3-13 えっ、求婚!2
「ラヤーナさん、おはようございます。」
「ラヤーナ殿、今日は良い天気だな。」
「ラヤーナ嬢、息災か。」
「…皆さんお揃いで…おはようございます…」
「ラヤーナさん、今日のお祭りなんですけど」
「ラヤーナ殿、今日の祭りはぜひ自分と」
「ラヤーナ嬢、今日は町の祭りを案内するから」
「おーじーちゃーんーたーち~~~~~」
「「「あ?」」」
「ラヤーナは、おしごとちゅうなの!みてわからないのかな?おじちゃんたち、おとなでしょ?しごとのじゃましていいの???」
「いや…」
「そういうわけでは…」
「私はただ…」
「ラヤーナ、お客さんがね、薬の説明をしてほしいみたい。お母さんだけだと対応しきれないよ。お祭りで他の地方からもお客さんが来てるんだ。僕も説明しているけど、他にも聞きたい人がたくさんいるみたい。」
「レスリー、ありがとう。今説明に行くわ。ユリア、こちらのおじさんたちの対応をお願いね。」
「ラヤーナ、まかせて!」
「待って…」
「あ…」
「おい…」
「おじちゃんたち…ラヤーナのおしごとのじゃましてると、ラヤーナにきらわれるよ!」
「「「え!」」」
「わたしたちもだけど、みんなラヤーナを助けて、みんなに良いくすりをできるだけつかってもらいたいと思ってるんだよ。だからいそがしくても、いっしょうけんめいおみせでおしごとしてるの!おかあさんも、おにいちゃんも、ユリアもだよ!それなのに、おじちゃんたちはラヤーナをひとりじめしようとして、らやーなのじゃまばっかりしてる。くすりがひつようでこまっている人たちをたすけたいって、みんないっしょうけんめいおしごとしてるの!」
「そ、それは…」
「だが自分だって…」
「私だって嬢を…」
「おじちゃんたち、自分のことしかかんがえてないよね!ラヤーナ、そういう人たち好きじゃないと思う。ラヤーナ、いつもユリアにも、お兄ちゃんにも言ってるもん!他の人のためにいっしょうけんめいはたらくことはすごいって、言ってるもん。おみせのおてつだいも、みんなを助けるためだもん!それなのに、おじちゃんたちは、じゃまばっかりしてる!!」
「「「………」」」
「いま、いろんなところからいろんな人がくすりがほしい、ってとってもいそがしいの。今だって、おみせあけたばっかなのに、人がたくさんなんだよ。おじちゃんたちは、きし、なんだよね。ひとをたすけるおしごとなのに、なんでじゃまばっかりなの?」
「…す…すまない…」
「…邪魔をするつもりは…なかった…」
「…嬢と祭りをまわりたくて…つい…」
「おじちゃんたち、わかったらお店にじゃましにはこないでね。くすりをかってもらえるのはうれしいけど、おじちゃんたちはくすりのこうかはわかるよね。そしたら、くすりのことしらなくてこまってる人たちがお店にききにきたら、じゃましないであげてね。」
「「「…わかった…」」」
3人はユリアに説教をされ、店を出て、トボトボと戻っていった。
店のカウンターを見てみると、母のフランカ、兄のレスリー、ラヤーナはそれぞれ別の人たちに薬の説明をしているようだ。小さな子供連れの親子が次に話を聞きたそうに待っている。他にも店内の説明書きを熱心に読んで、購入していく品物を考えている人も何人もいる。
ラヤーナの薬は本当によく効く。みんなにも使ってもらって、みんな元気になってほしい。
ユリアがそんなことを考えていると、親子連れの子どもの方と目が合った。ユリアよりも小さい子だ。その子の目がユリアから逸れ、今度は「遊び場」の方へ視線が移った。するとその子が指をさして遊びたいと言い始めたようだ。
ユリアはその子のところに行き、声をかけた。
「あっちでいっしょにあそんでまってようか?」
「…え…いいの?」
「うん、いいよ。おばさん、この子、ユリアといっしょにあそんでまっているよ。ほらあそこ、ここから見えるでしょ、あそこのあそびばでいっしょにあそんでまってるね。」
「あらいいの?とっても助かるわ。ユリアちゃんっていうのね、とてもしっかりしているわ。この子はチェルソというの。男の子よ。お願いしてもいいかしら?」
「いいよ。チェルソ、あっちであそぼう!」
「うん!」
午前、午後とも、ユリア、レスリーは大活躍で、二人がいてくれて本当に良かったとラヤーナは思った。もう間もなく今日の午後の部も閉店だ。店の客にもそれとなく、まもなく閉店時間になることを告げ、悩んでいるようであれば今日一晩ゆっくり考え、明日以降でも購入ができることを伝える。祭りの期間は今日も入れて4日だ。その間は午前中も店が開いているし、品物補充もしてあるため品切れになることはないだろう。
店内の客も残り少なくなり、今はフランカが対応をしてくれている。まだ数名は店内にいるがどうやら明日以降購入するつもりの様で商品説明を確認しているようだ。レスリーとユリアには明日の品物を補充するために奥に取りに行ってもらっている。
