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精霊の宝珠 第1話

今回からは、陽子が直美と出会う前の話となっております。

「今日も帰れないんだ。いつも悪いな」

「私は大丈夫。お仕事がんばってね」

「ああ。戸締りだけは気を付けてな」

「うん。行ってらっしゃい、お父さん」


私は、樋口陽子。お父さんと二人暮し。

お母さんとは私を生んだ後、すぐに離婚したことを最近知った。

仕事の関係で別れたらしいけど、年に一度は必ず会いに行っているらしい。

だから、喧嘩別れした訳じゃないみたい。

お母さんがどんな人なのかは、会った事無いから判らない。

毎日仕事が忙しいらしくて、お父さんは最近、あまり家に帰ってこない。

今夜も一人だ。



その日の夜、誰かに夢の中で呼ばれる。

『……さい……起きて下さい……』

え……?


『起きて下さい、人間の少女よ』

眼を開けると、そこには見知らぬ女性の顔があった。

まず目に付いたのが、染めたのだろうか、真紅の髪。そして、これまた同じく赤い瞳。

「あ、あなた、一体誰?」

『こんばんは。やっと起きましたね』

『人間の少女よ、あなたの名は?』

「――陽子。樋口陽子」

つい馬鹿正直に答えてしまう。

名を名乗ってから気付く。ここは私の部屋だ。鍵はしっかりかけたし。

「ちょっとっ、あなたどこから入ってきたのよっ!」

私の言葉を無視する形で、彼女は続けた。

『私はルビス。ルビス=ティアナ。炎を司る精霊です』

「せ、精霊?!」

これは夢だ。そう思った。

『あなたの魔力に引かれてやってきました』

訳が判らない。いきなり何言ってんだ、この人?

『あなたは生まれながら、魔力に恵まれているようですね』

「待ってよ。私、判らないよ」

『大丈夫です。最初から順番に説明します』


彼女の説明はこうだ。

彼女の世界は今危機に瀕している。それはどうやら魔王という奴が原因らしい。

そいつが放った魔物がどういう訳か時空を超えてこの世界に侵入したらしい。

彼女の使命は、その紛れ込んだ魔物を退治すること。

それから、それに対抗できる人間をこの世界で見つけること。

私は他の人より魔力が強かったため、彼女を呼び寄せてしまったらしい。


『お願いです。私と一緒に魔族と戦ってもらえませんか?』

「いきなりそんなこと言われても」

話が唐突すぎる。私は少しパニクっていた。


『信じてもらってないみたいですね』

「当たり前でしょ。そんな非現実的な話。第一、魔力って何よ?」

『判りました。それでは、証拠をお見せします』

そう言って彼女は何かを言い始める。

『――』

それは、人間の言葉ではないような不思議な音だった。


ポウッ

突如、彼女の手の上に小さな炎が現れた。

「火が?!」

『炎の魔法です。これで信じていただけました?』

「――手品師?」

ずる。

あ。コケた。


『どうしてそうなるんですかっ』

「だって、精霊とか、魔法とか言われても」

『判りました。詳しい話はまた明日にしましょう』

彼女の体が朱色に輝きだす。

『また来ますね』

「え?」


次の瞬間、彼女は私の目の前から消え去っていた。

「き、消えた?!」

夢、じゃ、ないよね……

ふと時計を見る。針は四時を指していた。

「……寝よ」



朝。

「おはよっ、陽子!」

教室に入ると。いつもの元気な声が迎えてくれた。

「おはよ、遥。毎日元気ねぇ……ぁふ」

彼女は遠藤遥。近所に住んでる同級生。

まあ、小学校の頃からの腐れ縁みたいなもんかな。

「眠そうね。もしかして、夜更かし?」

「違うわよ。変な時間に目が覚めたから眠いのよ」

あんなことがあったらぐっすりなんか寝られる訳がない。

「ふぅん……ま、いいか。それより今日の放課後、駅前に出来た店に行かない?」

「いいわよ。じゃ、あとでね」

「りょーかい」



「え~っ?! 行けないの?」

放課後、突然遥が謝ってきた。

「うん、急に予定が入っちゃってさ。ごめんね」

「そっかぁ……残念」

「絶対、埋め合わせはするから」

「ほんとだよ。約束だかんね」

「本当、ごめんね。んじゃ、またあした」

「それじゃ」


遥と別れた私は一人でその店へ向かった。


“森のショップ”


