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第5部第10話

>Yohko

食事を持って寝室に入る。

「ルビス、お腹空いたでしょ……あれっ?」

丁度ルビスが体を起こそうとしている所だった。

「ちょっと、もう動いて大丈夫なのっ!?」

「ええ、平気です、心配かけましたね、ヨーコ」

平気な訳が無い。

傷は、胃と肺にまで達してた。

ルビス自身も、あれから丸一日以上気を失っていた。

ついさっき目が覚めたばかりで、本当なら、動くだけで痛いはずだ。

「いつまでも寝ているわけにもいきませんから……ね……ッ?!」

ベッドから立ち上がろうとする瞬間、ルビスの顔が歪む。

「ほら、肩貸すわ」

「……ありがとう」

「本当に大丈夫? 今日一日だけでもゆっくり休んだ方が……」

「そうしたい所ですけど……やることが溜まっていますしね」

確かに、ここ最近色々あったから判らなくもないけど……

「まあ、これでもノエルもかなり加減していたようです」

そう言ってルビスは苦笑する。

「普通ならとっくに消滅していますよ。自分の力の無さを痛感しましたね」

部屋を出る。見た目あまり判らないけれど、ルビスは何とか歩いている状態。

人目があるから、あまり悟られないようにしているみたい。かなり辛そうだ。

すれ違う下級精霊達は、皆端に寄り、敬礼をする。見慣れた光景。

私は、内心ヒヤヒヤしたけど、幸い、ルビスの様子に気が付く人は居なかった。


「大丈夫?」

人通りが途切れた所で、私はルビスに問い掛ける。

「ええ、大丈夫ですよ」

普段と変わらない笑顔が返ってきた。でも、それが何か逆に痛々しい。

「ところで、アイリとスピカのケガの様子は?」

やっぱり、自分の事より2人の様子が気になるらしい。

「ん……あんまりいい状態じゃないよ」

私の一言で、ルビスの表情が曇る。

「特に、スピカさんは、精神的にもショックだったみたいで」

「そうですね……スピカには相当プライドがありますから」

騎士団長で、ルビスの近衛という立場上、彼女の自信を無くさせるには十分だったと思う。

「あれから部屋に鍵がかかってて閉じこもったきりなんだよね。ちょっと心配」

「そう、ですか。その点、アイリは心配ないですね」

「まあ、体が動かせないから、自分の部屋から出られないのが嫌みたいよ」

「あの子には、それでも辛いでしょうね。少し様子を見に行ってみましょうか」

私達はアイリの部屋に入ることにした。


トントン

「アイリ、入るわね」

「あ、ヨーコさん。どうぞ」

扉を開ける。

寝巻き姿の彼女の腹部と腕には、白い包帯が巻かれていた。

「アイリ、失礼しますね」

「ル、ルビス様……わ、わ……あ、痛っ?!」

突然のルビスの訪問を予想していなかったらしい。

慌ててベッドに潜り込む。どこかぶつけたかな?

