精霊の扉 第10話
気を失っているルビスさんを抱えて、何とか家に辿り着いた。
傷の手当を終えて一息ついた私達は、これまでの経緯を一通り和也に説明した。
「この人が精霊の王女様、ねぇ」
「信じられないかもしれないけど、そうらしいのよ。私たちもさっき知ったんだけどね」
「ふぅん……」
和也はルビスのことをまじまじと見つめる。
その時になって姉さんが、ある異変に気が付いた。
「見て、直美。ルビスの髪の色!」
ほんとだ。確かに、赤髪がいつの間にか黒くなっている。
「何でだ? 普通黒だろ?」
あ、そっか、和也は知らないんだっけ。
「ルビスさんの髪の色は、元々赤い色なの」
「そうなのか?」
「うん。でも、なんでだろ」
「多分、魔力のせいじゃないかと思う」
そういや、ルビスさんが気を失う直前、魔力がどうのって言ってた気がする。
ルビスさんをベッドに寝かせたところで、思い出した。
「あ、そういえば」
前から和也に聞いてみたいことがあったんだった。
ドタバタしてたせいで忘れてたけど。
「私たちの力はルビスさんのなんだけど、和也の力は? 誰かに教わったんじゃないの?」
「そういえばそうよね。同じ様に力を得たんだったら、他にも精霊が居たりするんですか?」
姉さんも気になっていたみたいだ。
「いや、俺のは、そういうのじゃないんだ。よくわからない」
「わからないって、どういうことよ?」
私の問いにも、和也はあいまいな表情をするだけだ。
「気付いたら使えるようになっててさ」
和也は自分の手をまじまじと見ていた。
「なんで自分がこうなったのか……何か頭の中に引っかかってる。
大事なものを忘れてしまったような感覚なんだが……良く説明できない。すまん」
「ううん、私もごめんね、変なこと聞いて」
「ま、これは運命だって、割り切ってるけどな」
和也らしい、そう思った。
「でもまさか、使える人がこんな身近にいるなんて思わなかったが」
「そうね。多分、世界中探しても使える人私たちだけかも」
そう考えるとなんかおかしかった。
その時ルビスさんが目を覚ました。
「ルビス! よかった……」
姉さんが真っ先に抱きついた。
「あれ? ヨーコ?」
「大丈夫?」
ルビスさんは周りを見渡して、少し考えていたけど、理解したようだった。
「ええ、ありがとう、ヨーコ」
「でも、髪の色が…」
「大丈夫です。しばらくすれば直ります。心配しなくても平気ですよ」
「そっか、よかった……」
抱き付いたままの姉さんの瞳から大粒の涙が。何にせよ、皆無事でよかった。
「あいつら、また来るかな?」
「さあ? それは私にも分かりません。でも、あれだけ痛い目にあったんです。
だからしばらくは大人しくなるでしょう」
「そうだね、あっちもかなりの痛手だったみたいだし」
実際、今の現状で、また襲われたりしたら、かなりやばいのは間違いない。
そういう意味においては、勝てなかったにしろ、痛み分けで良かったと思う。
「それに、私が戻ってこないのに仲間が気付けば、多分扉の封印を急ぐでしょう。
そうすれば通れるのは、ほんの一握りの人達だけ。魔族も簡単には来られません」
「ふうん。なら、安心かな」
「でも、魔力が回復するまで精霊界には戻れませんね」
確かに、移動にはかなりの魔力を使うもんね。
「これからどうするんだ? この人、家無いんだろ」
和也の疑問ももっともだ。
「うちに住ましてあげられないかな。あ、でもどうやって説明しよう」
「緊急事態なんだろ。だったら説明すればわかるって」
「そうかなぁ……」
でも、そんな心配取り越し苦労だった。
お母さんは二つ返事でOKしてくれた。なんにせよ、一安心よね。
「精霊さんなんて、メルヘンチックでいいわね」
そんな悠長な事言ってられないんだけどね。襲われるかも知んないし。
そう言ったら笑って返された。
「あら、その時は二人で守ってくれるんでしょ? だったら心配ないじゃない」
なんというか、危機感のない親というか。
ま、いっか。放任主義だとこういう時助かるよなぁ。
というわけで、家に新しい家族が増えました。
三月――
「やったぁ。受かったぁ!」
合格通知の入った封筒。
家から一番近い、県立の高校に受かることができた。
高校なんて受かると思ってなかったんだけど、やれば出来るのね、私。
あの後、何事も無かったおかげで、勉強に集中することができた。
姉さんのアドバイスのお陰もあると思う。やっぱり頭の良い人に教わるのが一番だ。
「良かったわね。ナオミ。合格祝いに一杯する?」
ルビスさんがビール缶を持ってきた。
「ちょっと、未成年はお酒だめなのよ」
「残念ねぇ」
ショボーン、という表現がぴったりの顔で冷蔵庫の前まで行く。
そして、そのまま数本の冷えた缶チューハイを持ってきた。
「残念って……まだ飲むの?」
「お酒は精霊力の源だもの。ドンドン飲まなくちゃ」
そう言ってぐいっと飲み干す。
もしかしてルビスさんって、酒豪?
