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ゆうれい補導員#3  作者: victory
1/1

#3

遂に真実が明かされます。

5.

 その言葉を聞いた陽子はクスッと笑った。

「何を言い出すかと思えば、とんだ逆恨みじゃない。あなたがどんな境遇で育ったかは知らないけれど、どこからだって這い上がってる人間は居るわよ。甘えた事言って、人生舐めてるから這い上がれないのよ。私のような人間が全員、努力も無しに今の生活を手にしたと思っているなら、視野が狭すぎるわね。世間知らずもいいところよ。」 

それを聞いた悪霊男は激昂し、こう言った。

「じゃあ何か?お前の言い分では、俺は甘ちゃんの馬鹿ってか?生まれつきどうしようもない境遇にあえぎながら生きてきた俺の気持ちがお前のような人間に分かってたまるか。親の金でぬくぬくと進学出来て当たり前に就職できる人間に、俺の気持ちは分らんだろう。家に帰れば否定され、殴られやりたい事もやれず、ただの生き地獄を生きるしかなかった俺がこうなったのは、俺の責任だってのか?あんまりだろう。二十歳過ぎたら自分の責任とかなんとか言うが、それまでに染みついた生き方を死ぬような思いで変えていかなきゃなんねぇ奴らが、ぬくぬく愛されてのほほんと育ってきた人間に甘いのなんのと説教されたくねぇ、お前らは恵まれてる事に気付く事無く、俺らのような人間の心を踏みにじっていく。そんな人間が社会で必要とされて活躍し、必死の思いで生きてきた俺のような人間は蔑まれ笑われ、社会からつまはじきにされ、こんな不条理が許される世界なんて、生きる価値もねぇだろう。」

そう言った悪霊男の言葉に陽子は答えて言った。

「まあ、一利あるわね。温室育ちの人間なんかは、きっと悪気が有るにしろ無いにしろ、あなたのような人を下に見ている場合はあるわね。けれど、それが自身の命はおろか、他者の命を奪っていい理由にはならないわね。」

陽子は悪霊男をまっすぐ見据えて言った。

男は笑いながら応える。

「正論振りかざして人を追い詰める、それもお前らみてぇな人間のあるあるだぜ。何故日本の自殺者が多いと思う?皆耐え難い苦しみから解放されたいのさ。寝たきりでも無駄に生かされ長々苦しませる奴ら、死ぬ程働かされ苦しみから逃れたい人間に命は大切だとかほざく無神経な奴。そういう連中から逃げるために楽になりたくて救いを求めてこの世から消えるんだよ。自身の意思で死ぬ権利も無いこの国で、唯一楽になれる方法なんだよ。」

そう言った男の目は虚ろだった。


6.


「ご高説ありがとう。どうやら平行線のようだから、先にもう一人の彼に話を聞くわね。」

 そうして最初の料理人男に向き直った陽子は、彼に話しかけた。

「あなたは、また人生をやり直せるとして、もし行き詰ってしまったら、苦しくなってしまったら、同じ事をする?」

そうすると、料理人男は首を横に振り、はっきりとこう言った。

「いいえ。もし、あり得ないけれど、もしもう一度やり直せるなら、歯を食いしばって食いしばって、絶対に盛り返したい。もう、二度と諦めたくない。」

そう言った男に陽子は微笑み、悪霊男にこう言った。

「ほら、皆が皆、あなたのような人間ばかりじゃないのよ。こうやって、地道に実直に泥水すすってでもやっていこうって人間も居るの。その未来を、あなたは自分勝手に奪ったのよ。救いとかおこがましい考えでね。」

そうして陽子は右手を悪霊男に向け、お経を唱えた。

その瞬間、悪霊男は喚きだした。

「やめろ!俺はここで人々を救い続けなければならないんだ!邪魔をするな!!」

しかし陽子はお経を唱えるのを止めない。

そして悪霊男が消えゆく直前、こう囁いた。

「あなたが言ってる事、生きてきた人生、全く共感できなくは、無かったわ…。」

そして少し陽子の表情は切なげに変わった。

「次は、あなたの番よ。」

そう言って料理人男に向き合い、こう言った。

「あなたが無意識に自殺したと思っていたのは、あの男が原因だったのよ。けれど、すべてにおいて彼を責める事は私には出来ない。生きる事が死ぬ事よりも苦しい事は実際にあるから。けれど、彼を野放しには出来ないから。安心して、彼もあなたも、苦しまないで逝けるわ。」

そして次は右手を料理人男に向け、こう問いかけた。

「次、産まれてくるなら、どんな人生を生きたい?」

すると料理人男は、きっぱりとこう言い放った。

「また、俺は俺に生まれて、料理をやりたい。そしてまた妻と結婚して、娘と三人で生きていきたい。次は何があっても、俺は俺の人生を諦めたくないです。」

そして、今日初めての笑顔を陽子に向け、消えていった。

「きっと、次のあなたなら、大丈夫ね。」

こうして、陽子は帰路につくのだった。

次回は、事務所メンバー登場です。


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