⭕ 初めての患者 11
名倉谷さんが槇三さんを連れて診療所へ診察に来たら日から約1ヵ月後──、既に1月に入っている。
今日は1月14日で、名倉谷さんが診察を予約している日でもある。
予約時間の15時になっても名倉谷さんは来なくて、キャンセルを知らせる電話もなかった。
もう直ぐ17時──。
予約時間から2時間が経ってしまう。
──*──*──*── 診察室
マオ
「 セロ、名倉谷さん来ないな。
途中で何か起きたのかな?
事故や事件に巻き込まれた──とか? 」
セロフィート
「 槇三さんと同棲を始めたのでしたね。
忙しいのかも知れませんし、自宅で何か起きたのかも知れません 」
マオ
「 そっか、同棲か!
槇三さんから診療所へ行く事を反対されてて、来たくても来れないのかも知れないな? 」
セロフィート
「 気になるなら名倉谷さんの自宅を拝見してみます? 」
マオ
「 拝見って? 」
セロフィート
「 盗撮ですけど? 」
マオ
「 …………………………は?
盗撮??
どゆことだよ!? 」
セロフィート
「 ふふふ。
こんな事も有ろうかと、情報収集の為に忍び込ませていたミニマムキノコンに超小型隠しカメラを部屋中に仕込ませてました♪ 」
マオ
「 ミニマムキノコンに何させてんだよ!
犯罪の片棒を担がせてたなんて予想外過ぎる! 」
セロフィート
「 マオ、診察室に鍵を掛けてください。
名倉谷さんの部屋の様子を見てみましょう 」
マオ
「 心霊カウンセラーが患者の自宅を盗撮してるなんて、前代未聞だぁ~~~~!! 」
セロフィート
「 見ません? 」
マオ
「 見るに決まってるだろ! 」
セロフィート
「 マオ、共犯ですね♪ 」
マオ
「 よっ…喜ぶな!
嬉しそうに言うなよ!! 」
セロフィート
「 はいはい。
早速、見てみましょう 」
セロは器用にパソコンを操作する。
意外にもセロはパソコンを使いこなしている。
マオ
「 何時の間に覚えたんだよ? 」
セロフィート
「 先代達が残してくれた記録の恩恵です 」
マオ
「 センダイさんって事は、遥か昔にもパソコンが存在してた──って事かよ? 」
セロフィート
「 そうです。
このパソコンも原始的な部類に入る程に科学技術が発達していた≪ 大陸 ≫が幾つも在りました。
発達し過ぎた為に全て滅びてしまいましたけど 」
マオ
「 当時の人形達が滅ぼしたんだろ~~ 」
セロフィート
「 殆んど自滅しました。
毎回、内乱が起きるのです。
内乱を起こす様に誘発していた先代は居た様ですけど 」
マオ
「 ガッチリ首謀者じゃないかよ 」
セロフィート
「 遥か昔の先代達のした事です。
──マオ、名倉谷さんの部屋が映りました 」
マオ
「 一体幾つの隠しカメラを仕込んでるんだよ… 」
セロフィート
「 どの部屋も電気が点いてません。
妙です 」
マオ
「 確かにな。
出掛けてるのかな?
診察日なのをウッカリ忘れて槇三さんとデートでもしてるのかな? 」
セロフィート
「 一室づつ見て行きましょう 」
マオ
「 うん…… 」
どの部屋も電気が点いてなくて真っ暗だ。
やっぱり留守なのかな?
セロフィート
「 浴室を見てみましょう 」
マオ
「 そだな。
トイレにも台所にも居なかったもんな。
でもさ、トイレに隠しカメラを仕込むのはプライバシーの侵害じゃないのか?
使用中だったら気不味い思いをする処だったぞ 」
セロフィート
「 誰も入ってなくて良かったですね 」
マオ
「 暢気ぃ~~ 」
セロが浴室の画面に切り替えてくれる。
浴室ではゴソゴソと何かが動いている??
まさか──、Gなのか??
