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サモンマスター第5話

私は石段を降りきると、海への道を走り抜けた。

角を曲がり、市場の前を駆け抜け、人の波をすり抜けて、港へと通じる道に出た。

街の人も、沖の異様な首に気が付いている様だった。

「何をしている、早く丘に上がれ! 波に飲み込まれるぞ!!」

叫ぶ声を聞き流し、海に向かった。これを抜ければっ!


目の前には海岸。そして……

「リディア!」

波打ち際で立ち尽くすリディア。そして、直ぐ目の前に波が!!


どざばぁぁぁぁっ

「うわぁぁっ?!」

あっという間に飲み込まれた。と、目の前に大木が。

何とか必死にしがみつく。



そのうちに水が引き始める。水量は私の膝ぐらいまでの高さになった。

た、助かった……

あ、あれ? あそこに浮いてるのは?!

見覚えのある緑色の髪。間違いない。

「リディア!!」

私は慌てて彼女を抱き起こした。グッタリとして動く気配がない。

「リディア、しっかりしてっ」

必死で呼びかける。しばらく身体を揺らしていると、突然。

「ゲホッ、ごほ、ごほっ……」

彼女の口から大量の水が吐き出され、ゆっくりと目を開ける。

「良かった……気がついたぁ……」

「し……死ぬかと思った……」

「突然駆け出すからびっくりしたよ。大丈夫?」

「ええ……ちょっと海水飲んじゃった……一時、撤退しましょう」


「ねえ、リディア、さっき海岸で何してたの?」

「あの竜と話をしようと思ったんだけど」

「話を?」

「ええ。でも駄目だったの。何かを言おうとしているのは判ったんだけど」

と、背後でまた波の音がした。

また波が!! さっきよりさらに大きい波だ。間に合わない!


「どうしよう、このままじゃまた巻き込まれちゃうよ!」

「仕方ないわね。奥の手を使うわよ」

奥の手?

空間転移テレポート!!」

「え?!」

次の瞬間、私たちは高台に続く石段の踊り場付近にいた。

瞬間移動?!

「何とかぎりぎりで間に合ったようね」

「う、うん……」

やっぱり、リディアってすごいんだなぁ。




高台の上は、逃げてきた人でごった返していた。

もともと観光用に広く作ってあったためか、まだ少し余裕があるみたい。

その中に見覚えのある顔を見つけた。

「あ、おじさん!」

『おお、無事だったか、良かった』

「大分、水被っちゃったけどね……」

全身ずぶぬれで、服が体にまとわり付く。

気持ち悪いことこの上ない。


『しかし、これでこの街もおしまいか。何処かに移住するしかないだろうな』

おじさんの顔が曇る。

『諦めちゃ駄目よ』

『竜がどうにもならんじゃないか』

『大丈夫よ。何とかなると思うわ』

リディアはやけに自信ありげだ。

さっき意思が通じそうだったから、望みがあると思っているのかも。


『お前さん、何か出来るのか? 悪いがとてもそういう風には見えないのだが』

『一応、少し魔法を嗜んでるわ』

『ほぅ』

『まあ、戦わないのが一番なんだけど、竜が会話に応じてくれるか分からないしね』

『なんだ、お前さん竜の言葉が分かるのか?』

『ええ、まあ一通りは話せるけどあの調子だし。せめて船で近づければ』

おじさんはリディアの言葉を聞いてしばし考え込み、こう切り出した。

『なるほど、船か。よし、俺が出してやろう。俺の腕の見せ所だ!」

『命の保証はないわ。それでもいいのね?』

『ああ、街の運命が掛かってるんだ。ここで引いたら男が廃るぜ』

なんかおじさん、かっこいい~!


あ、そういえばおじさんの名前、まだ聞いてなかったな。


『おぉ、そうだったな。こりゃ失礼。オレはガーグ。一昔前は一流の船乗りだった男だ』




私たち3人は、使える船を探すため、港に向かっていた。

『どうやら、怪我人は出ていねぇようだな』

あれだけの騒ぎにもかかわらず、奇跡的だ。

「良かった。不幸中の幸いだね」

『ああ、だがいつまた波が来るかわからねぇ』

「そうね、早くなんとかしないと」

辺りには、さっきの波で壊れたらしい、いくつもの船が打ち付けられている。

『ひでぇもんだな』

「そうね……どこかに使えるものは無いかしら」

「この辺にはなさそうだよ。あるとすれば、もっと向こうのほうじゃない?」


入り江の奥には、まだ綺麗な船がいくつかあった。

「ねえ、これなんかどう? 状態も良さそうだし」

『ダメだな』

即却下された。

『小さすぎだ。こんなんじゃ大きい波が来たら、すぐひっくりかえっちまう。もっと大きい奴だ』

「これはどうかしら?」

リディアが見つけた船は、少し大きめの漁船だった。

『ふむ……見たところ傷も無いし大丈夫だろう』

「使える船、見付かってよかったね」

『ああ。よっしゃ、久し振りだ。腕が鳴るぜ』



海の上は、シンと静まり返っていた。

ガーグさんのオールをこぐ音だけが聞こえる。

「静かだね」

「そうね。でも、何か変な感じがする」

「変な感じ?」

「やっぱり居るわね、近くに」


入り江を抜けて、外海に出た。と、突然波が高くなる。

「きゃぁぁぁぁ!!」

リディアの悲鳴。ガッシリと私の腕につかまる。

『来やがったな! しっかりつかまってろ、振り落とされたら終わりだ!』

「えぇ~! 私、泳げないのよ!!」

そういえばさっき溺れてたような……

大きな高波が数回船を揺らす。と、突然波が止まった。

『どうやら波の発生源はこの辺りのようだな』

「どうしたの? リディア?」

「――居るわね」

どうやらもう既に彼らのテリトリーに入っているらしい。

リディアにはそれが感じられるらしい。リディアの顔がこわばる。

「それに……数が多すぎるわ! 一体何匹いるというの?!」

リディアが悲痛な声を上げる。

『おいおい、アンタだけが頼りなんだからな……大丈夫か?』

直ぐに、数頭の竜が水面から顔を出す。

こちらに近寄ってくるわけでもない。まるで何かを伝えたいみたいだけど……

「――話してみるわ」

リディアが船の先端に立って会話を始めた。



続く

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