B10:装備を新調しよう
「さて、当初の目的は果たした。
今後に備えて、まずは装備を作ろう」
「はい、ソリッド様」
売るものを売り払った俺たちは、次にアダマンタイトやドラゴンの素材で武具を作ってもらうため、それらを加工できる職人を求めて職人街と呼ばれる場所へやってきた。ここには、多くのドワーフが住んでいて、それぞれの工房を構えて鍛冶技術を競い合っている。
まずは適当な工房へ突撃だ。
「お邪魔しまーす」
呼び鈴的なものがないので、声で呼ぶ。
工房は店じゃないから、ここで働く人たちはみんな作業中だ。
「何だい、あんた? 商人じゃないな?」
商人ぐらいしか来ないのだろう。作業の手を止めて対応してくれた若い男が、俺たちを値踏みするように見る。
確かに商人には見えないだろう。だが、冒険者だとも分からないらしい。そういえば2人とも非武装だもんな。街中でランスなんか持ってても邪魔になるだけなので、ルナは武器を収納した。それを見て俺も、槍をしまっておいてもらった。俺は特定の武器を持たないし、槍はミミックを見分ける用なので、それで戦うわけじゃない。防具も俺たちは装備していない。俺は雑用係で、戦力にカウントされない存在だったし、ルナは空を飛ぶためになるべく軽量化していなければならない。
「こう見えても冒険者だよ」
「オフの日か。それで? 武器の特注かい?」
今日は休むと決めたなら、冒険者でも装備を外して過ごす。戦うわけでもないのに武装していたら、無駄に重りをつけて過ごすことになる。
「そうなんだ。いい素材が手に入ったから、装備品を一式新調しようと思ってね。
ルナ、出してくれ」
「はい、ソリッド様」
ルナがアダマンタイトゴーレムとドラゴンの素材を一部だけ出した。
両方とも巨体だったから、半分ギルドに売ったとはいえ、ここに全部出すには場所が足りない。追加で何か欲しくなるかもしれないので、余った分はそのまま持っておけばいい。
「何だ、こりゃ?」
見たことがないらしく、若い男は首を傾げた。
その彼が急に横へ吹っ飛ばされて、ヒゲが立派な中年ドワーフが興奮した様子で現れた。
「アダマンタイトじゃねえか! それに、こっちはドラゴンの……!?
あんたら、これを加工しろってのか!?」
可哀そうに、吹っ飛ばされた若い男は、壁に激突して目を回している。
まあ、とりあえず生きているからいいか。
「人間には無理だと聞いたことがある。ドワーフならできるかい?」
アダマンタイトやドラゴンの素材は、人間が加工するには頑丈すぎるのだ。
しかし、ドワーフは鍛冶技術がバグっている連中だ。鉄の剣を作らせたら、鉄の鎧がチーズのように切断できたという話もある。
「誰でもってわけにゃいかねえ。こんなの加工できるのは、この職人街に10人もいねえだろう。
悔しいが、俺にも無理だ。無理だけど……打ってみてえなぁ……!」
憧れの有名人に出会ってしまったファンみたいになっている。心境としては、まあ似たようなものなんだろうなぁ。握手を求めに行きたいけど、デート中っぽいから邪魔するのも悪いな、みたいな感じで遠慮している心境か。
「それは、鍛冶師の育成に役立つか?」
「うん?」
「だから、加工できないのに打ってみるというのは、鍛冶師の育成に役立つのか?」
「そりゃもう、いい経験になるぜ。
もっとも、アダマンタイトだのドラゴンだのは高くて買えねえし、加工できないのに打ってみるなんてダメにしちまうこと請け合いだ。
それでも構わんと安く譲ってくれるような豪気な御仁でもいりゃあ有り難いが、そんな神様みたいな御仁、いるわけねえ」
それなら、あの計画を進めるか。
「それでも構わん」
「は?」
「鍛冶師の育成に役立つなら、ダメにしても構わん。タダで差し上げよう」
「はああああ!?」
「その代わり、いつかドワーフの奴隷を見つけたら買い取るから、そいつを鍛冶師として育ててやってくれ」
育ったら、俺のスキルで増殖した素材を加工してもらう。
もう少しで純金ブロックも作れるし、特にほしいものがなければ売る用のアイテムを作ってもらえばいい。そうすれば、俺のスキルのことはバレずに資金稼ぎができるだろう。
「なんだ、神か」
中年ドワーフの顔から表情が消えた。
「そうだな。神ならしょうがない。アダマンタイトやドラゴンをタダでくれる事だってあるだろうさ。
その上、ドワーフの奴隷に鍛冶をやらせてくれるなんて、なんて慈悲深いんだ。まるで神だな。おっと、神だった。じゃあ、しょうがない」
なんか無表情でブツブツ言いだした。
ドワーフは屈強な戦士でもある。奴隷になったドワーフは、鉱山で働くか、戦士として戦うか、どちらかになるだろう。鍛冶をやらせるには、工房やら材料やら販売ルートやら色々とコストがかかる。どうしても必要な場合を除けば、そこまでやらないだろう。しかも鍛冶師はあんまり利益率が高くない。
「そろそろ戻ってきてくれ。
加工できる職人はどこにいるのか教えてほしいんだが」
「――はっ!? あ、ああ……すまん。案内するよ。させていただきますとも。肩でもお揉みしましょうか? うへへへ」
「やめろ、気持ち悪い」
中年ドワーフが思ったよりバグってしまった。大丈夫かな、コレ?




