”腰痛高校生”〔Ⅰ〕
高校生の佐久間 司は、ある朝起き上がると腰に痛みを覚えた。
今までも多少の痛みは感じていたが、この日はいつもと様子が違う。
司が”腰痛高校生”になった日――今思えばこの日を境に、異世界への道を歩み始めた。
俺――佐久間 司は、ある朝起き上がると腰に痛みを覚えた。
数日前から若干腰は痛かったが、朝起きた時から痛いと思うのはこの日が初めてだった。
イタタタ・・・
思わず声を漏らしてしまう。
俺の部屋は二階にあるので、一階に降り、母親に腰が痛いことを告げる。
「母さん、腰が痛い・・・。」
「そうねぇ、確かに最近、腰が痛いわね・・・。」
「いや、母さんじゃなくて! 俺!」
「え?司が?」
「あぁ。」
「最近急に運動したりした?」
「してない。腰が痛くなるようなことをした覚えもない。」
自慢ではないが俺はインドアで、学校も帰宅部だ。
わざわざ身体を動かすことなんて絶対しない。
「う~ん、不思議ねえ・・・。もし帰ってきても腰が痛かったら、一応病院に行ってみる?」
「そうだなぁ・・・。そうしようかな・・・。」
そう言うと俺は普段通り食事をし、学校へ向かった。
≪学校到着後≫
教室に入ると、俺は数少ない友人の一人、大野 海飛に話しかける。
「海飛、おはよう」
「おお、おはよう」
「ちょっと聞いてくれよ、朝から腰が痛くてさぁ。」
「ああ、最近腰が痛いって言ってたもんな。」
「うん。まあ、運動部でもないし、特別困ることはないんだけどね・・・。」
場面変わって数時間後――俺はグラウンドにいた。
(こんな日に限って長距離走とは・・・。)
困った・・・。困ることはない、朝何気なく海飛と話したことが完全にフラグになった。
そうは言っても走らないわけにはいかないので仕方なく走る。
男子は1500メートル、女子は1000メートルを走るそうだ。
色々理由はあるのだろうが、男子と女子で500メートルも距離に差があるのが納得いかない。
俺は足が遅い。体力が持たない。持久力がない。
何度も言うが、俺はインドアで、学校も帰宅部だ。
半分ほど走った頃――腰は限界を迎えていた。
(もう・・・無理・・・だ・・・。)
先生に言って、走るのをやめようか。
・やめる◀
・続ける
俺は“やめる”を選んだ
さて、選んだはいいものの、俺のような性格だと、せめてもう少し走らなくては、という謎の気持ちがわいてきて、走ってしまう。
結局、先生の前までは走ろう、そう決めた。
しかし、俺があまりに変な走り方をしていたのだろう、俺の姿を見るなり先生が飛んできた。
「佐久間!大丈夫か!」
「す、すいません。もう、やめていいですか・・・」
「おお、木陰で休んでいいぞ。」
「ありがとう・・・ございます・・・。」
「歩けるか?」
「はい・・・。」
俺は腰を曲げながらもなんとか木陰へ向かう。
木陰で休んでいると海飛が心配して来てくれた。
ちなみに海飛は足が速く、どちらかと言えば俺とは真逆な性格だ。
だから仲が良いのかもしれないが。
「司、大丈夫か?」
「大丈夫、多分。」
「多分って・・・まあ、無理そうなら言ってくれれば支えたりできるしさ。」
頼りになるなぁ。他人事のようにそんなことを思う。
「ありがとう。」
そんな会話をしていると、全員走り終わったようだ。先生の集合がかかったので俺も行こうと思い立ち上がった・・・が、崩れるように座り込んでしまった。
(あぁ、もはやここまでか・・・)
「海飛・・・俺はもうだめだ。」
「司・・・ここで休んでた方が良いよ。」
「うん。そうするよ。」
――授業終了後
俺は先生に付き添われて保健室に来た。
先生は次の授業があるらしく、「ゆっくり休め」と言って保健室から出て行く先生の姿は、やけに格好良く見えた。
先生が出て行ったので、保健室には俺と養護教諭の先生の二人きりだ。
