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出現から約3ヶ月の記録

最初に怪化支(アヤカシ)とは今年5月頃より日本各地で度々目撃されるようになった既知生物とは異なる生態と異常な身体能力を持つ生物の総称である。今日(こんにち)までに複数種の存在が確認出来ているがいずれも人に害を為す危険性が高く発見次第付近の警察又は専門機関まで通報することが推奨されている。しかしその甲斐むなしく、現時点で怪化支によるものと思われる被害者は215名にまで及んでいる。

並の刃物では傷を付けることすら難しく、銃弾であっても続けざまに近距離から撃ち続けなければダメージを与えることすら難しい。反面、治癒能力は高くなく一度傷付けさえしてしまえばその場所を攻撃し続けることで致命傷を与えることも可能である。

詳細な生態、出自に関しては謎が多く調査の余地は多いとされる。しかし、古来から人智を超える存在として伝承されてきた妖怪と怪化支には似たような特徴を持った個体が多いことから古来より存在し人々の生活を脅かしていたのではないかとする説も存在している。そのためか総称として付けられた怪化支は妖怪の別称である妖を彷彿とさせる一方で個体名称については既存の妖怪名からではなく新たにネット上や世間で自然発生的に名付けられることが多い。このような事態を専門家らは妖怪と近しいと言えど特定害獣『怪化支』として存在を確立させたいので個体名称が名付けられているのではないかとの見解を示した。


以下、現時点で確認されている怪化支をまとめたものである。


1.コダツトリ

人の女性の身体と鳥のような手足と翼を持った怪化支であり、怪化支としては初めて観測された個体である。飛行はもちろん、その手足で人に傷を負わせることも可能である。さらに血液に神経毒が含まれており、危害を加えた者には手足で傷を負わせた後、自らの血液を浴びせて無力化させる。

動向に関してはまず5月7日午前1時頃、福島県の高速道路で人の女性と鳥が合わさったような人間大の生物が空を飛んでいるという通報から始まり、そこから数日毎に同じような情報が寄せられたが当初はいたずらかの類いだと思われまともに取り合われる事は無かった。同月中旬頃になると茨城県の都市部でも目撃情報が寄せられるようになり、ネット上でもその姿を写したとされる映像が投稿され様々な憶測を呼んだ。そこから少しの間目撃情報が途切れるが5月22日に初めて怪化支によると思われる被害が茨城県内で報告される。最初に被害のあった塚本家(仮名)では生後3ヶ月の玲ちゃんの部屋を換気する為、午前1時頃に窓を開けてから一瞬だけ部屋を退室した後、すぐに玲ちゃんの眠るベビーベッドを除くと姿を消していた。その際に外から翼をはためかせて飛び立つような音が聞こえたので窓から外を見ると腕に我が子を抱えた状態で飛び立つ翼の生えた人間が見えたという。翌日には通報を受けた地元警察と消防が付近を隈なく捜索するも発見には至らなかった。そして、22日を境に連日、同じ内容の通報が相次ぎ最初の被害から2週間で件数は12件に及んだ。いずれも被害者は1歳未満の乳幼児に限られており、中にはマンションの中層階から連れ去られたケースも存在している。標的が乳幼児のみの鳥人というからコダツトリという呼び名でいつしか呼ばれるようになった。そんな中、警察はマネキンを使ったおとり捜査を実施するも結果が振るわずに捜査が膠着していたところ、水沼ダム付近で空を飛ぶコダツトリを目撃したという情報が入り警察と消防で捜索を開始する。程なくして付近の岩崖の下に連れ去った乳幼児と共に隠れるコダツトリを発見し、捕獲を試みるも鳥のような手足と神経毒の入った血液を撒き散らした事で最終的に死傷者5名、負傷者11名の被害を出した。最期は岩に当たって跳弾した弾丸が乳幼児に当たりそうになったのを身を挺して庇うとそのまま頭部に集中砲火を食らい、意識が朦朧とした状態になると連れ去った乳幼児達を自らの翼で包み込むような体勢になりそのまま絶命した。なお、連れ去った乳幼児全員に外傷は見られなかったが栄養失調により発見時には全員既に死亡した状態だった。子供を奪い去る情報が報道されると『ウブメ』という妖怪と同一視する意見も数多く見られた。


