サモンマスター第1話
今回よりしばらく、由美子の過去話となります。
いつもと変わらない日常……のはずだった。あの日までは。
私が中学に入ってすぐ、それは突然起こった。
目の前で両親が死んだ。いや、殺されたんだ!!
私は布団に包まっていたから、その瞬間は見ていない。
恐怖で動けずに居たけど、もし動いていたら私の命は無かったと思う。
父さんは秘密裏に怪しい実験を繰り返していたらしい。
時空と時空を繋げると言っていたけど何のコトだか分からなかった。
でも、もしその事が理由で殺されたんだったら話の筋は通る。
口封じ。
母さんはその父さんと一緒に居たからという理由だけで殺されたんだろう。
そのときのショックは今になっても忘れる事は出来ない。
しばらくして、近所の人が通報してくれたのか、警察の人が来た。
「非道いものだな、両親とも殺されたのか」
「そのようです。娘はいかが致しましょう?」
「孤児院にでも入れておけば、誰か親切な人が里親になってくれるだろう」
「はっ。承知しました。さ、おいで」
「いや」
「わがままを言わないで。いい子だから」
「知ってるわ。もうお父さんもお母さんも居ないことぐらい」
「お譲ちゃん……」
「でも、嫌なの。ここを離れるのは!」
「何をしている、早く連れてきなさい」
「あ、はい。今すぐ」
そう言うと私の腕をつかもうとする。私はそれを拒んだ。
「ごめんよ。お巡りさんもそうしたいんだけどね。どうすることも出来ないんだ」
「離してよ! いやぁぁっ!」
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「今日からあなたの家はここよ。いいですね」
孤児院。作られた秩序による共同生活。
何もかも逃げて忘れたい。
でも、逃げた後、どうなるというのか。
突きつけられた現実にげんなりして、私は無気力状態になっていた。
院長に連れて来られた部屋。そこには先客がいた。
少し年上の女の子。この人が同じ部屋になる人らしい。
「よろしくね。あなたの名前は?」
「――由美子」
一言だけ答える。
「私は由希。偶然だね。ほら、おんなじ字」
「……」
結局その日はそれ以外言葉を交わすことは無かった。
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気が付いたら朝になっていた。
昨日の夜は、結局、寝付けなかった。
時計を見ようと身体を起こそうかという所で、部屋の扉が開く。
私は慌てて突っ伏した。
「おはよ。朝だよ。ほら、起きて」
「……」
返事をせずに、体だけ動かす。
「お~起きた起きた」
時計を確認。まだ6時。
「……」
面倒なので、また寝ることにする。
「起きないと……くすぐしちゃうぞ……!」
「きゃ……きゃははは!!」
ちょ、いきなり何?!
「なあんだ。ちゃんと笑えるじゃない」
この人は何を考えているのか。
「……何が言いたいのよ」
「何があったか知らないけど、元気出さないと何も始まらないわ」
励ましのつもりらしい。
「私ね、2つ下の妹が居るの。一度も会った事無いけど」
「……」
「父さんが借金をかたに私を売ったの。でもね、そんなの関係ない。私は私」
「……」
「多分妹はこの事を知らせていないと思う。だから、会って話をしたい。いろんな事を」
何故、私にそんな事を言うのだろうか。
「似てるのよ、あなたが」
彼女は私の目をじっと見つめて。
「昔の私に」
その言葉に、私はハッとする。
「私は……これからどうしたらいいのかなんて……」
「それは、これからじっくり考えればいいじゃない。とにかく、前向きにね」
それだけ私に告げて、部屋を出て行く。
強い人だ。そう思った。
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孤児院に入って数日。
相変わらず由希さんとは会話が少ない。でも、何かお互い共感する部分はある。
そんな微妙な関係が続いていた。そんな矢先、院長に呼び出される。
「森野さん、あなたに会いたいという人が来ていますよ」
「私に……?」
入り口の所に一人の女性が立っていた。
染めたのかな……緑色の髪がとても綺麗な人だ。
その人は私を一目見るなり。
「ふうん……」
品定めするように、私を見る。
「話は聞いたわ。あなた、両親を殺されたそうね」
なっ?!
