第5話第11話
>Reiko
数日後。しばらくぶりに学園が再開されるらしい。
私とアイリさん、リュートさんは、リヴァノールの視察をする事になった。
「やっとこの日が来ましたわね。待ちくたびれましたわ」
「うん、何か久し振りだねっ」
傷が全快した2人は何だか楽しそうだ。
「さらに強くなった私をお父様に見てもらいますわ」
自信満々のリュートさんに陽子さんが釘を刺す。
「それはいいけど、王宮にいるって事は他言無用にしてよね」
「あら、ヨーコさん、そんな事位言われなくても判っていますわ」
言われたリュートさんは、アイリさんに向き直り。
「アイリ、勢いに任せて口を滑らせたりしないで下さいましね」
「判ってるもん、そんな事!!」
また始まっちゃった……
「ふふふ、相変わらずね、貴女達」
城門を出た所で、後ろから声がかかる。
『ミラさん!』
「久し振りね、3人とも……あら、ルビス様は……?」
ミラさんの前に陽子さんが出る。
「すみません、今日は私が代わりを務めさせて頂きます」
陽子さんによると、ルビスさんはまだ体調が万全ではないらしい。
「貴女は?」
「初めまして、ルビス様の侍女をやらせて貰っている陽子といいます」
ミラさんの前だから'様’が付いているけど、何か違和感がある。
「陽子さんは私の前の学校のクラスメートです」
「へぇ……という事は貴女も人間なの」
「そういう事になりますね」
ミラさんが少し訝しげな表情をしたのが気になった。
どうやらミラさんは人間をあまり快くは思ってはいないようだ。
「貴女といいレーコといい……人間を置いておくなんて……ルビス様は何をお考えなの?」
「私にも解かりません。でも、確実に何か考えているみたいですが」
ミラさんの皮肉にもサラッと返す陽子さん。
なんか2人の間に険悪なムードが。
「あ、あの……そろそろ行かない?」
「そ、そうですわ。何時までもこうしている訳にもいきませんですし」
アイリさんとリュートさんもなんとか取り繕うとしている。
「そうね……時間が勿体無いわね。じゃ、3人とも、行くわよ」
「いってらっしゃい」
陽子さんはワザとらしくパタパタと手を振る。
何かどっちもどっちって感じが……
(怖いよ~リュートぉ)
(わ、私だって、嫌ですわ)
2人のひそひそが後ろから聞こえる。
どうしてこうなっちゃうんですか……はぁ……。
>Naomi
私は、ルビスに呼ばれて、謁見室に来ていた。
「突然呼んでごめんなさいね」
「ううん、全然構わないよ。暇だったし。ところで、一体何するの?」
「ナオミ、今オーブの力使って貰える?」
「いいよ。ちょっとまってね」
私は精神を集中する。宝珠から炎が立ち上がり、私の身体を包む。
奥底から力が湧き上がってくるような感覚。身体中が熱い。
次の瞬間、私の髪の色は赤く変化していた。
「……ふぅっ……変身完了っ」
「流石ですね。もう完全に力をコントロールできていますね」
ルビスが褒めてくれるけど、当の私は結構必死だったりする。
「そうでもないよ。気を抜くと、まだ力に引っ張られちゃう。結構体力居るよ、これ」
ルビスは少し表情を曇らせた。
「そうですか。やはり人間の身体には負担がかかっているのですね」
負担どうこうよりも、元々の魔力のせいだと思うけどなぁ。
私の魔力量は、姉さんやユミちゃんよりも圧倒的に少ないことが判っている。
そのせいで、本来なら魔力だけで制御できるところを、余分な体力を使ってるんだろう。
もう少し、魔力アップのトレーニングを考えないといけないかも。
「ナオミ、その状態どのぐらい続けられますか?」
「30分ぐらいかなぁ……全力で戦えば10分と持たないけど」
ルビスの質問に答える。正直戦力になるか怪しいレベルだ。
結局あのディストに傷一つ付けられなかった。
そのディストを、魔王は1撃で葬り去ってしまったらしい。
しかも、その魔王をも倒してしまったノエルはいったいどのくらいの強さなのか想像もつかない。
「でも、ルビス、どうしてそんな事聞くの?」
「今後のことを考えた結果、貴女にも、騎士団に入って貰えないかと思っているの」
へー、騎士団ねぇ……って、騎士団?!
