1-5:剛拳
早く狩りとか、バトルシーンとか書きたいです。
ゼノ、アリーザ、フェイ、ゼーレの4人は冒険者ギルドの外に出る。
「冒険者ギルドには悪いことをしちまったな」
「ゼノさんは何も悪いことしてないじゃ無いっスか!」
ゼノは申し訳なさそうに言う。
鎧の冒険者が止めてくれなければ今頃怪我人が出ていたであろう。
「鎧の冒険者カッコよかったな!!」
「「白鎧の剣聖」の事ッスか?」
「そうそう!重そうな鎧を着てんのにあの素早い動き、かなり強いぜ」
「あの人はイルテシアでもかなりの有名人っスからね」
「そうなのか?」
ゼノが興味を持ち、目を輝かせている。
「そうっス!都市でも5本の指には入るんじゃないかって噂ッス」
「そうなのか!戦ってみたいな!」
ゼノの目標がまた一つ決まった。
手合わせをしてみたい、そう思うゼノであった。
「そういえば」とゼノが言葉を続ける。
「アリーザも二つ名で呼ばれていたよな?とうじん?だったっけか」
その名を出した時、アリーザの身体がビクッと揺れる。
「それはー、そのー」
アリーザが口ごもる。
「ワタシも気になるのダ!!」
フェイも目を輝かせる。
んー、と数秒間悩んだアリーザ。
「分かったッス。それじゃあ、ちょっと場所を移動するッス」
二人から迫られて抵抗することを諦めたアリーザが言う。
そう言われて、ゼノ達はイルテシアの外に出る。
街の中を歩いている途中、自分たちを見ながらひそひそと話している冒険者を一定数見かけた。
冒険者の男が腹いせのつもりなのか言いふらしているようだ。
「ゼロのゼノ」、否定できないのが少し悲しいが、自分の現実を受け入れる他ない。
冒険者の情報網は早いと感心せざるを得なかった。
4人はイルテシア郊外の草原に辿り着く。
辺りを見る限り、冒険者はいない。
「それで、とうじんの意味は何なんだ?」
「ゼノさん、自分の一撃を受ける気はあるっスか?」
唐突にアリーザが可笑しな事を申し出る。
意図が分からないゼノは首を傾げる。
「ああ、いいぜ!」
ゼノは軽い返事で了承する。
「フェイは危ないから下がってろ」
「分かったのダ」
フェイはゼノとアリーザから距離を取り、その様子を見守る。
「おいおい、オレには言ってくれねぇのかよ?ひでぇ相棒もいたもんだこって」
ゼーレが茶化したように言う。
「馬鹿言うな。ゼーレな何処にでも隠れられるだろ?」
ゼノが軽く笑う。
そして、ゼノとアリーザは対峙する。
アリーザの手には何も握られていない。
剣は鞘に納まったままだ。
「武器は使わないのか?」
疑問を覚えたゼノが質問する。
「はいッス!自分、この剣はお飾りみたいなモノッスから」
アリーザが剣の鞘を撫でる。
そして、何も装備されていない拳を握り締め、構える。
「さぁ、いくッスよ!」
「ああ、来い!!」
アリーザはゼノに向かって駆け出す。
アリーザの走る速度は遅くはないが、ゼノの目で捉えられない速度ではない。
それでもゼノとの間を数秒のうちに詰めると、握られて拳を振りかぶる。
隙の大きい拳ではあったが、受けると決めていたゼノは避けようとせず、腕で受け止めようと交差させる。
しかし、ゼノの眼が捉えたのは振りかぶられた拳のみであった。
アリーザの拳がゼノの腕に接触する刹那、ゼノの全神経が危険信号を上げる。
この拳を受けたらまずい!そう、告げていた。
生存本能に逆らえず、ゼノの思考は避けることを選択する。
(避けんな!!!被害が出るぞ!!!)
その思考を引き止めたのはゼーレの言葉だった。
咄嗟に腕を戻し、アリーザの拳を受ける。
先程まで見えなかった拳がその瞬間だけはっきりと見える。
時の流れが遅く感じ、ゆっくりと動く世界をゼノは視る。
アリーザの剛拳が接触した場所を中心に波紋が広がる。
ゼノの腕の皮膚が揺れる。
骨が軋む。
衝撃が伝播していくのが分かる。
その時、世界の時間の流れが元に戻る。
僅か0.1秒にも満たない時間にこのようなことが起こっていた事を本能的に理解する。
その時にはゼノは遙か後方に吹き飛ばされていた。
「このままだと街に突っ込むぞ!!」
宙を舞うゼノは安定しない姿勢のまま、覚悟を決める。
街に被害が出るのは避けなければならない。
なるべくこの力には頼りたくはないが、、使うしかないと内心諦める。
あの時ゼーレとの契約によって授かった力。
自分の力ではない人外の、借り物の力。
ゼーレは遠慮なく使っていいと言ってくれているが、ゼノは極力その力を使いたくなかった。
自分の力だけで最強に為らなくては意味がない。
それでも足りないゼノには使わざるを得ない。
だから、どうしてもの時だけ使うことを誓った。
今となっては30秒が限界。
それでもその30秒間だけ、ゼノは魔力を操ることが可能となる。
ゼノを人でないモノに昇華させる、そんな力。
ゼノは魔力を解放する。
全身の神経を集中させる。
地面を掴むイメージを。
するとゼノから発現する魔力は地面に向かって伸びていき、突き刺さる。
それでも勢いは殺せない。
地面が抉れていく。
ゼノから伸びる魔力を操作し、自身の高度を地面まで下げる。
そして、魔力で増強された足を地面に突き刺す。
足が傷を負うが、そのようなことを気にしている場合ではない。
景色が高速で流れていく。
「止まれぇぇぇぇぇ!!!」
痺れている腕で短剣を抜刀し、地面に突き立てる。
雄叫びを上げながら自身の速度を減速させんと力を振り絞る。
残り、10秒。
そこで、速度は等速から減速に変わる。
残り、5秒。
ゼノは一層力を込める。
そうして漸く停止することが出来た。
ひゅう、ひゅうと呼吸音が鳴る。
身体中の細胞が酸素を欲する。
全身がびりびりと痺れ、軋む。
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ゼーレはアリーザの拳が振るわれる瞬間を視ていた。
アリーザの魔力が不気味なほどに腕に集まっていることに。
拳に初速が与えられた瞬間、魔力が後方に射出され、拳が超加速する。
加速に使用されなかった魔力は腕の強化に使われ、その強度と破壊力を上昇させていた。
そこまで見抜いたからこそ、咄嗟に指示することが出来た。
――この一撃、神をも穿つかもしれねぇ。いや、流石にそれは言い過ぎか。
予想外の破壊力にゼーレから冷や汗が流れる。
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アリーザの拳の衝撃によって生まれた砂煙が晴れる。
そうしてゼノの視界に映ったのは、
雑草が地面から捲れ上がり、その下の土を露わにしている様子だった。
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