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B29:特異点

 様子を見ていると、バードックは大量に現れ、世界中をウロウロするようになった。攻撃してくる様子はなかったし、何か目的がある動きでもなかった。場所や対象を決めずに偵察しているのだろう。軍事的にも科学的にも「やり方が稚拙」としか思えないが、どんな理由があるのか不明だ。

 ともかくバードックの数が増えると、たまたま目が合うことも増えてくる。そして目が合ったら襲ってくるというのが、バードックの特徴だ。

 そうすると、人間たちもやられっぱなしではいない。そもそも目が合っただけで凶暴化するなどというのは地上のどこの文化にもない事であり、いきなり突発的・発作的に凶暴化する危険生物という認識ができあがっていく。そして討伐対象――魔物と認定される。

 だが勝てるわけがない。白隼部族ですら負けるのだから。転移能力が厄介すぎる。

 関係性が悪化していくと、バードックから積極的な攻撃が始まるかもしれない。人間たちがそう判断したように、バードックにとっても「有害」と判断される可能性がある。

 そういうわけで、バードックを撤退に追い込む必要が出てきた。そうなると、次の相手は「黒い線」付近にいる「強大な気配」だ。


「というわけで、まずは威力偵察をおこない、『強大な気配』の正体について確認する。可能ならそのまま討伐する」


 様子見を続けている間に、俺はダンジョンブロックで塗りつぶしを続け、「黒い線」の近くまでテリトリーを広げた。塗りつぶしは便利だが、いっぺんに塗りつぶせる範囲には限界があった。だから一気に塗りつぶしてすぐに転移トラップで乗り込むというわけにはいかなかったのだ。

 が、それもコツコツと塗りつぶしを繰り返したおかげで解決している。乗り込むとしよう。



 ◇



 聞いていた通り、無数の浮島があった。しかも、なぜかまともに空気がある。上空6000キロメートル以上なのに……。

 空の「黒い線」はいよいよ近くに見えて、重力が上下反転している。「黒い線」に吸い込まれるような形で重力を感じる。だが浮島はそれに反発して距離を保っていた。しかもかなりの速度で移動している。6000キロメートル以上も上空にいるため、地上を見下ろしてもあまり「速く」移動している感じはしないが、実際のスピードはものすごい。

 ドーナツ型で考えたとき、「黒い線」は「黒い点」になるはずなので、浮島は点のまわりを回転していることになる。つまりは遠心力で距離を保っているのだろう。重量の小さい俺たち「1個の生物」は、浮島と同じスピードで移動しても遠心力が足りずに「黒い線」に吸い込まれる。それが上下逆の重力として感じられるわけだ。空気も浮島と同じ原理で同じ高度に集まっているのだろう。あるいは黒い線に近づくともっと濃度が上がっていくのかもしれない。

 ちなみに、ドーナツ型で「黒い線」を「黒い点」と考える場合、ドーナツの内側にあたる地面の上空は、すべて「黒い点」の上下で交差する。その線を地上から見ると、おそらく「黒い線」に垂直に交差する形で南北に線がのびているだろう。ただし「黒い線」との交点から離れるほど、より高く離れていくように見えるはずだ。もっとも肉眼では見えない線なので、空には何もない。その線に突っ込んだ光が、その後どうなるのかは分からないが、そのまま直進するのだとしたら、ドーナツの内側では空間が2重になっていることになる。黒い線として見えないということは、無限に圧縮されているというわけではないのだろうから、これは第4の特異点(線だから特異線か?)という事になる。


「何にしても、どうもいびつな世界だな」


「ソリッド様?」


「いや……」


 考えても仕方ない事だ。この世界はこうなっている。そういう事実があって、日常生活では意識する必要もないのだから、特に困る事もないわけだ。困らないなら、別にそれは放置でいい。

 とはいえ、今はわざわざ特異点に近づいているわけだから、どんな特殊な環境になっているのか考え、確かめ、対策していくのは必要なことだろう。


「転移の果実が、食べた相手を転移させる理由は、この環境のせいだろうな。

 ここならランダムに転移させれば、浮島から体が離れて『黒い線』に吸い込まれるかもしれない。

 植物が身を守る手段としては、それで充分だろう」


「なるほど。適応の方法としては面白いですね。

 地面に根を張っているというのが大きなメリットになっているわけですね」


「そうだな」


 確かに、この環境だと動物より植物のほうが有利だ。


「けど……こんな場所で『強大な気配』なんて、どうやってそんなに強く育つんだ……?」


 植物は転移の果実しかなく、動物はバードックしかいない。

 この先で待つ「強大な気配」の正体は、強いバードックなのだろうか。白隼部族より速く動けるのは強いが、それは「極端に有利」というだけで猛獣のように強い気配を出すよりも暗殺者のように気配を消す方向に進むはずだ。

 よそで育ってから、ここへ来たと考えるのが自然か。


「だいぶ近づいてきましたね。ひしひしと強い気配を感じます」


「ああ。そして、どうやら見えてきたぞ。

 デカいな。なんだ、ありゃ?」


 ちょっとした丘ぐらいのサイズがありそうだ。見た目は、なんだか分からない黒い塊といった様子である。

 そいつはどうやらこちらに気づいたようで、体を起こした。どうやら犬が地面に伏せるようにして丸まっていたらしい。体を起こすと、そいつのサイズは2倍から3倍ほどに大きくなった。


「ギエエエエエ!」


 猛々しく吠える。

 すでにやる気満々のようだ。

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