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混ざりモノの冒険記  作者: みやふか
第1章:邂逅編
8/10

1-4:二つ名

サブタイトルに番号を振りました。




「それでは気を取り直して。ギルド職員のエンジュ・ミレディアです」

こほんと咳払いをして、エンジュは丁寧に挨拶する。



「敬語じゃなくていいぞ。なんかむず痒い」

「あーそう?じゃあそうするわ」

先程ゼノが子供扱いしたときの態度からはかけ離れた言葉遣いに違和感を感じ、ついそう言ってしまう。



「アタシがアンタのサポートをする職員ってワケ。他にも数人担当してるけど、アンタみたいなのは初めてだわ」

「そうなのか?」

「ちょっと待ってねー、ふむふむ。え?」

エンジュの表情が凍り付く。



「どうかしたのか?」

「アンタの能力値を見てるんだけど、魔力量ゼロって嘘でしょ!?」

「いや、ほんとだけど」

「ちょっと待って、他にも加護もなしって、、、」

あり得ない、そういうようにエンジュが言う。

「加護ってなんだ?」

ゼノが素直に疑問をぶつける。



「加護ってのは生まれた時点から備わってるものなの。いわば才能みたいなもの。種類も様々で、普通の人なら2から4、多く持つ人は10以上ということもあるわ。ともかく、ゼロってのはおかしいの」

「知らなかったっていうか加護ってのも今知ったからな」

なるほどとゼノは納得する。



「だから」とエンジュは言葉を続ける。

「アンタ、冒険者はやめときなさい」

「断る」



「即答!?」

エンジュは驚く。

誰に止められたとしても、ゼノは冒険者になることを諦めない。



「一周回ってすごいと思えてきたわ」

「だろ?」

「褒めてない!」

子供のように表情がころころ変わるエンジュにゼノが笑う。



「はぁ」とエンジュが一息つく。

「アンタの決意は分かったわ。そうとなればこちらも全力でサポートする」

「ありがてぇ」

「それがギルド職員として当然のことよ」



そういうエンジュの姿にゼノは少し格好良いと思うのだった。




ゼノはその後エンジュから様々な説明を受けた。

冒険者のランク制について。

冒険者にはランクというものが存在し、ランクに応じて受けることのできる依頼の難易度が変わる。

依頼達成につき、冒険者はポイントを入手できる。

ポイントが一定値に到達するとランクが上昇する。

依頼不達成につきランクの下降も存在する。

これも冒険者の死亡リスクを低下させるためのシステムであるらしい。



次に冒険者が集まって結成されるクランについて。

冒険者都市イルテシアにはクランというものが存在する。

規模は数人から数百人と様々。

多くの冒険者はクランに所属しているらしい。

クランが一定規模に到達すると、冒険者ギルドから正式なクランと認められる場合もある。

そうした正式クランは冒険者ギルドから難易度の高い依頼を斡旋されることもあるようだ。

クランに所属するメリットは多々あるが、最も恩恵が大きいのは新米冒険者の成長の違いだろう。

自分よりも強い冒険者がいるクランに所属することで、そうしていない冒険者よりも強くなりやすいのは明らかだろう。



説明を聞き終わったゼノは受付を離れようとする。

それをエンジュの言葉が引き止める。


「アンタに一つ忠告。勝てない冒険はしない。それが冒険者と生き残るコツよ。」

「分かった。必ず生きて帰ると約束する!!」

「精々頑張りなさい」



ゼノたちは今度こそ受付を離れる。


「変なヤツもいるもんね」

エンジュがぽつりとこぼした言葉はゼノには届くことはなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「フェイは冒険者になれないのダ?」