「こんな格好で、申し訳ありません……」

恥ずかしそうに頭だけを毛布から出している。

「こちらから押しかけたのですから、気にしないでください。具合はいかがですか?」

「ヨーコさんのお陰で、だいぶ良くなりました」

「そう、それは良かったわ。ゆっくり休んでくださいね」

アイリの目から大粒の涙が。

「ルビス様、私、わたし……全然お役に立てなくて……」

「アイリ……大丈夫、あなたは十分に戦ってくれましたよ」

「え……」

「貴女が勇敢に戦ってくれたお陰で、こうして無事で居られるのです。ありがとう」

「ルビス様ぁ……」



アイリを励ました私とルビスは、再びルビスの寝室に戻っていた。

「ふぅ……少し疲れましたね」

そう言ってルビスは、ベッドに腰を下ろした。

少し城内を歩いただけでこの状態だ。しばらく外出は無理そうだな……

「ふふ、そんなに心配そうな顔をしないでくださいよ」

「でもっ」

「大丈夫ですよ。それに、一国の王がしっかりしなくてどうするんですか」

やっぱりルビスは強いなぁ……


「そういえば、今回来た魔族って、ノエルと秋本さんの二人だけだったの?」

「いえ……もう1つ反応がありました。ただ、街の外でしたが」

「見張っていろって事だったのかな」

「そうでしょうね。もしも私がノエルに勝った時のためではないでしょうか」

ルビスには誰だか見当が付いているみたい。思い当たる節は……1人居た。

「あ、もしかして、あの時の……」

「ええ、多分、彼でしょう」

サファイア様が亡くなったあの日。ノエルの部下と名乗った男性――

何か凄く余裕の笑みを浮かべていた記憶が……

思い出したら凄くムカついてきたな。

「今回の件は、国民には知らせないでおこうと思います」

私は頷いた。

サファイア様が亡くなって、ただでさえ魔族に対して神経質になっているんだ。

それが知れると、収拾がつかなくなる恐れがある。

「まずは街全体の防御を強化しないといけませんね……ヨーコ、街の地図あります?」

「うん、ちょっと待ってね」

私はノートパソコンを取り出し、コランダムの地図を画面に出した。

「それってホント、便利ねぇ……あ、もうちょっと北側……もっと西」

ルビスの指示で、地図を移動していく。

「王宮周辺から北側、それから西側と正門付近が一番守りが堅いの」


こうしてみると、コランダムの街って、意外と入り組んでるな。

王宮が街の北西側にあって、直ぐ北側が、門と、騎士団の演習場。

東側が、裏門、南側が正門。正門から南側に大通りがまっすぐ伸びている。

西側には門はない。代わりに兵士が居る塔のようなものが立っている。

城の南側が一般の住居、その南と南西が商店、東側が高級住宅街、その東がリヴァノールだ。

鷹野さんが住み込んでいた教会は、リヴァノールの近くにある。

大通り以外は、狭い道が複雑に入り組んでいて、迷路みたい。

外敵の侵入を難しくする狙いがあるようだ。


「ただ、ここが一番弱いのです。この辺りからいつも侵入を許しているようですね」

ルビスが街の一角を指差す。お城のちょうど対角線、南東の住宅地のさらに奥。

街の外壁一枚隔てて、深い森が広がっている地域だ。


「この辺りって、私、まだ行ったことないよね」

「そうですね、この辺は身分があまり高くない方たちの住処となっています」

ルビスの顔が少し曇った気がする。

「幹部たちは、彼らのことを思わしく思っていません。むしろ邪魔にさえ思っています」

「……差別してるんだ?」

ルビスは小さく頷く。

聞けば、この辺りの住民は、昔の大戦で、あぶれた者が多いとのこと。

コランダムと仲が悪かった、あるいは関わりが無かった種族が多く住んでいるのだという。

「悲しいことです。精霊同士でも仲が悪いだなんて」

それは私達人間にも言えると思う。国が違ったり、民族が違ったり。

ただそれだけの理由でいがみ合い、他人を傷つける。

相手を理解しない限り、こういった争いはなくならない。


「この辺りが、王宮から一番遠いので、どうしても目が届きにくいのです」

「何か手はあるの?」

「夜間は対魔結界を2重にしましょうか。本当は兵を増やした方がいいのですが……」

そう言って、少し考えた後。

「周囲の目もあります。兵力を強化した事が知れれば、いい印象は与えませんし」

「確かにそうだよね」

「ええ。それに、警備というのも、楽な仕事ではありませんから」

そういえば、ルビスも騎士団に居たんだっけ。

「今はあまり民に負担を強いるべきではないと思うのです」

「でも、そのためのリヴァノールでしょ」

「ええ。ですから一日も早く授業を再開したいのですが……」

聞く所によると、生徒の方が前回の件で恐怖心を持ってしまったみたい。

「そっか……それも大変だね」


「あ、そうそう。リヴァノールといえばね」

突然話題が変わる。

「近々、レーコ達にリヴァノールに行って貰うことになってるの」

「何かするの?」

「ええ、修繕作業がどこまで進んだかの確認をね」

そういえば、学校も結構壊れちゃったって言ってたっけ。

「校舎がないと、授業したくても出来ませんからね」

私は頷いた。

「で、そのリヴァノールの辺りですけど……」

私とルビスの作戦会議? は、夜半過ぎまで続いた。



魔域の最深部の宮殿――

そこの大広間に幹部5人―男3人女2人―が集められていた。

その中にはラウルの姿もあった。

