サモンマスター第2話
目が覚めると、知らない部屋だった。一瞬思考が止まる。
(あ、あれ? 何で私ここにいるんだっけ?)
ふと隣を見ると、見覚えのある顔が。リディアさんだった。
ああ、そうだ。昨日からこの人と一緒にいるんだ。
「おはようユミコ、よく眠れた?」
「う、うん……」
「窓の外を見て、いい天気よ」
「わぁっ、ホントだぁ……」
部屋の窓からは広大な草原が見え、地平線から太陽が昇るところだった。
あれ? ちょっと待って。草原? 地平線?
「えええええええっ?! 何よこれっ!! 何処よ此処っ?!」
「あら、気付いた?」
「普通気付くよっ!」
これは夢だ。きっとそうに違いない。そうあってほしい。
でも、これは現実だ。
「ごめんね。よく眠っていたから。起こすのも悪いかと思って」
「それで、ここは一体何処なんですかっ?!」
「ここは、コルトの街よ。ユミコ、ようこそ異世界へ」
「い、異世界……」
信じられるはずが無かった。
だって、昨日の夜は、ビル街の格安ホテルに泊まったはずなのに。なのに……
「貴女達の世界とは、全く別の場所。全く異なる世界」
あっけらかんとした、彼女の態度に、段々腹が立ってきた。
私は再び、彼女に掴みかかっていた。
「一体どうするつもり? 早く元の所に返してよっ!!」
「落ち着きなさいっ!!」
掴んだ腕を強引に振り払われる。
思いもよらない強い力に、私の身体はあえなく引き剥がされた。
「――もちろん、今すぐ貴女を帰す事は出来るわ」
「だったら……」
「よく考えて。向こうでは貴女の事をやっきになって探しているのよ」
私を襲った男たち。まだ彼らは私のことを探しているのだろうか。
私は黙り込むしかなかった。
「言ったでしょ。私はあなたを助けたいの」
「……」
「その代わり、できるだけの知識をあなたに教えるわ。約束する」
真剣な目で、見つめられ、私はしぶしぶながら了承した。
「分かったわよ……」
「私はね、ユミコ、あなたに私と同じ存在になって貰いたいの」
一体どういうことなのか。
「こっちと向こうを行き来できるようになってほしいの。つまり、橋渡し役ね」
そうか、彼女はこちら側の住民なのか。
「リディアさんは、自由に行き来できるの?」
「さすがに自由に、という訳にはいかないわ」
リディアさんの話を掻い摘んで説明すると。
二つの世界の間には歪みが存在していて、‘時空の扉’という物で繋がっている。
そこは結界が張ってあって、簡単には行き来できないようになっている。
それが両方の世界中に点在しているらしい。私達は、その‘扉’を通ってきたということ。
彼女は、その‘扉’の管理を任されているうちの一人だという。
つまり、時空の管理人、ってことらしい。
「こう言っては、なんだけどね」
リディアさんは、一呼吸置いてから。
「あの街に繋がらなければ、貴女のお父さんを殺さずに済んだかも知れない」
「っ!!」
私の脳裏に、あの瞬間が浮かび上がる。
「あ、ごめんなさい。思い出させてしまった様ね」
私は首を振る。
溢れそうになる涙をぐっと堪える。
「そ、それで、私は何をすればいいの? 何も出来ないのに……」
「そんなことないわ。貴女には魔力の流れがあるのが見えるの」
「魔力の流れ?」
いきなり話が非科学的になった。
「人間にはね、潜在的にそういった力があるのよ。特に子供はね」
「潜在的な力? それが私にも?」
「ええ。大きくなると無くしてしまうものなんだけど中には力の残る人もいるの」
そうか、それが魔力ってやつなのか。霊感とかいうのもそうなのかな。
「人と違う力……それが私にも?」
「ええ。それがあなたが狙われている理由ね。それに、もっと厄介な存在もいるの」
「厄介な存在?」
「‘魔’という言葉を聞いたことがあるでしょう?」
「うん。小説なんかに出てくるけど……」
「あれは全て、とまではいかないけど、大体本当のことなの」
信じられなかった。想像上の種が実在しているなんて。
リディアはまず、この世界の基本的な事について、詳しく教えてくれた。
「この世界は、‘ガイア’と呼ばれているわ。精霊が統治する世界よ」
なんと、この世界は精霊が存在している世界らしい。しかも国まであるようだ。
「精霊の世界?! じゃあ、人間はいないの?」
「いるにはいるけど、数は少ないわ。住んでいる地域は限られてるの」
どうやら、私達がいるこの宿は、その人間の街にあるらしい。
他にも、竜や魔族など、物語に出てくるような種族が実在するとのこと。
「ここでは人間は少数派なのよ。5つしか国がないの。後は小さい街や村が点在するだけね」
「そうなんだ……」
どうやら、とんでもない所に来てしまったようだ。
「多分、あなたの両親は彼らに殺されたのね。自分達の存在を隠す為に」
「……」
怒りが込み上げてきた。
「ごめんなさい。私がもっとしっかりしていれば……」
「違うわ。あなたは関係ない。関係ないもの……」
涙が……抑えきれない。
「……うっ、うえっ……ぅわあぁぁぁぁぁぁぁっ」
私は彼女の胸の中でおもいっきり泣いていた。
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私が泣き止んでしばらくしてから、リディアさんが声をかけてくれる。
「落ち着いた?」
「う、うん……」
「今まで抑えていたのね……辛かったでしょう」
泣いたら、少しスッキリした。
「辛い時にはムリしないで泣いていいのよ」
「うん。ありがと」
リディアさんは優しく抱きしめてくれる。こういう温もりに触れたの、久し振りかもしれない。
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「……ねえ、1つ聞いていい?」
「なぁに?」
「リディアさんは、人間なの? それとも別の種族なの?」
彼女は少しビックリしていた。そして笑う。
「さ、どうかしらね」
はぐらかされたらしい。
この人、ホントに何者なんだろう?
続く