3-6 アウロレリア王国への販売1
ラヤーナはこの日、店舗での薬の販売を終えるとギルドに向かっていた。昨日店を訪れたアルナウトと今後の薬販売についての交渉をするためだ。
ギルドに向かいながらラティと(周りの人から変にみられないように注意しながら)話している。
『アウロレリア王国ね~・エルフ多いのね~』
「エルフが?」
『そなのね~・昨日の人もエルフなのね~』
「そうなの?人だと思っていたわ。」
『上位種の上だと思うのね~・アウロレリア王国にはね~・エルフの中でも上位種が多く住んでいるのね~・その中の上の種も少しだけいるのね~』
「上の種?」
『ヴェルネリアの国にはいないのね~・いるのはアウロレリア王国だけね~』
「アウロレリア王国だけなの?その他の国にはエルフの上位種の上はいないのね?」
『いないのね~・どこの国も住人の種類はここと大体同じなのね~・でもちょっとずつ違うのね~』
「そう…ちょっとずつの違いというのが、例えばこのエルフの上位種の上、のようなひとたちのように、国によってそれぞれ違いがあるということなのね。」
『そなのね~・それでね~・エルフの人ね~・ギルド長のようにラティのこと完全に見えてはいないのね~・だけどラヤーナの側に何かがいるとは感じているみたいなのね~』
「あら…それって…だいじょうぶなの?」
『あの人は大丈夫なのね~・悪意がないのね~・精霊ならわかるのね~』
「そう、それならよかった…」
『エルフの人ね~・人化しているかもしれないのね~』
「え、エルフは上位種でも人化とか変化はしないんじゃないの?」
『ふつうはそなの~・でもあの人多分人化しているのね~』
「それって…人化できるって…相当すごいことなんでしょ?」
『そなの~・人化は竜族と獣人の最上位種だけなのね~・でもアウロレリア王国のエルフの最上位種だけ変化できる人がいるのね~・でもすごく少ないのね~』
「すごく少ないの?」
『少ないのね~・だから普通エルフは上位種でも人化できないってなってるのね~』
「そういうことなのね…あ、でもエルフの人って魔法が得意なんでしょ?治癒魔法も得意なんじゃないの?」
『治癒魔法はエルフでも使える人が少なくなっているのね~・この間森に戻った時に女神様言っていたのね~』
「そうだったわね…力が奪われてしまったせいで、治癒の魔法自体も弱くなってしまったって、おっしゃってたわね。」
『そなの~・でもそれもラヤーナが頑張って森が元気になったからこれから少なくなることはないのね~』
「えぇ、でも増やすには力を取り戻すしかないのよね。」
『そなの・・・それはレーリナと女神様が考えているから大丈夫なの~』
「そうだったわね。私たちは薬を広めて、みんなを元気にすることよね。」
『そなの~~~!今日も頑張って薬売るのね~~~!!』
薬を世界に広めること、この世界の人たちが安心して暮らしてもらえるようにすること、まずラヤーナが目指していることだ。今日の交渉相手は隣の国、アウロレリア王国の人だ。アウロレリア王国の人たちにも薬を使ってもらい、怪我をしても安心して暮らしてもらえるようにする、病気になってもひどくならずに回復してもらえるようにする、そのためにはアルナウトと今後も長く販売を続けられるように交渉しなければならない。
ラヤーナとラティはギルドに到着すると、さっそくアルナウトが待っているはずの受付へ向かう。
「あ、ラヤーナさん、お待ちしていました。」
「メリルさん、こんにちは。またお世話になります。アルナウトさんは…」
「アウロレリア王国の方ならすでにギルド長のお部屋におります。」
「そうですか。すみません、お待たせしてしまって。」
「いえいえ、時間よりも前ですからお気になさらずに。それにしてもラヤーナさん、また凄い人と商売をするんですね。」
「え…凄い人って…アルナウトさんって凄い人なんですか?」
「そうですよ…。アウロレリア王国のエルフ商会のトップの人ですよ!」
「え!エルフ商会って…」
「アウロレリア王国はエルフの住人が多い国です。彼らは魔法に長けていて、魔道具も様々なものを扱っています。他の国との取引も多いんですが、隣の国ということもあり、特にアウロレリア王国とは取引量が多いんです。エルフの商会もいろいろあって、大きな商会から個人商会のようなものまで、規模や内容、取り扱っている商品の違いなど、様々なものがあります。それはこの国でも同じなんですが、アウロレリア王国のすべての商会をまとめているのが、メイネルス氏です。アルナウトというのはメイネルス氏の名前の方ですね。メイネルス氏はご自分の紹介をされるとき、氏を名乗りめったに名前を出さないと聞いていますので、よほどラヤーナさんの薬に関心があるんですね。」
