3-12 特別手当
一昨日の夜、急ぎ追加で作った薬は結局全種各5000にもなった。
ラヤーナが薬づくりに集中しすぎたせいであるが、森の家でその日に使える薬草や果実をほとんど使い切ってしまった。薬草や果実は翌日になればまた成るので心配はいらないとはいえ、薬を作り終わったあとにアルバスに、『もう材料がないからこれ以上は無理だな』と言われて、はじめて気づいたのだ。
それら薬ののうち、強い薬全てとその他の薬の2000をギルドに納入し、残りは店の奥の部屋にこっそり足しておいた。店の居間の在庫と併せて、これくらいあればお祭りの間の在庫は大丈夫だろうと思う。
「ラヤーナ、おはよう!」
「おはよう、レスリー。」
「おはよう~~~~」
「おはよう。ユリアはちょっと眠たそうね。」
「今日はラヤーナとおまつりをまわるの!」
「それで、なかなか眠れなかったんだって。」
「お兄ちゃんはすぐに寝てた…ユリアはなかなか眠れなかったのに…」
「あらあらあら…ユリア、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ!」
「うん、ユリアは多分大丈夫だよ。今朝ギリギリまで寝てたし、お店の遊び場で少し昼寝をすればいいよ。」
「そうね。ユリア、無理をしないで必要だったら昼に少し寝て頂戴。今日はお店が終わったら、ゆっくり回りましょう。ヘリットさんにもフランカさんにも、今日の夕食はお祭りの屋台で食べると伝えてあるわ。美味しそうなものを色々食べてみたいわね。レスリー、ユリア、案内をよろしくね!」
「「まかせて!!」」
「ラヤーナさん、今日はお店の片づけは私がやっておきますので、閉店後はすぐに子供たちとお祭りをまわってやってください。」
「いえ、それは申し訳ないです。片付けは私も…」
「いえね、もう昨日からユリアが楽しみにしていてずっとそのことばかり言っているんですよ。昨日はラヤーナさんが森から戻ってこられてそのままこちらで仕事をされると伺っていたのでお邪魔しないようにしましたけれど、夕食後も家ではずっと今日のお祭りのことばかりを話していたんです。」
「そうなんだよ、ラヤーナ。ユリアったらずっと、行くところをいろいろ考えていて、考えすぎて、それできっと眠れなかったんだよ!」
「もう、お兄ちゃん、だっていっぱい見にいきたいんだもん。やたいでたべたいものもたくさんあるし、かわいいものもみてみたいの!」
「そうよね。楽しみね。お祭りは今日だけではないし、二人と回るのも今日だけじゃないわよ。お祭りのある4日間は、お店が終わったら毎日私といろいろまわってみましょう。」
「まいにち!」
「いいの、ラヤーナ?4日間とも、一緒?」
「私はそのつもりで、もうヘリットさんとフランカさんにお願いしているわよ。」
「ほんと、おかあさん、ユリア、ラヤーナと4日ぜんぶおまつりにいってもいいの?」
「僕も、僕も一緒に行っていいの?」
「えぇ、お父さんとも相談したんだけれど、二人ともお店のお手伝いをよくしてくれているし、ちゃんとお勉強もしているでしょ。だからお父さんと、ラヤーナさんがお嫌でなければ、ってお願いしたの。ラヤーナさんも、お祭りを案内してくれる人が欲しいから、是非って言ってもらったのよ。だから4日間、お祭りを楽しんでいらっしゃい。」
「わ~い、やった~~~!」
「楽しみだね!いろいろ見たいものがあるんだ!」
「お祭りは夕方からだし、昼間の露店も、お店が終わってすぐ行けばまだまだいろいろ見れるはずよ。」
「いっぱい、いっぱい、たのしみなの!!」
「僕も!欲しい物、あるんだ!!!いろいろ見てまわりたいね。」
「あ、そうそう、先に二人に渡しておくわね。はい、これをどうぞ。」
「え、これ?」
「これは?」
「どうぞ開けてみていいわよ。ご両親にもちゃんと許可をもらっているわよ。」
「「あ!」」
「おかね…」
「いっぱいある…」
「これは、今まで二人が頑張ってくれたから、特別お手当よ。普段のお給金とは別の物よ。」
「特別なの?」
「えぇ、そうよ。二人のおかげでこのお祭り準備の期間からとても助かっているの。ほら、他の国からのお客さんの中には家族連れもいたでしょう?小さい子供たちを二人が見てくれている間、大人はゆっくりと買い物ができるの。たくさん買っていってもらえたのよ。子供用の薬用ビーロップの飴も、「遊び場」で1つずつあげているでしょ?美味しいって、買って欲しいっていわれて買っていってくれる人も大勢いるの。他にも、フランカさんが好きなお茶のことを、二人が女性のお客さんに話してくれたりすると、みんなフランカさんみたいなつやつやのお肌にしたいって、お茶も買っていってくれるのよ。商品がお店からなくなりそうになると、早めに気づいて奥から持ってきて補充してくれるでしょ?本当にいつもとても助かっているの。お祭りの準備の期間からいつもよりもたくさん薬が売れているから、その分の特別手当よ。これは二人が頑張った報酬だから、遠慮なく使っていいの。好きなものを買ってね。」
「やった!ありがとう、ラヤーナ。僕、朝ご飯の後も、お昼ご飯の後も、お店のお仕事の時間はちゃんと頑張るよ!」
「ユリアも!じゅうぎょういん、だからね!」
「そうよ。二人とも立派な従業員よ。」
「えぇ、二人がよく手伝ってくれるから、お母さんも働きやすいの。さぁ、もうすぐ開店の時間ですよ。ラヤーナさんとお祭りを楽しみたいのでしょう?二人とも頼りにしているわよ。」
「うん、任せてお母さん。」
「ユリアもいっぱいおてつだいするよ!それで、ラヤーナとおまつりいくの!!!おかあさんとおとうさんは二人でおまつりをたのしんでね!」
「あら…」
「明日の朝ちゃんと起きるから、ラヤーナといっぱいまわって、ちゃんとユリアとベットで寝てるから、お父さんとお母さんは、お祭りは二人でゆっくり楽しんでね!」
「ユリア…レスリー…二人とも…」
「二人とも、本当にご両親想いの良いお子さんですね。」
「ありがとう、ラヤーナさん。レスリー、ユリア、ありがとう。」
「あ、開店の時間になるね。僕、入り口を開けてくるね。」
「ユリアも~。」
「二人とも、お願いね。」
二人は入り口のカギを開け、開店を告げた。
「いらっしゃいませ~」
「あ…」
「え…」
「ラヤーナさんは今日はいますか?」
「今日はラヤーナ殿は居られるか?」
「ラヤーナ嬢はいるか?」
「……おじちゃんたち……」
今日もユリアたちの活躍が期待される日になりそうだ。