自画像
「お前さ、絵描くの上手いよな。惹きつける何かがあるよ。」
話しかけていたのは美術部の友人だ。
「そ、そう?ありがとう。」
「今日もこのまま残って書くの?」
「うん。・・・そうでもしないと期限までに間に合わないからね。」
「そうか、頑張れよ。じゃあ、お先に失礼するね。」
友人に別れを告げると、僕は再び作業に没頭した。
描いているのは僕自身の自画像。コンクールに出品するための作品である。
正直、普段よりもはるかに上手くいっていると思う。
まるで、引き込まれてしまうような出来栄えである。
−−おっと、もうこんな時間。
夢中になっていたから気が付かなかったが、外は真っ暗になっていた。
−−帰らないと。・・・でもいやだなあ。
学校に残ったのは絵を完成させる以外に理由があった。親に会いたくなかったのだ。
最近は受験が迫っていることもあり、特に口うるさい。
「ハァ・・・」
僕はため息をつく。
一方で、自画像の自分は、そんなつらい現実を知らないような表情をしている。
――お前はいいよなあ。現実と向き合わなくていいんだもん。うらやましいよ。
そう思った瞬間である。描かれた目がギョロッと動いた。
「え?」
と声が出そうになったが出なかった。出そうとしても出なかった。口が動かない。
それだけじゃない。帰ろうとしても足が動かない。体も、手も。目だって一ミリたりとも動かすことができなくなっていた。
「お前さ、前も言ったけど、本当に上手だよな。」
どれほどの時間が経ったのだろうか。聞き覚えのある声が聞こえた。
「そ、そう?ありがとう。」
「上手すぎて、なんか・・・絵のほうが本物っぽく見えるよ。」
「ソンナコトナイヨ。」
読んでいただき、ありがとうございました。