マオ
「 セ、セロぉ~~!!
何か動いてるんじゃないか?
Gじゃないよな?? 」
セロフィート
「 マオ──、落ち着いてください。
大きなGなんて、マンションの部屋の中には居ません。
しがみ付かないでください 」
マオ
「 だけど── 」
セロフィート
「 マオ、動いてるのは人間です。
電気を点けてみましょう 」
マオ
「 セロ、画面の中の浴室に電気を点けるなんて出来るのかよ? 」
セロフィート
「 出来ますよ。
古代魔法を使いますし 」
セロが言うと真っ暗だった画面の中の浴室に電気が点いた。
浴室でゴソゴソと動いていたのは槇三さんだった。
マオ
「 槇三さんが入浴してる!?
これって見てたらヤバいんじゃ── 」
セロフィート
「 マオ、槇三さんは入浴をしている訳ではないですよ。
電気が突然点いて驚いてます 」
マオ
「 本当だ──。
はぁ~~~~入浴してなくて良かったぁ~~~ 」
んんん??
浴室が赤い色で汚れてる??
何でだろう??
マオ
「 セロ、何で浴室が赤く汚れて──あっ、血かっ!
槇三さんは浴室で何して── 」
セロフィート
「 丁度、視角で見えませんね。
隠しカメラを動かしてみましょう 」
マオ
「 古代魔法で遠隔操作も出来るのかよ。
何でも有りだな 」
セロフィート
「 魔法とはそういうモノです 」
マオ
「 セロは言う事がしょっちゅう変わるからな~~ 」
セロフィート
「 吟遊大詩人ですし 」
マオ
「 今は心霊カウンセラーだろ~~ 」
セロが古代魔法を使って、隠しカメラを遠隔操作をした事で、視点が変わって見えなかった部分が画面に映る。
マオ
「 ヒッ──?!
えっ……あれって──名倉谷……さん??
………………ぐったりしてるのは名倉谷さん……なのか?? 」
セロフィート
「 名倉谷さんの自宅ですし、名倉谷さんでしょう。
血塗れですね。
どうやら槇三さんと一悶着あった後の様です 」
マオ
「 一悶着……。
うん?
セロ、あの刃物って── 」
セロフィート
「 牛の首も切断が出来る中華包丁ですね。
刃に赤い血が点いてますし、名倉谷さんの身体を切断してた最中の様です 」
マオ
「 名倉谷さんの身体を中華包丁で切断!?
明らかに中華包丁の使い方を間違えてるな。
でも何で身体を切断なんて…… 」
セロフィート
「 マオ、察しが悪いですね。
平和ボケして勘が鈍りました? 」
マオ
「 平和ボケって…… 」
セロフィート
「 槇三さんは何等かの事情で名倉谷さんと口論にでもなったのでしょう。
隠しカメラの映像を確認すれば、何が起きていたのか見れる筈です。
不慮の事故なのか、殺意的なのかは映像を見れば判断も出来ます。
うっかり名倉谷さんを殺害してしまった槇三さんは、意識を失った名倉谷さんを浴室へ運び入れ、証拠隠滅をする為の作業をしている最中なのでしょう 」
マオ
「 死体を切断してバラバラにしてから彼此に捨てに行くって事か?
………………警察に知らせないと!