2.エンゴクソウ

体格は成人男性のものだが豹や虎といった猫科の頭部と手足を持った怪化支である。歩行時は二足歩行のだが、走行時には四足歩行になり身の回りに炎を出す。なお、速度だが高速道路を走る車を追い越すこともあったということから時速80km程で走れるのではないかと推測される。走行時以外にも攻撃手段として炎を用いており、標的にピンポイントで火の玉を投げることで焼き殺したり、直接触れることで標的から発火される等して被害者を増やしている。

動向に関しては前述のコダツトリが茨城県で被害を出していた一方、同時期の兵庫県で目撃されていた。初めて目撃報告が上がったのは6月3日午前0頃の名神高速道路であった。同日午前3時頃までその目撃報告は続いたが通報者は皆、四足で炎を纏いながら走行する車を追い越していったと報告した。翌4日になると前日の報告を受けた警察が夜間の名神高速道路を封鎖し、沈静化と捕獲を試みるがその期待は裏切られることになった。5日の午前1時頃、繁華街で人が焼死したと通報が入ったのだ。火の気の無い場所での焼死と現場付近で高速移動する生物の目撃情報が入ったことで3日から目撃されていた怪化支による犯行だと断定されることになった。

最初の被害者である柳嶋昌晴さん(仮名)は建設会社の社長であった。その日も趣味のゴルフ仲間と深夜まで飲み歩いていた所に突如、高速で近づいてきた謎の生物に触れられ発火、そのまま全身に火が燃え移り焼死したという。またこの時、高速道路で車を追い越している同個体の動画がネット上にアップロードされてまたもや話題を呼んだ。いつしか炎を纏い高速で移動する姿からエンゴクソウという名前で呼ばれるようになった。

その事件を機に兵庫県内全域で深夜の外出禁止令が発令されると目撃情報と被害の報告が一切上がらなくなるが最初の被害から5日後、今度は岡山県と広島県で複数の焼死報告が上がった。2日間で35名という数が犠牲になる。翌日6月11日に警察は西部へと進み続けている事、都市部に現れる事を踏まえて最後に目撃談のあった尾道市より西に位置する広島市と念のため愛媛県に続くしまなみ海道にも包囲網を敷く。すると翌午前1時頃しまなみ海道で警官隊と衝突。炎を纏ったエンゴクソウに苦戦を強いられてしまい、左ふくらはぎに傷を負わせることに成功するも愛媛方面に逃走されてしまう。この時の交戦で警察の被害も甚大となり死者13名、負傷者30名を出す結果となった。その後愛媛県でエンゴクソウによる被害は発生しなかったが、1ヶ月が経過した7月13日頃から不規則的に長野県と愛知県でそれぞれ2件ずつ、群馬県で3件、同じ手口の焼死報告が上がっている。しかし詳しい足取りは誰一人として掴めていない。

後日判明したが、エンゴクソウの被害者は総じて賄賂や横領を始め、事故や手抜き工事の隠蔽、捏造等の不正や不祥事に一度でも関わった経験があった事が死後の調査で分かっている。『カシャ』という妖怪が悪行を行った者の亡骸を奪うと言い伝えられており、人を焼き払うことで命を奪っていたと解釈した場合、被害者の共通点と合わせて『カシャ』と同一視する意見も見られる。


