⭕ 初めての患者 6‐1
──*──*──*── 1ヵ月後
6回目の診察に名倉谷さんが来た。
先月と同様、光君も一緒だ。
心無しか光君の様子が暗いかな。
顔色が悪いみたいな?
何かあったのかな??
──*──*──*── 診療室
セロフィート
「 今日は、名倉谷さん,光君。
良く来てくださいましたね 」
名倉谷
「 セロッタ先生!!
助けてください!! 」
セロフィート
「 はい?
診療所は駆け込み寺では無いですよ。
診察として事情は聞きましょう 」
名倉谷
「 有り難う御座います!! 」
セロフィート
「 光君と関連の有る事の様ですし。
マオ──、フルーツティーとスイーツを用意してください 」
マオ
「 うん、持って来るよ! 」
オレは診察室を出た。
セロフィート
「 この1ヵ月の期間に何がありましたか? 」
名倉谷
「 俺の兄はバツ3なんですが、3人目の奥さんとの間に産まれた長男── 奥さんには連れ子が1人居るんで、次男になるんですけど ──が、不慮の事故に遭いまして…… 」
セロフィート
「 ははぁ……事故ですか? 」
名倉谷
「 はい……。
運転手はスマホを片手に運転をしていたそうです。
下に落としてしまったスマホ拾う為に屈んでいる間に反対斜線へ入ってしまったまま車は走っていました。
屈んでスマホを拾っている状態だったので、赤信号にも気付かず逆走しながら交差点に突っ込んだそうです。
運悪く交差点を歩いていた通行人が何人か逆走車にぶつかって飛ばされたそうです。
被害者達は病院に運ばれたんですが、その中に兄夫婦の次男も入っていたんです!
次男は他の被害者達よりも特に重傷で──、入院している病院で全治半年と診断されたそうです 」
セロフィート
「 それは災難でしたね 」
名倉谷
「 次男の意識は戻りました。
重傷で身体を動かす事は出来ませんけど、話は問題無く出来る様で、兄夫婦も喜んでいました。
意識が戻って話せるのは良いんですけど……、困った事を言い始めたんです 」
セロフィート
「 困った事ですか?
何でしょう? 」
マオ
「 お待たせ!
フルーツティーとスイーツを持って来たよ 」
セロフィート
「 有り難う、マオ。
光君を御願いします 」
マオ
「 任せろ!
光君、此方でフルーツティー飲もう!
今日のスイーツはドーナツだぞ。
名倉谷さんもフルーツティー飲んで! 」
名倉谷
「 有り難う、いただくよ。
──次男が事故に遭ったのは友達と映画館へ行く途中でした。
次男は家を出る前に光に意地悪をしていそうです 」
セロフィート
「 意地悪ですか? 」
名倉谷
「 次男は3男の光を母親と同様、気味悪がっていて──、頻繁に嫌がらせをしていた様なんです。
出掛ける前に光からスマホを取り上げて泣かせていた所を兄嫁も目撃していましたけど、知らん顔していたそうです。
次男からスマホを取り返したのは、連れ子の長男だったそうです。
その後の事故だったので、次男は光を必要以上に恐怖がっているんです。
事故に遭ったのも、酷い怪我なのも、全治半年もベッド生活なのも、映画を観に行けなかったのも、友達も巻き込まれて入院してるのも──全部、光の所為だと思い込んでいるんです。
勝手に光を加害者にして次男は被害者ぶっていて、光に対して『 見舞いに来させないでくれ 』とか『 一緒に暮らしたくない 』とか我が儘を言っているんです。
次男は毎日、兄嫁に愚痴を言っているみたいで……。
兄嫁も光を気味悪がってましたから、僕を呼び付けて『 光を預かれ! 』って言いながら、光を家から追い出したんですよ!
産みの母親がですよ、お腹を痛めて産んだ光を見捨てたんです!!
幾ら何でもやり過ぎじゃないですか!?
兄からは『 暫くの間、光を頼めないか 』って頭を下げられたんです…。
あの、俺様でオラオラだった兄が、出来の悪い弟の僕に頭を下げたんですよ!!
もうっもうっもうっ、吃驚の連続ですよ!!