「え!!!そんなにすごい人だったんですか…?それに…氏を名乗らずに名前を?」
「ええ。商会のトップの方ですから。アウロレリア王国も基本はギルドが商会部門も併せて担当していることになっていますが、ギルドの商会部門も実質まとめているのはメイネルス氏ですよ。ですから、メイネルス氏と取引をするということは、アウロレリア王国全体と取引をする、ということになります。お国柄にもよりますが、アウロレリア王国の方は氏を名乗ることが多いんです。名前は知られたくないということではないようですが、名で呼ばれるのは親しい人にのみ、と思っている方が多いと聞いています。」
「…そんなにすごいことだったんですね…」
「ええ。これまでもギルドからアウロレリア王国への騎士団へ、薬を卸すことは度々ありました。ヴェルネリア王国だけが利益を得ずに、できる範囲で他国にも公平に薬を回しています。ただ、それらのほとんどは、騎士団などで使う強い薬でした。騎士団は命に関わる怪我が多いため、そのような薬を優先していたんですが、町で売っている薬も一部他国へ卸していることはラヤーナさんもご存知ですよね。」
「はい。騎士団での普段使いや、王族の方、医療院などで使えるようにということでしたよね。」
「そうです。それらの薬がメイネルス氏の目に留まり、アウロレリア王国全体にも行き渡らせたい、ということだと思います。」
「…それは…願っていることですが…王国全体となると相当量の薬を作る必要がありますね…この国でさえまだ全体に行き渡っていないのに…」
「えぇ。国内については、ギルド長がいろいろと考えています。昨日はまだお話しできませんでしたが、今日のお昼前にようやく概要がまとまったんです。そちらについてもあとでお話させてくださいね。」
「分かりました。」
「ただ…薬の量が多くなるので、ラヤーナさんがそれだけの量を作れるのか…という問題があるんです。どのくらい作れますか?」
「…薬の作成スキルは上がっているので、もっとたくさん作ることはできそうですが、お店を回したり、薬を運んだり…そういうことにも時間を取られてしまうんですよね。…でも…薬だけを作るというのも…私も町に来て様子を知りたいですし、買い物もしたいので、時間の使い方も考えてみたいと思います。」
「…そうですよね。ラヤーナさんの負担ばかり増えてしまって…現状、この薬を作ることができるのはラヤーナさんだけなんですよね。ギルド長もそう言っておられました。」
「はい…将来的には…どうでしょう…特殊なスキルですので…今はまだ他にはいないとしかお話しできないです。」
「そうですね。ギルドとしては、お店についてはしっかりした人をフランカさんのサポートに付け、フランカさんを副店主にし、ラヤーナさんがお店に立つのはご自分の好きな時に立つようにすることで、もっと時間を捻出できると考えています。」
「ギルドで従業員をあっせんしていただける…ということですか?」
「はい。あくまでもラヤーナさんが良いと言っていただければ、になります。薬販売用の経費はたくさんありますし、ギルドで審査をした信頼のできる人を従業員として派遣したいと思います。もちろんレスリーやユリアにはこれまで通り、お店の従業員としてそのまま継続して手伝っていただいて構いません。こちらから派遣するサポーターはフランカさんだけではなく二人の子供たちに関しても十分理解をし、一緒に働ける人物に限定しますので、その点もご安心ください。商品の搬入に関しても、ギルド長が転移ボックスを使うことを検討しているようですし、ラヤーナさんが森と町を行き来しやすいように、転移ゲートを考えておられるようですので、できるだけラヤーナさんへの便宜を図りたいと思っています。」
「…転移ゲート…ですか?」
「はい。ギルド長とラヤーナさんしか使えないようにするそうです。」
「…転移ゲートというのがあるんですか?」
「…ふつうは無いです。ですが、うちのギルド長…ちょっと特殊なスキルを持っていまして、ギルド長にしか使えないものだそうです。ですので、他の人は使えませんのでご安心ください。」
「…そうですか…」
「はい。その他にもいろいろとご相談があります。まずはメイネルス氏とアウロレリア王国での薬の販売について商談を進めましょう。」
「そうですね。」
二人 (とラティ) はギルド長の部屋に向かった。