サモンマスター第4話
かくして、シロを仲間にしたリディアと私は、街を目指して西に向かっていた。
途中では、魔法について、リディアが色々と教えてくれた。
「魔法というのは、術者自らの力、つまり魔力や霊力の事を指すのだけれど、
その力と自然界にある力を合わせて、魔法に変換させて発動させるの。
だから、潜在的な力が大きい人ほど、より高度な魔法が使えるのよ」
「ふぅ~ん」
理屈でいうと簡単そうなんだけどな…
リディアの説明は続く。
魔法には属性あり、火、風、水、土、氷、光、闇の7種類に分類される。
自然界との結びつきが強い、人間以外の種族は、属性を有していること。
魔力には個人差があり、その力、量もまちまちということ。
例えば、無属性の人間でも多い者もいれば、精霊でも全く持たない者もいる。
「私は、どうなのかなぁ?」
「そうね……ユミコは、他人より高いとは思うわよ。すんなり魔法使えたし」
「そうなの? そんな事言われても、あんまり実感無いんだけど」
実際今まで魔法だ魔力だなんてあることすら知らなかったわけだし。
すると、リディアは何やら地面に円を書き始めた。
「何? それ?」
「ちょっとこの中に立ってみて」
恐る恐る中に入る。でも何も起きない。
「そんなに緊張しなくてもいいわよ。貴女の内に秘めている力を見る為のモノだから」
突然円全体が光り出し、私の体を包んだ。何だか不思議な感じがする。
光が上がると、リディアは驚愕の表情を浮かべた。一体どうしたんだろ?
「――これは、驚いたわ……」
「え? 何が?」
「こんなに力を持っているなんて。人間ではありえない……」
そんなこと言われても、全然ピンと来ない。
「これなら、いろんな魔法も覚えられるし、動物の言葉もかなり分かると思うわ」
「私、そんなに凄かったんだ……」
「ユミコなら白竜に遭えるかもしれないわね」
「ホワイトドラゴン?」
「真っ白な毛と、霧状の氷を纏っているからそう呼ばれているの」
そう言ってリディアはドラゴン族についての説明を始めた。
伝説によると、その昔、神が竜の身体を借りて地上に降りてきたことがあるそうだ。
神が去り、月日が流れたせいもあって、力はほとんど薄れてしまった。
だけど、竜族の一部には、未だにその力を秘めているのが居るらしい。
「白竜も、その一つと言われているの。
強力な霧状のブレスを吐く事が特徴ね。全ての物を凍り付かせると言われているわ。
警戒心が強くて、普段は滅多に見かけないの。伝説の竜とも呼ばれているの」
伝説の竜、か。
「私もそんなのを従える事が出来るのかな…」
「がうがう」
シロが何かを言ったらしい。その答はすぐにわかった。
「“お前にはムリだよ”」
「……リディア、ワザと訳してない?」
「うふふふ……」
図星だな……
「まあ、竜を従える事が出来れば、立派な一流の召喚士よ」
「そっかぁ……竜って、どうなの? 人間には友好的なの?」
「部族によって違うみたいね。まあ、大体は話す程度は出来るとは思うけど。
従える事は難しいわ。よほど信頼されないとダメね」
やっぱり一筋縄ではいかないらしい。
「リディアはどうなの? 竜を従えていた事があるの?」
「私? 私は……守れなかったの。大切な人を――」
そう言いかけて言葉に詰まるリディア。
「さ、この話はもうおしまい。もう少しで街よ。急ぎましょ」
「う、うん」
一体何があったんだろう……気になるなぁ……
アーリアという街に着いたのは、東の地平線が明るくなりかけた頃だった。
この街でしばらく生活するんだ……すごく楽しみ!
