1-1:冒険者都市イルテシア
ここからまた仕切り直しということでよろしくお願いします。
かなり間隔が空いてしまったので、前話から見ていただけると幸いです。
グレアード大森林を抜けると、そこには草原が広がっていた。その直ぐ先に冒険者都市イルテシアが見える。
城塞都市のような城門はなく、巨大な橋が架かっているのみ。
冒険者と思われる人々が行き来しているのが確認できる。
ゼノたちはイルテシアに向かって真っ直ぐ進む。
グレアード大森林にて3年もの月日を過ごしていたため、着ていたものもくたびれている。
成長して大きくなった身体に入りきらなくなった服は、獣の皮で継いで拡大して凌いだ。
「フェイ、目立たない姿にはなれないのか?」
小型の竜とはいえ、都市で目立ってしまうことは明らかだ。
ゼーレは小型化している上、ゼノの身に隠れることができるため、あまり問題にはならないだろう。
(確かにこの姿では目立ってしまうのダ。ちょっと待って欲しいのダ)
フェイは目を瞑る。すると、フェイの足下に不思議な模様の陣が出現する。
陣はフェイを包み込むとその姿を人の形に変える。
元の鱗を想起させるような色の長髪。
見た目は人間の幼子。元は竜の姿のため、一糸纏わぬ姿になってしまっている。
「とりあえず何か着た方が良さそうだな」
ゼーレが提案する。裸の幼子を連れて街に入る方が余程目立つことは明らかだ。
「着るものと言ってもこれくらいしかないけど」
ゼノはフェイに獣の皮から作った布を渡す。フェイは布を纏う。
「街に着いたらフェイの服の調達だな」
「ワタシは気にしないのダ」
「さすがに布一枚はまずいだろ」
街に着いたら最初にすることが決まったようだ。
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ゼノ一行はイルテシアの橋を渡り、街に足を進める。
街の姿は圧倒的だった。
人が絶え間なく行き交い、様々な声が交わされる。
商人とおぼしき人と冒険者が会話をする姿。
狩った獲物を運搬する人々の姿。
その全てが新鮮で、新世界であった。
嬉しさや驚き、その他様々な感情が入り交じって、ゼノの足が止まる。
今にも叫び出しそうなのを必死に抑える。
その胸は夢と希望でいっぱいになっていた。
「そういえば、フェイの服だったな」
一時の興奮から冷静さを取り戻したゼノは本来の目的を思い出す。
服屋を探して街の中を歩いて行く。
見たこともないような食物や道具に気を取られそうになりながらも、目的の服屋を探して目を凝らす。
「あー、あれか!」
教養のほぼないゼノでも店の看板を読むことができたのは幸いだった。
服屋に入り、フェイの服を調達する。
あまり派手なものにならないように注意しながら服を選ぶ。
金はグレアード大森林の生活の時に拾っていたものを使った。
それでもあまり多額は持っていなかったため、節約しながら服を購入した。
フェイは服に着替える。
防御力は無いに等しいものだが、布一枚よりは見た目はいい。
「とりあえずやることは終わったな。次に何をするかだけど・・・」
「冒険者になるためにはどうするのダ?」
「あ、、、」
ゼノの表情が凍り付く。
確かにゼノは最強の冒険者を目指しているが、冒険者になる方法は知らなかった。
ゼノとフェイはゼーレを見る。
「いや、オレも知らねーぞ」
手詰まりだった。
「どうすりゃいいんだぁぁぁ・・・」
ゼノは頭を抱えて蹲る。
「とりあえずその方法を探してみるしかないのダ」
今はそうするしか無いと思うゼノたちであった。
するとその時、ぐう、とゼノの腹の虫が鳴いた。
「そーいや、朝から何も食ってねぇ」
「たしかにそうだったのダ」
ゼノは辺りを見回して、食べ物を調達できる店を探す。
そこには様々な屋台が広がっていた。
「あそこにしよーぜ」
ゼノは気になる屋台を見つけ指さす。
ゼノが気になった店はどうやら串焼きの店のようだ。
何の肉かは分からないが、香ばしい匂いが漂ってくる。
ゼノたちの食欲が刺激される。
「美味しそうな匂いなのダ!初めてニンゲンのメシを食べるのダ!」
「いや、オレが作ったメシも十分人間のメシだっての」
嬉しそうにはしゃぐフェイの頭をゼノが揺らす。
「相棒のメシは肉を焼くだけだったからな。料理と言うにはちと行程がなさ過ぎるぜ」
「ゼーレまで!」
肩に乗ったゼーレを指で軽く弾く。
からかうフェイとゼーレを小突きながら、串焼きの屋台まで移動する。
「いらっしゃい、お客さん。何本だい?」
店の店主が声をかけてくる。
「コレを10本」
ゼノは串焼きを指さす。
金額を支払い、店主が串焼きを袋に詰める。
その途中、
「お客さんたち、見ない顔だな。冒険者かい?」
店主がゼノに尋ねる。
「そう、今は違うけど。おっちゃん、冒険者になる方法知ってんのか?」
ゼノが屋台の台に身を乗り出しながら聞く。
「ああ、ああ。知ってるぞ。たしか、冒険者ギルドってとこで登録をしなきゃならなかった筈だ」
「ほんとか!分かんなくて困ってたんだよ!」
「冒険者志望なのになり方を知らないなんて変なヤツだな。それはそうと、お待ちどおさん」
店主は串焼きの入った袋をゼノに手渡す。
「ありがとな、おっちゃん!俺の名前はゼノ!また買いに来るぜ、必ず!」
「おう!俺はグレム。串焼き屋台グレムをまたよろしくな!」
串焼きの袋片手にゼノは手を振った。
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そして、串焼きを袋から取り出し、歩きながら食べる。
「美味い!」
「美味しいのダ!」
「こりゃあうめぇ!」
ゼノ、フェイ、ゼーレは串焼きに舌鼓を打つ。
「ゼーレ、その食べ方やめてくんねぇか」
ゼーレは串焼きをその小型化している体に飲み込ませるように滑り込ませると、串だけをその体から取り出す。
見ているほうが恐ろしくなるような食べ方である。
「だってしょうがないだろー。小型化してねぇと目立つんだしよ。食べ方くらい好きにさせろよな」
「もう一本欲しいのダ!」
そんなやり取りも気にすることなく、フェイが串焼きをせがむ。
「はいはい」
ゼノは串焼きをフェイに手渡す。
ゼノたちは串焼きを堪能しながら足を進める。
街の中を進んでいると、ゼノは重大なことに気が付く。
「おっちゃんに冒険者ギルドの場所聞くの忘れた・・・・」
「「あっ」」
分かったのは方法だけで、場所への行き方は分からないままだった。
進んだようで、僅かにしか前進していないのであった。
ぐるるるる、っと誰かの腹の虫が鳴いた。
フェイとゼーレがゼノの方を見る。
「おいおい、俺じゃないぞ!」
ゼノは慌てて否定する。
また、腹の虫が鳴く。
その音を頼りにしながら、音が鳴った方向を見ると、そこには
冒険者と思しき少女が倒れていた。