3-11 ローラに相談 2
「魂が砕け散る…っていったいどうして…」
「ラヤーナ、神界での話に戻しますね。」
「あ、はい…」
「神界にはいくつかあり、このエルクトラドムを治めるための神界には、その代、…1つの代はおよそ1万年ですが…、今代を治めることに決まった私の他に、その次の代のエルクトラドムを収める候補の女神が数名居ります。まだ私がこの世界に降りる前、こちらに来る準備をしているとき、つまり代替わりの直前のことでした、次代の女神候補の一人がエルクトラドムを見たとき、…それも次代候補では本来許されるものではないのですが…、あなたの番を見つけて彼に恋心を抱いてしまい、自分の夫にしたいと言い出したのです。」
「…まぁ…そんなに『イケメン』なら…」
「レーリナ、そういうことではないのです。」
「ローラ様、そういうことではないって…?」
「私達女神は、本来誰か、あるいは何か1つに心が惹かれたり奪われたりすることはないのです。」
「…え…惹かれることはない?」
「はい。皆、平等に愛しいのです。それがエルクトラドムの神であることなのです。この世界を平等に愛し、平和を保つために、誰かひとり、あるいは何かに心を捕らわれてしまうと、女神として世界を治めることはできません。皆、同じように愛しいのです。」
「…でしたら…その次代候補の神様は…」
「…彼女は本来エルクトラドムの神界にいてはいけないものでした。なぜ彼女が界にいたのか、その理由は私にもわかりません。ですが、ヴァルテリに恋し、彼を自分のものにしたいと思った時点で、エルクトラドムの神界からは追放すべき存在でした。」
「…どうしてそんな人が神界に?…それは他の人…神様たちは知らなかったのですか?」
「そのことに気づいたのは今代の女神である私だけでした。」
「ローラ様は、その次代候補の神様をやめさせようとされたのですか?それが争いの原因に…」
「はい。ヴァルテリとラヤーナ、あなたとの魂の絆は私がすでに結び終えており、その絆を外すことはこの世界の理に反しておりますし、私自身もそのようなことをするつもりは少しもありませんでした。そもそも世界を守る立場である女神が、皆の幸せを奪うような、そのような気持ちを持ってはいけないのです。そのため、候補から外そうとしました。しかし、彼女は強硬手段に出ました。」
「…彼女はいったい何をしようとしたのですか?」
「…私の女神の力『エル』の力を奪い、自らこの世界の女神となってすべてを手に入れようとしたのです。もちろんヴァルテリ自身も手に入れるつもりだったのでしょう。」
「それで大きな争いが起こったんですね。」
「はい。エルクトラドムの神界全体を巻き込んだ、大きな争いになりました。私が持っていた『エル』の力は奪われてしまいましたが、『エル』の力はその資格を持った者しか使うことはできません。ですから力の入った『エル・クリスタル』は物として持っていても、力として使えるようにはなっていません。彼女は…エルランメロウは…『エル・クリスタル』を所持していても、女神ではなく、次代女神候補のままです。」
「ローラ様!エルランって…それって…」
「そうですよ、レーリナ。『エルラン』は女神の次代候補筆頭に与えられる称号です。私の持っていた『エル』の力を奪ったのは、次代候補筆頭のメロウという名の神候補、エルランメロウなのです。」
「…それで…それでローラ様はあんな大変なことになっていたのですね…」
「レーリナ、あなたには沢山助けてもらいましたね。今まで私の力が奪われたことは伝えていましたが、誰に奪われたかは今伝えたことになります。大きな敵から身を守るためには、うかつなことはできませんでした。森に力が戻らなければ、私の力も戻すことはできなかった。1000年前の戦いで、森からも力を分けてもらうことになってしまったため、森自体も力がほとんど残っていなかったのです。あと数年遅かったら…おそらく、この世界は崩壊に向かっていたでしょう…」
「数年…本当にギリギリだったのですね。間に合ってよかったです。あ…もし日本で私があと数年長生きしてしまったら…」
「その時間は界が異なるのであまり関係ないのですよ。レーリナ、ラヤーナを見つけてきてくれてありがとう。そしてラヤーナ、この世界に戻ってきてくれてありがとう。」
「ローラ様…」
「さぁ、話を続けましょう。そのエルランメロウは私の力を強引に奪おうとしました。そんな中、ラヤーナ、あなたの番だったヴァルテリが私を助けようとしてくれました。ヴァルテリはエルランメロウの魔法にも強い誘惑にも負けず、最後まで私を守ろうと戦ってくれました。ラヤーナ、あなたは幸いにもまだ生まれておらず、あなたの魂はこの世界に生まれるためそっと準備をしていたところでした。そのため、エルランメロウにはあなたが誰であるのか気づかれずに済んだのです。私とヴァルテリ、その他私を守ろうとしてくれたエルクトラドムの者たちが必死で戦いましたが、エルランメロウの力は非常に強く、エルランメロウを弱らせることはできましたが、エルの力を奪われかけていた私では、エルランメロウを倒すことはできなかったのです。エルランメロウは弱ってもヴァルテリのことだけは執着をして、戦いで弱った彼だけでも自分のものにしようとし、彼女に残っていた魔力を全て使い、強い魔法を使って彼を自分の夫となるようにしました。しかし、ヴァルテリの抵抗はすさまじく、彼の体も心もその魔法を受け入れず、強く反発し、その強い魔法が結局彼の魂を粉々に砕くことになってしまったのです…。」
「……そんな……」