「わ、私が?!」
「急な話でごめんなさいね」
「ううん、ただちょっとビックリしちゃって……本当に私でいいの?」
「ええ」
騎士団かぁ……私なんかに務まるのかな。
「あら、良かったじゃない、直美」
声がして振り向く。入り口のところに姉さんが立っていた。
「あ、姉さん……見てたんだ」
「いつ見ても凄いわねぇ」
「そ、そかな?」
面と向かって褒められると、何かこそばゆい。
「あら、そう言うヨーコも出来るのよ」
「え、ホント?」
「ええ。ちょっとヨーコに貸してあげて」
私は言われるままオーブを姉さんに手渡す。
「ルビス、それでどうすればいいの?」
「う~ん……今のままだと、ヨーコの魔力が乏しいわね」
「……悪かったな」
「大丈夫ですよ、ヨーコ」
姉さんの手を握るルビス。じっ、とお互いに見つめあう。そして……
「ル、ルビス……」
「いきますよ」
『……んむ……っ』
目の前で展開される、濃厚なキスシーン。
「うわぁ……」
他人の見てる前で、よく出来るね、あんたら……
時間が経つにつれて、姉さんの持っているオーブが、徐々に輝きを増していく。
「わ、凄い……こんな……何これ……」
どんどん溢れてくる光。その光が姉さんを包み込む。
姉さんの髪が次第に赤く染まっていく。
「か、体中が……熱い……あぁぁぁっ!!」
突然ガクリと膝をつく姉さん。髪の色も黒に戻ってしまった。
「……はぁ、はぁっ」
「姉さん?! 大丈夫っ?!」
「な、何で……?」
「やっぱりヨーコの魔力だと、このくらいが限度のようですね……」
「そか……」
姉さんは少し残念そうだった。
「大丈夫。訓練すれば、直美と同じ状態になるのはそんなに難しくないですよ」
ルビスは微笑んでいたけど、私は少しショックだった。
セラに魔力を吸い取られた影響がまだ残っているなんて。
「それでですね、私の後継者の事なんですけど」
『え……後継者?』
「ええ。考えたんですけど、2人のうち、どちらかになって貰うつもりでいるの」
「でも、それだったら直美で決まりでしょ」
姉さんが私に宝珠を返してくれる。
「でも、正直どうしようかまだ決めかねているの」
「私は、ルビスが決めていいと思うよ」
「そうよ、別にどっちがなっても恨みっこ無しなんだし」
「決まるのはずっと先ですけどね。まだスピカや幹部達にも話していませんしね」
確かに、人間がいきなり後継者に選ばれるのはまずいんだろうなぁ。
「それに、色々問題もありますから、それを片付けるのが先でしょう」
「問題って、ノエルのこと?」
ルビスは頷く。
「実はね、今度の会議で今後の事を話し合うんですけど……2人の意見も聞きたいの」
「私たちの?」
「ええ。それまで2人には色んな人と会ってもらってそれで、私に報告して欲しいの」
「わかった。いいよ。ルビスのためだもんね」
「そうね。私も協力する。私もこの国が好きだし」
「ありがとう。恩に着ます、2人とも」
ニッコリとルビスは微笑んだ。
>Reiko
大きな門構え。
久しぶりに見るリヴァノールは、きれいに修復されていた。
「あんなに痛んでいたのに、凄いわね」
「でもね、ほら見て」
ミラさんが足元を指差す。
「完全に元通りになるには、まだ少し、時間がかかるわね」
建物は確かに綺麗になってはいるけど、石畳や花壇などはまだ手付かずのままだ。
「建て直しで変わった場所もあるから案内するわ。ついて来て」
敷地の奥に進むと、石造りの塔の様なものが現れた。
「ここは、今まで無かったよね」
「そうね、ここは生徒の実習のために使って貰おうと思って建てたの」
扉を開ける。中に入るととても広い空間が広がっていた。
数人の生徒らしき人が剣技の練習をしている。
「授業が始まるまで時間があるから、その間生徒たちに開放して使って貰っているのよ」
