第四夜 幸せ行きの切符
第四話です。
人生って案外こんなもんなんじゃないかと思います(笑)
ぜひお楽しみください。
チュンチュン。
小鳥の囀りで目が覚めた。
気持ちのいい朝。
穏やかな日差しがカーテンの隙間から差し込んでくる。
昨晩、窓を開けたまま寝たのか、春の空気を含んだ穏やかな風が入ってきてそっと頬を撫でた。
なんだか、今日もいい1日が始まりそうな予感がした。
駅に着いた。
今日は休日。
特に行く宛もなかったが、電車に乗って少しぶらぶらしようと思っていた。
見ると、一つの窓口に人がずらりと並んでいる。
好奇心に駆られて、どうせ予定がないのだからと、長蛇の列の一部になる。
窓口の様子が見えてくると、どうやら、人間の形をしたロボットが一台座っており、案内をしているようだ。
自分の番になる。
「すみません、電車に乗りたいのですが・・・」
「どこに行きますか?」
平坦な声。
「実は、特に決まっていなくて・・・おすすめの行先ありますか?」
「それなら、こちらはどうでしょうか?」
一枚の切符を見せられた。
【現在地→幸せ 行き】
「何ですかこれは?」
「購入されますか?」
質問には答えてくれないみたいだ。
迷っていると、もう一枚紙が出てきた。
【誓約書 わたしは自分の人生を幸せに生きる幸せの切符を購入することをここに宣言します】
と書かれていた。
「もし、購入されるのなら、ここにサインをお願いします」
と念押し。
しばらく考える。
これは買っていいものなのだろうか。
買う権利があるのだろうか。
あれこれ言葉が浮かんでは消える。
後ろを振り返ると、人の並ぶ列がさらに長くなっていた。
「購入する気がないのなら、お引き取りください」
感情のない声で人間ロボは言い、切符と誓約書は窓口の後ろへと消えていった。
なんだかモヤモヤしたまま、列を外れ、少し離れたところで、暫く観察することにした。
一人一人、窓口にたどり着いた人達は、いろんな反応をしていた。
切符を出された時、驚く人や、喜ぶ人、何だ、これはと怒り出す人もいる。
しかし、誓約書が出されると、みんな表情が曇り、長い人は一時間そこで悩む人もいた。
誰一人として、サインをした人はいなかった。
ある子供の番が来た。
切符と紙が出されると嬉しそうに喜びの声をあげ、軽やかにサインをして切符を受け取った。
そしてスキップをしながら、改札を通り、消えていった。
その光景に呆気に取られながら、暫く突っ立っていたが、よおし、と気合を入れ直し、もう一度、列に並ぶことにした。
決断すると同時に心臓の鼓動が早くなる。
自分の番が近づくにつれ、額からは大粒の汗が噴き出てきた。
人間ロボは先ほどと同じ言葉で切符と誓約書を出してきた。
サインをする時、緊張で手が震えた。ふぅーと息を吐くと少し落ち着いた。
渡された切符を掴むと驚くほど軽い。手の中で握るとなんだか、温かい気持ちになる。
ふと、自分は幸せ行きを選択したのだと実感した。
切符が機械吸い込まれ、改札を抜けると、目の前の景色が歪んだ。
そして、あたりは真っ白になった。
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