「彼の魂が砕け散った後、欠片は消えてなくなりました…。彼の魂とつながっていたラヤーナ、あなたの魂は、その衝撃で異界に飛ばされてしまったのです。その後、エルランメロウにエルの力を完全に奪われてしまった私は、何とかこの森に降りてきました。1000年の間に森を再生させなければこの世界が滅びてしまう…力がない私はまず森が消えてしまわないように、森の最低限の部分の維持をするだけで精いっぱいでした。そこにレーリナ、あなたが森をも守ろうとし、私を助けてくれたのです。私のことに気づいたレーリナに、私の…今代の森神人を探すようにお願いしました。女神代行としてこの世界を守る、今できることをお願いしたのです。」
「そんな…そんな大変なことがあったなんて…」
「ラヤーナ、あなたの番は立派な方でした。彼のおかげで、彼が自分の身を犠牲にしてまで…この世界を守ってくれたのです。…あなたに幸せになってほしい…それは…その気持ちは今でも変わりありません。ですがラヤーナ…あなたの番はもういません…少なくとも…私には感じることができません。」
「…番については…正直、私にはよくわからないんです。ただ…自分が好きだと思う人と一緒になれたら…そう思っています。」
「ラヤーナ…あなたはそれでよいと思います。あなたの心が求める人と一緒におなりなさい。ラヤーナ、そういう人がこれからきっと現れます。それまでは無理をして誰かと一緒にならなければならない、と思う必要はありません。」
「…でも…あの…薬を作れる人は…森神人と、森神人の子孫だけですよね…いとし子は…森神人の子孫の人間種だけだと伺っています。」
「そうですね…」
「いつかは…誰かと一緒にならなければ…っていうことですよね…」
「そうですね…でもラヤーナ、あなたはこの世界であなたらしく過ごしてくれればそれでいいのです。もし誰とも番いたいと思わなければ、無理をすることはありませんよ。」
「でもそれだといとし子が…」
「えぇ、いとし子は生まれませんね。でもラヤーナ、番がいないと森神人は寿命が定まらないのです。」
「それは…」
「大変かもしれませんが、あなた一人で薬を作ることになってしまいます。ですが、番がいない森神人は、その女神の代が終わるまでは森神人として生き続けるんですよ。」
「…ローラ様と同じ寿命に…」
「えぇ。ですがそれは極論です。ラヤーナ、あなたはあなたらしく幸せに過ごしてほしいのです。もちろん今は…『エル』の力を取り戻すために、皆さんに助けていただき、何としてでも力を取り戻したいと思います。そのためにはラヤーナ、あなたにはまだまだ無理をお願いすることになってしまいます。でもその後、この世界が平和になったら、あなたの思うままに生きるとよいですよ。あなたが『好きな人』という相手に出会うことがあれば、その人と一緒になればよいのです。…きっとあなたの番だったヴァルテリもあなたが幸せになることを願っているはずです。…あなたのそのお守り…それは当時、ヴァルテリが、これから生まれてくるはずのあなたのために、あなたのことを想って作ったものですよ。」
「…え…あ…ギルド長から渡されたこのペンダントが…」
「そうです。本当に…あなたがこの森に生まれてくることを…本当に楽しみにしていましたよ。森神人の番は、同じ王国に必ず生まれます。そのペンダントを大切にしていましたし、時々話しかけていましたよ。きっと…彼には…生まれてくるラヤーナが見えていたのかもしれませんね。そのペンダントにはあなたを守るための力が込められています。ヴァルテリ本人はいませんが、そのペンダントには彼のあなたへの想いと、守りの力がしっかりと込められています。そのペンダントはこれからもあなたを守ってくれるでしょう。」
『ラティ・わかってたの~・ギルド長・ラヤーナに渡すときに・それ番様の!って言ったの~~』
「えぇ、そのペンダントからは、ラヤーナの番の絆を感じるわ。…ラティ、ラヤーナの番を感じたのって、このペンダントが残っていたからじゃない?このペンダントからラヤーナの番を感じたんじゃないの?だって、私でもわかるわよ。このペンダント1つで相当強い守りだもの。それに…それを持っていたギルド長は竜族ですよね。…ローラ様、もしかしたら彼は1000年前の戦いのときにいたのでは?」
「えぇ。私もそう思います。当時私自身も相当力を消耗していたためはっきりとは覚えていないのですが、おそらくそのギルド長とお会いすればわかると思います。彼がラヤーナを森神人とわかったこと、ラティが見えることを考えると、竜族の上位種であればその可能性は高いと思います。」
「ラヤーナ、もし気になるのならば、ギルド長にラヤーナの番だった人のことを聞いてみたら?今はもういない人みたいだけど、それだけラヤーナに会えるのを楽しみにしていた人だもの。そのペンダントにそれだけの力と想いを残していくくらいだから。」
『…え~~~~・ラティは違うと思うのなの~~~・でも…レーリナの言う通りかもしれないのね~~~・う~~~・でもやっぱり違うと思うの~~~~~』
「ラティ、私のことを考えてくれてありがとう。番については…私自身がまだよく理解していないの。…番のシステム…っていうのは何となくわかったんだけど…私の気持ちがね。やっぱり以前の世界でのことがあるからなのかもしれないわ。だから…あまり気にしないでね。私は私で、この世界の人たちのために薬を作って、ラティと、アルバスと精霊の森の生き物と、レーリナと、そしてローラ様が女神様になって、みんなで平和に暮らせればそれで充分幸せなのよ。」
『…そうなのなのだけど~~~・でもねなの~~~』
「ラティ、いつも私のことを守ってくれてありがとう。いつも助けてくれてありがとう。私はあなたと一緒にいることができて、とっても幸せよ。これからもよろしくね。」
『う~~~~~・そうなのだけどなのね~~~・う~~~・よろしくなのなの~~~』
2章にあったクイズの答えはこの回のお話でした!(^^)!
『あ~~~~!・それっ*************』
『あ~~~~!・それっ、ラヤーナの番様のものなのね~~~~~!!!』