⭕ 初めての患者 6‐2
セロフィート
「 今回、名倉谷さんにしていただく事は、御近所付き合いです 」
名倉谷
「 近所付き合い……ですか??
それって必要なんですか? 」
セロフィート
「 名倉谷さんは左右の部屋に住まわれて居る方の事を知っていますか? 」
名倉谷
「 い、いえ……。
知りませんし、顔を見た事も有りませんけど…… 」
セロフィート
「 引っ越した後の御近所さんへの挨拶はしていませんか? 」
名倉谷
「 引っ越し業者さんが代行して済ませてくれたので── 」
セロフィート
「 せめて同じ階に住んでいる住人の把握はしておくと良いでしょう。
最低でも左右の住人に関して把握しておく事は必須です。
詳細に知る必要はなく、必要最低限の情報で良いです。
何か困った事が起きた時に、御互い様の精神で助け合える程度には良好な関係を築いておく事です。
幼い光君も一緒に暮らすのですから、御近所さんの事を何も知らないでいる事は無責任になります。
一緒に暮らす光君を守る為にも少しずつ御近所さんに歩みより親しくなれる様に努力しましょう 」
名倉谷
「 は、はぁ……はい…… 」
セロフィート
「 気が進まない様ですね。
難しく考える必要はないです。
擦れ違う住人に対して、“ 笑顔で挨拶をする ” 事を繰り返すだけで良いのです 」
名倉谷
「 挨拶……ですか?
挨拶だけで良いんですか? 」
セロフィート
「 はい。
挨拶は人間関係の基本です。
昔から、武道を嗜む武人の間では “ 礼で始まり、礼で終わる ” と言われていますね。
同様に人間関係では “ 挨拶で始まり、挨拶で終わる ” ものです。
御早う,今日は,今晩は,御免なさい,有り難う,行って来ます,行ってらっしゃい,ただいま,お帰り──。
園児でも覚えられる簡単な言葉ばかりです。
子供が挨拶を出来るのに大人が挨拶を出来ないのでは、子供達の良き御手本にすらなれません。
最低でも基本の挨拶は誰に対しても分け隔てなく出来る様になる事を目標にしてください。
可愛い甥っ子の光君に、叔父さんの格好いい勇姿を見せてあげてください 」
名倉谷
「 ははは…………格好いい勇姿……ですか…… 」
セロフィート
「 挨拶も慣れです。
名倉谷さんの御近所付き合いに関してはキノコンも御手伝いします。
1人で頑張る事はないですよ。
困った事が有れば、キノコンに頼り、相談してください 」
名倉谷
「 有り難う御座います…… 」
マオ
「 キノコンは人間が好きだから、コミュニティー能力は高いよ。
光君も直ぐに友達が出来るし、ママさん友達が増えるんじゃないかな? 」
名倉谷
「 ママさん友達…… 」
セロフィート
「 本日の診察は以上にしましょう。
また1ヵ月後に経過を教えてください 」
名倉谷
「 は、はい……。
努力はしてみます…… 」
名倉谷さんは相変わらず納得が出来て無い半信半疑な顔でセロに「 有り難う御座います 」と頭を下げると、光君の手を握って診察室から出て行った。
一方の光君はセロとオレに対して、恥ずかしそうに小さな手を振って「 バイバイ 」してくれた。
可愛いっ♥
マオ
「 光君に友達が出来ると良いよな… 」
セロフィート
「 出来てくれないと困ります。
キノコンが上手く丸め込んでくれます 」
マオ
「 丸め込む?
何だよ、丸め込むって~~ 」
セロフィート
「 キノコンには光君をダシにして、子供達の心を鷲掴み、懐に取り込んでもらいます 」
マオ
「 は?
光君をダシに使う??
どゆことだよ? 」
セロフィート
「 金銭的に裕福な予約者を確保する為にキノコンには光君を利用してもらうだけですけど? 」
マオ
「 集客する為に光君を利用するって?!
流石に……それは酷いんじゃないのか? 」
セロフィート
「 酷いものですか。
タダでキノコンに名倉谷さんの御手伝いをさせる訳ないでしょうに。
利用の出来るモノは何でも利用します 」
マオ
「 やっぱり、セロはセロなんだな~~。
さも最もらしい事を患者に吹き込んで利用するなんてさ…… 」
セロフィート
「 当たり前です。
ワタシは善人になるつもりは欠片も無いですし 」
マオ
「 ははは……。
でもさ、名倉谷さんは診療所に6回も来てくれてるんだよな。
有り難いじゃんな♪ 」
セロフィート
「 毎回提供している紅茶とスイーツの効果が問題なく発揮されている証拠です 」
マオ
「 は?