このまま放置は出来ないよ! 」
セロフィート
「 大丈夫です。
既に槇三さんに成り済ました〈 器人形 〉に警察へ自首の電話を掛けさせてます 」
マオ
「 対応、早っ! 」
セロフィート
「 診療所のカモ──いえ、大事な患者さんの一大事です。
知らん顔は出来ません。
古代魔法で浴室のドアを開かなくしてます。
これで槇三さんは浴室から逃げる事は出来ません。
名倉谷さん宅の固定電話を使い〈 器人形 〉に電話を掛けさせたましたし、警察も名倉谷さんを殺害した犯人が “ 自首する為に自分から電話を掛けて来た ” と思うでしょう。
因みに名倉谷さんを切断するのに使っていた中華包丁は洗面脱衣室へ移動させてます。
血が付いたままですから、警察が間抜けでなければ察してくれるでしょう 」
マオ
「 至れり尽くせりだな。
槇三さん、逮捕確定じゃんかよ 」
セロフィート
「 警察が来る前に〈 器人形 〉には、御宝殿セット,隠しカメラ,ミニマムキノコンを回収させます。
処方箋は槇三さんが破り捨てた事にして、指紋を付けておきましょう 」
マオ
「 ひでぇ…… 」
セロフィート
「 如何にも槇三さんが壊したかの様に見せる為、壊された御宝殿セットを代わりに置いときます。
槇三さんは診療所を嫌ってましたし、貸し出し用の御宝殿セットが壊されていた方が、雰囲気が出ると思いません? 」
マオ
「 どんな雰囲気だよ……。
今日は診療所の予約日だし──、診療所へ行くだの行かないだので言い争って口論になった末の犯行──へ警察を誘導するのか? 」
セロフィート
「 誘導なんてしませんし。
ワタシは槇三さんに “ めっ! ” をしたいだけです♪ 」
マオ
「 槇三さんに言われた事を根に持ってたのか? 」
セロフィート
「 心外です。
カモ──いえ、患者さんが1人減らされた事に対する “ めっ! ” です♪ 」
マオ
「 ……………………一々言い直さなくて良いだろ。
潔く “ カモ ” で良いじゃん。
カモってたのは事実なんだし! 」
セロフィート
「 名倉谷さんは飛び切り優秀なカモさんでした。
亡くなってしまい惜しいです。
名倉谷さんの代わりとなる逸材をマンション内で見付けなければいけませんね 」
マオ
「 近所の菩提寺と不動産屋は継続して狙う気なんだな~~ 」
セロは警察が名倉谷さん自宅に突入が出来る様に〈 器人形 〉に玄関のドアの鍵を開錠させる。
〈 器人形 〉に貸し出し用の御宝殿セットを回収させて、隠しカメラを回収したミニマムキノコンと一緒に転移魔法で診療所へ戻した。
これで名倉谷さんの自宅の様子が一切解らなくなった。
槇三さん警察に逮捕される瞬間も見れないし、名倉谷さんが運び出される様子も見れない。
隠しカメラを回収した所為で、今後の展開がどうなるのか皆目検討も付かない。
マオ
「 セロ──、名倉谷さんが槇三さんに殺害された事、光には── 」
セロフィート
「 言いませんけど。
マオ、ワタシ達は何も見てません。
ワタシ達は診療所に居るのです。
離れたマンションの一室で “ 何が起きていたのか ” 知らないのです。
最後まで知らぬ存ぜぬで通してください 」
マオ
「 ニュースを見て初めて事件を知る──って事だな? 」
セロフィート
「 警察は診療所にも捜査しに来るでしょうし。
呉々も口を緩ませない様にしてください 」
マオ
「 分かったよ…… 」
セロフィート
「 今日は切り上げましょう。
今夜の夕食は、すき焼きみたいですし 」
マオ
「 すき焼きかぁ~~。
正月以来じゃん!
よぉ~~し、今日は沢山食べてやるぞ!! 」
セロフィート
「 ふふふ…。
マオの食いしん坊さん♪
食後のデザートはワタシにします? 」
マオ
「 えっ!?
な…何言い出すんだよ!(////)」
セロフィート
「 冗談です♪ 」
マオ
「 セロっ!!
一寸だけ本気にしちゃっただろが!! 」
診察室のドアの鍵を開けたオレは、セロと一緒に診察室を出る。
これから暫くは、周囲が騒がしくなるんだろうな。
はぁ…………診療所の患者さんが同棲していた彼女に殺害されるなんて……。
まぁ、患者は未々沢山居るし、セロは困らないか。
◎ 此処まで読んでくださった読者さん、有り難う御座いました。
お盆も終わりましたので、完結です。