今、ルビスさんは、お母さんの働いてるお店で手伝いをしている。
うちでは抜けてるお母さんは、実はかなりエライ人だったようだ。
あっさりと働くことを許可させてしまったのにはビックリした。
お金もかなり貰ってるらしい。人は見かけによらないなぁ。
姉さんは難関私立の女子校に推薦で入った。さすが学年トップ。
「春から寮に入ることにしたの。別に家からでも良かったんだけどね」
「そうなんだ。寂しくなるね」
「なんか新しい生活したいなぁと思って。休日には帰ってくるわ」
和也は市外の高校に通うみたい。
みんな春から別々の学校かぁ。
別に会えなくなる訳じゃないのに、このモヤモヤは何なんだろう……
「よお。直美。何しけた面してんだよ」
「だ、だって……みんなバラバラなんだもん」
胸の鼓動が速くなっていく。
「近所なんだから、いつでも会えるだろ」
「う、うん……でも」
ドクン、ドクン
「どうしたんだよ」
顔が近づいてくる。
今しかないと思った。
「あ、あのね、和也……」
「ん?」
「私ね、実は最近気付いたことがあるんだけどね……」
「何だよ、もったいぶって」
「私ね、ずうっとね……あなたのことが……」
彼の表情が変わる。
そして、
私は彼に抱きしめられていた――
精霊の扉第1部 FIN
あとがき
「こんにちは。樋口陽子です」
「どもっ。水口直美ですっ☆」
「元気ねぇ……はは~ん、さては……」
「お、お姉ちゃん! 恥ずかしいよっ///」
「今更何よ。エンディングで告白までしたくせに」
「だ、だって、あれは成り行きで……」
「誤解した読者様もいたんじゃないの?」
「そ、そうかも……」
「あ~あ、女子校だから彼氏はできないんだろうなぁ」
「大丈夫よ。絶対出会いはあるって」
「ほんとに?」
「……た、多分」
「……」
「あら、どうしたの、二人共?」
「べ、別に」
「そういえば、ルビスって、婚約者いるの?」
「何? 突然?」
「王女様って許婚って決まってるんじゃないの?」
「私はいないわ、そんな人。まあ、国によってじゃないかしら。でも突然どうして?」
「だ、だって……」
「……ああ、なるほど。彼ね」
「……」(ぎくッ)
「さ、さて、次回から高校編よ」
「えーっ、これで終わりじゃないの?!」
「何言ってるの。これからが大変なんじゃない」
「そうですよ。あなたたちは魔族に目を付けられてしまったんですからね」
「それに、魔王どころか五将軍も二人しか出てないし」
「う~……じゃあ、こういう生活がしばらく続くって事?」
「そうですよ。だからもっと二人には力をつけてもらわないと」
「でも、ルビスですら一人で勝てなかったんだよ。それにどうやって勝てと?」
「……さ、そろそろお終いにしましょうか」
「え~っ!」
「誤魔化すなあっ!」
「それでは皆さん、お相手は精霊ルビスと」
「水口直美と」
「樋口陽子でした~」
「では、次回作でまたお会いしましょう」
「(ボソ)出るかな……ホントに」
みやびです。
皆様、ここまで読んでいただいてありがとうございます。
とりあえず、第1部はここまでとなります。
次回から本編を少しお休みして、アナザー的な話を始めていきたいと思います。