最近流行っている雑貨屋で、TVでも何度か放送されたことがある。

その店が私の街にも出来た。

「うわ、すごーい。遥も来ればよかったのに」

品物に目移りしているとあっという間に時間は過ぎた。

いつの間にか、空が茜色に染まっていた。


「もうこんな時間かぁ。帰ろうかな」

その時、店の外に見覚えのある姿が。

「あれ? 遥だ。何してんだろ?」

一緒にいるのは……なぜか男と一緒にいる。

兄妹……であるワケがない。遥は一人っ子だ。

「誰よあいつ?!」

なるほど。理由はこれか。遥め、いつの間に。



興味を持った私は、後を付けてみることにした。

「あれ? いなくなっちゃった」

突然二人の姿が消える。必死に探しながら近くの角を曲がってみる。

あ、いた。

少し先に二人の姿が。こっそりと尾行を開始した。

しばらく行った所にある古びた洋館に入っていく。

「こ、ここって人住んでたっけ?」

しばらくウロウロしていると、扉が開いて中からメイドらしい人がでてきた。

……って、メイドって、この町にも居たんだ……

「あの、何か御用ですか?」

「あ、すいません。この家に私の友達が入るのを見かけたんですけど」

「そうですか……どうぞお入りください」

そのまま入り口に通される。

「それでは少々お待ちください。今、主人を呼んで参ります」

そう言うと、彼女は奥に消えた。


そこは、とても大きな玄関だった。

その広さと迫力に圧倒され、上をまじまじ見上げていると、後ろから声がかかる。

「この家はお気に召しましたか?」

さっきの男だ。遙と一緒にいた男が現れる。


「あなたは?」

「自己紹介が遅れました。私、この館の主、バリーと申します」

「あ、どうも」

礼儀正しくお辞儀をする。

「私は陽子。樋口陽子」

「よろしく。ヨーコ」

「あの、遙がここに来たと思うんですけど」

「ああ、あの子か。今食事中でね。君の友達か。なら、会わせてあげよう。付いて来なさい」


言われるがまま、廊下を突き当たりまで進むと、地下に続く階段があらわれた。

その先に古めかしい扉が見える。こ、この展開は……嫌な予感が。


「あ、あのっ、遥に会いたいだけなんですけど!」

「すぐ会えるから心配要らない」


そんなこといっても、扉からはいかにもといった雰囲気が漂ってくる。

ぎいぃぃぃっ


扉が開いた先には。


「うわぁっ、やっぱりぃぃっ!!」

見事なまでの棺桶が置かれていた。

「くくく……自分から餌が迷い込んでくるとは今日はついているな」

男の姿が豹変した。耳はとがり、目は血走り、口元からは牙と思われるものが。

「嫌ぁぁぁっ! 吸血鬼?!」

間違いなく、その姿は、伝説の吸血鬼そのものだった。

「私帰ります!!」

「おっと、そうはいかない」

がしぃっと腕をつかまれる。

振りほどこうと思っても、ものすごい力で押さえつけられ、身動きが取れない。


「せっかくお友達に会えたんだ。このまま見捨てる気かい?」

「え?」

部屋の奥に眼を向ける。

「は……」


見たくない光景があった。

そこには遥が服を剥ぎ取られた状態で鎖に繋がれていた。

「はるかぁぁぁっ!」

眼はうつろで、いくら呼びかけても反応がない。

たぶんこいつに生気を吸われてしまったんだろう。

「きみも私の役に立ってもらう。ヴァンパイアとしてな」

「絶対嫌! 誰か助けて!!」

私は必死で助けを求めた。誰も来ないのは判っているはずなのに。

「痛いのは一瞬だけだ。何も怖がることはない」

首筋に痛みが走る。


そのまま私は意識がなくなっていった――



続く

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