「あ、そうだ、ミラさん、ちょっと気になっていたんですけど」
「あら、レーコ、何かしら」
まだこのクラスの説明を受けていないことに気付いた。
「特待クラスって、普通のクラスとどう違うんですか?」
「そうね。基本的に何か制約があるという訳ではなくて、自由に行動出来る所かしら」
「自由に、ですか?」
「図書館で書物を読んで勉学に励んでも良いし、実技に紛れ込んで腕を磨いても良いの」
そこまで言って、ミラさんはため息一つ。
「……当然、王宮の任務をしてたっていいわけ」
「あぁ」
「そっか。だから、ルビス様、私たちを特待クラスに入れたんだ」
私達はお互いに顔を見合わせて、苦笑した。
「大きな声じゃ言えないけど、入隊が決まっているのは貴女達3人だけなの」
「そうだったんですのね……」
「でもまあ、他の特待の人たちもいずれは入隊するんでしょ?」
アイリさんに質問に頷くミラさん。
「私は正直、ルビス様の気持ちが分からないのよ。どうして貴女達なんだか」
スッ、と空気が変わった気がした。
「あ、そうじゃなくて、決して貴女達のことを否定してるんじゃないのよ」
ミラさんが慌てて弁解する。
「皆、入って1年かそこらでしょう? 普通は最低でも卒業まで10年はかかるのに」
確かに、ありえないことなんだろう。ミラさんの思いも判る気がする。
と、数人の生徒達が私達に気付き、近寄って来た。
そのうちの一人が、アイリさんに声をかける。
「なあ、あんた、例の店の子だろ」
「うん、そうだけど、何か用?」
「オヤジに店もっと開けるように言ってくれよ」
「え、意外……」
「大きな店には置いてないようなものがあってさ、重宝してるんだよ」
「へ~、そうなんだ……でも難しいと思うよ。自分の好きでやってるだけだし」
「そこをなんとか頼んでくれよ。週3日じゃなかなか時間が合わないんだよ」
アイリさんの周りに人だかりができるのとほぼ同時に、女の人に声をかけられる。
「貴女が噂の人間の子ね。ルビス様の推薦で入ったっていう」
「そ、そうです……あの……」
私が対応に困っていると、さらに近寄ってくる生徒たち。
「あ、私も知ってるわ。今度特待クラスになったんでしょう? 凄いわね」
「ど、どうも。でも私、そんなに有名なんですか?」
「みんな知ってるわよ。一度会ってみたかったの」
ちやほやされる私とアイリさん。
と。
「どうして皆さん私を無視なさるんですの?!」
「だって、リュートは別に……」
「なぁ」
「ああ、何か今更って感じだしな」
「……」
あ、何か嫌な予感が。
「……貴方達……私を怒らせたこと、後悔させて差し上げますわ!!」
「うわわっ! リュートがキレたぁ!!」
「にげろ~!!」
クモの子を散らすように逃げて行く生徒たち。
「あ~あ、始まっちゃったね、レーコ」
「ええ……」
「相変わらず進歩がないわね、リュートは。卒業させないわよ、全く……」
ミラさんも呆れ顔だ。
「あ、そうだ、ミラさん、授業の再開はいつからですか」
「そうね、大体一月くらい先になるかしら」
「判りました、ありがとうございます」
「でも、どうしてそんなこと聞くの?」
「いえ、ちょっとやることがありますので……」
「ふぅん……」
ミラさんは怪訝な顔をするけど、あえて気にしないことにした。
異世界に帰るなんて言っても、信じてもらえなさそうだし。
あれ、ジュアンさんだ……
離れた場所に、一人練習に励むジュアンさんの姿を見つけた。
私は彼と一度だけ手合わせをしたことがある。
あっさり負けちゃったけど。
「こんにちは」
「ああ、あんたか。また会ったな」
「ええ。ここには何時から?」
「昨日だ。開放されていたのを知らなくてな」
「私は、今日初めて来ました」
「そう言えば、あんたらも特待に入ったそうじゃないか」
……も?