「腰が痛くなっちゃったんだ・・・辛いよね・・・」
「はい・・・、結構辛いです・・・」
「う~ん。どんな体勢になるのが楽?」
「横になりたいです・・・。」
「わかった。すぐ横になれるように準備するからちょっと待ってね。」
「ありがとうございます。
先生はそれからすぐにベッドの準備をしてくれたので、ありがたくベッドに寝っ転がった。
仰向けやうつ伏せは痛いので横向きになった。
ちなみに、一応言っておくと、うちの保健室の先生は若くて可愛い。
何も起こらないのはわかっているが正直少しドキドキしてしまう。
しかし今は、腰の痛みがそんなドキドキすらも超越していた。
先生は、俺がベッドに入るのを見届けて(?)から、家に電話してくるね、と言って職員室に向かった。
みんなが授業を受けているときに俺だけが保健室のベッドで寝ているという状況に、少しだけ、本当に少しだけ優越感を感じる。
たしか、今頃俺のクラスは数学のはずだ。
数学も苦手、というより嫌いな教科なので、授業を受けなくて良い今の状況はちょっとラッキーだなと思いながらも、受けないとテストに影響するかな・・・と、少し憂鬱な気持になる。
それにしても腰が痛い・・・。
横になっている分、いくらか楽だが、痛いものは痛い。
一体何が原因なのだろう。
何か悪いことしたか・・・?
なかなか楽になってくれない腰を恨みながら、思わず、はぁ・・・、と思わずため息をつく。
一人になった静かな保健室には、色々な声や音が聞こえてくる。
グラウンドからは体育をしている声が聞こえる。
音楽室からもリコーダーやピアノの音色、合唱の声が聞こえてくる。
少しして養護教諭の先生が戻って来た。
「司君、具合どう?」
「まだ痛いですね・・・。」
「まぁ、そうだよね・・・。今、司君の家に電話したらお母さんが出て、すぐ迎えに来てくれるって言ってくれたから、来てくれるまでゆっくりしててね。
それと、教科書とか荷物を持ってきてくれるように教室に連絡したからもうすぐ誰かが持ってきてくれると思う。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、何かあったら呼んでね。」
「はい。」
それから少しして、海飛がリュックを持ってきてくれた。
「失礼します。司のリュック持ってきました。」
「ありがとう。」
「じゃあ、教室に戻ります。」
「ありがとうね。」
「失礼しました。」
気を使ってくれたのか、リュックを置くとすぐに教室に戻ったようだった。
それからは特に何も起こらず、ベッドでウトウトしていた。
適度に暖かい保健室の温度と、窓から入り込む日差しが意外と心地よかった。
それから二十分程した頃、母さんが迎えに来てくれた。
「司君、お母さん来てくれたよ。」
「わかりました。今起き上がります・・・ちょっと待ってください・・・。」
ゆっくりとベッドから起き上がり、学校のベッドで堂々と横になるという、つかの間の非日常に別れを告げる。
ベッドのスペースを区切っているカーテンを開けけると、母さんが保健室まで来ていた。
母さんは、痛そうにする俺を見るなり、身体を支えてくれる。
ふと見ると、リュックも背負ってくれている。
母さんが、それじゃあ行こうか、と言ったので、うん、と答える。
「ありがとうございました。」
保健室から出るとき、お礼を言った。
「安静にしてね。」
そう言って微笑む先生はまるで天使のようだった。
保健室を出ると、俺は母さんと一緒にゆっくりゆっくり廊下を歩き、下駄箱へ向かう。
歩きながら母さんに、家に帰って湿布を張って安静にするか、このまま病院へ行くか聞かれたので、病院に行くことにした。
ご覧いただき、ありがとうございました!
いかがでしたか?
面白そう、と思っていただけたらうれしいです。
今後の展開をお楽しみに!
感想・レビュー・評価など、受け付けています。