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B26:逆侵攻

「……ふむ。順調だな」


 俺は、ダンジョン管理機能で侵入者の反応を確認していた。

 アンデッドの反応は順調に減っており、人里への被害も今のところ食い止められている。


「バードックの動きにも変化なし、か……」


 黒くて細い人型の何か。俺が「ゴボウ(バードック)」と呼んでいるそれは、白隼部族よりも速い。

 だが、反応を見る限り、高速移動の持続時間は一瞬で、1回の移動距離はせいぜい数十メートルのようだ。

 アンデッドの出現と連携して何かするのではと警戒していたが、無秩序にウロウロするだけで、目的をもって行動する様子はない。

 連携しないという事は、単に偶然おなじ時期に現れただけで、全く無関係の勢力なのだろうか? 協力関係にあるのなら、連動するはずだ。それとも、無関係ではないが連携しない……? だとすると、全く分野の異なる目的をもって別々に動いているのか? あるいは敵対的な関係にあって、アンデッドと戦った後の疲弊したところを狙ってバードックが動くとか?


「……情報が足りないな」


 ため息交じりに言った直後、新しい反応が現れた。


「これは……新たなアンデッドだと!?」


 どこから現れたのか調べるため、侵入者探知機能をいじる。

 アンデッドが現れた方向を探知すると――


「新しい祭壇ができている……!」


 そうか。もともと祭壇はいつの間にか設置されていった。

 同じことが再び起きても不思議じゃない。

 しかし、そうすると、どうするべきか。

 祭壇を破壊してアンデッドを食い止めても、いたちごっこになるだけだ。


「よし、直接見に行こう」



 ◇



「……なるほど。祭壇というか、召喚陣だったんだな」


 祭壇らしきもの、祭壇だと思っていたそれは、稼働しているところを見てみれば、むしろ「門」のようだった。黒い石材みたいな素材で囲まれた「枠」の中に、空間の歪みが発生していた。そこからアンデッドが次々と出てきている。


「……なら、行くしかないか」


 門の先がどうなっているのか分からない。

 だが、門を破壊しても再出現するだけだというのは分かっている。

 であれば、門を出現させている何かを停止させるために、この門の向こう側へ行くしかない。


「ま、一応、安全確認だけしておこう」


 ブロックを取り出し、門に投げ込む。

 そして投げ込んだブロックを探知する。



 ◇



 この世界は、箱型だ。東と西が、北と南が、それぞれループしている。

 そのループを「転移」ではなく「空間的に連続している」と考えると、この世界はドーナツ型だ。

 ドーナツ型だとすれば、この世界には3つの特異点がある。

 1つは、ドーナツの外側。無限に遠い座標では、空間が無限に引き延ばされている。もっとも、これは無限に遠くのことなので、到達も観測もできないから、無視していいだろう。

 2つめは、ドーナツの内側。中心点で空間が無限に圧縮されている。そこに入り込んだ光は帰ってこず、そのため空には黒い線が見える。

 3つ目は、高さの座標がゼロになる地点――ドーナツの「太さ」の中心線だ。箱型で考えれば、どれだけでも深く掘って進めそうだが、ドーナツ型で考えればゼロより先には行けない。そこでも空間が無限に圧縮されている。

 そして、アンデッドが湧き出す門の先は――


「高さがマイナスだと?」


 ダンジョン管理機能を併用して探知すると、座標が分かる。相対座標は自分を原点にして、そこからどれだけ離れているかという座標だが、絶対座標だと「世界のどこにあるのか」という数値になる。その絶対座標の高さの項目がマイナスだった。

 空気ブロックを送り込んで設置し、環境を整えてから踏み込む。

 すると、そこに広がっていたのは、広大な地下空洞みたいな風景だった。

 血管みたいな形をした紫色のツタが、緑色の木の幹に絡みついている。その木は、茶色の枝葉を地中に張り巡らせ、空気中に根を伸ばしている。上を見れば地面があり、下を見ればマグマの海がある。マグマの中を四足歩行の獣みたいな何かが歩いており、空中を魚みたいな何かが泳いでいる。マグマの海はあちこちでゆっくりと水飴が垂れるみたいに上へ向かって落ちていく。

 根と枝葉、地面と空気、水とマグマ……なんだか色々なものが「逆」になっている。

 まるで「別の世界」に来たかのようだ。特異点の向こう側に世界が広がっていただけでも驚きだが、地上と比べてこれほど様変わりしているのも驚きだ。


「……物珍しいが、あまり観光したい風景ではないな」


 思考を切り替え、門へ向かうアンデッドを遡上する。

 ゾンビやスケルトン、ゴーストやレイスが列をなして門へ向かうその行列を遡ると、黒いスケルトンや白いゴーストに守られた要塞らしき建造物があった。


「普通のアンデッドと色が逆だな」


 こんな所も逆なのか。

 だが、色が逆になっているアンデッドは、通常のより強い魔力を感じる。

 この地下っぽい世界に特有の、上位アンデッドという事だろう。


「ひとまず蹴散らしてみるか」


 ダンジョンブロックと、ダンジョンコアブロックを取り出し、設置する。

 そしてダンジョン管理機能で、周辺の空気以外の固形物(生物は除く)をすべてダンジョンブロックで塗りつぶす。


「代理実行、俺、常時繰り返し、範囲内をすべてブロック化、実行。……ふむ、空気は地上と同じ成分か。呼吸に問題ないのはありがたいが、気温は高いな。マグマのせいか?

 続けて、代理実行、俺、常時繰り返し、塗りつぶし、ダンジョンブロック、相対座標-100,-100,-100~100,100,100、既存ブロックと置き換え、空気ブロック以外、実行」


 スキルの範囲内をすべてブロック化し、同時に空気以外のブロックをダンジョンブロックに置き換える。これを代理実行コマンドで常時繰り返し設定にすることで、俺が移動すると自動的に範囲内がブロック化・塗りつぶしを繰り返す。移動してもいちいち能力を再発動しなくていいという事だ。

 生物(今回は俺自身)を代理実行の対象にする場合は、ダンジョン管理機能から侵入者の反応を参照すればいい。ブロックではないので、素材を参照することはできないが、こういう抜け道があるのだ。


「そして塗りつぶし、マグマブロック、相対座標-10,0,1~10,10,100、既存ブロックと置き換え、空気ブロック、実行」


 幅20メートル、高さ10メートルにわたって、前方100メートルの空気がマグマに交換された。

 要塞がマグマに包まれる。そこにいた黒いスケルトンや白いゴーストもろとも。

 アンデッドは火に弱い。マグマを浴びればひとたまりもないだろう。

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