「も、てことはジュアンさんもなんですか?」
「ああ。つい一昨日、な」
「そうだったんですか。でも、納得です」
ジュアンさんみたいな強い人ならすぐ卒業できそうだ。
「ちょっとレーコ、話してないで紹介してよ」
後ろからアイリさんに呼ばれる。
「あ、そうでしたね」
「土属性のザラス=ジュアンだ」
「私は、アイリ=クリスティア。宜しく」
2人は握手を交わす。
「……なるほど。やはり名家の者だったか」
「やっぱり家名でばれちゃうよね。色んな意味で有名だからね、ウチは」
アイリさんは少し困ったような表情を浮かべる。
「なに、重要なのは家名ではない。人柄だ」
「そう言って貰えると嬉しいな」
「ジュアンさんとは、以前合同練習で一緒になったことがあるんです」
「へぇ。そうなんだ。レーコと戦ったってコトは強いんだね」
アイリさんの言葉に反応したのか、無言で剣を抜き放つジュアンさん。
見たところ、練習用の剣じゃないみたいだけど……
「え……ちょっと……」
突然の事で驚くアイリさん。
「アイリさん、ちょっと下がっててもらえます?」
「だ、大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫ですよ。それに」
心配そうなアイリさんに一言言った後、彼に向かって。
「それに、力試しには丁度いいですし」
「そうか。あの時よりは強くなったのか?」
「……いきます」
私も腰の剣を抜いた。
今回は練習用の剣じゃなくて、白耀石の剣。
私は覚悟を決めた。
キィィィン
何度となく響く乾いた金属音。
相変わらず、彼の剣は重い。
しっかり柄を握っていないと、弾かれてしまいそう。
「くっ、やっぱり、鋭い太刀筋ですねっ」
「あんたも……前よりはやるじゃないか」
異変を察知したのか、ギャラリーが集まってきていた。
その中にはリュートさんも混じっているみたい。
「どこを見ている?」
ガキィィ
「く……」
彼の一撃をなんとか受け止める。
あまりの力に、手が痺れる。
なんとかそれから逃れようと、距離を開けるため、後ろに飛んだ。
「させるかっ」
さらに追い討ちとばかり剣が振り下ろされる。
ヒュンッ
私の脇を太刀筋が掠める。
「ひゃぁっ?!」
剣圧で、衣服が裂け、赤いすじが一本、私の腕を伝って、床に落ちる。
「レーコ!」
「大丈夫です……でも、やっぱり流石ですね」
「今のを避けられるとは思わなかったぞ。腕をあげたな」
もし避けられなければ、彼の剣は、私の腕を切り裂いていただろう。
「……では、私も……いきます!!」
私は剣に魔力を込めた。魔力が剣から溢れ出し、輝きだした。
「何だっ!?」
「レーコ、それ、もしかしてッ?!」
「……閃光斬!!」
思いっきり力を込めて、振り下ろす。
白い閃光が、一直線に、彼に向かっていく。
「ぐはっ?!」
衝撃波を受けたジュアンさんは、壁に叩きつけられていた。
周りがざわつき始める。練習で使ったのは、ちょっとまずかったかも……
「ちょっと、レーコさん、何ですの、今のは?!」
凄い剣幕でリュートさんが駆け寄ってくる。
そっか、リュートさん、まだ知らなかったっけ。
「レーコ、貴女……いつの間に、そんな技を……」
ミラさんもしきりに驚いていた。
説明するのが大変だなぁ……どうしよぅ。
「ビックリしたでしょ。アレがレーコの必殺技だよ」
アイリさんが、何故か胸を張る。
「別に、貴女の技じゃございませんでしょう。どうしてそんなに偉そうなんですの?」
「いいじゃない、別に」
私は、周囲の反応から逃げるように、ジュアンさんのもとに向かっていた。
「大丈夫ですか? でも、勝負ありましたね」
「つつ……何だ、今の技は……驚いたぞ」
「ごめんなさい。でも、普通にやったら貴方には叶いませんから」
「まったく、大した女だな、あんたは」
褒められる。その一言が、凄く嬉しかった。
>
「くそっ……何なんだ、一体っ!!」
ズガァアアン!!
