サモンマスター第6話
何回か言葉のやり取りがあって、リディアが納得したような顔をする。
「――なるほど、子供が仕掛け網に引っ掛かってしまってるみたいね」
「そっか、だから波起こして仲間に助けを呼んでたんだ」
「ええ、だから、みんな集まって来ちゃってるのね」
『……ったく。子ども一匹でとんだ代償だな……』
ガーグさんが苦笑する。
「私、様子を見てくるよ」
「大丈夫? 気をつけてね」
こう見えても、泳ぎには自身がある。
潜ると、すぐに網が見えてきた。近くには数匹の竜の姿が見える。
何か水中に黒いスジのような物が流れている。
(……何だろう? もうちょっと近付いてみよ)
私の姿を見た途端、子竜が助けを求めるように暴れる。
竜の体から、黒いものが流れ出ている。
(これ……竜の血だ!)
そろそろ息がきつくなってきた。一旦上へ上がる。
水面に顔を上げる。すぐにリディアが引っ張り上げてくれた。
「どうだった?」
「うん……かなり傷が深いみたい。見ていて痛々しいよ」
『よし、俺が網を解いてやろう。網の構造を知っているのは俺しかいないからな』
そう言ってガーグさんは海に飛び込み、波間に消えた。
数秒後。水面に顔を出すガーグさん。
その後、すぐに子竜が水面に上がってくる。
ただ、グッタリした様子であまり元気が無いみたい。
「リディア。お願い」
「ええ、任せて。ヒールウインド!!」
癒しの風が吹き、見る見る傷が癒えていく。
リディアが優しく子竜に話しかけている。
多分、もう大丈夫、ということを言っているんだと思う。
「みんなお礼が言いたいみたいよ」
リディアが彼らの言葉を通訳してくれる。
「'子どもを助けてくれてありがとう、それと、ずぶぬれにしてごめんなさい'って」
『礼なんかいらねぇよ。それに、街のことは気にするな』
「ほんと、良かったね」
竜達は、お礼の言葉を言いながら、姿を消して行った。
港に帰る途中、網を見ていたガーグさんが突然叫んだ。
『こ、こいつは!!』
「どうかしたの?」
『密猟の奴らの網だ』
え、密漁?!
「――どうやら海竜の習性を知っている者のようね」
さっきリディアが話してくれたように、海竜は人間をめったに襲わないらしい。
でも、魔術師や冒険者ではない、一般の街の住民は竜族については詳しくはない。
だからこそ、他の人を海に出さないように話を流しておいて、自分たちで独り占めをする気なのかも。
『くそっ、何てこった……海竜は人間を襲わないのか……まんまとやられたってわけか』
「よーし、今度は密猟者狩りだ!」
「張り切ってるわね、ユミコ」
「絶対捕まえてやるんだから」
「けど、どうするの? 竜と話したなんて、信じて貰えないかもしれないじゃない」
確かに、そこが問題なんだよね。街の人の不安な気持ちもあるだろうし。
『俺が協会の連中に話してやる。この網が証拠になるからな』
この件はガーグさんに任せるしかないか。
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港に戻ると、大勢の人が集まってきていた。
あっという間に囲まれるガーグさん。
『おい、何があったんだか説明してくれよ、ガーグ』
『そうだ、竜はどうしたんだ? 逃げたのか?』
『それより、その女は誰だ?』
『まあ待て、順に説明してやるから』
その時、人だかりの中に一匹の犬がいるのを見つけた。
「あれ、シロだ。無事だったんだね」
「あらあら、こんなにドロドロになっちゃったのね」
せっかくの純白の毛並みがドロで真っ黒。
これじゃ、シロじゃなくて、クロだよ。
「ね、洗ってあげようよ」
「そうね。おいで、シロ」
「クウ~ン」
「じゃ、ガーグさん、私たち宿にいるから」
『おう。またな』
アーリアの街には宿が3軒ある。
そのうち海に近い方の2つの宿は、この騒ぎで閉鎖されていた。
だからそっちに泊まっていた客がもう一つの宿に殺到しているらしい。
「混んでるなぁ」
「そうね……どうする? 野宿してもいいわよ?」
「でも、ガーグさんに宿にいるって言っちゃったし」
「受付の人に言えば大丈夫よ。お風呂にだけ入らせてもらいましょ。シロが可哀想だから」
「そうだね」
水に浸かったせいで、べとべとだったんだよね。早く洗いたいよ~
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「サッパリしたね。リディア」
「そうね、シロも綺麗になったし」
「お風呂入って気付いたけど、リディアって、肌綺麗だよね」
「何? 突然?!」
顔を赤らめるリディア。恥ずかしいのかな?