『おい、ラウル。一体何が始まるんだ?』

『さあ……ノエル様が我々に何かおっしゃるのだろうが』

その一言に不快感をあらわにする男。

『とぼけるな。一番近い所に居るお前が、知らない筈がない』

『判らんものは判らん。何も聞いていないのでな……おっと、いらっしゃったぞ』

闇の奥からノエルが姿を現した。

「みんな集まっているかしらね」

ノエルは、部屋の中央に置いてある玉座に腰を下ろした。

『ノエル様、本日は、どのような?』

赤い髪の女が質問をする。

「今日はね、皆に会わせたい人がいるの。マナ」

「はい――」

影の中から黒い髪をした、一人の少女が現れた。

『人間の……小娘ですか?!』

「ラウルはもう知ってるわね。紹介するわ。名前はマナ。属性は闇よ」

「はじめまして、マナです。ノエル様には以前から大変お世話になっております」

一同の表情が瞬時に変わる。

『どういう事だ、ラウル?!』

『ま、待て、確かに知っているが……ノエル様、これは一体?』

「これからマナに順番に紹介していくから」

そう言うと、ノエルは眞奈美に幹部を一人一人紹介し始めた。

「一番右がサイモン。彼は金属を扱うのが得意で、様々な形に変形させる事ができるの。

 次が魔剣士のナーベル、彼の剣は固い岩でさえも簡単に切り裂くことができるの。

 隣がローリエ、彼女の魔法の威力は魔域でもかなり高い方だと思うわ。

 最後が弓使いのフェージュ。彼女はいろいろな物質を矢にすることができるの」

ノエルの説明が一通り終わった後、眞奈美は一歩前へ出て、ぺこりと頭を下げた。

「彼女にはこれからラウルと一緒に、私のサポートに付いて貰う事にしたの」

その一言に、一同は驚きの声を上げる。

『な、何ですって……?!』

『ノエル様、ご冗談も程ほどに……』


「……静まりなさい!」

ノエルの一睨みによって、場の雰囲気が凍りつく。

『し、しかし、ノエル様……』

「力が無いかどうかは、すぐに判るわ。話はそれだけよ」

そう言うと、ノエルはマナを連れて部屋を出て行った。

『くそっ、何なんだ一体!』

『人間の女が、ボク達よりも、上?!』


ラウル以外の4人は面食らった様子で混乱している。

一方のラウルも、訳が判らなかった。

(一体どういうおつもりなんだ、ノエル様は)

サポートをするということは、事実上眞奈美の立場は彼らより上になってしまう。

こういう紹介の仕方をすれば、部下の反感を買うことは予想出来た筈だ。


(仕方がない。ここはしばらく様子見といくか。何か考えがあるのだろうからな)

まだ続いている騒ぎをよそに、ラウルはそっとその場を後にした。



続く


あとがき

「さて、前回に引き続き、魔王ノエルと」

「ラウルがお伝えしています」

「前回だけで終わりじゃなかったんですか」

「前回はあまり話しをしなかったからな。オマケで許してやってくれ」

「わ、mさん、居たんですか」

「居ちゃ悪いか」

「い、いえ。別に……」

「何で来んのよ、別に居ても意味ないでしょ」

「あ、アイリさん?!」

「ふむ、アイリは作者に対する態度がなってないようだな」

「な、何よ……」

「ちょっとこっちに来なさい」

「や、ちょっと、何す……ぁ、だめ、そこ、は……ッ?!」


「……」

「……」




「……ルビス様……私……わたし……」

「の……ノエル様、今のは見なかったことに致しましょう」

「そ、そうね……さ、さて、改めまして、司会のノエルです」

「今回は、作者のm氏がいらっしゃってます」

「改めまして、mです」

「それにしても、私、随分久し振りにお会いしました」

「この5部はある程度キャラそのままな感じでやろうと思って、あまり出てないからね」

「なるほど。今回はどうしていらっしゃったのですか?」

「今回は、今後の展開と、第6部に向けて少し……おっと」

「こら~! 私も出せ~!!」

「直美、今回は呼んでないぞ」

「うるさい! どうしてヒロインの私が2回続けて出番ないのよ?!」

「9話に出てたじゃないか」

「あんなので出たって言えるかぁ!」

「贅沢を言うな」

「あのねぇ……私の話でしょ、これって。何で私視点の話にしないのよ」

「仕方ないだろ、この第5部は直美の視点で書くと解かりづらくなっちゃうんだから」

「確かに私とルビス様中心のお話ですしねぇ……」

「むぅ。じゃ、しばらくこんな感じなの?」

「話の流れ上、陽子の視点で進めてるからね。ルビスの一番近くにいるのは陽子だし」

「で、今後はどうなるの?」

「もうすぐ5部も終わるから、新キャラを出したりもしたいんだけどね」

「それは、楽しみですね」

「展開上厳しかったりするから、つじつま合わせが大変だよ」

「それを何とかするのがあんたの仕事でしょ」

「へいへい」

「6部はどんな話になるんですか?」

「ふむ……聖魔大戦、再び?! みたいな感じで」

「え」

「このまま終わる筈が無いと思っていましたが。やはりですか」

「とりあえず本編は7部か8部で終える予定ではいるけどね」

「じゃ、次のお話で私たちの運命が決まってしまうということですね」

「ふむ、ノエルはなかなか鋭いね」

「冗談じゃないんですね……」

「やっぱアンタ、鬼だわ」

「褒め言葉として受け止めておくよ」

「褒めてな~いっ!!」



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