光は可愛い甥っ子ですし、あの兄から頭を下げて頼まれたら断れません。
光も居心地が悪いでしょうから、暫くの間、僕が預かる事になったんですけど………… 」
セロフィート
「 別の問題で悩んでいる様ですね 」
名倉谷
「 そうなんです……。
セロッタ先生に助けてほしいのは此処からなんです 」
セロフィート
「 聞かせてください 」
名倉谷
「 俺の部屋は心霊現象が起きてます。
俺が仕事へ出掛けている間、光は1人きりで心霊現象が起こる部屋で過ごさないといけない事になるんですよぉ!!
俺の家に初めて来た時なんて、青冷めた顔をして泣き出しちゃったぐらいで……。
心霊現象だけじゃなくて、俺の部屋には “ 見えない何か ” が居て、光には “ それ ” が見えてる──って事なんでしょうか!?
何かもう、俺ですら部屋に戻るのが怖くなってしまって……。
何とかならないでしょうか…… 」
セロフィート
「 名倉谷さん、光君は “ 見させられている ” だけです。
光君が “ 見させられなくなる ” 為には御両親が2人で取り組む必要があります。
こればかりは、カウンセラーのワタシにはどうにも出来ません。
一般的に霊的存在は恐れられています。
ですが、実際に霊的存在には何の力も無いです。
人に悪さをする力も無ければ、人を守護る力も無いです。
ですから “ 守護霊 ” と呼ばれる人間に都合の良い霊は存在しません。
まるで “ 守護霊が憑いている ” 様に “ 見させられている ” だけです。
自信満々に守護霊云々と言う人を真に受けて信じ過ぎない事です。
彼等は “ 本物 ” を知らないが故に分からないだけなのです 」
マオ
「 守護る事も、悪い事が出来なくてもさ、見えてるもんは怖いだろ?
霊的存在がどんな風に見えてるか──ってのは、人に依って違う訳だし?
漬け物石みたいには思えないんじゃないかな?
セロ、何とかならないのかよ? 」
セロフィート
「 そうですね……。
診療所は育児所ではないですから預かる事は出来ません。
光君を1人にする事に対して、心配な気持ちも分からなくはないです 」
マオ
「 名倉谷さん、今はどうしてるの? 」
名倉谷
「 今は職場に同行させてるよ。
店長には事情を話して許可は貰えているけど、良く思わない同僚や後輩も居るんだ。
そろそろ何とかしないといけなくて…… 」
マオ
「 それで光君は元気がないっていうか、沈んでるんだ?
セロ──! 」
セロフィート
「 では名倉谷さん宅にキノコンを貸し出しすとしましょう 」
マオ
「 セロ!
良いのか? 」
セロフィート
「 構いません。
今回も特例処置です。
キノコンを貸し出すので、スマホは返却していただきます 」
名倉谷
「 分かりました。
スマホは御返しします。
有り難う御座いました 」
名倉谷さんは鞄から折り畳み式スマホを出すとセロに手渡す。
光君は名残惜しそうにスマホを見詰めつている。
セロフィート
「 確かに返却していただきました。
今日の診察が終わったら、キノコンを1体、連れて帰宅してください。
明日から光君の事はキノコンに任せて、仕事へ出掛けてください 」
名倉谷
「 良いんですか?
診療所のマスコットキャラなのに…… 」
セロフィート
「 構いません。
シッターを任せるのは分身体ですし。
名倉谷さんと光君の生活改善の御手伝いをキノコンにさせる目的も有ります。
規則正しい生活,安定した栄養のある食事は、大人だけではなく成長期である幼い子供にこそ必要不可欠です。
読み書き,算術だけでなく、家政婦並みに家事もこなす事が出来ます。
キノコンが居れば防犯対策も万全です 」
名倉谷
「 有り難う御座います! 」
セロフィート
「 光君には年の近い友達も必要です。
一緒に遊べる友達作りもキノコンが手伝ってくれます 」
マオ
「 良かったな、光君!
キノコンが一緒なら恐怖いもの無しだ!
安心して暮らせるよ 」
光君は無言で頷いてくれる。
う~~ん、少しだけ顔色が良くなった気がするかな?
セロフィート
「 光君の事は終わりにしましょう。
──此方が名倉谷さんの処方箋になります 」
セロは笑顔で名倉谷さんの前に処方箋を出した。
今回は何が書かれてるんだろうな?