「私、大人になったら、リディアみたいな女性になるんだ」
「ユミコだって、12にしては大人びているじゃない。あれ? 13だっけ?」
「もうすぐ13だよ。中1だもん」
そこまで言って、ふと気付く。
「あ、でもこっちに私位の年の子が通っている学校ってあるのかな?」
「さあ? 大きい都市だったら、あるかもしれないけど、私は見た事無いわね」
「ふうん……じゃ、日本ってかなり恵まれてるんだね」
「そうね。勉強したくても出来ない人もたくさんいると思うわ」
私勉強嫌いだったからなぁ……ちょっと反省しないといけないなぁ。
と、後ろから声がかかる。
『探したぞ、二人とも』
「あ、ガーグさん」
『とりあえず説明だけはしといたぞ。だが、まだ半信半疑だがな』
「そっか。じゃ、やっぱり捕まえないと信じてもらえないかもね」
「でも、ユミコ、密漁者を捕まえるって言っても、どうするの?」
「私に考えがあるんだ。名づけて、闇に紛れて急襲作戦!」(そのまま)
その夜、私たちは船に乗ったまま近くの岩陰に隠れて犯人が現れるのを待った。
そしてついに。
「来やがったようだな」
「しっ、静かに」
小さい船が定置網のところに近付いていく。
『どれどれ……ほぅ、結構入っているな』
『ああ』
網を上げる。かなりの魚が捕れているようだった。
『さあ、見つからないうちに行くぞ』
逃げようとする小船。私たちは、その前に回り込んだ。
『ちょっと待て。そこで何をしている?』
『な、何者だ、貴様らは!!』
暗がりでよく判らないけれど、声は明らかに動揺している。
ガーグさんがランプに火をつける。辺りが明るく照らされ、犯人の顔がハッキリ判る。
『ほう……その顔には見覚えがあるぞ』
『・・・ちっ』
『まさか、漁業組合の会長様自らがドロボーごっことは』
組合の会長?! これは意外な展開!
『くそ……ばれたからには生かしてはおけん。殺せ! 殺してしまえ!!』
ドンッ
船を体当たりさせてきた!! 船が大きくかしいだ。
「きゃあああっ!!」
「リディアッ!!」
リディアが海に落ちた。どうしよう! 泳げないのに!!
いつまで経っても浮かんでこない……助けなきゃ!!
私は海に飛び込もうとした所を、ガーグさんに腕を掴まれる。
『待て、どうやら大丈夫みたいだぞ』
「え?!」
突如水面が突如盛り上がる。
海竜達だ! リディアが背中に乗ってる!
『な、なんだぁっ?!』
突然のことで慌てふためく密漁者たち。
「貴女達……よくもやってくれたわね!!」
あ、リディアがキレてる……
「シードラゴン達よ! やっちゃいなさい!!」
『グアアァァァァァァァッ!!』
雄たけびと共に密漁者の船に襲い掛かる海竜。
『ぎゃぁぁぁぁっ!!』
ドォォォォン!!
彼らの船は、木の葉のように宙を舞った。
――ということで。
密漁者も捕まって、騒ぎも無事収まった。
私たち3人は村を救ったヒーローとしてその日はちょっとだけ偉くなれた。
ガーグさんはその後、新しい組合長として就任し、海を守るために日々働いている。
組合長が溜め込んでいたお金は全て、街の復興に使われた。
アーリアの街にはすぐに活気が戻ったことを付け加えておく。
続く