「ねえリディア、この街は、どんな街なの?」
「海に近いから、新鮮な魚介類が豊富なのよ。この街の展望台から海が見渡せるわよ」
「ほんと? ねぇ、行っていい?」
「そうね……買い物終わったら行きましょうか。シロには近くの森で待っていて貰いましょう」
「街には連れて行けないの?」
「ええ。色々面倒だから。それに、この辺はあまり危険じゃないし。エサもあるからね」
「そっか。じゃ、また後でね」
そう言うと私達は、一匹の犬を残して街の中に消えた。
街に入ると、通りはそれなりに賑わっているようだった。
でも、どこか様子がおかしい。
活気はあるようだが、道の傍に出ている市場に並んでいる商品も、そんなに多くはなさそうだ。
リディアの話に出ていた海産物も、聞いていたのより少ないように感じる。
「おかしいわね」
「やっぱりリディアもそう思う?」
「そうね、何かあったのかしら? とりあえずは、まずこの手形を換金しないとね」
換金を済ませて、展望台に上がると、そこには結構人がいた。観光名所らしい。
眼下には一面の海原が水平線まで広がり、近くに山が迫り出している。
その岬の先端には、白い大きな灯台が鎮座している。
「うわぁ~、綺麗!」
「そうね。ここから見ると問題は見えないように見えるけど」
「ねぇ。リディア。その辺の人に聞いてみたらどう?」
柵に寄りかかって海を眺めている見た目中年くらいのおじさんにリディアが話しかけた。
『こんにちは。なかなかよい眺めですね』
『お。ここが気に入ったか? そうだろう、最高の海だ。お嬢ちゃんたちは旅の者か』
『ええ。あなたは?』
『なあに、ただのしがない漁師だ。まあ、大物を釣り上げて有名になったこともあったがな』
リディアが通訳をしてくれる。
なるほど、漁師のおじさんか。でもだったら何で、こんなところに居るんだろう。
地球じゃ、夜釣りもあるけど、この世界ではどうなのかな?
『お嬢ちゃん達、ここは初めてか?』
『私は数年ぶりね。この子は今日来たばかりだから』
『そうか。他に連れは? まさか、お前さんたちだけじゃないだろ?』
『私達だけよ。まあ、女の二人旅なんて珍しいかしら』
『――そうか。何やら事情がありそうだな』
おじさんは一瞬驚いた表情をして、納得したように頷いた。
私が言葉を話せないことも、あってだろうけど。
『こんな昼間に陸に上がっているということは夜海に出るの?』
『いや、最近はさっぱり仕事が減ってなぁ』
どうやら失業中らしい。
『海に出られないわけじゃないのね? ならば、この街の現状は?』
『そうか、数年前なら知らなくても無理はないな』
おじさんはため息を一つついて、衝撃の事実を語り始めた。
『今沖合いの漁場に海竜(シ-ドラゴン)が棲み付いていてな。漁に出られないんだ』
『え?!』
「リディア、どうしたの?」
「この海の沖に、海竜が棲み付いてるって」
「え、そうなのっ?!」
シードラゴン……こんなに早く竜と遭えるかもしれないなんて!
運が良いやら悪いやら……
沖を見ながらおじさんは続ける。
『危険を冒してまで沖に出るやつは皆無だろうな』
『そう……現状はわかったわ。街としての対策は?』
『今のところこちらに被害はねぇから見守っている感じだが……まあ実際漁に出てないから被害は出てるがな』
「そうなんだ……ところでリディア、シードラゴンって、どんな竜なの?」
「そうね……群れを成して行動して主に魚を主食とする、比較的大人しい部類ではあるけれど」
と、水平線を見て居たおじさんが固まる。
『どうしたの?』
おじさんが指を刺す。そこには水面が波立っている。そして、大きな波が近付いてくる。
そこに見え隠れする複数の首らしきもの。
近くに居た人たちも、騒ぎ出す。パニックになっているようだった。
「あれが……シードラゴン?」
『くそっ……奴ら、大波起こして海辺にいる人間を引きずり込むつもりか?』
「……っ」
「あっ、リディア?」
あっという間に階段を駆け下りていくリディア。
『無茶だ! 波にさらわれたら、あっという間に沖まで持っていかれちまうぞ!!』
まさか、リディア、竜達と戦うつもり?!
『お、おい! 待てよ! 危ねえぞ!!』
後ろから何やらかかる声を無視して、私は階段を駆け下りた。
続く