B03:隠し部屋と宝箱と幽霊
勇者ブレイブに別れを告げて、俺は再びダンジョンへ戻った。
スキル【ブロック】を使えばダンジョンの間取りを自由に変えてしまえるので、それを利用して魔物を回避しながらダンジョンを進む。全フロアの全ての宝箱を開けて回るツアーだ。
魔物相手には弱い俺だが、地形相手には最強無敵。この方法なら、安全に利益だけ得られる。
だが、ブレイブと組んでいた時には、これを使わなかった。こんな方法で「仲間と一緒に冒険」なんて、つまらないからだ。冒険じゃなくて散歩じゃねーか、という話である。
「まあ、今は独りだからな。散歩でいい」
冒険は仲間と楽しくやる予定なので。
独りのときは、のんびりダラダラとゆったりリラックスして過ごすのだ。
ダンジョンの構造は、2階建てや3階建ての建物みたいに「階層」とそれをつなぐ「階段」があって、各階層にはアリの巣みたいにいくつかの「部屋」とそれをつなぐ「通路」がある。部屋には時々「スポナー」と呼ばれる独特の形をした岩みたいな物体があり、その周囲に魔物が出現する。なので、魔物を狩りつくして全滅させても、そのうちまたスポーンする。
「おや?」
100メートルほど先に、通路のない小さめの部屋を感知した。隠し部屋だ。俺以外にはダンジョンの壁は掘れないので、こういう隠し部屋に行くには転移の罠でたまたま飛ばされるしかない。出るときは脱出の魔道具を使うことになる。この隠し部屋は、たまに罠だらけの部屋になっている事もあるが、たいてい宝箱がいっぱいある「宝物庫」になっている。
「いいぞ、ツイてる……!」
ちなみに離れた場所を探知する方法だが。
俺のスキル【ブロック】は射程距離が「俺を原点として、X軸・Y軸・Z軸それぞれ100ブロックずつ」というものだ。つまり、半径100メートルの球体エリアではなく、1辺200メートルぐらいの立方体エリアである。立方体の角は、俺からの直線距離で約282メートル離れていることになる。「ぐらい」というのは俺自身がブロックじゃないので、横と上下で少し差があるからだ。
ともかく、射程距離はそんな感じ。
そして、射程距離の範囲内なら、どこに何のブロックがあるかは感知できる。なので、射程距離の範囲内をすべてブロック化すれば、空気がどこにあるかも分かる。そこが部屋または通路というわけだ。なお、素材が1立方メートル以上ないとブロックにできないので、感知できない場所があれば、そこはブロック化していない――つまり、罠や宝箱や魔物など、何かしらがあると分かる。
「やった! 宝物庫だ」
到達してみると、10個以上の宝箱があった。
ついでに白骨死体が1つある。ここへ飛ばされたのはいいが、脱出の魔道具を持っていなかったので、出られなくなってしまったのだろう。
宝箱を漁る前に、白骨死体を埋葬してあげよう。まずは死体の下にあるブロックを2つ消して、白骨死体をその穴に入れる。穴をふさぐようにブロックを出して、終わりだ。
墓標になるものがあるといいが、残念ながらない。ダンジョンの外なら、その死体が身につけていた剣か何かを墓標代わりに立てておくんだが、ダンジョンの中だとそういうのはダンジョンに吸収されて消えてしまう。そしてどこかの宝箱の中身になる。
「…………」
せめて冥府では安らかに眠れますように。
手を合わせて黙祷。
すると、そこにス~ッと幽霊が現れた。
「おお……私を見つけてくださったのですね。
死体は……すでにダンジョンに取り込まれましたか」
「いや、埋めたんだ。俺のスキルで穴を掘って埋め戻したから、見た目には分からないが。
確認したければ掘り起こすが?」
「なんと! 埋葬を……!? おお……なんたる幸運! 感謝の念に堪えません!
しかし、破壊不能といわれるダンジョンの床を掘るとは……凄いスキルですね」
えらく自我がハッキリしている幽霊だ。
普通、幽霊といったらもっとこう、自我が希薄で話が通じなくて、未練以外のことに全く反応しない感じなのだが。この幽霊ときたら、まるで生きているかのようにハキハキ話すし、受け答えもしっかりしている。
「掘り起こしていただけるのであれば、お願いがあります。
私の死体を、月光の当たる場所まで運んでいただけませんか? 私の死体を月光に当ててほしいのです」
「月光に当てる? それなら、運ばなくてもこの場で出せるぞ」
俺は白骨死体を地面の下から取り出して、天井に「月光ブロック」を出した。月光も素材にしてブロック化できるのだ。作り方は、天気のいい満月の夜に空気ブロックを3×3×3個の箱状に作り、中心にある1個を消す。するとそこが真空になるので、真空ブロックを作って、それを消す。すると真空すらもない虚無の状態になるので、そこをブロック化すると、月光そのものをブロック化できる。よく晴れた昼間にやれば、日光ブロックが作れる。
ブロック同士は連結して固定できるので、天井に設置したブロックは落ちてこない。そもそも月光ブロックに重さはないも同然だが。
「これでいいか?」
「おお! これはまさに月の光! ああ、月光が骨身にしみる……!」
白骨死体が光を放ち、骨が宙に浮いていく。
光が集まって形を成し、骨を覆っていった。
やがて発光が終わると、そこには白い翼を生やした金髪碧眼の美女がいた。
「月光のルナ、御身の前に平伏し奉ります」
美女が俺の前にひざまずいた。