拳が床にめり込む。
ガシャァアアン!
燭台が床に落ちて、砕け散る。
「あんな人間の小娘に、誰が従うかっ!」
既に部屋の至る所が破壊されていた。だが、まだ怒りが収まっていないようだ。
「ちょっと、サイモン! 少し静かにしてよ!」
フェージュは、憮然としながら読んでいた書物を閉じた。
「何いっ?!」
サイモンは、今にもつかみかかろうかという勢いで、フェージュに詰め寄る。
「サイモン、いい加減少し落ち着いたらどうだ!」
さすがに我慢出来なくなったのか、ナーベルが押さえる。
「これが落ち着いていられるか!! よく平然としていられるな、フェージュ」
「ボクだって嫌なものは嫌だけど。じたばたするのはみっともないよ」
「じゃあ、お前はどうするつもりだ? このまま黙って見ているのか?」
「そんな事言われても……しょうがないし」
返答に詰まるフェージュ。それを隣に居たローリエがフォローする。
「まあ、ノエル様も、何か考えがあってのことだと思うわ。あまり気にしないことね」
サイモンは、そんな仲間の様子も、気に食わないようだ。
「けッ……どいつもこいつも……あんな人間の小娘などっ」
そこまで言ってサイモンは、ふと、ある考えが浮かんだ。
(そうだ。何も臆することはない。相手は何の力もない人間だ)
彼は心の中で、不敵な笑みを浮かべていた。
(邪魔な輩は排除してしまえばよい)
「元々、俺はあの女が王になるのは反対だったんだ」
そう捨て台詞を吐いて、部屋を後にする男。
「ちょっと、どこ行くの?!」
「小娘より強いって所を見せ付けてやるよ」
「ちょっと、サイモン!!」
追いかけようとしたフェージュの腕をナーベルが掴む。
「よせ、フェージュ。止めても無駄だ」
「それは、そうだけど……でも、いいの?」
「なに、あの少女の力を見るいい機会だ。ノエル様が認める位だ。力があって当然だろう」
「まさか、ナーベル、サイモンを見殺しに?!」
驚くフェージュに、ナーベルは静かに頷く。
「ああいう輩は、後々いらん荷物になる。遅かれ早かれ消えることになるだろう」
「そうね。私もあの男は嫌い。丁度良いわ」
ローリエもナーベルに同意した。
「でも、もし、あの人間が負けたら?」
フェージュの問いに、少し考えたナーベルは。
「それならそれで、ノエル様が黙っていないだろうからな。結果は変わらんだろう」
>
「ノエル様……どうしてあんな紹介をしたんですか?」
「あら、不満だったかしら?」
「そういう訳ではないんですけど……」
顔を俯かせる眞奈美に、ノエルは優しく微笑む。
「大丈夫よ、マナは十分強いですから」
「ノエル様……やっぱりそういう事だったんですね?」
「ごめなさいね。帰り道色々あると思うけど」
「いえ、それでは、お休みなさい、ノエル様」
「おやすみ、マナ」
ノエルが闇に溶け、気配が消える。
と、ほぼ同時に、反対側の物陰から何か気配を感じた。
「ククク……ッ」
「な、何……?」
瞬間、眞奈美の左腕には細い糸のような金属が巻きついていた。
(これは……?!)
