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混ざりモノの冒険記  作者: みやふか
第0章:旅立ち編
4/10

0-4:決着、そして旅立ち

遅くなりすみません。


竜の鋭爪はゼノの身体を引き裂く。

そのはずだった。

しかし、それは空振りに終わる。

竜の爪がゼノがいたはずだった地面を抉る。

衝撃で砂煙が生じた。


「なんだ、これッ!」

攻撃を躱したゼノ自身が驚いている。

普通に避けたつもりだったが、想像以上に回避距離が長くなったのである。

勢いを殺しながら体勢を立て直す。


「まずはノアを安全な場所に運ばねぇと」

砂煙が舞っている今が好機だと感じ、ゼノは倒れているノアの元へ辿り着く。

そのままノアを丁寧に抱えると、足に力を込める。

力をコントロールしながら避難所までノアを運ぶ。


「ノアの治療を!早く!」

ゼノはアレクにノアを渡すと、直ぐに避難所から離れる。

避難所の近くにいると竜の攻撃の流れ弾が被弾する危険性がある。

アレクの返事を聞かないまま、竜の方へ距離を詰める。



砂煙が晴れ、竜の姿をはっきりと認識する。

ゼノと竜の目が一瞬合った。

それと同時に竜は攻撃を仕掛ける。腕を大きく振りかぶり、ゼノを引き裂かんとする。

ゼノはそれをギリギリまで引きつけてから回避する。


「使わせてもらうぜ!」

そう言うと、ゼノは大剣を拾い上げる。死した冒険者のものだ。

その身に合っていない巨剣。ゼノの身長の2倍はあるであろう剣を握る。

魔力で強化していることによって、想像よりも軽く感じる。片手で持ち上げる事ができるほどに。

体格に見合わない剣を持っていることによって、その姿は不格好にも見える。


竜が再び腕を振る。自身よりも圧倒的に小さい存在を仕留めきれないことに苛立ちを覚えたのだろうか、先程よりも攻撃が荒々しくなる。攻撃速度も威力も増しているように見える。

それでもゼノには届かない。


(目に意識を集中しろッ!)

ゼーレの声が聞こえた。

その言葉に従って目に意識を傾ける。

見える。鱗の一枚一枚、模様、傷や汚れに至るまで。


「ここだッ!!」

ゼノは大剣を振る。強化された視力で見えたものは、鱗と鱗の隙間。

そこにぬるりと刃が入り、鱗で隠された皮膚が切り裂かれる。

勢いはそれだけに留まらず、皮膚の下の骨まで両断し、竜の腕を断つ。

生物の肉と骨を切る異様な感覚がゼノを襲うが、気力で持ちこたえる。


「ゴオァァァッ!」

夥しい量の鮮血を撒き散らしながら竜は咆える。

返り血でゼノの服が汚れる。

腕を一本失ってもなお、竜の戦意は消えない。

今度は鋭い牙をもって攻撃を行う。

「ぐっ」

ゼノは大剣の腹で牙を受け止める。そこに圧倒的な重量がかかり、ゼノの足を中心としてクレーターが生じる。それでも力で跳ね返す。



ゼノと竜の戦闘は熾烈を極めた。

竜が尾を振り回す。それを受け止め、弾く。

雷撃が生じる。ゼノは身を投げて回避する。

竜が噛み付く。避けたり、受け止めたりしながら捌く。

そんな攻防が、幾度となく繰り返される。

後はどちらが先に倒れるかの我慢比べだ。



唐突にそれは終焉を迎える。

失血により命の危険を感じたのであろうか、竜が翼をはためかせ、飛び立たんとする。


(逃がすな!想像しろ、奴を引き止める鎖を!)

ゼーレの言葉に従い、想像する。長い、強固な鎖を。竜を拘束する鎖を。

ゼノの魔力が変質し、長い鎖が創造される。鎖は大蛇の如く動き出し、竜の身体に巻き付く。

浮いていた竜は強制的に地面へ叩きつけられる。



そこからは一瞬だった。

身動きの取れない竜にゼノが攻撃を仕掛ける。


その時だった。

――:*?#%&@¥*

意味の分からない文字が頭に浮かんだ。

でも、読める。文字は分からないが不思議と読めた。


――ん?これを読めば良いのか?