フェイがゼノの裾を引っ張る。

「いや、やめといた方が良さそうだぜ」

ゼノに隠れていたゼーレがぴょんと飛び出してくる。



「どうしてなのダ?」

「オレが見た感じだとあの装置、年齢がばれるぞ」

フェイは永き時を生きる竜だ。

仔竜とはいえ、人間の子供とは比べものにならないほどの年月を重ねている。

今は人の形をとっているが、年齢から正体が見破られても不思議ではない。



「じゃあ、やめとくのダ」

フェイはしょんぼりと俯く。

「まぁ、冒険できないことはないだろ」

ゼノはフェイの頭を撫でながら慰める。



ゼノは自分の冒険者証を眺める。

そして改めて自分が冒険者になったと自覚する。

ようやく目標への第一歩を踏み出すことができた。



「ここから、ここからだ!」

ゼノは拳を握り締める。

そして、気合いを入れ直す。



「そういえばアリーザにはどうやって会うのダ?」

「たしかにそうだよなぁ」

アリーザは無くした鞄を探しに何処かへ行ってしまった。

冒険者ギルド内にいることは明らかだが、建物内のことを全く知らないゼノにとっては探すことは不可能である。


「どうすっかなぁ」

ゼノが困ったように頭を掻く。

下手にその場から動くとすれ違いになりかねず、ギルド内を迷う可能性もある。

ゼノたちには留まるという選択が最良のようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――





結局その場でアリーザを待ちながら時間が経過すること十数分。

心地よい気候に眠気を齎され、ゼノは欠伸を噛み殺す。



そんな緩やかな気分を破壊する出来事が起こった。

それはゼノがとある冒険者から声を掛けられたことから始まった。



「お前、魔力量なし加護なし冒険者適正ゼロだったってな??」

エンジュとの会話を聞いていたのか、うっすらと笑いを浮かべながら冒険者の男が近づいてくる。

「それがどうした?」

内心舌打ちをしつつも、ゼノは冷静に答える。

「そんなんで冒険者として働けるわけないだろぅ??」

男は嘲笑を浮かべている。

ゼノを見下している様子が見て取れた。



「こいつ、噛み殺していいのダ?」

フェイが怒気を露わにする。

服で顔があまり見えないものの、その金色の眼には鋭い光が宿っている。


「ダメだ」

ゼノは手でフェイを制止する。

ゼノも不快に思っていないわけではないが、このようなこともあるであろうことは予想できていた。



「用はそれだけか?なら去ってくれないか?」

ゼノはバッサリと言い放つ。

明らかに年上であろう冒険者に物怖じした姿を見せない。

冷静さを失ってはダメだ。

失った瞬間に負けは確定する。



「このガキぃ、今謝れば俺の荷物持ちとして雇ってやるぞ?」

男の声が段々と大きくなる。

「断る」

「なんだと!」



男の声が冒険者ギルドに響く。

その声に反応して冒険者の野次馬達が集まってくる。

そして、何をするわけでも無くゼノ達と男の様子を眺め、嫌な笑いを浮かべている。

ゼノの味方はいないと考えて良いだろう。

激昂した男は腰に差した剣を抜く始末だ。

ギルドの職員が止めようとしてくれているが、野次馬達の人混みに揉まれて思うような効力を発揮していない。



そこにゼノの見知った顔が現れる。

「ゼノさん、自分がいない間に何があったんスカ!?」

ひょっこりとアリーザが顔を出す。



「蕩尽」のアリーザだ、そう冒険者がざわめく。

「とうじん?」

ゼノが聞き慣れない言葉に首を傾げる。



「そっ、そのことは今はどうでもいいッス!!」

アリーザの顔に焦りの色が灯る。

冷や汗を流しながらそわそわとし始める。



「いつまで俺を無視してんだぁぁ!!」

剣を抜いていた男はさらに声を荒げると、ゼノに向かって剣を振り下ろす。


戦うこともやむを得ないか、そう思って腰の剣、今となっては短剣くらいの大きさになっている剣に手を伸ばす。

短剣を素早く抜刀し男の剣を迎え撃つ姿勢を取る。



しかし、男の剣はゼノに振り下ろされることはなかった。

金属がぶつかり合う重低音が鳴り響き、男の剣は止められる。


ゼノの紅き眼に映ったのは、煌々と輝く白銀の剣。

そして、全身に鎧を纏った冒険者の姿。

剣と同じような色彩の鎧を纏った姿はさながら騎士の様にも見える。

兜を装着しているため、その顔を見ることは出来ない。



「新人に手を出すのはその位にしておけ。引かないのならばその剣ごと首を刎ねるぞ」

兜を纏っているせいか、言葉から性別は分からない。

身長はゼノよりも明らかに高く、男性の可能性が高い。



男の冒険者は青ざめると剣を納め、捨て台詞を吐きながらその場を離れる。

「白鎧の剣聖」

野次馬達の誰かがそう言った。

どうやらこの諍いを止めてくれた冒険者は有名人のようだ。



「ありがとな!」

ゼノは冒険者に感謝する。

「問題ない。君たちもああいうのには関わらない方が良い」

冒険者が忠告する。

「分かった!「白鎧の剣聖」ってカッコいいな!」

「誰かが勝手に呼んでるだけだ」



白鎧の冒険者が野次馬達を解散させながら去る。



「俺たちも離れようぜ。これ以上ギルドに迷惑をかけるわけにはいかねぇ」

「そうっスね」

ゼノ達は冒険者ギルドの入り口に移動しようと足を進めていく。



その途中、他の冒険者達がゼノ達の方を見ながら何か小声で話していた。

殆ど内容は聞こえなかったが、これだけは聞こえた。



「ゼロのゼノ」と。






お読み頂きありがとうございます。

近々また更新します。

よろしくお願いします。

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