「何で貴女が知ってるのよ!?」
私は思わず、女性に掴みかかっていた。
「待って、落ち着いて。私ね、あなたのお父さんの知り合いなのよ」
「父さんの?」
「ええ。お父さんが何をしていたか、知ってる?」
「なんとなく。でも、詳しいことまでは……」
「彼は秘密裏にある実験を行っていたの。
実験? そんなこと聞いたこともなかった。
「でも、その情報が流れることを恐れた犯人達によって、彼は殺されてしまったの」
「犯人は誰? 教えて!!」
「それは後で教えるわ。私、あなたを引き取りに来たんだもの」
一瞬、自分の耳を疑った。
「ほ、ほんとう?!」
「ええ。明日また迎えにくるわ。詳しい話はその時にね」
そう言って女性は去っていった。
振り返ると、こちらの様子を影で見ていた人がいた。由希さんだ。
「……良かったじゃない」
「こんなとこ、早く出たいもの……でもどうしてだろう。貴女とは別れたくない」
「また会えるよ。絶対」
そういうと由希さんは両手を差し出してくる。
「なんか恥ずかしいよ……」
「ほら」
「……由希さん」
なんか涙が溢れてくる。
気付いたら、お互い抱き合っていた。
やっと友達になれた。
そして二人でおもいっきり泣いた。
また会う事を約束して、私は孤児院を後にした。
見送りには来て貰わなかった。出る決心がなくなるから。
「そういえば、私まだあなたの名前聞いてないよ」
引き取ってくれた女性に、私は尋ねた。
「リディア。リディア=サークウェル」
外国の人のようだ。どうやらこの緑の髪は染めている訳ではないらしい。
「どんな仕事してるの? 英語の先生とか?」
「職業は――サモナーよ」
聞いたことがなかった。
「サモナーって?」
「そうね。例えば何かを呼び出したりできるの」
「よく分からないよ。それに、それって何かの役に立つの?」
「そのうち分かるわ……ッ?!」
突然彼女の顔色が変わった。
「どうしたの?」
「場所を変えましょう。そうね、あそこがいいわ」
そう言うと、ビルとビルの間に身を潜める。
「何? 何で隠れるの」
「しっ。静かに……」
しばらくすると、大柄の男達が辺りを見回している。
「くそ……何処行きやがった。逃げ足の速い奴だ」
「気付かれたのか?」
「そんな筈はない。まだ遠くには行っていない筈だ」
「まだ隠れているかもしれない。探せ!!」
そう言うと彼らは散っていった。
「もういいわ。大丈夫よ」
「何? あの人たち」
「彼らは、貴女を狙っているのよ」
「どうして? 狙われる理由なんか……」
そこまで言いかけて、ふと思い立つ。
「もしかして……」
「そう、あなたのお父さんに関係のある人物は一人残らず消すつもりなのよ、彼らは」
その言葉に、悪寒が走った。
狙っているのは……私の命だ。
「だから、私はあなたを引き取ったの。あいつらから貴女の身を守るためにね」
「……ありがとう」
その言葉しか出なかった。
身体が震えてくる。立っていられない。
「大丈夫? 少し休みましょうか?」
「平気……でも、そんなに危険な実験だったの?」
「危険と言うより……なんて言った方がいいのかしら」
彼女は少し考えて。
「今までの歴史が全て覆ってしまうの。そのぐらい重要な秘密を知ってしまったのよ」
「秘密?」
「ええ。歴史の勉強は得意?」
「大体は。でも勉強嫌いだし……」
「もし、この世界に、人間以外にも知能をもつ種族がいるとしたら?」
意味が判らなかった。いったいどういうことなのか。
その時、遠くから声が聞こえた。
「居たぞ! あそこだ!」
「あら。見つかっちゃったわね」
見つかっちゃったって、そんな呑気な!!
「私から絶対に離れないで。わかった?」
「う、うん」
あっという間に数人の男たちに取り囲まれる。
「おい、奴の娘もいるぞ」
「へへ。こいつは好都合だ」
「やれ、やっちまえ!」
そういうや否や、一斉に飛び掛ってくる。
その時、リディアの口から何かの言葉が発せられる。
「ぐあぁぁぁ?!」
燃え上がり、苦しむ大男達。
何? 何が起こったの?
男たちを一斉に炎の渦が巻き込んでいく。
後には、灰だけが残されていた。
「う、そ……」
「あいつらは命令に従って動いているだけ。さ、今のうちに……って、あら?」
「まほう、つかい……?」
「驚いた? さっきの話、これで分かってもらえたかしら」
「あ、貴女は一体、何者なの?」
「ふふ。さ、急ぎましょう」
そう言うとリディアさんは私の手を取って歩き出した。
続く