そのまま言葉を口に出す。

「――獄門――」

(待て、その魔法はッ)

一瞬遅かった。

「――解錠――」

不気味な雰囲気を孕んだ言葉が辺りに響いた。


拘束された竜の真下が黒く染まり、穴のようなものが顕現する。

竜は飲み込まれまいと藻掻くが、そうする度に無数の鋭き剣が四方からその身体を貫く。

あまりにも悍ましい様子であった。

漆黒の穴は竜の断末魔さえも許さない。

ただ、底なし沼ように竜の身体を呑み込む。


ゼノは呑み込まれてゆく竜の姿をじっと見ている。


穴は竜の身体を呑み込むと、そのまま小さくなり、そして消えた。


「終わった、のか?」

(ああ、一応はな、さっきのことについては後から話す)


竜が消えた村に静寂が訪れた。

村の住民も何も言わない。言えないのだ。目の前の光景を処理するので精一杯の様子だった。


「力が、ぬけっ」

ゼノはその言葉を最後に意識を失った。







目が覚めたのは夜明け前のことだった。

服に血が付いていないことを見ると、誰かが着替えさせたのであろうことは直ぐ分かった。

怠さが残る身体を起こし、外を見る。夜明け前の昏い空。静寂の時。


(起きたか)

「ああ。話があるって言ってたが、後にしてくれ。まずは出発の準備だ」

(家族に何も言わなくて良いのか?)

「・・・いい」

(そうか)


ゼノは特訓用の頑丈な服に着替え、部屋にある適当なものを布袋に詰める。

そして、簡単に手紙を書くと、窓から外へ出る。

ユリスを失ったこともあって、ノアたちは今、最悪の状況にあるはずだ。

そこに自分の存在がいては迷惑をかけてしまうかもしれない。


そのまま、村の門を抜け、森へ向かう。


「話ってなんだ?」

ゼーレは先程までは、ゼノの中から会話していたが、外に姿を現した。

「それがだな。最後に放った魔法の事なんだが」

「確かあの時、知らねぇ文字が見えて、でも読めたから読んだらあの魔法が出たんだよな。ゼーレが教えたんじゃないのか?」

「あのなぁ、相棒。あの鎖で拘束した時点でもう勝ちは決まってたワケだ」

「じゃあ、ゼーレじゃないのか。でも誰が?」

「分からねぇ。でもオレ以外の何者かってことは確かだ」


そんなことを話しながら、森の前まで辿り着く。

その時には空が明るくなり始めていた。


この森の名はグレアード大森林。

小型の魔物に動植物など、様々な生態系を有する。

危険な魔物も生息するが、滅多に人里には降りてこないため、知られていないことが多い。

広大な面積を誇り、森の深くまで進んでいくと、環境が険しくなり、遭難者も後を絶たない。



「それでだな。相棒が放った魔法のせいで、魔力がほとんど尽きちまったんだ」

「つまり?」

「魔法はおろか、魔力で身体強化もできなくなっちまった」

「ええええええ!っと言いたいところだが、そんな気はしてた。魔力の気配が殆どしねぇ」

「そして、さらに説明すると、オレがここに存在するための魔力量とオレの魔力の自然回復量はほぼ同じ。回復量がびみょーに多いか。というわけで、魔力なしが二人に増えただけってワケだな、」

