B04:月光のルナ
「月光のルナ、御身の前に平伏し奉ります」
白い翼を生やした金髪碧眼の美女が、俺の前にひざまずいた。
は……? え? なんで?
「あ、ああ……俺はソリッドだ。
ていうか、いきなりどうした?」
「恩返しです、ソリッド様。
私は『月光』氏族なので、月光を浴びると傷が治り、死亡状態からも復活できるのですが、こんな場所では月光が当たらず、死んだままになっていました。
それに、万一復活できたとしても、外に出る方法がなければ、どうにもなりません。
しかし、こうしてソリッド様のおかげで復活を果たし、ダンジョンを掘れるというソリッド様のお力を借りれば外に出ることもできそうだと思うのです」
「ああ、月光を出したり外に出たりするぐらいは簡単だが」
「本当ですか!? 素晴らしい! さすがはソリッド様!」
目をキラキラさせて、祈るように手を組んで見上げてくる。もうこれ崇拝されてる感じだな。
八方ふさがりの状況から抜け出せた恩人ということで感謝してくれてるのは分かったが……ひざまずくとか驚いたわ。文化の違いだろうか? そういえば犬獣人とか忠誠心がバグってるらしいが、恩返しがバグってる感じか?
「いやいや、復活できるとか、すごい種族だな。『月光』氏族はみんなそうなのか?」
「そうです。
ちなみに、同じ『白隼』部族の『陽光』氏族は、日光を浴びると復活します」
「『白隼』部族?」
「鳥獣人の部族の1つです。鳥獣人には他にもいろいろな部族がありますが、『白隼』部族は、白い翼と、飛行速度の高さが特徴で、『月光』と『陽光』の氏族に分かれています」
獣人はいくつもの部族に分かれている。鳥獣人もそうだとは知っているが、白隼部族というのは聞いたことがなかった。
「へぇ~……そうなのか。初めて聞いたが……そうか、鳥獣人なのか。天使かと思った」
普通の鳥獣人は、腕が翼になっている。足も鳥の足そのものだ。胴体と頭だけが人間の姿なのである。翼の半分ぐらいが、骨格的には「指」なので、手で物を掴むことができず、足で色々する。空を飛べるので、空輸で輸送業をやっている者が多い。
ところがルナは、人間の背中から翼が生えた姿をしている。
「ああ……はい。時々、地上に降りた『白隼』部族が勘違いされて祈られる事がありますね」
ルナが苦笑する。
「地上に降りた、とは……?」
「『白隼』部族は、空に浮かぶ島に住んでいるのです」
「空飛ぶ島!? 何それ!? 行ってみたい!」
スキル【ブロック】を駆使すれば、再現できるだろう。しかし、それはあくまでも「陸地系ブロックが透明なブロックに乗っている」という構造だ。空中にブロックを出すとそのまま落ちるが、ブロック同士は結合して固定できるので、空気ブロックの上に土ブロックを置けば、土ブロックが宙に浮いているように見える。ただし空気ブロックは簡単に壊れるので、空飛ぶ島を作っても落ちるのが怖くて住めない。
だから、つまり、本当にガチで浮いている島というのは、超憧れる!
「お望みとあらば、いつでもご案内いたします」
「頼むよ!」
「お任せください。
それで、話を戻しますが、私がソリッド様に平伏し、御身にお仕えする理由は2つです。
1つは、先ほども申し上げました通り、八方ふさがりの状況を解決していただいた事へのご恩返しのため。
もう1つは、月光をこんな昼間の地下にいともたやすく出せるという、その神のごとき能力です。月光は『月光』氏族の力の源ですから、御身のおそばにお仕えすれば、いつでも復活させていただけるという下心がございます」
「下心って……」
誰だって死にたくないんだから、庇護を求めるのは普通だろう。
俺だって、そのためにボロクソ言われながらブレイブに雇われていた。
「自分の欲得のため……まごう事なき下心です。
ソリッド様さえ無事なら私は復活できるのですから、戦闘時の護衛や突撃役はお任せください。
少しでもご恩返しができるように、身の回りのお世話もさせていただきます」
「ふむ……」
雑用係としてまたどこかのパーティーに雇ってもらおうと思っていたが、俺自身の仲間ができたなら、自分のパーティーを立ち上げるのもアリだろう。俺のブロックで復活できる不滅の仲間とか、頼もしすぎる。俺が死んだら共倒れというのが怖いところだが、何ならダンジョンブロックで自分を囲んで引きこもっていれば安全だろう。
それより問題は――
「どんな戦い方なんだ?」
ダンジョンのこんな所まで来たんだから、戦えるとは思うが。
死んでいたせいで装備品をダンジョンに吸収されてしまい、武具を新調しなければならない。
「槍ですね。飛行速度が高いので、突撃して一撃離脱を繰り返すスタイルです」
飛行速度が高いのは白隼部族の特徴だと言っていたから、月光・陽光の両氏族はみんなそういう戦い方なのだろう。
「上空から魔法や弓矢で攻撃というわけじゃないのか」
「弓矢は使いませんね。故郷の島は空を飛んでいるので、鏃に使う鉄を採掘できないのです。そもそも、弓矢を使うより飛んでいって槍で刺したほうが早いですし。
魔法は使いますが……私は、魔法がバグっておりまして、【収納】というスキルしか使えません」
「名前から想像すると、目に見えない謎空間にアイテムを保管しておくスキルとか?」
俺のスキル【ブロック】でも、消したブロックを取り出すことができるので、消しても消滅しているわけではないのだろう。つまり、どこかに保管されているわけだ。目に見えない謎空間に。
もっとも、俺の場合は1度でも作ったブロックはいくらでも取り出せるので、もしかすると「作ったことがあるブロック一覧」に登録されるだけで、消したブロックは本当に消滅しているのかもしれない。
「ご明察です」
「それなら早速だけど、ここにある宝箱をぜんぶ収納しておいてもらおうかな」
「かしこまりました」
というわけで、楽しい楽しい宝箱漁りの時間だ。
もっとも、俺はもう宝箱の中身にあまり興味がなくなっていた。この宝物庫で手に入れた一番の宝は、ルナだ。宝箱の中身なんて、しょせんは売り払って金にするだけ。貴金属だろうが宝石だろうが、なんだって構わない。




