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精霊の扉 another4 風―独白―






私は、一体何者なのか



『お前は魔族の父親と人間の母親の間に生まれた異端児だ』

小さい時に他人から聞かされ、ショックを受けた。

父は家を留守にすることが多く、私は母に育てられた。

家は魔界の街に存在したが、父が死んだ後、その街は住民ごと灰と化した。

誰がやったのかは定かではないが、何者かが私と母を始末する為だったのだろう。


私は、一体何者なのか




私はすでに3度ほど殺されている。


1度目は母の村で、人間達に


2度目は今は亡きかつての仲間に


3度目は私が愛した人……私がこの手で殺した人に


それでも、私はこうしてここに存在し続けている。




私は、一体何者なのか




本当に私には人間の血が混じっているのか。

そもそも、魔族と人間が愛し合い、子供を授かることがありえるのか。

私が幼い頃のことを教えてくれる人は誰もいなかった。


真実は、何処にあるのか









「長老!! ガーズリッド長老!!」

「……おお、これはこれは、ノエル様……貴女様が此方にお越し下さるとは」

「お昼寝の邪魔でしたか」

「いやいや。こんな辺鄙な場所に……どのようなご用事ですかな」

「ええ、長老にちょっとお話がありまして、うかがったのです」

「ノエル様、今は貴女様の方が立場は上。敬語で話すのは止めて下され」


「聞きたいこと……というか、確認しておきたいことなのですが。

「ほう、この老いぼれに聞きたいこと、ですかな」

「私は、本当に人間と魔族の混血?」

「……」

「もう私の幼少のことを知っているのは貴方だけなの」

「何を――仰られているか判りませんな」

「答えて」

「ノエル様……貴女は人間と魔……」

「答えなさい!!」


「……後悔されますよ」

「やはり、違うのね」

「その通りです」

「教えて。私は何者なのか。何処で生まれ、どう育ってきたのかを」


「貴女様の……ご両親は魔族です。もちろん、人間ではありません」

「……そうね、やはりそうなのね」


「貴女様は、とある魔族の幹部の家に生まれました」

「父は私と同じ風属性だと聞いているけれど、母は?」

「貴女様の母親は、影を操る闇属性で、淫魔の血を引いております」

「初耳だわ」

「代々寿命が来るまで全くの不死身の家系。そして――」

「もはや、私しか居ないということね」

「今の貴女様の力は、ご両親の力が合わさったもの」

「この闇の力は、彼の物ではなくて、母の物だったのね」

「左様です。今の貴女様にはおそらく、敵は居りますまい」

「どうして、黙っていたの?」

「貴女様のことをお守りするためです。この血筋は何としても守られなければなりませぬ故」

「そう……」


「父親の顔は覚えておりますかの」

「あれが正真正銘の父なのね」

「左様です」

「私が覚えている母は本当の母ではないのね」

「はい、あれは貴女のお父様が人間界から連れてきたうちの一人です」

「なるほど」

「主に貴女様の教育や家庭何での世話をする役目を与えられていました」


「貴女のお母様もお父様と同様に一人の人間によって殺されました」

「名は?」

「リイネ=シュミット。それが人間の名です」

「……勇者」

「はい、当時は二人とも前王の部下でございます」

「まさか……父と母が留守の間に、街に火をつけたのは……」

「ご察ししている通りの人物かと、私は認識しております」

「そう、すべて計算済みだったわけね……」


「前王は、二人のことを危険視していました」

「……」

「勇者討伐に向かわせるのは当然のことでございましょう」

「あの男は……どこまで私のことを知っていたのかしら」

「推測にすぎませんが……我々のカモフラージュは上手く行ったというべきでしょう」

「そう……だから、身寄りがばれずに済んだのね」

「はい、前王は貴女様が不死身なのをご存じなかったでしょう」

「あの人が私を利用していたのは知っていたわ。だけど……」

「他言するのは今回が初めてなのです……どうか他のものには御内密に」


「彼の誤算は、貴女様が優しすぎた事、操っている筈の者に消された事、ですかな」

「まだ完全に消えたわけではないわ。復活を企んでいる女がいる。それだけは、阻止しなくては」


「本来、貴女様をお守りするのが私の役目。だが、私には止められなかった。

 こんなふがいない私など、貴女様にとっては迷惑でありましょう。

 私はもう消滅するまで日はあまり長くない。貴女様に殺されるなら、それも本望」


「あなたに死んで貰っても私に得など無いわ」


「今まで黙っていて申し訳ありません。少し楽になりました」

「でも皮肉ね……愛していた男に力を引き出して貰って、それでその人を殺すだなんて」

「ですが、そのお陰で今の貴女様があるのです」

「そうね。本当はこんな力要らないのだけど……あ、そうだ長老、もう1つ宜しいですか?」

「なんなりと」

「不死身は、何をしても不死身なの」

「いえ、1つだけ、貴女様を殺せる方法がございます」

「1つだけ?」

「はい。方法は、聖なる力……武器や魔法などによって、体を蒸発させる方法です」

「確かに跡形も無く消えて無くなるわ。でも、それはちょっと勘弁して欲しいかも」

「同感です。命は最後まで全うしたいものです」


「お邪魔したわね、長老。次はもっと楽しいお話を聞かせてくださいね」

「おや、もうお帰りになられるのですか」

「ええ、仕事もまだありますので。それに、あまり席を空けるとあの子がうるさいのですもの」

「あのマナとか言う人間の」

「ええ」

「あなたに似て、優しそうな目をした子ですな」

「そうですね、ふふ」


「それでは、また来ますね、曽祖父ひいおじい様」

「ああ、またな、ノエル……いや、女王陛下殿、またおいで下さい」

「ふふっ」







私は、生き続ける

たくさんの命を奪ったこの罪を引きずりながら

長い長い時を生き続ける


私が魔族最後の一人になった時

その時は

この体を勇者の剣に捧げて

魔族の歴史に幕を降ろそう


全てが終わった暁には

ルビス様はもうこの世には居ないかも知れないけれど

この精霊の故郷エデンの地を彼らに返還し

世界に本当の平和をもたらすことができるだろう


それまでは


魔が完全に消滅するその時までは

私は生きていなければならない

それが私の義務


魔王としての私の責任――





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