⭕ 初めての患者 5‐1
◎ サブタイトルを変更しました。
──*──*──*── 1ヵ月後
5回目の診察に名倉谷さんが来た。
今日の予約時間は15時だ。
名倉谷さんは何時も1人で来ていたけど、今日は子供と来ている。
名倉谷さんの子供かな??
──*──*──*── 診察室
セロフィート
「 今日は、名倉谷さん。
今日はお子さんも一緒ですか? 」
名倉谷
「 えっ?
いえ、息子じゃないんです…。
兄の息子でして…… 」
セロフィート
「 御兄さんの息子さんですか? 」
名倉谷
「 はい…。
この子は名倉谷光って言います。
光と書いて “ みつる ” と読みます 」
セロフィート
「 初めまして、光君。
ワタシは心霊カウンセラーのセロッタ・シンミンです 」
マオ
「 こんにちは!
オレは助手のマオ・ユグナルだよ 」
名倉谷 光
「 …………………… 」
名倉谷
「 すみません!
光は昔から無口な子でして……。
人見知りの気が有るみたいで…… 」
セロフィート
「 構いません。
マオ、光君に紅茶とクッキーを出してください 」
マオ
「 分かったよ 」
オレはテーブルや魔法のティーセットを取りに行く為に診察室を出た。
セロフィート
「 甥っ子さんと一緒に来られた経緯を教えてください 」
名倉谷
「 はい。
セロッタ先生から頂いた処方箋の通りに、絵葉書やメッセージカードを買いに行きました。
近所の100均や本屋に行って買ったんです。
セロッタ先生の言われた通り、色んな種類の絵葉書やメッセージカードが売られていましたよ。
値段は張りますけど、凝ってるメッセージカードも沢山あって、選んでいた時間は楽しかったです 」
セロフィート
「 それは何よりです 」
名倉谷
「 自宅に帰ったら、絵葉書とメッセージカードを送る相手を選んで、翌日には出しました。
先ずは両親,本家の従兄,兄と妹に出しました。
疎遠な友人達には面白そうなメッセージカードを選んで出しました。
数日後に不仲だった兄から連絡が来て、それからは何度も兄と連絡を取り合っていました。
兄を気遣いながら、それとなく俺の近状報告を伝えながらLINEをしていたので、兄から光の事を相談されたんです。
まさか、不仲な兄から独身の俺に子供の事を相談されるなんて思いもしませんでしたよ! 」
セロフィート
「 御兄さんは光君に対して心配事でも有ったのでしょうか? 」
名倉谷
「 はい……。
俺が自宅で起きてる心霊現象に悩んでて、セロッタ先生の心霊カウンセラー診療所に通ってる事をチラッとLINEに書いてたんです。
光は幼い頃から人の居ない場所をジッと見ていたり、気味の悪い絵を描くらしく、奥さんからも気味悪がられているそうです。
接し方にも困っているみたいで…… 」
セロフィート
「 成る程──、光君の目には肉眼では見えない存在が見えている──という事ですね?
絵に描いているのは他の人には見えていない存在を描いている──という事でしょうか 」
名倉谷
「 は、はい!
そういう事だと思います!
セロッタ先生、どうにか出来ませんか?
兄からは『 バツ4になるかも知れない! 』って言われてるんです… 」
セロフィート
「 先ずは、捉え方を変えましょう 」
名倉谷
「 捉え方……ですか? 」
マオ
「 お待たせ~。
光君、1人用のソファー持って来たから此方に座りなよ。
キノコンにフルーツティーを作ってもらったんだ。
此方はクッキーだよ 」
名倉谷 光
「 …………………… 」
名倉谷
「 光、折角だし厚意に甘えな。
フルーツティーなんてカフェで買うと1.000円もするんだぞ。
クッキーも美味いから食べて来な 」
名倉谷 光
「 ……………… 」
光君は無言のまま頷くと、オレが持って来た1人用のソファーに座ってくれた。
キノコンのイラストが描かれているマグカップの中にフルーツティーを注ぐ。
クッキーを並べているスイーツ皿の中央にもキノコンのイラストが描かれている。
マオ
「 どうぞ。
好きなだけおかわりして良いからな 」
光君は無言でコクリと頷いてくれる。
セロフィート
「 マオ、名倉谷さんにもフルーツティーを出してください 」
マオ
「 分かったよ。
ティーカップ持って来る! 」
オレはティーカップを取りに行く為に診察室を出た。
セロフィート
「 “ 見えないモノが見えている ” と表現するのが一般的ですが、本来は違います。
光君は “ 見えている ” のではなく、“ 見させられている ” が正しいです 」
名倉谷
「 見させられている……ですか?? 」
セロフィート
「 そうです。
光君は本来ならば見えなくて良いモノ,見える必要の無いモノ,見たくもないモノを敢えて “ 見させられている ” 状態です。
簡単に言えば、光君は被害者です 」
名倉谷
「 被害者……ですか? 」
セロフィート
「 そうです。
未だ幼い光君が “ さとる ” 事は難しいです。
光君は “ 使われている ” だけです。
光君を避ける事も気味悪がる事もないですよ。
光君が “ 見させられている ” モノを否定する事もないです。
光君は何も悪くないので、遠ざけるより優しさと思い遣りを持って接してください 」
名倉谷
「 あの、どうしたら光は普通の子供に戻れるんですか? 」
セロフィート
「 御両親次第です。
光君は “ 使われている ” に過ぎません。
原因は御両親に有ります。
御両親が変わらなければ、光君は今の状態のままです 」
名倉谷
「 原因は兄夫婦に有る……。
兄夫婦に原因が有るのに、何で光が嫌な思いをしないといけないんですか!!