ラヤーナは外の店案内を閉店にするために店のドアから外へ出た。
「ラヤーナさん!」
「ラヤーナ殿。」
「ラヤーナ嬢。」
「…皆さん……」
「今朝はすみませんでした」
「今朝はすまなかった」
「今朝は失礼した」
「…お祭りの期間はお客様が増えていますので、皆様には申し訳ありませんが、薬のご入用でない場合はこちらに来るのを控えていただけませんか?」
「…今日は…もう閉店ですか?」
「いま、店案内を『閉店』に変えたよな。」
「今日はもう店じまいなのであれば私と祭りをまわろう。」
「…皆さん、以前にもお話しましたが、私は皆さんのどなたともお祭りをまわる気持ちはありません。お祭りは4日間とも、レスリーとユリアと一緒にまわります。いろいろと連れて行ってくれるそうですし、私も楽しみにしています。皆さんは他の方とお祭りをまわられたらいかがですか?」
「他に一緒に回りたい女性なんていないです。」
「他の女と回るわけがないだろう。」
「私も他の女性とはまわらぬ。一緒に見てまわるのは妃にする女性だと決めているからな。」
「妃…俺…俺もです!ラヤーナさん、俺、俺と一緒にお祭りをまわってください。お祭りを一緒にまわるのは恋人同士や夫婦なんです!だから俺と一緒にまわって、俺と結婚してください!!」
「貴殿がか?違うだろ、ラヤーナ殿は俺と祭りをまわるんだ。ラヤーナ殿こそ俺が待ち望んでいた理想の妻だ。騎士団の無茶な注文を引き受け、怪我したものを助け、俺にも躊躇せずに意見を言う。俺と婚姻後もラヤーナ殿は好きなように薬を作ればよい。俺が全力でサポートする。俺と結婚して欲しい。」
「ラヤーナ嬢、この者たちの戯言は気にするな。嬢、あなたこそ私がずっと待ち望んでいた女性だ。国を想い、民を想う。ラヤーナ嬢こそ私の妃にふさわしい。私は王太子ではないが、王族として兄たちと共にこの国をより良くしたいと常に思っている。ラヤーナ嬢、私の妃となり私を支え、この国をさらに住みよい地とすべく、一緒に歩んでいってもらえないか。」
「………………」
「おーじーちゃーんーたーちーーーーー、ラヤーナ、こまってるよ…」
「あ…」
「え…」
「なに…」
「ラヤーナ、すごいね、3人から求婚されてるよ…」
「ユリア、レスリー…」
「ラヤーナ、だれかとけっこんするの?」
「しないわ。」
「ほら、おじちゃんたち、ラヤーナ、けっこんしないって。」
「そ、そんな…」
「ま、待ってくれ…」
「嬢はだれか心に決めたものが…」
「決めた人はいませんが、皆さんとは今も今後も、結婚することはありません!」
「それは、やっぱり誰か決まった人がいるっていうことなのか…」
「まだ…そうだ…まだ俺のことを知らないからだ…俺のことをもっと知ればきっと…」
「王子妃になりたいものがいないなどと…そんなことがあるのか…いや、だからこそなのか…ラヤーナ嬢は私の立場に惑わされず、真に人を見るということなのだな…素晴らしい…やはり妃はラヤーナ嬢でなければ…」
「おじちゃんたちさ…ラヤーナは僕たちとお祭りをまわることになっているし、薬をみんなに使ってもらいたくて頑張っているんだよ。もっとラヤーナのこと考えてあげなよ。」
「おじちゃん、ユリア…ラヤーナといっしょにまわるおまつり、たのしみにしてるのに…おみせおわったら、いっぱいたのしもうって、お片づけはおかあさんがやってくれるからすぐ行こうねって、そう言ってたのに、おじちゃんたちが~~~~~~」
「そうよね、ユリア。お祭りに行きましょう。レスリーとユリアと私の3人でね。さぁ、お店の中に一緒に戻りましょう。レスリー、そっちの看板も『閉店』にしてもらえる?あ、あとこのお知らせも貼っておいてね。」
「うん。あ、これ、昨日も張っておいた、『お祭り期間中は10ラルから11ラルすぎも開店しています』って言う案内だよね!わかった、すぐに張っておくよ。」
「さ、ユリア、戻ってお祭りに行きましょう。レスリーが戻ってきたらすぐにお祭りに出発ね!どこに先に行こうかしら?」
「ラヤーナ~~~」
「ラヤーナ、張ってきたよ!ユリア、早く行こうよ。僕も楽しみ!」
「皆さん、私はこれから子供たちとお祭りを楽しんできます。皆さんとは一緒にまわりませんし、結婚も致しません。さ、いきましょう!」
「うん。ラヤーナ、ユリア、まずね」
「あ、ユリア、まだここで言っちゃだめだよ。おじちゃんたち、聞いてるだろ。ラヤーナ、早くお店に入ろう。準備して、すぐ行こうよ!」
ラヤーナ、レスリー、ユリアの3人は店の中に急いで入っていく。
面倒くさい3人組はまだ店の扉の前で茫然と立っている。
面倒なおじさん3人ではあるが、国を守ってくれている人たちだ…
困ったものだ…
レスリーはドアを一瞬振り返ると、すぐにユリアたちが向かった本宅へ向かった。