3-10 ローラに相談 1
『ラヤーナ~~~・おはようなの~~~~・精霊の森の朝なの~~~~』
「…おはようラティ。もう…朝なのね…さすがに昨日遅くまで薬を作っていたからか………眠いわ…」
『眠くても起きるのなの~・女神様もレーリナも待ってるのなの~』
「あぁ、そうだったわね。急いで支度をするわ。」
『みんなに伝えてくるのね~~』
昨晩は日付の変わる頃に秘森(精霊の森)の家に戻ったため、さすがに今朝はまだ眠い。昨日はテーブルに相談したいというメモを残し、ラティが何か魔法をかけていた。
ラティ曰く、『精霊のメモ』らしい。この魔法を掛けておくと、必ず見てもらえるそうだ。
ラヤーナは急いで着替えると、ローラ様とレーリナが待っているであろう1階のくつろぎスペースへ向かった。
「ローラ様、レーリナ、おはようございます。すみませんお待たせしてしまって…」
「おはよう、ラヤーナ。昨日は遅くまで薬を作っていたのでしょう。お疲れの様ですね。」
「ラティから聞いたわ。他の国でも薬が売れそうなんですってね。お祭りで他国からも買いに来るんでしょ?それもあってたくさん作っていたのよね。」
「えぇ、そうなの。ローラ様、アウロレリア王国のアルナウト・メイネルス氏が仲介をする形で、こちらのギルドから向こうの商会に卸すことになります。ギルド長のお話では、信頼できる方だということですので、その国への薬の普及についてはギルド経由でメイネルス氏にお任せしたいと思っていますが、大丈夫でしょうか…」
「えぇ、それで問題はありません。指輪からも少し様子が伝わってきましたが、メイネルスという方には悪意は感じ取れませんでしたし、ラティもそのように言っています。薬の販売に関しては大丈夫でしょう。」
「ラヤーナ、それにモテモテなんでしょう?ラティが言っていたわよ。」
「え…えぇ…レーリナ、ラティから聞いてどう思った…?」
「え、どうって?」
「以前、番について少しだけ話があったでしょ?ローラ様にも伺いたいと思っていて…」
「ラヤーナが知りたいのは、番のことですか?」
「はい…この世界に来て、たくさんの人と知り合って、この精霊の森の生き物や守護獣のアルバスは家族のように感じています。とても大切な人たちです。でも…これから先…誰かと結婚することになる、ということの実感が全くわかないんです。」
「実感ねぇ~~~。ラヤーナは前の世界で『結婚』していたんだしね。」
「そうなの、レーリナ。前の世界でもこの世界でも、もし夫を持つのだとしたら、私はやっぱり自分が好きだと思う人と夫婦になりたいと思うわ。でも『番』って言うのは…そういうものではないのよね?」
「うーん…こっちだと、番がいるっていう生き物は全てではないけれど、番の絆はとても強いと言うわ。あった瞬間にお互いに惹かれあうらしいわ。」
「そう…」
「ラヤーナ…あなたには話しておいた方がよいことがあります。」
「ローラ様?」
「以前はまだまだ私の力もなく、不安定な状態でしたが、今はこの森の中であればこちらのことが知られてしまうことはないでしょう。番のことでしたらもうお話してもよいかと思います。」
「…番は…やはり…私の番という人はいるのでしょうか?」
「…以前はいた…というのが正しい表現になります。…今はわかりません。少なくとも、私にはあなたの番を今は感じることはできません…。」
「…私には番はいない、ということなのでしょうか?」
『ラヤーナ・番いるの!・ラティ・ラヤーナの番・前感じたの!』
「…うーん…でもねぇ…ローラ様が感じ取ることができないって言うのは、番がいないってことだと思うのよね…」
『…えー・…でも…・ラティ…・感じたのに…』
「ラティ。今でも感じるのですか?」
『…今は・…感じないのなの…』
「そうですか…」
「ローラ様、ラヤーナの番は今はどうなっているのでしょうか?」
「…ラヤーナ…少し話が長くなりますが、なぜあなたを別の世界から呼ぶような形になったのか…そこからお話しますね。」
女神ローラが話し始める。
「昔…約1000年ほど前のことになります…神界で争いがあり、そのために私が力を失った、ということはすでにご存じだと思います。その争いの原因は、あなたの番、ヴァルテリなのです。」
「私の番?…ヴァルテリ…という方なのですか?」
「えぇ。ヴァルテリはあなたの魂に強く惹かれ、自分をあなたの…私の代の森神人の番に定めてほしいと強く願いました。私は彼の能力や心、あなたを守れる力があるか、あなたを幸せにすることができるのか、あなただけを生涯愛することができるのか…、彼の持っているすべてであなたを守れる、そう感じました。自分の代の森神人の番は、その女神が見極め、定めることになっているのですよ。彼であればあなたは必ず幸せになる、私自身もそう強く感じました。」
「幸せに…なれる…」
「えぇ、ラヤーナ。私はあなたに幸せになってほしいのです。精霊の森の生き物は、皆、私の大切な家族なのです。ラヤーナ、あなたが精霊の森にいる生き物に対して感じていることは、私も同じように感じ、大切に想っているのですよ。そしてそれは当然、あなたにも感じています。森神人は女神の化身と言われることもあります。実際には、女神の森を守る者であり、化身というよりは、娘のように思っている、という方が近いですね。」
「…娘…ですか…」
「えぇ。確かにあなたは80年以上、別の世界で生き、そこで家族を持ち幸せに過ごしていたと思います。でもそれはあなたの一部であり、あなたの本質はこの世界の生き物で、私の娘なのですよ。私自身も今はあなたとあまり変わらない年のように見えますけれど、神界では数千年過ごしていました。ですから、…そうですね…、ラヤーナの以前の世界の人たちから見ると、私は相当年老いているのではないかしら?」
「…数千年ですか…それは…年老いているというレベルではないです…やはり神様ですね…」
「ウフフ…そうですか。」
「はい。」
「さぁ、番の話に戻りましょう。ヴァルテリはとても優秀な若者でした。文武に長け、あなたを守れるようになるため自分を厳しく鍛え、あなたのことだけを考え日々鍛錬を積んでいました。若く、才能があり、大変な美丈夫でした。おそらくこの世界で一番の美しい男性だったのではないかと思います。」
「…ローラ様…そんなに『イケメン』だったんですか?」
「レーリナ…『イケメン』とはなんでしょう?」
「さっき、ラティから教えてもらったんです。美丈夫ってことらしいです。」
「あぁ、そういう言葉があるのですね。そうですね。そのような人でしょう。」
「へぇ~。見てみたかったですね。」
「…レーリナ…残念ながら…彼はもういないのです。」
「何があったのですか?」
「ヴァルテリは…彼の魂は…粉々に砕け散りました…」
明日、続きをアップします。