ!」
「リディア!!」
男の拳をモロにお腹に受けて崩れ落ちるリディア。
「相手が悪かったな。諦めるこった」
「げほっ、ごほっ――」
さて、と。楽しませてもらうとするか。
そういうと男達は、リディアの服を脱がしに掛かった。
「そんな事させない! リディアから離れろ!!」
私も覚え立ての魔法を放つ。
「おっと、そうは行くか」
「きゃぁぁ!!」
あっさり避けられ、逆に捕まった。振りほどこうとしても逃げられない!
「は、離して!!」
「さぁて、お楽しみの時間だ……いい声で啼いてくれよ?」
「嫌ぁ!!」
男の手が私の上着に手を掛けた、その時。
「うぎゃああぁあぁぁあっ?!」
突然悲鳴を上げ、ぶっ倒れる男。
「何? 何が起きたの?!」
『グルルルルルル……』
「シロ!!」
突然現れたシロが、あっという間にリディアを救出し、吹雪を起こす。
哀れな男が、一人氷付けになっていた。
「……よくもやってくれたわね!!」
ドォォォォン!!
「うぎゃああああ?!」
リディアの魔法で1人残らず吹っ飛ぶ盗賊たち。
「シロ……助かったわ」
『このぐらい、いいってことよ』
私は一瞬、耳を疑った。
「あれ、シロ……声!?」
『ん? どうかしたか?』
間違いなかった。
「聞こえる! シロの声が……聞こえるよっ!」
『ホントか?』
「うん、はっきり聞こえる!」
「経験がユミコを成長させたのね」
「そっか……まあ、良かったのかな? 二度とゴメンだけどね」
「そうね」
と、シロは私の姿を見て、不意に視線を逸らした。
『どうでも良いけど、そろそろ服着ろよ、目のやり場に困る』
「え……い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁああ!! フレアー!!」
『きゃうぅぅ~~ん』
「やっぱり、シロもオスなのよね」
続く