その先に目をやる。
背後の闇の中から、1人の男が。
その10本の指先からは、糸が伸び、眞奈美の腕を捕らえていた。
「捕まえたぞ、小娘」
「くっ、待ち伏せとは卑怯ですね……」
「なぶり殺してやる……ククククッ!」
腕に巻き付いているが、そのまま腕を締め上げる。
「ああぁぁ……ッ!!」
腕に食い込み、真っ赤な血が、地面にボタボタと滴り落ちた。
続く
あとがき
「みなさま、こんにちは。司会のアイリ=クリスティアです」
「こんにちは、鷹野玲子です」
「何か、久し振りだね、レーコ」
「そうですね。前回までは、色々邪魔が入ってしまっていましたから」
「もう来て欲しくないな、魔族……」
「アイリさん、完全に魔族恐怖症になっちゃいましたね……」
「それでは、今回のゲストをお呼びしたいと思います」
「この度、めでたく特待クラスになった、ザラス=ジュアンさんで~す」
「どうでもいいが、何だ、このテンションは……」
「ここはあとがきだから、あまり気にしなくていいんですよ?」
「いや、どうもこういうのは苦手でな……」
「ジュアンさん、もっと普段から他の方とお話された方がいいですよ?」
「そういや、実習場の中に居たときも1人だったね」
「1人の方が落ち着くからな」
「そういうものなの?」
「ああ」
「そういえばmから、詳しいプロフィールを紹介するようにメールが届いてるよ」
「アイリさん、mさんのこと呼び捨てなんですね」
「あったり前でしょ、あんな奴……きゃふっ?!」(打撃音)
「わ、私じゃありませんよ?」
「俺でもないぞ」
『……』
「き、気を取りなおして、それではジュアンさんのプロフィールです」
「年齢は116、属性は土だ。このリヴァノールに入学してから丁度8年になる」
「うわっ、7年も先輩なんですね……あ、でも年齢的には私のほうが倍位生きてるけど」
「土の精霊は短命だからな。特に、炎の貴族様は長命だろうしな」
「貴族様って柄でもないんだけど……」
「ところで、ジュアンさんが学園に入ったきっかけって何なんですか?」
「あ、それ私も知りたい」
「そうだな……俺はリーフにある小さな港町に生まれた」
「リーフってウインズを超えて、海を渡った対岸にある国ですよね」
「ああ。俺はそこの漁師の家に生まれた」
「へ~、それがどうしてコランダムに?」
「以前、俺の町に魔獣が出現して暴れたことがあった」
「ふむふむ」
「その時、たまたま通りかかったコランダムの部隊が助けてくれた」
「そうだったんだ……それってもしかして、オニキス様?」
「ああ。だが俺はその時オニキス様の姿は見なかったのでな」
「え、そうなんですか」
「それを知ったのは後になってからだ。その時は、一人の女性兵士に助けてもらった」
「その人への憧れがあって、コランダムに?」
「もう会えるかも分からんがな。何せ30年以上も前のことだ」
「え、でもその人だって覚えているかもしれないじゃないですか」
「それは無理だろう。何せ、こっちは名前さえも知らないんだぞ」
「ん……でも、オニキス様と同行していた人でしょ?だったら限られてくるんじゃない?」
「アイリさん、それ以上はネタバレになりますからやめて下さい」
「あ、いけない。つい」
「お前達……もしかして、知っているのか?」
「すみませんジュアンさん。でも、後で必ず判ると思いますから」
「仕方ない。さっきみたいにどつかれるのは御免だからな」
「うう……やっぱりmの仕業……ごへぇっ?!」(撲殺音)
・
・
・
・
・
「さ、アイリさんが沈黙した所で、そろそろお時間となりました」
「……いいのか?」
「いいんじゃないですか?多分、次回にはぴんぴんしてると思いますから」
「つくづく恐ろしいな……」
「お相手は司会代行の鷹野玲子と、ザラス=ジュアンさんでお送りしました♪」
「こんなに殺伐としていたのか、ここは……」