3.カワノメ

現時点で唯一、同一種が複数体確認されている怪化支である。全身が暗い緑色で基本的には二足歩行である。手足にはヒレがありこれで主な行動域である水中を自在に移動することが確認されている。体格や身長もバラバラで子供と同じような個体もいれば、成人女性と同じ身長の個体まで様々である。襲撃する際は、水辺や水上にいる人間に対して突如現れ水中へ引きずりこむか、そのまま陸に上がって捕捉した標的の腹部を鋭利な爪で引き裂いて内蔵を引きずり出す。また、一部個体に引きずり出した内蔵を丸めて玉状にする行為も見受けられたという。

初の目撃例は静岡県。6月25日午前10時頃、大見川に釣りに来ていた今畑秀智さん(仮名)だったが同行していた境一芳さん(仮名)の姿が見えなくなっていることに気付き辺りを探した所、全身が暗い緑色で子供のような生物を見かけて怪化支だと判断して通報した。近くには腹を引き裂かれ絶命した一芳さんが倒れていたという。怪化支側も秀智さんの気配に気付くと慌てて川の中に潜り姿を消した。その2日後、27日には都田川でも同様に1名が犠牲になっているが目撃情報では体長が成人女性程であった為、別個体と思われる。警察は今後、被害が増大することを懸念して河川での遊泳を禁止することに踏み切る。それから河川での怪化支の目撃と被害が報告されず対策は成功したかに見えた。しかし、3週間後が過ぎた7月17日から今度は神奈川県で被害が確認され始める。最初に宮ヶ瀬湖でカヌー体験が行われていたところに出現し、大人と体験に来ていた子供を合わせ9名程が犠牲になり、その日の午後には付近のバーベキュー場に3~4体で現ると、アウトドアに勤しんでいた家族や集団を襲い28名が犠牲になった。その襲撃の際に撮られた映像は動画サイトに投稿され、襲撃直前に川の中で目が光っていたというコメントが多く寄せられたことでカワノメという名前で呼ばれるようになった。その後8月には山梨県と千葉県でも5回の出現報告があるがいずれも体長や身体の特徴などに違いが見られる為、別個体であると思われる。またカワノメによる被害者は活動範囲の拡大、同種の複数個体の出現に伴い58名にまで上った。

このまま犠牲者とカワノメの個体が増えていくとばかり思われたが、8月29日の山梨県笛吹川上流にて3体のカワノメの死体が発見された。いずれも何者かによって強い衝撃が与えられているのか内蔵が破裂した状態だった。怪化支同士による抗争が勃発したのか、未確認の第三者による仕業なのかは不明である。

有名な『カッパ』とその特徴が酷似しており、カワノメと呼ぶ声が多い一方、一部の間ではカッパとそのまま呼ぶ声もある。


以上3種が現在確認されている怪化支だが、その他にも不可解な圧死や原因不明の病死が数件発生しており、観測されていない個体が未だ複数体存在していると囁かれている。


次に怪化支がもたらした人間社会への影響についてだが、怪化支による被害が拡大していることを受けて外出を控える要請が各県警察から発表された。その後外出する人が減少した事で経済活動や株価は軒並み伸び悩んでいる状況にある。

怪化支による被害が増加する社会に対する漠然とした不安からか自殺者も増加しており、とりわけ10代から30代の間で多いと言われている。一方で、ネット上に怪化支の行動に賛同し、怪化支を崇めるコミュニティも小規模ながらいくつか形成されており今後の動向については注意が必要とされる。


コダツトリの目撃報告がされる2週間前に某県との県境にまたがる山の頂上に神体が鎮座する神社の本殿より古くから厳重に保管されていた箱の中身が無くなる窃盗事件が発生しているが因果関係については調査中である。文献によると箱の中には開ければたちまち災いを呼び寄せる厄災を封じていたとされており神社の宮司や関係者からは忌避されていたという。前述の窃盗事件の際に神社の宮司も同時に行方不明となっており重要参考人として目下捜索中である。


以上。



追記

これまでに死亡した怪化支の体組織を専門機関で調査したところ、どれも人間の体組織と特徴が酷似している事が研究により判明した。

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