あまりにも理不尽じゃないですか!? 」
セロフィート
「 親に “ 知らせ ” を掛けるより、子供に “ 知らせ ” を掛けた方が本気になり易いからです。
子供は夫婦の宝です。
子供に “ 知らせ ” を掛ける事で、夫婦2人が共に “ 悟る ” 事を要求されています。
片親だけが1人で悟っても問題は解決しません。
御兄さんは一家を支える大黒柱であり、家長ですね。
家長には家長としての使命,役目が有ります。
家長という立場での “ 自己の住位 ” が有ります 」
名倉谷
「 自己の住位…ですか? 」
セロフィート
「 御兄さんに関しては、長男としての自己の住位,兄としての自己の住位,夫としての自己の住位,父親としての自己の住位,職場での自己の住位,部下としての自己の住位,先輩としての自己の住位,同僚に対する自己の住位,取引先相手に対する自己の住位──。
様々な場面で様々な立場の自己の住位が有ります。
奥さんにも同様に自己の住位が有ります。
嫁ぎ先に対する嫁としての自己の住位,主婦としての自己の住位,義娘としての自己の住位,妻としての自己の住位,母親としての自己の住位──。
兄姉弟妹が居なら、姉としての自己の住位,妹としての自己の住位,義姉としての自己の住位,義妹としての自己の住位──。
共働きをしているなら、職場での自己の住位ですね。
主婦業や子育ては片手間で出来る事ではないです。
出来る女性も居るでしょうが、全ての女性が出来る訳ではないです。
主婦には主婦としての役目があります。
主婦としての役目を放棄したり,蔑ろにしていると、1番弱い子供に “ 知らせ ” が掛けられます。
共働きは悪くはないですが、働いている事を言い訳にして主婦業を疎かにする事,放任する事は宜しくないです。
偶に手抜きをするのは構いません。
仕事を優先し、しょっちゅう手抜きをするのは宜しくないです。
主婦の本業は、家を開ける家長の代わりに内助の功を発揮して家を守る事です。
夫婦は4分6が基本です。
4分の妻が、6分の夫を押さえ付けたり、尻に敷いたり、上から目線で命令や指図をしたり、でしゃばるのも宜しくないです。
光君に掛かる “ 知らせ ” で夫婦に何を教え様とされているのか──、何を伝え様とされているのか──、何を悟らせ様とされているのか──、カウンセラーのワタシには分かりません。
これは現代の御兄さん夫婦にとっては耳の痛くなる内容かも知れませんね 」
名倉谷
「 ………………光の為に兄夫婦が変わる努力をしてくれるのかな…… 」
セロフィート
「 それは御兄さん夫婦次第です。
今回は特別に名倉谷さんの御兄さん夫婦へ処方箋を書きましょう 」
名倉谷
「 良いんですか? 」
セロフィート
「 処方箋は出しますけど、実行するか否かは御兄さん夫婦次第です。
強制は出来ない事を忘れないでください 」
名倉谷
「 分かりました…… 」
セロフィート
「 診療所の名刺も入れておきます。
名倉谷さんは、出来る限り光君と仲良くしてください。
光君の味方で居てください 」
名倉谷
「 はい、分かりました。
心掛けます 」
セロフィート
「 光君はスマホを持っていますか? 」
名倉谷
「 いえ、持ってないです… 」
セロフィート
「 そうですか。
何か困った時には、話し相手が必要ですね。
働いている名倉谷さんは忙しいでしょうし。
──名倉谷さん、これを光君に使わせてください 」
名倉谷
「 あの、これは── 」
セロフィート
「 診療所のHPSにアクセスが出来る専用の折り畳み式のスマホです。
キノコンを見ながらMAIL,LINE,電話で話す事も出来ます。
因みに他の用途には使えません 」
名倉谷
「 セロッタ先生、これは幾らするんですか? 」
セロフィート
「 これは非売品です。
売り物ではないですし、貸し出すだけです 」
名倉谷
「 貸し出し……。
スマホまで貸してもらえるんですか? 」
セロフィート
「 特例です。
光君の事は終わりましょう。
──此方が名倉谷さんの処方箋になります 」