元カノの歯ブラシ
同棲して半年して、別れて出ていった彼女の歯ブラシで、便所掃除をした後、それを嫌いな先輩に譲った。
それだけで何と言うか、俺は腹の虫がおさまらず、彼女が残していった服とかも全て先輩に譲った。
先輩は「ありがとう」と礼を言った後に強請ってもいないのに、二千円を渡してきたので、これは一儲けできるな、と冷静に考えている自分がいて、それが妙に嫌だったので、駅前の良くわからない団体に寄付をした。
その日以来、俺はその先輩が苦手になったし、なんならあの人は人間じゃないと思うようになった。だって、便所を洗った歯ブラシ、言ってしまえば、便所ブラシに二千円を払っている人だし、なんなら、それで毎朝歯を磨いているかもしれないからだ。もっと言うと、それを人の元カノの物だと思いながら、それを考えると、無性に気持ちが悪い。
だから、その先輩から離れるように町を離れた。
しばらくして、俺は別の用事があり、アパートの前を通ることがあった。そこには、引っ越し業者のトラックが止まっていた。別に気にも留めなかったが、そこのアパートに荷物を運んでいる男の姿を見て、ぞっと背筋に冷たいものが走った。
先輩がいた。
茶色い段ボールを抱えた引っ越し作業員の後ろを、歯ブラシが入ったグラスを一つ丁寧に運ぶ先輩がいた。
余計に怖くなった。
歯ブラシの件もそうだし、元カノと俺が住んでいたアパートにわざわざ住み始めたというのも気味が悪い。もしかすると、先輩は元カノの事が好きだったのかもしれない。で、それの残り香を感じるために、歯ブラシや同じアパートに住み始めたのか。
そこまで考えたとき、俺の心では恐怖が薄まった。
単なる気色の悪い男だ。
なら、それを近くで観察してみたいと思った。
「先輩、お久しぶりです」
引っ越しトラックを見送る先輩に、俺は後ろから声をかけた。
びくりと震えた先輩は、振り向くと、俺の顔を認めて安心したのか笑みを見せる。
「おう、君か。久しぶりじゃないか」
「えぇ、元気してましたか。俺の住んでたアパートに住むんすね」
「おう。結構、便利な場所にあるからな」
確かに、このアパートは彼女が決めただけあり、スーパーも駅もバス停も近くにある。しかも、それでいて、家賃も手頃ときている。だから、俺も長い間同棲生活に使っていたのだ。
「どうだい、あがっていくか?」
先輩が遠慮がちに、そう提案してきた。
これは幸いだ。どんな部屋になっているか気になる。最も引っ越しの作業があったので部屋は片付いていないだろうが、それでも今後、次に訪れるときの切っ掛けになるだろう。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はそういうと部屋にあげてもらった。懐かしい間取りは、殆どが段ボールで占められていて、足の踏み場は辛うじてというところ。なんとかある空間に、腰を下ろすと、先輩は「ちょっと待っていて、部屋着に着替えるから」と段ボールをあけて探し始めた
缶ビールでもいいからないのだろうか、と思いながら、俺は部屋をぐるりと見まわす。
何も変わったところはない。なんてことはない、自分の思い過ごしか。
そんな風に考え始めたときだった。
先輩が段ボール箱の中から、取り出した服を見た。
元カノの服。
先輩が服を脱ぐ、だるだると垂れた皮膚と脂肪で太った身体。
それを元カノのぴちぴちの服が覆い隠せる限界で隠す。
「やっと想いがかなったわ」
「な、何がですか」
「君と同棲してみたかったんだ。彼女の役割でね」
先輩の太い指が僕の腕を掴む。
「えっと、帰っていいです?」
「だーめ♡」
以下動画にしたリンクです
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42441024?ref=garage_share_other