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B01:例によって追放された

 秩序の神ロウと、混沌の神カオスがいた。

 ロウの領域では全てが秩序に支配されて変化がなく、カオスの領域では全てが不安定で形にならない。どちらの領域も、なにも発展できないので、2柱の神はこれではつまらないと感じ、お互いの領域を混ぜてみる事にした。

 こうして、一定の秩序がありつつ変化も起きる世界が誕生した。大地には地殻変動が起きて山や谷が生まれ、空には風が起きて雲や雨が生まれるようになった。

 神々は、この世界に人間を作った。まずロウがその形を決め、そこにカオスが変化の因子「バグ」を加えた。そのため人間はランダムにどこかバグっている。

 やがて人間が増えると、同じようなバグを持つ者が現れ始めた。

 さらに人間が増えて、一部で同じようなバグを持つ者同士が集まって暮らすようになった。

 同じようなバグを持つ者たちの集落では、世代を経るごとにバグが強化され、やがて姿まで変化していった。魔法能力と弓矢の能力がバグった集落はエルフになり、採掘技術と鍛冶技術がバグった集落はドワーフになった。

 このような経緯で、今ある種族はその種族ごとに特定の特徴バグがあり、人間だけが特定のバグを持たない。


「よーし、ここらで休憩にしようぜ。

 ソリッド。水くれ」


 俺はソリッド。

 今、勇者ブレイブの雑用係として雇われ、ダンジョン攻略に同行している。

 勇者というのは、強さがバグっている人間のことだ。Aランク冒険者になった時に、国王に呼ばれて認定された。


「ちょっと待って。今、壁を作る」


 俺はスキル【ブロック】を発動した。

 どんな素材でもブロック状に固める事ができ、作ったブロックをあれこれできるスキルだ。たとえば、ブロックを消したり出したりできる。

 持っている中で一番頑丈で重たい「岩ブロック」を出した。何もない場所にいきなり1立方メートルの岩がいくつも現れ、積み上がって壁ができる。通路の両側をこうやってふさいでしまえば、どこにでも安全地帯を作れるという寸法だ。

 それから、要請に従って「水ブロック」を出す準備を始める。

 まず追加で岩ブロックを出して、5個のブロックを十字型に並べる。次に、中央のブロックだけ高さを半分にする。これで水槽の完成だ。

 そうしたら、その上に水ブロックを出して、高さを半分にする。最後に、水ブロックに対するスキルを解除。ブロック状に固められていた水が、ただの水に戻る。これで終わりだ。


「お待たせ」


 高さ半分といっても、元が1立方メートルだから、水は500リットルもある。入浴できる量だ。


「こんなにいらねぇよ。飲むだけなんだから」


「ブロック単位でしか出せないんだ」


 この世界の人間は、みんなどこかバグっている。

 俺の場合は、それが魔法能力だったわけだ。普通の魔法を使えない代わりに、スキル【ブロック】が使える。俺みたいに魔法能力がバグっている人は他にもいるらしく、このバグった魔法能力はスキルと呼ばれる。

 そして俺の【ブロック】は、縦・横・高さが1メートルずつの立方体を「1個」の基準とする。いったんこの「1個」を出してからであれば、高さを半分にする事はできるが、最初から高さ半分の状態で出したり横幅を半分にしたり高さを4分の1にしたりはできない。また、1立方メートルに満たない素材はブロックにできない。足りなくてもブロックを作れるんだったら、金貨から純金のブロックを作って大金持ちになれたんだが……世の中そんなに甘くない。


「チッ……そういうとこだよ、お前は」


 面倒くさそうに言って、ブレイブは水を飲む。


「普通に防御結界と水魔法が使える奴を探すんだったぜ。

 早く冒険に出たくてあせっちまったよ。お前を雇ったのは失敗だったな。

 とはいえ、一応説明を受けて同意したんだ。解雇したんじゃ、俺が悪者になっちまう。まったく面倒だぜ」


 顔を突っ込んで飲んだあと、そのまま続けて手や顔も洗い始めた。汗をかいたので少しでもサッパリしたい気持ちは分かるが……俺の飲む分は? 顔を洗った水なんか、もう飲めない。新しく出せばいいとか、そーゆー問題じゃねえよ。

 ブレイブは、デリカシーとかモラルとか、そういうのがバグっている。それでも俺が自分から辞めないのは、ブレイブの稼ぎがいいからだ。

 だけど、ちょっと記憶力もバグってるんじゃないかと思うことがある。ブロック単位でしか出せないと説明するのは、もう何度目だろうか?


「それじゃあ、そろそろ行くか」


「分かった」


 壁を作っていた岩ブロックを消す。

 それからしばらく進むと、ブレイブは嬉しそうに声を上げた。


「おっ!? 見ろよ、モンスターハウスだ。

 ヒャッハー! 経験値、大量ゲットだぜ!」


 勇者に認定されたぐらいだから、ブレイブは強さもバグっている。

 冒険者ギルドに登録したのは3か月前で、AからFまで6段階ある冒険者ランクを一気に駆け上がった。今後もこの調子で功績を積んでいけば、Sランクになるかもしれない。

 なお、Sランクというのは、特別に優秀なAランク冒険者に贈られる「称号」で、正式なランクではない。

 まあ、要するにブレイブは強い。

 モンスターハウスなんて、普通の冒険者は逃げるところだ。嬉々として突っ込んでいくのは異常である。だがブレイブにとっては無謀でも何でもない。最初に斬った魔物が地面に倒れる前に、他の魔物を10体は斬っている。まるで竜巻だ。


「さて、こんなもんか」


 ブレイブは、そう言って突然戦うのをやめた。

 魔物は、まだ残っている。それも9割方。


「何を……?」


「あばよ。お前はクビだ。ここで死ね」


 ブレイブが消えた。

 脱出用の転移の魔道具を使ったのだ。


「なん……だと……!?」


 ブレイブは、デリカシーとかモラルとか、そういうのがバクっている。

 でも、まさかここまでとは思わなかった。

 攻撃されて臨戦態勢の魔物が100体近く、反撃する目標を失って、俺に注目する。

 まずいな……これは楽しくない状況だ。

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