どゆことだよ? 」
セロフィート
「 患者に出している紅茶とスイーツには中毒性が有ります♪ 」
マオ
「 ちゅ──中毒性だって?!
どゆことだよ!? 」
セロフィート
「 紅茶とスイーツは “ キノコンじる ” を溶かした “ 幻神水 ” を使用して作っています。
他所では絶対に作れない紅茶とスイーツを患者達は “ 何も知らず ” に喜んで飲み食いしています。
月に1度だけ味わう事の出来る贅沢な中毒物です。
薬物の様に人体へ悪影響を及ぼす物では無いですが、クセになる中毒物質を体内に残し、身体が欲しがる様にしてます♪
患者に診療所へ来たくさせます 」
マオ
「 完全に薬物よりヤバいんじゃないかよぉ!!
蜘蛛の巣に掛かった獲物を逃さないがめつい蜘蛛みたいだな~~ 」
セロフィート
「 誰ががめつい蜘蛛ですか。
マオ、例えが悪いです 」
マオ
「 そうかな?
──セロ、キノコンの分身体が名倉谷さんの家に行くんだよな?
見送って来ても良いかな? 」
セロフィート
「 構いませんよ 」
マオ
「 有り難な、セロ!
行って来るよ! 」
オレはセロに許可を貰って診察室から出た。
──*──*──*── 診療所前
キノコン:分身体
「 マオ様!
お見送り、有り難う御座いますエリ!
嬉しいですエリぃ~~♥️ 」
マオ
「 キノコン、光君の味方として確りな! 」
キノコン:分身体
「 お任せくださいませエリ★ 」
キノコンはオレ向けてビシッと敬礼をしてくれる。
やっぱり、キノコンは敬礼が好きみたいだ。
キノコン:分身体
「 行って来ますエリ! 」
マオ
「 行ってらっしゃい!
頑張り過ぎないで、ちゃんと自分の事も労るんだぞ! 」
笑顔で元気に手を振ってくれるキノコンに向かって、オレも元気に手を振る。
オレに背を向けたキノコンは光君の小さな手を握って器用に歩いて行く。
マオ
「 なんか……巣だって行く子供を見てる親鳥みたいだ…… 」
セロフィート
「 ふはっ(////)
どんな例えです? 」
マオ
「 ──セロ!
何だよ、セロも見送りに出て来たんだな 」
セロフィート
「 あのキノコンには名倉谷さんが暮らしてるマンション全体のリサーチとスパイを任せています 」
マオ
「 リサーチとスパイ?? 」
セロフィート
「 住人と良好な友好関係を築けてから情報収集するより、ミニマムキノコンを各部屋へ忍び込ませ、状況を把握させた方が手っ取り早いでしょう?
家族構成,家庭内の事情も赤裸々に知る事が出来ます。
マオ、キノコンから報告が来たら、一緒に盗み見しましょう♪ 」
マオ
「 犯罪の誘いをするなよ!
今日の患者は他に居ないのか? 」
セロフィート
「 17時に予約が入ってます。
本日最後の患者です 」
マオ
「 最後の患者って誰だ? 」
セロフィート
「 佐々箕さんです 」
マオ
「 佐々箕ぃ!?
セロを厭らしい目で舐め回す様に見てるゲスいババアかよ! 」
セロフィート
「 マオ──、極上のカモに対して “ ゲスいババア ” なんて言わない様に気を付けてください 」
マオ
「 セロが無駄に笑顔を振り撒くから、ババアが付け上がるんだぞ!! 」
セロフィート
「 マオ……。
お触りはさせませんから、機嫌を直してください 」
マオ
「 お触りなんて駄目に決まってるだろ!
セロは “ オレだけのセロ ” なんだからな!
セロに触ろうとしたらオレが全力で止めるからな! 」
セロフィート
「 はいはい。
その時はマオに任せるとします 」
セロは微笑みながらオレの頭を撫でる。
子供扱いを止めてほしい!!