「笑えねぇ」


でも、とゼノは言葉を続ける。

「そこんとこは自分でなんとかするのが冒険者だよな。そうとなったら修行だ!!」

「行く当てはあるのか?」

「ない!とりあえずこの森で生活しながら西に向かう!西には冒険者の都市があるって聞いた気がする」

「気がするって、かなり大雑把だな・・・。とりあえず進むしかねぇな」

「ああ、よろしくな、ゼーレ!」

「こちらこそだ、相棒」


ゼノとゼーレはお互いに拳を突き合せた。


「ゼーレ」

「なんだ?」

「お前、小さく成れねえの?」

「何でまたそんなことを」

「森の中だと目立ちそうだろ?浮いてっし」

「それもそうだな」

ゼーレはそう言うと、姿を変えた。ゼノの頭くらいの大きさになる。

さらに見た目も変わって、ごつい悪魔の姿からマスコットのような姿になる。


「案外可愛くなったな」

ゼノが驚く。

「だろ?」

「見た目と声が合ってねぇ」






グレアード大森林の中に入って西に進んで約一時間。

まだ朝になりかけなせいか殆ど動物の姿を見ていない。

小動物の気配は感じるが、うまく隠れていてその姿は見えない。

あとは虫くらいなものだ。


「ほんとになんもないなー」

「そうだなー」


明るくなりつつある森林を進んでゆく。

ふと前方下に目線を落とすと、木の根元で何かが動いているのが見えた。


「なんだ?あれ」

「何だろうな?見てみようぜ」


好奇心に流されながらゼノとゼーレは近づく。

その目が捉えたものは、黒と蒼が程よく鏤められた鱗。独特な色の皮膚。小さいながらも鋭き爪。そして、二枚の翼。

竜の仔だった。


「――ッ!!」

ゼノは咄嗟に後ろに下がり、短剣を構える。

しかし、直ぐに冷静さを取り戻すと、短剣を鞘に納める。


「お前、もしかして――」

竜の仔の姿と色に見覚えがあった。

そうだ、ゼノと冒険者が屠った二体の竜だ。


――こいつの親だったのか。

ゼノは知らなかったとはいえ、竜の仔の親を殺してしまったのだ。

悲しい気持ちが心を支配する。


「相棒が気に病む必要はねぇ。そうしなかったら死んでいたのはお前と村の住民だったからな」

ゼーレがゼノを慰める。


(その通りなのダ。むしろワタシの父と母の暴走を止めてくれてありがとうなのダ)

仔竜が言葉を放った。

「え?」

ゼノの思考が一瞬停止する。


「しゃべったあぁぁぁぁ!」

思考を取り戻したゼノだったが、予想にもしなかった事態に驚き叫ぶ。


(これは念話なのダ。頭の中に直接伝えているから話すとはちょっと違うのダ)

「念、話?」

不思議な事態についていけていない。


「とりあえず話を話を聞こうぜ」

状況を整理し切れていないゼノに代わってゼーレが話を進める。


仔竜に敵意はないこと、何らかの理由で仔竜の両親が暴走したことなどを語った。

その説明を聞いている間にゼノは冷静さを取り戻す。


「とりあえず自己紹介だな。俺はゼノ、こっちはゼーレ。お前、名前とかあるのか?」

(ワタシの名はフェイなのダ)

フェイと名乗った仔竜は翼をはばたかせ、空中に浮かぶ。

念話にまだ慣れないゼノは苦笑いをする。



「フェイ、これからどうするのか?」

(特にやることはないのダ。食って寝て飛んで過ごすのダ)

「だったら旅に誘えばいいんじゃねーの?」

ゼーレが提案する。


「フェイ、ついて来る気はあるか?」

親殺しの身で誘い辛くはあったが、思い切って声をかける。

(いいのダ?面白そうだから付いて行くのダ!)

フェイは提案を了承する。



そうして二人(?)+一匹(?)の旅が始まったのであった。



――――――――――――――――――――――――――――



グレアード大森林での旅は想定よりも長いものとなった。

食用の肉を持つ動物を狩って食べた。

生命の源である水を求めながら進んだ。

比較的過酷である環境の中で、ゼノは鍛錬を続けた。

時には大きな魔物を見かけたが、隠れてやり過ごした。

道中でいくつもの冒険者の骸を見つけた。骨になっているものが殆どであったため、比較的古い遺体であることは理解できた。


そんな日々を過ごすこと三年。

ゼノは14歳になった。

それと同時にグレアード大森林を抜けた。




グレアード大森林を抜け、辿り着いたのは、冒険者都市イルテシアだった。



これにて0章的なものは終わりになります。次は第1章です。

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